殺藻微生物による赤潮プランクトンの解消 どのような微生物なのか?なぜ特異性を持つのか?

この記事で分かること

  • 赤潮プランクトンとは:海や湖で特定のプランクトンが爆発的に増殖し、水面の色を変える現象です。魚のえらに詰まって窒息死させたり、水中を酸素欠乏にしたりして漁業に甚大な被害を与えます。
  • どのような微生物なのか:赤潮プランクトンを狙い撃ちし、細胞を破壊する酵素や物質を放出して数日で死滅させる殺藻細菌です。特定の種のみを攻撃するため、魚介類や生態系への影響が少ないのが特徴です。
  • なぜ特異性を持つのか:プランクトンの表面にある特定の糖鎖やタンパク質を「鍵と鍵穴」のように識別します。また、標的が放出する特有の化学物質を感知して近づき、その細胞壁のみを分解する専用の酵素で攻撃するためです。

殺藻微生物による赤潮プランクトンの解消

 東北大学の研究グループが赤潮の原因となるプランクトンを数日で死滅させる「殺藻微生物」の研究結果を発表しています。

 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOSG298HR0Z20C26A1000000/

 化学薬品を使わずに赤潮被害を食い止める革新的な技術として期待されています。

赤潮プランクトンとは何か

 赤潮プランクトンとは、海や湖で爆発的に増殖し、水の色を変えてしまう微小な浮遊生物のことです。

 「赤潮」と呼ばれますが、プランクトンの種類によっては茶色やオレンジ色に見えることもあります。彼らがなぜ問題になるのか、その正体を簡潔に解説します。


1. 赤潮プランクトンの正体

 主に以下の2つのグループが代表的です。

  • ラフィド藻: 東北大学の研究対象にもなっているグループです。シャットネラなどが有名で、魚のえらに付着して呼吸困難に陥らせる、養殖業にとっての天敵です。
  • 渦鞭毛藻: 2本の鞭毛で自力で泳ぐことができるグループです。一部の種は強力な毒(貝毒など)を持ちます。

2. なぜ「赤潮」が発生するのか

 海の中の栄養分が増えすぎる「富栄養化」が主な原因です。

  1. エサの増加: 生活排水や肥料などが海に流れ込み、窒素やリンが増える。
  2. 好条件: 水温が上がり、日照時間が長くなると、プランクトンが爆発的に分裂する。
  3. 密集: 風や潮の流れで一箇所に集まり、海面が変色する。

3. 引き起こされる主な被害

 赤潮が発生すると、海の中は「酸欠」と「毒」の地獄絵図になってしまいます。

被害の種類メカニズム
窒息死プランクトンが魚の「えら」に詰まり、酸素が取り込めなくなる。
酸素欠乏大量に死んだプランクトンを細菌が分解する際、水中の酸素を使い果たす。
毒性被害プランクトンが作る毒素が魚や貝に蓄積し、それを食べた人間が食中毒を起こす。

海や湖で特定のプランクトンが爆発的に増殖し、水面の色を変える現象です。エサとなる栄養分や水温の上昇が原因で発生します。魚のえらに詰まって窒息死させたり、水中を酸素欠乏にしたりして漁業に甚大な被害を与えます。

どのような微生物なのか

 東北大学の研究グループが中心となって研究しているのは、主に「殺藻細菌」と呼ばれるカテゴリーの微生物です。

 海の中に自然に存在する「プロテオバクテリア門」などに属する細菌たちが主役です。彼らがどのようにして赤潮を消滅させるのか、そのユニークな生態を紐解いてみましょう。


1. 「ハンター」としての微生物

 この微生物は、私たちがイメージする「菌」というよりは、赤潮プランクトンを狙うスナイパーやハンターに近い動きをします。

攻撃の2つのスタイル

 微生物によって、プランクトンを仕留める方法が異なります。

  • 殺細胞物質放出型(遠距離攻撃):周囲にプランクトンの細胞壁を溶かす酵素や特定の化合物を放出し、近づかずに相手を破裂(溶菌)させます。
  • 直接付着型(近接攻撃):プランクトンの体に直接くっつき、中身を吸収したり、細胞膜を破壊したりして死滅させます。

2. なぜ「数日」で消滅させられるのか

 この微生物が驚異的なスピードを誇る理由は、その増殖戦略にあります。

  1. ターゲットの発見: 赤潮が発生し、プランクトン(エサ)が大量に現れると、それを感知して微生物が急激に増殖します。
  2. 連鎖反応: 1つのプランクトンが破壊されると、そこからさらに微生物が増殖し、周囲のプランクトンを次々と襲う「ドミノ倒し」のような状態になります。
  3. 自滅的な終息: ターゲットである赤潮プランクトンがいなくなると、エサを失ったこの微生物も自然に減少していきます。

