この記事で分かること
- ボンディング工程とは:前工程で製造された個々の半導体チップ(ダイ)を、基板やパッケージに電気的・機械的に接続する工程全般を指します。
- 参入を決めた理由:もともと前工程で使用されるCMPで実績があり、ハイブリッドボンディングなど後工程のボンディング工程でもCMPの重要性が増加したことなどから、参入を検討してます。
荏原ボンディング工程向け研磨装置の投入
荏原製作所は、先端デバイスの製造工程で需要が高まる「ボンディング工程」向けに、2025年度中に新たな研磨装置を市場投入する方針を明らかにしています。
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半導体の製造の後工程における重要な工程の一つであるボンディング工程も半導体技術の進化に伴い、より高精度で複雑なものになっており、半導体製造の前工程で使用されるCMP(Chemical Mechanical Polisher:化学機械研磨装置)のような研磨装置が重要な役割を果たすことから参入を検討しているとされています。
ボンディング工程とは何か
半導体製造における「ボンディング工程」とは、前工程で製造された個々の半導体チップ(ダイ)を、基板やパッケージに電気的・機械的に接続する工程全般を指します。半導体デバイスが機能するために不可欠な、重要な後工程の一つです。ボンディング工程には、主に以下の種類があります。
1. ダイボンディング(Die Bonding / ダイアタッチ)
これは、半導体チップを基板やリードフレームに物理的に固定する工程です。チップの裏面に接着剤(銀ペースト、ダイボンディングフィルム、共晶合金など)を塗布し、所定の位置にチップを正確に配置して接着します。
- 目的:
- チップを物理的に固定し、安定させる。
- チップから発生する熱を効率的に放熱する。
- チップ裏面からの電位取得(必要な場合)。
- 方法:
- フィルムを使った接着法: 現在主流で、薄い接着フィルムを加熱して軟化・硬化させて固定します。小型軽量化や多層化に適しています。
- 樹脂接着法: エポキシ樹脂などを混ぜた銀ペーストで接着します。
- 共晶合金結合法: 金とシリコンなどの共晶材料を塗布し、高温で硬化させて接着します。電気抵抗や熱伝導性に優れます。
2. ワイヤーボンディング(Wire Bonding)
ダイボンディングされたチップの電極(パッド)と、パッケージのリードフレームや基板上の配線を、非常に細い金属ワイヤー(金、銅、アルミニウムなど)で電気的に接続する工程です。
- 目的: チップと外部との電気的な信号のやり取りを可能にする。
- 方法:
- ボールボンディング: ワイヤーの先端にボールを作り、チップの電極に押し付けて超音波や熱を加えて接合します。主に金ワイヤーで用いられます。
- ウェッジボンディング: ワイヤーをくさび状に押し付けて接合します。主にアルミニウムワイヤーで用いられます。
- 課題: ワイヤーを使うため、配線長が長くなり信号遅延や抵抗が生じやすい、チップの積層には不向きなどの点があります。
3. フリップチップボンディング(Flip Chip Bonding)
ワイヤーボンディングとは異なり、チップの表面に形成された突起状の接続端子(バンプ)を、基板の対応するパッドに直接接続する技術です。チップを「反転(フリップ)」させて搭載するため、この名があります。
- 目的:
- ワイヤーが不要なため、省スペース化、小型化を実現できる。
- 配線長が短くなるため、信号伝送効率が向上し、高速化・低消費電力化に貢献する。
- 多数の接続端子を高密度に配置できる。
- チップの積層化に適している。
- 方法: バンプの材料(はんだ、金など)に応じて、加熱や加圧を加えて接合します。
4. ハイブリッドボンディング(Hybrid Bonding)
近年注目されている最先端のボンディング技術で、主に3次元積層化(3D-IC)を実現するために用いられます。金属(通常は銅)と絶縁体(二酸化ケイ素など)の両方を同時に直接接合する技術です。
- 目的:
- チップ間を極めて微細なピッチ(10μm以下)で高密度に接続する。
- チップレットや3D積層において、データ伝送の高速化、低消費電力化を実現する。
- デバイスの小型化、高性能化をさらに進める。
- 特徴: 従来のフリップチップボンディングよりもさらに微細な接続を可能にし、ウェーハ同士を一括で接合する「W2W(Wafer-to-Wafer)ボンディング」や、チップ同士を接合する「C2W(Chip-to-Wafer)ボンディング」「C2C(Chip-to-Chip)ボンディング」などがあります。
ボンディング工程と研磨装置
特にハイブリッドボンディングのような直接接合技術においては、接合面の極めて高い平坦性が求められます。
このため、CMP(Chemical Mechanical Polisher:化学機械研磨装置)のような研磨装置が重要な役割を果たします。接合するウェーハやチップの表面を原子レベルで平坦化し、不純物や酸化膜を除去することで、強固で信頼性の高い接合を可能にします。
半導体技術の進化に伴い、ボンディング工程もより高精度で複雑なものになっており、それを支える装置技術も常に進歩しています。

