エレクトロマイグレーションとは何か?なぜアルミニウムはエレクトロマイグレーション耐性が低いのか?

この記事で分かること

  • エレクトロマイグレーションとは:半導体配線中の電子の流れ(電流)が金属原子に運動量を与え、原子を移動させる現象です。これにより配線に空隙(ボイド)や突起(ヒロック)が生じ、最終的に断線や短絡といった故障を引き起こします。
  • アルミニウムはエレクトロマイグレーション耐性が低い理由:アルミニウムは銅よりも原子が動きやすく、拡散しやすい性質を持っているため、電子の衝突によって原子が移動するエレクトロマイグレーション現象が、より低い電流密度や温度条件下でも発生しやすくなります。

アルミニウム配線のエレクトロマイグレーション

 半導体の重要性が増す中で、前工程装置は世界的に成長が続いています。

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 特に中国は米中対立もあり、大幅な投資増加が続いています。今後も先端技術を駆使した半導体の需要増加と従来技術による成熟プロセスともにその重要性は増加するとみられています。

 今回は、配線形成、メタライゼーションに用いられるアルミニウム配線の問題点、特にエレクトロマイグレーションについての記事となります。

アルミニウム配線の問題点は何か

 アルミニウムは、加工の容易さ、コストの低さなどから、長らく半導体デバイスの配線材料として標準的に使用されてきました。

 しかし、半導体の性能向上とともに、以下のようなアルミニウム配線の特徴が問題視されるようになっています。

高い電気抵抗

  • 銅(Cu)に比べて電気抵抗が高いため、電流が流れにくい特性があります。
  • これにより、配線を通る信号の速度が遅れる「RC遅延」が顕著になります。特に半導体の微細化が進むと、配線が細く長くなるため、この抵抗による信号遅延がデバイスの高速動作を妨げる主要な要因となります。

低いエレクトロマイグレーション耐性

  • エレクトロマイグレーションとは、配線に高密度電流が流れ続けることで、電子の運動量が金属原子に伝わり、原子が移動して配線中にボイド(空孔)やヒロック(突起)を形成し、最終的に配線が断線する現象です。
  • アルミニウムは銅に比べてこのエレクトロマイグレーションに対する耐性が低く、デバイスの信頼性や寿命に影響を与える可能性があります。特に微細化が進み、配線に流れる電流密度が高くなるほど、この問題は深刻になります。

低い熱伝導率

  • 銅に比べて熱伝導率が低いため、デバイス内で発生する熱を効率的に外部に放出することが難しい場合があります。高集積化されたデバイスでは発熱が問題となるため、これは不利な点となります。

 これらの問題点から、現在の最先端の半導体デバイスでは、より低抵抗でエレクトロマイグレーション耐性の高い銅配線が主流となっています。ただし、アルミニウム配線は加工の容易さやコストの低さという利点があるため、一部の用途や古いプロセスルールでは現在でも使われ続けています。

アルミニウム配線は、銅より高い電気抵抗による信号遅延(RC遅延)、およびエレクトロマイグレーション耐性の低さによる断線リスクが主な問題点です。これらの課題が、デバイスの高速化と信頼性向上を妨げます。

 

エレクトロマイグレーションとは何か

 エレクトロマイグレーション(Electromigration、EM)とは、半導体デバイスなどの金属配線において、電流(電子の流れ)によって金属原子が徐々に移動する現象です。これにより、配線の一部が劣化し、最終的にデバイスの故障を引き起こす可能性があります。

原理

主なメカニズムは以下の通りです。

  1. 電子風力(Electron Wind Force):金属配線の中を電流が流れるとき、自由電子は非常に速い速度で移動します。これらの電子は、配線を構成する金属原子(イオン化した状態)と頻繁に衝突します。この衝突の際に、電子の持つ運動量が金属原子に伝わり、原子を電子の流れる方向へ押し出す力が働きます。この力を「電子風力」と呼びます。
  2. 原子拡散:電子風力によって移動させられた原子は、配線内部を拡散していきます。この原子の移動は、配線の温度が高いほど、また電流密度が高いほど促進されます。

結果と影響

 エレクトロマイグレーションが進行すると、配線には以下のような構造的変化が生じ、デバイスの信頼性に悪影響を及ぼします。

  • ボイド(Void)の形成:電子風力によって原子が移動していくと、原子が「抜けて」しまった部分には空隙(ボイド)が形成されます。このボイドが大きくなると、配線の断面積が実質的に減少し、その部分の電気抵抗が増大します。最終的には、ボイドが配線全体を横切るようになると、配線が断線(オープン故障)して電流が流れなくなり、デバイスが機能しなくなります。ボイドは通常、電子の流れの「上流側」(カソード端)に形成されやすいです。
  • ヒロック(Hillock)の形成:電子の流れに沿って移動した原子は、配線の「下流側」(アノード端)や、配線の曲がり角、段差などの原子が溜まりやすい場所に堆積し、盛り上がった突起(ヒロック)を形成することがあります。このヒロックが成長しすぎると、上層の配線や隣接する配線と接触してしまい、短絡(ショート故障)を引き起こす可能性があります。

