この記事で分かること
- エリプソメーターとは:偏光した光が試料で反射する際の偏光状態の変化を測定し、その値から膜厚や屈折率などの光学定数を非接触・非破壊で評価する装置です。
- 光の偏光が起きる理由:光が物質中を進む際、その物質の光学的特性(複屈折、偏光依存性のある吸収・反射・屈折など)により、光の電場の振動方向と物質との相互作用が変わるため、偏光状態が変化します。
エリプソメーター
半導体の重要性が増す中で、前工程装置は世界的に成長が続いています。
https://optronics-media.com/news/20250414/99245/
特に中国は米中対立もあり、大幅な投資増加が続いています。今後も先端技術を駆使した半導体の需要増加と従来技術による成熟プロセスともにその重要性は増加するとみられています。
今回は膜厚測定装置の一種であるエリプソメーターについての解説となります。
半導体の前工程とは
半導体の前工程とは、シリコンウェハ上にトランジスタや配線などの微細な回路を形成する一連のプロセスのことです。ウェハを素材として、集積回路を作り込んでいく、半導体製造の最も重要な部分と言えます。非常に多くの精密な工程を経て、最終的な半導体チップの機能が決まります。
主な前工程は以下の通りです。
ウェハ準備
シリコンインゴットの製造: 高純度のシリコンを溶解し、種結晶を用いて単結晶のシリコンインゴットを育成します。
- スライス: インゴットを薄い円盤状(ウェハ)にスライスします。
- 研磨: ウェハ表面を平坦かつ滑らかに研磨します。
- 洗浄: ウェハ表面の微細な異物や汚れを徹底的に除去します。
成膜
ウェハ表面に、酸化膜、窒化膜、金属膜など、様々な薄膜を形成します。
- 成膜方法には、CVD(化学気相成長法)、スパッタリング(物理気相成長法)、ALD(原子層堆積法)などがあります。
フォトリソグラフィ
ウェハ表面に感光材(フォトレジスト)を塗布します。
- 回路パターンが描かれたマスク(フォトマスク)を通して紫外線を照射し、レジストにパターンを焼き付けます。
- 現像液で不要なレジストを除去し、ウェハ上に回路パターンを形成します。
エッチング
フォトリソグラフィでパターン形成されたレジストをマスクとして、露出した成膜を除去し、ウェハに回路パターンを転写します。
- エッチングには、液体を用いるウェットエッチングと、プラズマを用いるドライエッチングがあります。
不純物導入(ドーピング)
半導体特性を持たせるために、リンやボロンなどの不純物をウェハ中に注入します。
- イオン注入法などが用いられます。
平坦化(CMP: Chemical Mechanical Polishing)
表面の凹凸をなくし、平坦にするための処理です。
- 化学的な腐食と 研磨を同時に行います。
配線形成(メタライゼーション)
形成されたトランジスタなどの素子間を金属配線で接続します。
- スパッタリングなどで金属膜を形成し、フォトリソグラフィとエッチングで配線パターンを作ります。
これらの工程を何度も繰り返し行うことで、複雑な集積回路がウェハ上に形成されます。前工程は、半導体の性能や品質を大きく左右する、非常に重要なプロセスです。

前工程は、微細な回路を形成する一連のプロセスのことで、半導体の性能や品質を大きく左右する、非常に重要なプロセスです。
エリプソメーターとは何か
エリプソメーター(Ellipsometer)とは、偏光した光が物質(特に薄膜)に反射または透過する際に生じる偏光状態の変化を測定することで、その物質の膜厚や光学定数(屈折率 n、消衰係数 k)を非接触・非破壊で評価する装置です。
光の偏光状態は、光の電場の振動方向によって定義されます。エリプソメーターでは、入射光の電場を、試料の入射面に平行な成分(p偏光)と、垂直な成分(s偏光)に分解して考えます。光が試料で反射すると、これらp偏光とs偏光の反射率と位相変化がそれぞれ異なり、その結果、反射光の偏光状態が入射光と異なる楕円偏光に変化します。
エリプソメーターはこの変化を、以下の2つのパラメータで表します。
- Ψ(プサイ): p偏光とs偏光の反射振幅比のタンジェント(tanΨ=∣Rp∣/∣Rs∣)
- Δ(デルタ): p偏光とs偏光の位相差(Δ=δp−δs)
これらの Ψ と Δ の測定値から、光と物質の相互作用を記述するフレネルの式などの物理モデルを用いて、薄膜の厚さや光学定数(屈折率と消衰係数)を逆算します。
主な特徴と用途
- 非接触・非破壊測定: 試料を傷つけずに測定が可能です。
- 高精度な膜厚測定: 数オングストローム(Å)から数十マイクロメートル(µm)までの極めて薄い膜の厚さを高精度で測定できます。
- 光学定数の評価: 膜の屈折率や消衰係数(光の吸収の度合いを示す)も同時に評価できます。
- 多層膜の解析: 複数の薄膜が積層された構造の各層の膜厚や光学定数を解析できます。
- 表面・界面の評価: 膜の表面粗さや、基板との界面の状態なども解析できる場合があります。
- 幅広い応用分野:
- 半導体製造: ゲート酸化膜、窒化膜、レジスト膜、金属膜などの膜厚管理や品質評価に不可欠です。
- ディスプレイ: 液晶パネルや有機ELディスプレイの薄膜評価。
- 太陽電池: 発電層や電極の薄膜評価。
- 光学部品: 反射防止膜や誘電体多層膜の評価。
- 材料科学: 新材料の光学特性評価など。
単一波長を用いるタイプと、広範囲の波長を用いる「分光エリプソメーター」があり、分光エリプソメーターはより多くの情報が得られるため、複雑な多層膜や未知の材料の評価に多く用いられます。