3. この微生物の「特長」:特異性

 一番の特長は、「誰でもいいから殺すわけではない」という点です。東北大学の研究では、特定の赤潮原因菌(例えばラフィド藻のシャットネラなど)だけを認識して攻撃する微生物が選別されています。

  • 魚や貝には無害: 魚のえらや内臓を傷つけることはありません。
  • 他のプランクトンは守る: 海の生態系を支える「良いプランクトン」には目もくれないため、環境へのダメージが最小限に抑えられます。

4. 現場での使われ方

 研究では、この微生物をただ海に撒くのではなく、「担体(たんたい)」と呼ばれる小さな粒やフィルターに付着させて設置する方法が検討されています。

東北大学が活用するのは、海に自生する殺藻細菌です。赤潮プランクトンを狙い撃ちし、細胞を破壊する酵素や物質を放出して数日で死滅させます。特定の種のみを攻撃するため、魚介類や生態系への影響が少ないのが特徴です。

なぜ特異性を持つのか

 この微生物が「誰彼構わず攻撃する」のではなく、特定の赤潮プランクトンだけを狙撃できるのには、生物学的な「鍵と鍵穴」の関係があるからです。


1. 表面の「糖鎖」や「タンパク質」の識別

 プランクトンの細胞表面には、その種固有の糖鎖(炭水化物の鎖)やタンパク質が存在します。

 殺藻細菌は、自分の表面にある受容体(センサー)を使って、ターゲットの表面構造が「自分のエサ(攻撃対象)」かどうかを瞬時に判断します。一致しない相手には反応しません。

2. 化学物質による「索敵(さくてき)」

 赤潮プランクトンは、特有の化学物質を体外に放出しています。

 殺藻細菌はこの微かな「におい」を感知して近づきます。この物質に対する感度が種ごとに異なるため、特定のプランクトンが密集している場所にだけ集まり、攻撃スイッチが入る仕組みです。

3. 特殊な「分解酵素」の適合性

 微生物が放出する「細胞を溶かす酵素(溶菌酵素)」は、万能ではありません。

 ターゲットとなるプランクトンの細胞壁や細胞膜の成分にぴったり合う酵素でなければ、細胞を破壊することができません。この「物理的な相性」が特異性を生んでいます。


 この微生物にとって、特定の赤潮プランクトンは「専用の鍵でしか開かない宝箱」のようなものです。他の生物は「鍵が合わない箱」なので、攻撃が成立しないのです。

 この「鍵と鍵穴」の仕組みを利用して、特定の赤潮(例えばシャットネラ用、カレニア用など)ごとに「専用の微生物」を使い分ける研究も進んでいます。

殺藻細菌は、プランクトンの表面にある特定の糖鎖やタンパク質を「鍵と鍵穴」のように識別します。また、標的が放出する特有の化学物質を感知して近づき、その細胞壁のみを分解する専用の酵素で攻撃するためです。

問題点は何か

 東北大学の研究でも慎重に検討されている、実用化に向けた主な4つの問題点を整理しました。


1. 「封じ込め」の難しさ(環境流出)

 海は地続きではないため、一度散布した微生物を完全に回収することは不可能です。

  • 懸念: 特定のプランクトンを絶滅させた後、その微生物が他の未知の生態系にどのような連鎖反応(ドミノ倒し的な影響)を与えるか、長期的な予測が困難です。

2. 微生物の「変異」と「耐性」

 生物対生物の戦いである以上、プランクトン側が生き残るために進化(耐性獲得)する可能性があります。

  • 懸念: 細菌の攻撃が効かない「スーパー赤潮プランクトン」が現れると、いたちごっこになり、より強力な微生物を投入せざるを得なくなるリスクがあります。

3. 大量培養と保存のコスト

 研究室で少量を増やすのは簡単ですが、広大な漁場をカバーする量を確保するのは大変です。

  • 課題: 赤潮は突発的に発生するため、「必要な時に、安価に、大量の新鮮な微生物」を現場に届ける物流・保存コストが大きな壁となります。

4. 法律と倫理のハードル

 「生きた微生物」を環境中に放出することへの抵抗感や規制があります。

  • 現状: 遺伝子組み換え技術などを使っている場合、カルタヘナ法などの厳しい規制をクリアする必要があり、社会的な合意形成に時間がかかります。

 東北大学では、微生物を直接バラ撒くのではなく、「特定のカプセルやシートに固定し、そこから溶菌成分だけを染み出させる」といった、環境負荷を抑えるデバイス開発も並行して行われています。

海や湖で特定のプランクトンが爆発的に増殖し、水面の色を変える現象です。エサとなる栄養分や水温の上昇が原因で発生します。魚のえらに詰まって窒息死させたり、水中を酸素欠乏にしたりして漁業に甚大な被害を与えます。

コメント

タイトルとURLをコピーしました