電磁波シールド 電磁波シールドとは何か?なぜ、電磁波の遮断ができるのか?

この記事で分かること

  • 電磁波シールドとは:電子機器やシステムから発生する不要な電磁波が外部へ漏洩するのを防いだり、外部からの電磁波ノイズを防ぐための材料や構造のことです。
  • どのような材用があるのか:金属、導電性プラスチック、導電性塗料や導電性繊維などが利用されています。
  • なぜ、高い電導度でシールド性を得ることができるのか:物質が電磁波に対してどれだけ効率的に自由電子を振動させ、反射波を生成できるかという能力に直結しているため、導電性の高い物質ほど電磁波を反射しやすいと言えます。

電磁波シールド

 富士キメラ総研によると、機能性フィルム市場は堅調な成長を見せる予想とされています。

 https://www.nikkan.co.jp/articles/view/00746076

 2023年の市場規模は約282億4,000万米ドルで、2030年には476億4,000万米ドルに達すると見込まれており、年平均成長率(CAGR)は7.75%とする予想もあります。

 今回は機能性フィルムの中でも「導電性」を持つフィルム、特に電磁波シールドフィルムの解説となります。

電磁波シールドとは何か

 電磁波シールドとは、電子機器やシステムから発生する不要な電磁波(EMI:Electromagnetic Interference)が外部へ漏洩するのを防いだり、外部からの電磁波ノイズ(RFI:Radio Frequency Interference)が内部へ侵入して誤動作を引き起こすのを防いだりする技術、またはそのために用いられる材料や構造のことです。

 私たちの身の回りには、スマートフォン、パソコン、テレビ、電子レンジなど、様々な電子機器が存在し、それぞれが電磁波を発生させています

 これらの電磁波が他の電子機器に影響を与えたり、人体に悪影響を及ぼしたりする可能性があるため、電磁波シールドは非常に重要な技術となります。

電磁波シールドの原理

 電磁波シールドの基本的な原理は、以下の3つのメカニズムによって電磁波エネルギーを減衰させることです。

  1. 反射: 導電性の高い材料(金属など)は、入射してきた電磁波を表面で反射します。これは、電磁波が金属中の自由電子を振動させ、その振動によって逆位相の電磁波が発生することで起こります。
  2. 吸収: ある種の材料(磁性体や導電性のある樹脂など)は、入射してきた電磁波のエネルギーを内部で吸収し、熱などの別のエネルギーに変換します。
  3. 多重反射: シールド材の内部で電磁波が繰り返し反射することで、エネルギーが減衰します。

 一般的に、電磁波シールドの効果は、シールド材の導電率透磁率厚さ、そして電磁波の周波数によって左右されます。高周波の電磁波に対しては反射が、低周波の磁場に対しては吸収が主なシールドメカニズムとなります。

電磁波シールドの用途

 電磁波シールドは、以下のような様々な分野で利用されています。

  • 電子機器: スマートフォン、パソコン、医療機器、計測器などの筐体や内部配線に用いられ、機器間の干渉を防いだり、外部ノイズから保護したりします。
  • 通信機器: 無線LANルーター、基地局、通信ケーブルなどに用いられ、電波の漏洩を防いだり、外部からの妨害電波を防いだりします。
  • 医療分野: MRI(核磁気共鳴画像法)などの医療機器室は、外部からの電磁波ノイズを防ぎ、正確な測定を行うために電磁波シールドが施されています。また、医療機器自体も他の機器への影響を防ぐためにシールドされています。
  • 航空宇宙・防衛: 航空機の電子機器や軍事機器は、外部の強力な電磁波や意図的な妨害電波から保護するために、高度な電磁波シールドが施されています。
  • 情報セキュリティ: 情報漏洩を防ぐために、機密情報を扱う部屋や機器に電磁波シールドが施されることがあります。
  • 自動車: 車載電子機器の誤動作を防いだり、外部からのノイズによる影響を低減したりするために、電磁波シールドが用いられています。
  • FA(ファクトリーオートメーション): 工場内の制御機器やセンサーなどが、電磁波ノイズによって誤動作するのを防ぎます。

 このように、電磁波シールドは、現代社会の様々なテクノロジーを安全かつ安定的に利用するために不可欠な技術と言えます。電磁波シールドはそのような電磁波シールド性をもつ機能性フィルムのことです。