ボンディング工程は、前工程で製造された個々の半導体チップ(ダイ)を、基板やパッケージに電気的・機械的に接続する工程全般を指します。
ボンディングの研磨にはどのような装置が用いられるのか
ボンディング工程、特に近年主流となっている3D積層技術やチップレット技術に不可欠なハイブリッドボンディングにおいて、ウェーハやチップの表面を極めて高精度に研磨するために、主に以下の種類の装置が用いられます。
1. CMP(Chemical Mechanical Polisher:化学機械研磨装置)
ボンディング工程における研磨の主役であり、最も重要な装置です。CMPは、単なる機械的な研磨だけでなく、化学的な作用も組み合わせることで、ウェーハ表面の原子レベルでの平坦化を実現します。
- 原理:
- 化学的研磨: 研磨スラリー(研磨剤と化学薬品を混ぜた液体)に含まれる化学薬品が、ウェーハ表面の最上層を化学的に反応させ、軟化させたり溶解させたりします。
- 機械的研磨: 研磨パッドとウェーハを接触させ、回転させながら擦り合わせることで、化学反応によって軟化した層や微細な凹凸を物理的に削り取ります。
- 用途:
- ハイブリッドボンディング: 金属(通常は銅)と絶縁体(二酸化ケイ素など)を同時に、あるいは選択的に研磨し、接合面に極めて平坦でクリーンな表面を作り出すために不可欠です。接合面の平坦度が、接続の信頼性と歩留まりに直結します。
- その他: 半導体製造の配線層形成時など、様々な工程で多層構造の平坦化に用いられます。
CMP装置は、研磨ヘッドの構造、スラリー供給システム、研磨パッドの種類など、各メーカーが独自の技術を投入して開発しています。荏原製作所は、このCMP装置の世界的リーディングカンパニーの一つです。
2. ラッピング装置(Lapping Machine)
CMPの前工程や、ウェーハの厚み調整の目的で用いられる粗研磨装置です。ウェーハの両面を同時に、または片面を研磨することで、均一な厚みと平坦度を実現します。
- 原理: 砥粒を含むスラリーを介して、研磨定盤とウェーハを接触させ、機械的に擦り合わせることで材料を削り取ります。CMPほど微細な研磨はできませんが、比較的厚い層を除去するのに適しています。
- 用途:
- ウェーハの薄化(バックグラインドの前工程など)。
- ボンディング前の初期的な平坦化。
3. ドライ研磨 / プラズマ処理装置
特にハイブリッドボンディングにおいて、CMP後の最終的な表面処理や、接着性の向上を目的に使用されることがあります。
- プラズマ活性化装置: ウェーハ表面をプラズマ処理することで、表面の不純物(特に有機物や酸化膜)を除去し、原子レベルで表面を活性化させます。これにより、その後の直接接合における結合力を高めます。CMPと組み合わせて使用されることが多いです。
- 物理的な表面処理: イオンビームなどを用いて表面をクリーニングし、不要な層を除去する装置もあります。
4. 洗浄装置
研磨工程とセットで非常に重要なのが洗浄装置です。研磨後には、ウェーハ表面に研磨スラリーの残渣や微粒子、化学物質が残るため、これらを徹底的に除去し、清浄な表面を確保する必要があります。
- 枚葉洗浄装置: 1枚ずつウェーハを処理し、高圧スプレーやブラシ、超音波、各種薬液を組み合わせて洗浄します。
- バッチ洗浄装置: 複数のウェーハを同時に処理します。
こ れらの装置は単独で使用されるだけでなく、ボンディングのプロセスフローに応じて、複数の研磨・洗浄・表面処理装置が組み合わされて使用されます。特に最先端のボンディング技術では、原子レベルでの表面制御が求められるため、これらの研磨・洗浄装置の性能がデバイスの最終的な品質と歩留まりを大きく左右します。

ボンディング用の研磨装置には、CMPや厚み調整の目的で用いられる粗研磨装置、プラズマによるドライ研磨 などがあります。
荏原製作所の参入理由は
荏原製作所は、半導体製造装置の主要メーカーであり、特にCMP(Chemical Mechanical Polisher:化学機械研磨装置)において高い技術力と世界シェアを持っています。
CMPはこれまでボンディング工程での平坦性にはあまり利用されてきませんでしたが、以下のような理由で参入したと思われます。
- CMP装置の重要性と需要拡大: 荏原製作所はCMP装置で世界シェア2位を誇り、半導体の微細化や積層化(ハイブリッドボンディングなど)が進むにつれて、CMPの需要がますます高まるとされています。特に、縦方向にチップを積層するハイブリッドボンディングでは、接合面を形成するためにCMPが不可欠です。2020年代の10年間でCMP市場は2倍になると予測されています。
- 新生産棟の稼働と生産能力増強: 荏原製作所は、半導体製造装置の生産能力増強のため、熊本事業所に新生産棟(K3棟)を建設し、2025年度第2四半期(2025年7月〜9月)より稼働予定で、生産能力を1.5倍に拡大する計画です。これは、今後のCMP装置の需要増に対応するためのものです。
- 継続的な研究開発: 荏原製作所は、CMP装置の開発において、お客様からの課題やニーズをヒアリングし、新しい機能(研磨・洗浄・乾燥)の開発を進めています。

ハイブリッドボンディングなどのCMPの重要性が増加したことなどから、参入を検討しているものと思われます。
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