エリプソメーターは、偏光した光が試料で反射する際の偏光状態の変化を測定し、その値から膜厚や屈折率などの光学定数を非接触・非破壊で評価する装置です。半導体など極薄膜の精密測定に用いられます。
偏光状態が変化する理由は何か
光の偏光状態が変化する主な理由は、光が物質の中を伝播したり、物質の境界面で反射・屈折したりする際に、物質の光学的特性と光の電場との相互作用によって生じます。
複屈折(Birefringence)
- 原理: 一部の物質(結晶や応力のかかったプラスチック、液晶など)は、光が伝播する方向に対して、その電場の振動方向(偏光方向)によって屈折率が異なります。このような物質を「光学異方性物質」と呼びます。
- 変化のメカニズム: 光が複屈折性物質に入射すると、一般的にその光は直交する2つの特定の偏光成分に分解されます。それぞれの偏光成分は異なる屈折率を感じるため、異なる速度で物質中を伝播します。その結果、物質を通過する間に2つの偏光成分間に位相差(光路差)が生じます。この位相差によって、透過後の光の偏光状態(例えば、直線偏光が楕円偏光や円偏光に変化する)が変化します。
- 例: 水晶、方解石、液晶ディスプレイの原理など。
反射・屈折時の偏光依存性
- 原理: 光が異なる屈折率の物質の境界面(例えば、空気とガラスの間)で反射・屈折する際、その反射率や透過率は、入射光の偏光状態(特に、入射面に平行な成分(P偏光)と垂直な成分(S偏光))によって異なります。
- 変化のメカニズム: 特定の入射角(ブリュースター角)では、P偏光の反射率がゼロになるため、反射光は完全にS偏光になります。それ以外の角度でも、P偏光とS偏光の反射率が異なるため、反射光や透過光の偏光状態は入射光と異なって変化します。
- 例: 偏光サングラスが水面や路面のギラつきを抑える原理、薄膜干渉における反射光の位相変化など。
吸収の偏光依存性(二色性 – Dichroism)
- 原理: 一部の物質(偏光板の材料など)は、光の電場の振動方向によって、その光の吸収率が異なります。
- 変化のメカニズム: 特定の偏光方向の光を強く吸収し、それに直交する偏光方向の光を透過させることで、非偏光の光を特定の直線偏光に変えたり、既存の偏光状態を変えたりします。
- 例: ポラロイドフィルム、一部の有機色素など。
散乱(Scattering)
- 原理: 光が空気中の分子や微粒子(チンダル現象)、あるいは物質内部の不均一な構造によって散乱される際に、偏光状態が変化することがあります。
- 変化のメカニズム: 散乱光の偏光状態は、散乱体の形状や光の散乱角に依存します。例えば、空が青く見えるレイリー散乱では、散乱された青い光が部分的に偏光しています。
これらの要因が単独または複合的に作用することで、光の偏光状態は変化します。エリプソメーターは、この偏光状態の変化を精密に測定することで、薄膜の厚さや光学定数(屈折率など)を非接触で高精度に求めることができるのです。

光が物質中を進む際、その物質の光学的特性(複屈折、偏光依存性のある吸収・反射・屈折など)により、光の電場の振動方向と物質との相互作用が変わるため、偏光状態が変化します。
エリプソメーターの有力メーカーはどこか
エリプソメーターは、特に半導体製造プロセスにおけるナノメートルオーダーの極薄膜の膜厚や光学定数(屈折率、消衰係数)の測定に不可欠な装置です。多くの有力メーカーが存在しますが、特に半導体分野で実績のある企業は以下の通りです。
- J.A. Woollam Co., Inc. (米国):
- エリプソメーターの専業メーカーとして世界的に非常に高い評価を受けています。特に研究開発(R&D)用途から量産ラインでの使用まで、幅広いラインナップと高度な解析ソフトウェアを提供しており、業界標準の一つとされています。多くの論文でWOOLLAM社製のエリプソメーターが使用されています。
- HORIBA (日本):
- 分析・計測機器の大手であり、エリプソメーターにおいても高い技術力を持っています。半導体分野での採用実績も豊富で、高速測定が可能なモデルや、インラインでの品質管理に対応した装置も提供しています。
- 日本セミラボ株式会社 (日本):
- 半導体検査装置を手掛ける企業で、分光エリプソメーターも主力製品の一つです。300mmウェーハ対応の全自動エリプソメーターなど、半導体製造プロセスでの使用に特化した製品を展開しています。
- 株式会社アルバック(ULVAC) (日本):
- 真空技術を基盤とした装置メーカーですが、薄膜形成装置だけでなく、その評価のための分光エリプソメーター「UNECSシリーズ」なども提供しています。
- SENTECH Instruments GmbH (ドイツ):
- ドイツのメーカーで、エリプソメーターや光干渉式膜厚計に特化しています。特に太陽電池市場など、特定の分野での納入実績も豊富です。
- Accurion GmbH (ドイツ):
- イメージングエリプソメーターなど、特殊なエリプソメーターを提供しているメーカーです。微細な領域の膜厚分布などを視覚的に捉えることができます。
これらのメーカーは、それぞれ独自の特徴や強みを持っています。半導体産業では、微細化の進展に伴い、より高精度で高速な測定が可能なエリプソメーターが求められており、各社が技術開発を競っています。
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