JOINT3での荏原製作所の役割 荏原製作所の半導体製造向け製品にはどのようなものがあるのか?

この記事で分かること

  • 荏原製作所の半導体製造向け製品:ウェーハ表面をナノレベルで平坦化するCMP装置、クリーンな真空環境を作り出すドライ真空ポンプ、使用済みガスを安全に処理する排ガス処理装置などの製品を販売しています。
  • JOINT3での役割:同社が持つウェーハレベルでの平坦化技術を、大型のパネル基板に応用し、パネルレベル有機インターポーザー向けのCMP(化学機械研磨)装置を開発することです。
  • CMP装置に必要な性能:大型の四角い基板を均一に研磨する技術が求められます。特に、有機基板の歪みを補正しつつ、ナノレベルの平坦性を実現する高精度なプロセスが不可欠です。

JOINT3での荏原製作所の役割

 レゾナックや東京エレクトロンなど国内外の27社が、AI半導体向け新基板開発を目的としたコンソーシアム「JOINT3」を設立しました。この取り組みは、AIや自動運転といった次世代半導体の性能向上に不可欠な、後工程の技術開発を加速させることを目指しています。

 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC215BA0R20C25A8000000/

 AI半導体は、膨大なデータを高速で処理するため、複数のチップを一つのパッケージにまとめて実装する2.5Dパッケージチップレットと呼ばれる技術が主流になりつつあります。この技術において、チップ同士をつなぐ役割を果たすのがインターポーザーです。

 今回はJOINT3の荏原製作所に関する記事です。

荏原製作所の半導体製造向け製品は何か

 荏原製作所は、以下のように半導体製造プロセスにおいて不可欠な装置やコンポーネントを幅広く提供しており、同社の売上高の30%以上を精密・電子カンパニーが占める重要な事業となっています。

1. CMP装置(化学機械研磨装置)

 ウェーハの表面を化学的な作用と機械的な作用を組み合わせてナノメートルレベルで平坦化する装置です。多層配線化が進む半導体製造において、回路の精度と信頼性を確保するために不可欠なプロセスを担います。

 荏原製作所のCMP装置は、ドライイン/ドライアウト方式を開発し、装置内で研磨・洗浄・乾燥を完結させることで、クリーンルーム内での使用を可能にするなど、高い技術力で市場を牽引しています。

2. ドライ真空ポンプ

 半導体製造プロセスでは、エッチングやCVD(化学気相成長)、イオン注入などの様々な工程でクリーンな真空環境が必要となります。

 ドライ真空ポンプは、これらの工程で発生する有毒・腐食性ガスを排気し、清浄な空間を保つ役割を担います。荏原製作所は、省エネルギーで高負荷プロセスに対応可能なドライ真空ポンプを製造しており、高い市場シェアを誇っています。

3. 排ガス処理装置

 半導体製造プロセスで使用される特殊なガスを、安全に無害化処理する装置です。環境への配慮と安全な作業環境を確保するために不可欠な製品です。

4. オゾン関連製品

 オゾン水供給装置やオゾンガス発生装置など、半導体製造における洗浄プロセスや薄膜形成プロセスで使用される製品です。

 これらの製品は、半導体のさらなる微細化・高集積化を支える上で重要な役割を果たしており、荏原製作所の強みとなっています。同社は、新開発棟の竣工などを通じて、これらの製品の開発体制をさらに強化し、成長する半導体市場での事業拡大に取り組んでいます。

荏原製作所の半導体製造向け製品は、ウェーハ表面をナノレベルで平坦化するCMP装置、クリーンな真空環境を作り出すドライ真空ポンプ、使用済みガスを安全に処理する排ガス処理装置など、半導体製造のキープロセスを支える製品群です。高い技術力で市場を牽引しています。

JOINT3での荏原製作所の役割は

 荏原製作所のJOINT3での役割は、パネルレベル有機インターポーザー向けのCMP(化学機械研磨)装置を開発し、その技術力を向上させることです。

パネルレベルCMP装置の開発

 JOINT3は、レゾナックが主導する次世代半導体パッケージのコンソーシアムであり、パネルレベル有機インターポーザーに適した材料・装置・設計ツールの開発を目的としています。

 半導体チップを中間基板(インターポーザー)に接続する2.5Dパッケージの需要が増加する中で、従来の円形ウェーハから四角いパネルに製造方法を移行することで、歩留まり向上を目指しています。

 荏原製作所は、このコンソーシアムにおいて、自社の強みであるCMP装置の技術を活かします。

  • 平坦化プロセスの実現: CMPは、ウェーハ表面をナノメートルレベルで平坦化する技術であり、多層配線化が進む次世代半導体パッケージにとって不可欠です。荏原製作所は、ウェーハレベルで培った技術と経験をパネルレベルに適用し、最適な平坦化プロセスを確立することを目指します。
  • 技術力のさらなる向上: 試作ラインでの共同開発を通じて、パネルレベルの大型基板に対応したCMP装置の技術力を磨き、新たな課題解決に取り組んでいきます。

 JOINT3における荏原製作所の参加は、同社が培ってきた半導体製造装置の技術を次世代のパッケージング技術へ応用し、半導体エコシステム全体の発展に貢献する重要な取り組みです。

荏原製作所のJOINT3での役割は、パネルレベル有機インターポーザー向けのCMP(化学機械研磨)装置を開発することです。同社が持つウェーハレベルでの平坦化技術を、大型のパネル基板に応用し、次世代半導体パッケージング技術の確立に貢献します。