電磁波シールドとは、電子機器やシステムから発生する不要な電磁波が外部へ漏洩するのを防いだり、外部からの電磁波ノイズを防ぐための材料や構造のことです。

電磁波シールド材料にはどんなものがあるのか

 電磁波シールドには、以下のような様々な材料が用いられます。

  • 金属: 銅、アルミニウム、鉄、ステンレスなどが代表的です。高い導電性を持つため、反射によるシールド効果に優れています。筐体やメッシュ、箔、テープなどの形状で使用されます。
  • 導電性プラスチック: プラスチックにカーボンブラック、金属粉末、導電性フィラーなどを混ぜることで導電性を持たせた材料です。軽量で成形性が良く、複雑な形状の部品にも対応できます。
  • 導電性塗料: 金属粉末や導電性フィラーを含んだ塗料で、電子機器の筐体などに塗布してシールド効果を得ます。
  • 電磁波シールドフィルム: 金属箔や導電性のある薄膜をプラスチックフィルムに貼り合わせたものです。軽量で柔軟性があり、フレキシブル基板やケーブルのシールドなどに用いられます。
  • 導電性繊維: 金属繊維や導電性のある有機繊維を織り込んだ布です。ウェアラブルデバイスやケーブルのシールドなどに利用されます。
  • 磁性体: フェライトなどの磁性材料は、低周波の磁場を吸収する効果があります。ノイズフィルターやコアなどに用いられます。

なぜ、導電性が高いと反射しやすいのか

 導電性が高い材料が電磁波を反射しやすいのは、主に自由電子の存在と電磁波との相互作用によって説明できます。

メカニズム

  1. 自由電子の存在: 導電性の高い物質、特に金属には、原子核に束縛されずに自由に動き回れる自由電子が豊富に存在します。
  2. 電磁波の入射: 電磁波(光もその一種です)が金属表面に到達すると、電磁波の電場が金属内の自由電子に力を加えます。
  3. 自由電子の振動: 電場によって力を受けた自由電子は、入射してきた電磁波の振動数に合わせて振動し始めます。
  4. 二次的な電磁波の発生: 振動する自由電子は、まるで小さなアンテナのように、自身も電磁波を放出します。この放出される電磁波は、入射してきた電磁波とほぼ同じ周波数で、逆位相の波となります。
  5. 反射波の形成: 入射波と、自由電子が放出した二次的な電磁波が干渉し合うことで、入射波は打ち消され、逆方向へと進む波、つまり反射波が形成されます。

なぜ導電率が高いと反射しやすいのか?

 導電率が高いほど、金属中に存在する自由電子の数密度が高くなります。

 自由電子が多いほど、入射してきた電磁波によってより多くの電子が効率的に振動し、より強力な二次的な電磁波を放出します。その結果、入射波との干渉がより強くなり、より多くの電磁波が反射されることになるのです。

導電性の高さは、物質が電磁波に対してどれだけ効率的に自由電子を振動させ、反射波を生成できるかという能力に直結しているため、導電性の高い物質ほど電磁波を反射しやすいと言えます。

電磁波を吸収できる理由

 磁性体や導電性のある樹脂が電磁波を吸収できる理由は、それぞれ異なるメカニズムに基づいています。

磁性体による電磁波吸収

 磁性体、特に軟磁性材料(例:フェライト)は、入射してきた電磁波の磁場と相互作用することでエネルギーを吸収します。

  1. 磁気モーメントの振動: 磁性体内部には、原子やイオンが持つ小さな磁石のような性質(磁気モーメント)が存在します。電磁波の磁場がこれらの磁気モーメントに作用すると、磁気モーメントは電磁波の振動に合わせて向きを変えようとします。
  2. 磁気損失: 磁気モーメントの向きが変化する際に、内部の摩擦などによってエネルギー損失が生じます。このエネルギー損失が、電磁波のエネルギーを熱エネルギーに変換し、電磁波を吸収する要因となります。
  3. 共振現象: 特定の周波数において、磁性体の磁気モーメントの振動と電磁波の周波数が共振すると、より効率的に電磁波のエネルギーが吸収されます。

 磁性体は、特に比較的低い周波数の電磁波や磁場成分の吸収に効果を発揮します。

導電性のある樹脂による電磁波吸収

 導電性のある樹脂は、樹脂中に導電性フィラー(カーボンブラック、金属粉末など)を分散させることで導電性を持たせています。これらの材料が電磁波を吸収する主なメカニズムは電気的損失です。

  1. 誘導電流の発生: 入射してきた電磁波の電場が、導電性フィラー中の自由電子を振動させ、微小な誘導電流を発生させます。
  2. ジュール熱: 発生した誘導電流が、導電性フィラーの電気抵抗によって熱エネルギーに変換されます。この現象はジュール熱と呼ばれ、電磁波のエネルギーが吸収される主な要因となります。
  3. 多重反射と散乱: 導電性フィラーが樹脂中に分散している場合、入射した電磁波はフィラーの表面で反射や散乱を繰り返すことで、エネルギーを減衰させます。

磁性体は主に磁場との相互作用による磁気損失で、導電性のある樹脂は主に電場との相互作用による電気的損失で電磁波を吸収します。

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