エレクトロマイグレーションを促進する要因

  • 高い電流密度: 配線を流れる電流が強く、断面積が小さい(微細化された)ほど、電子と原子の衝突頻度が増え、電子風力が強くなります。
  • 高い温度: 温度が高いほど、金属原子の運動が活発になり、原子の拡散速度が増加するため、エレクトロマイグレーションが加速されます。
  • 材料の特性: アルミニウムは銅に比べてエレクトロマイグレーション耐性が低いとされています。これは、原子の結合エネルギーや結晶構造の違いによります。
  • 配線の欠陥や粒界: 配線中の結晶粒界や欠陥部分は、原子が移動しやすい経路となるため、エレクトロマイグレーションの弱点となりやすいです。

 半導体デバイスの高性能化と微細化が進むにつれて、配線に流れる電流密度が増大し、エレクトロマイグレーションはデバイスの寿命と信頼性にとって非常に重要な課題となっています。このため、材料の改善(銅配線への移行、バリアメタルの採用)や配線構造の最適化など、様々な対策が講じられています。

エレクトロマイグレーションは、半導体配線中の電子の流れ(電流)が金属原子に運動量を与え、原子を移動させる現象です。これにより配線に空隙(ボイド)や突起(ヒロック)が生じ、最終的に断線や短絡といった故障を引き起こします。

アルミニウムのエレクトロマイグレーション耐性が低い理由は

 アルミニウムが銅に比べてエレクトロマイグレーション耐性が低い主な理由は、以下の物理的特性の違いに起因します。

低い活性化エネルギーと高い原子拡散係数

  • アルミニウム原子は、銅原子に比べて、結晶格子内での移動(拡散)に必要なエネルギー(活性化エネルギー)が低く、原子が移動しやすい性質を持っています。
  • そのため、電子風力による原子の動き出しが容易であり、一度動き出すと、より速く拡散する(拡散係数が高い)傾向があります。これは、同じ電流密度と温度条件下で、アルミニウムの方が原子移動が活発に起こり、ボイドやヒロックが形成されやすいことを意味します。

融点の違い

  • アルミニウムの融点は約660℃であるのに対し、銅は約1085℃とかなり高いです。一般的に、融点が低い金属ほど、同程度の絶対温度では原子の運動が活発になりやすく、エレクトロマイグレーションが進行しやすくなります。

結晶粒界の影響

  • 金属配線は通常、多数の微細な結晶粒が集まってできています。これらの結晶粒の境界(粒界)は、原子が移動しやすいパスとなります。アルミニウムの場合、粒界での原子拡散がエレクトロマイグレーションに大きく影響するとされており、銅に比べて粒界における原子移動が活発であることが、耐性の低さにつながっています。

アルミニウムは銅よりも原子が動きやすく、拡散しやすい性質を持っているため、電子の衝突によって原子が移動するエレクトロマイグレーション現象が、より低い電流密度や温度条件下でも発生しやすく、また進行も速くなります。

アルミニウムが拡散に必要なエネルギーが低い理由は

 アルミニウムが結晶格子内での原子移動(拡散)に必要なエネルギー(活性化エネルギー)が銅よりも低いのは、主にその原子間の結合の強さや結晶構造に関係しています。

具体的には、

  1. 原子間の結合エネルギーが弱い傾向にある:
    • 活性化エネルギーとは、原子が自身の位置から別の位置へ移動する際に、一時的に乗り越える必要のあるエネルギーの障壁です。この障壁は、原子同士を結びつける結合の強さに大きく依存します。
    • アルミニウムは銅に比べて、原子間の金属結合が相対的に弱いと考えられています。結合が弱いと、原子が隣の格子点や空孔へ移動するために必要なエネルギーが小さくて済みます。
  2. 原子の大きさ・パッキング効率:
    • アルミニウム原子と銅原子の大きさや、それぞれの結晶構造(両方とも面心立方格子ですが、原子の詰め込み方や原子間距離に微妙な違いがあります)も、原子の移動しやすさに影響します。
    • 一般的に、原子が小さく、結晶格子のパッキングが比較的疎である(または原子間に移動しやすい「隙間」が存在しやすい)場合、原子が移動するために必要なエネルギーが低くなる傾向があります。

 これらの要因により、アルミニウムは、同じ熱エネルギー(温度)が与えられた場合でも、原子がより活発に動き回り、拡散しやすいという特性を持ちます。これが、電子風力のような外部からの力が加わった際に、アルミニウム原子が銅原子よりも容易に移動し、エレクトロマイグレーションが進行しやすい主要な理由となります。

アルミニウムは、原子間の結合エネルギーが銅より弱く、原子が格子内を移動する際に乗り越えるべきエネルギー障壁が低いためです。この特性により、アルミニウム原子は比較的少ないエネルギーで拡散しやすく、エレクトロマイグレーションが進行しやすくなります。

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