CMP装置に求められるものは何か

 パネルレベル有機インターポーザーのCMP装置に求められるのは、主に大型基板への対応高精度な平坦化です。

 従来の半導体製造は円形のシリコンウェーハを対象としていましたが、パネルレベルでは515×510mmといった大型の四角い有機基板が使用されます。この大きな基板をムラなく均一に研磨することが、最も重要な課題となります。


技術的要件

 パネルレベル有機インターポーザーのCMP装置には、以下の技術的要件が求められます。

  • 大型基板への対応: 従来のCMP装置は最大300mmのウェーハを対象としていましたが、パネルレベルでは面積が約3倍に拡大します。これに対応するためには、装置自体の大型化に加え、広い面積を均一に研磨するための新しい機構や制御技術が必要です。
  • 高精度な平坦化: チップレットを安定して接続するためには、インターポーザー表面の平坦性が非常に重要です。特に有機材料は、シリコンウェーハに比べて反りや歪みが発生しやすいため、高精度な研磨が難しくなります。そのため、基板の歪みを補正しながら、ナノメートルオーダーの平坦度を実現する技術が不可欠です。
  • 異種材料への対応: 有機インターポーザーは、樹脂層、配線用の金属層、ビアホール(貫通穴)など、様々な材料で構成されています。これらの異なる材料を一つの装置で均一に研磨し、かつダメージを与えないように、研磨パッドやスラリーの選定、プロセス条件の最適化が求められます。
  • コスト効率の向上: パネルレベル製造の最大のメリットは、ウェーハ製造に比べて歩留まりが向上し、コストを削減できることです。そのため、CMP装置も高スループットと低ランニングコストを実現し、パネルレベル製造全体の経済性を高めることが求められます。

 これらの要件を満たすため、JOINT3のようなコンソーシアムでは、材料メーカーや装置メーカーが協力し、最適な技術やプロセスを共同で開発しています。

パネルレベル有機インターポーザーのCMP装置には、大型の四角い基板を均一に研磨する技術が求められます。特に、有機基板の歪みを補正しつつ、ナノレベルの平坦性を実現する高精度なプロセスが不可欠です。

有機材料が反りやすい理由は

 有機材料が反りやすい主な理由は、成形や加工時の不均一な収縮と、吸湿による膨潤です。特に、熱による収縮率の差や、強化繊維の向きの偏りが大きな要因となります。


熱による収縮の不均一性

 有機材料、特にプラスチックや樹脂は、熱を加えることで溶融し、冷却することで固まります。この冷却プロセスが均一でないと、反りが発生します。

  • 温度差: 射出成形などでは、金型に接している外側と、内部の冷却速度に差が生じます。外側が先に冷えて固まる一方で、内部は後からゆっくりと収縮するため、この収縮率の差が内部応力となり、反りを引き起こします。
  • 圧力差: 成形時の圧力のかかり方にも偏りがある場合、圧力が低いほど収縮率が大きくなるため、部分的な収縮率の差が反りの原因となります。

強化繊維の配列の偏り

 ガラス繊維などの強化繊維を含む有機材料では、成形時に繊維が樹脂の流れに沿って特定の方向に配向します。

 繊維が配向した方向は収縮が小さく、繊維の配向と垂直な方向は収縮が大きくなります。この収縮率の異方性(方向によって性質が異なること)が、材料内部に不均一な応力を生み出し、反りとして現れます。

吸湿による膨潤

 一部の有機材料は、水分を吸収する性質を持っています。湿度が高い環境では水分を吸収して膨らみ(膨潤)、乾燥した環境では水分を放出して縮みます。

 材料の一部が湿気を帯び、別の部分が乾燥している場合、部分的な膨張と収縮の差が反りの原因となります。この現象は特に木材などの天然の有機材料で顕著ですが、工業用プラスチックでも見られます。

有機材料が反りやすいのは、成形や加工時の不均一な収縮と、吸湿による膨潤が主な原因です。特に、冷却時の温度差や、強化繊維の配列の偏りによって材料内部に不均一な応力が生じ、それが反りとなって現れます。

CMP装置での荏原製作所のライバルは

 荏原製作所のCMP装置における最大のライバルは、アプライドマテリアルズ(Applied Materials)です。この2社がCMP装置市場の大部分を占めており、激しい競争を繰り広げています。

競合他社との関係

荏原製作所は、CMP装置市場において世界でトップクラスのシェアを誇りますが、その最大の競合はアメリカに拠点を置くアプライドマテリアルズです。

  • アプライドマテリアルズ: 半導体製造装置全般で世界トップクラスのシェアを持つ巨人であり、CMP装置においても高い市場シェアを誇っています。同社の強みは、幅広い半導体製造プロセスに対応する総合的な技術力と、リアルタイム制御などの先進的な技術にあります。
  • 荏原製作所の強み: 荏原製作所は、長年培ってきた流体機械の技術を応用した、精密な研磨ヘッドやポンプ技術に強みを持っています。特に、ウェーハ研磨後に洗浄から乾燥までを装置内で完結させる「ドライイン/ドライアウト方式」など、顧客の要求に合わせた独自の技術開発力で対抗しています。また、顧客との緊密な連携による「すり合わせ能力」の高さも強みとされています。

 この両社がCMP装置市場の大部分を占める一方で、SCREENホールディングスなどもCMP洗浄装置などで存在感を示しています。しかし、CMP装置単体での最大の競合はアプライドマテリアルズと言えるでしょう。

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