この記事で分かること
- 合弁会社の概要:東洋製罐(51%)とTOPPAN(49%)が、スウェーデンにEV用電池外装材の製造販売拠点を設ける計画。欧州市場での地産地消を目指し、現地で需要が高い「角型外装缶」を2026年度以降に供給する予定でした。
- なぜ缶技術が必要なのか:車載電池用の角型缶には、薄い金属を破らずに深く成形する「深絞り加工」や、電解液漏れを防ぐ高度な「密封・表面処理技術」が不可欠です。長年の製缶ノウハウを転用し、高品質な量産を実現する狙いがあります。
- 延期の理由:欧州市場でのEV普及失速と、それに伴う電池メーカーの増産計画見直しが主因です。需要の先行きが不透明な中で巨額投資を行うリスクを回避し、市場動向を改めて慎重に見極めるため、2025年2月に延期を発表しました。
東洋製罐とTOPPANの合弁会社の設立延期
欧州EV市場の減速を受け、東洋製罐とTOPPANはスウェーデンでの車載電池外装材合弁会社の設立延期を発表しました。
https://jp.reuters.com/markets/global-markets/72UF7K4P65NVJNEGXSYAWKDYV4-2026-03-31/
現地需要の不透明感から投資リスクを回避し、市場回復を待って再検討する方針です。
どのような合弁会社を計画していたのか
東洋製罐グループホールディングスとTOPPANホールディングス(旧凸版印刷)が計画していた合弁会社の詳細は以下の通りです。
1. 事業目的と製品
- 製品: リチウムイオン二次電池(LIB)用のアルミラミネートフィルム。
- 用途: 主に電気自動車(EV)向けの車載電池の外装材です。従来の金属缶に代わり、軽量で形状の自由度が高いラミネート型の需要拡大を狙っていました。
2. 設立の背景と狙い
- 欧州市場の開拓: 欧州では環境規制の強化に伴い、車載電池の地産地消が進んでいました。
- シナジーの創出: 東洋製罐が持つ製缶技術や材料加工の知見と、TOPPANが持つ高機能フィルムのコンバーティング(加工)技術を融合させ、グローバルでの競争力を高めるのが目的でした。
3. 計画されていた拠点
- 場所: スウェーデン
- 理由: 北欧は再生可能エネルギーが豊富で、電池メーカー(ノースボルトなど)の進出が相次いでいたため、生産拠点として最適と判断されました。

両社はスウェーデンにEV向け車載電池外装材(アルミラミネートフィルム)の製造販売会社を設立し、欧州市場を共同開拓する計画でした。東洋製罐の加工技術とTOPPANのフィルム技術を融合し、地産地消を狙うものでした。
アルミラミネートフィルムとは何か
リチウムイオン電池(LIB)の「外装材」として使用される高機能な包装材料です。特にスマートフォンや電気自動車(EV)に使われるパウチ型電池に欠かせない部材です。
1. 構造と役割
通常、数ミクロンの薄い膜を何層も貼り合わせた「多層構造」になっています。
- 外層(ナイロン等): 外部からの衝撃やキズから保護します。
- 中間層(アルミ箔): 水分や酸素の侵入を完全に遮断(バリア)し、電解液の漏出を防ぎます。
- 内層(ポリプロピレン等): 熱で溶かして接着(ヒートシール)し、中身を密封します。耐薬品性も備えています。
2. 主な特徴
- 軽量・薄型: 従来の「金属缶(製缶)」タイプに比べて極めて軽く、電池全体のエネルギー密度を高められます。
- 形状の自由度: 柔軟性があるため、薄いスマホ用から大型の車載用まで、機器のスペースに合わせて成形可能です。
- 放熱性: 金属箔を含んでいるため、内部の熱を逃がしやすい特性があります。

アルミ箔と樹脂フィルムを積層した電池用外装材です。水分等の侵入を防ぐ高いバリア性と、軽量で自由な形状に成形できる柔軟性が特徴。EVやスマホのパウチ型リチウムイオン電池に不可欠な高機能部材です。
なぜアルミ箔が必要なのか
リチウムイオン電池の外装材において、アルミ箔が中間層に採用されている理由は、主に「水分に対する絶対的な遮断性」にあります。
1. 水分を完全に遮断するため(バリア性)
リチウムイオン電池の内部にある「電解液」は、わずかな水分と反応するだけで分解され、ガスが発生したり、強い腐食性を持つフッ化水素が発生したりします。これは電池の膨張や発火、劣化の直接的な原因になります。
プラスチックフィルムだけでは目に見えないレベルで水分を透過させてしまいますが、金属であるアルミ箔は水分(水蒸気)や酸素をほぼ100%遮断できます。
2. 成形性を確保するため(延展性)
アルミは金属の中でも柔らかく、薄く延ばしやすい特性があります。
アルミラミネートフィルムは、金型でプレスして「ポケット状」に凹ませて電池を収納しますが、アルミ箔があることでプレスした形状を維持(保形)でき、複雑な形状にも追従させることができます。
3. 熱伝導性と軽量化の両立
アルミは熱を伝えやすいため、充放電時に発生する内部の熱を効率よく外に逃がす役割も果たします。また、鉄やステンレスに比べて軽いため、電池全体の重量を抑えることができます。

アルミ箔は、電池の天敵である水分や酸素を完全に遮断(バリア)するために不可欠です。さらに、金属としての柔軟性が加工時の成形を助け、熱を逃がす効果や軽量化にも貢献する、パウチ型電池の核心素材です。
なぜ製缶技術が必要なのか
東洋製罐のような「製缶メーカー」が、一見すると柔らかいフィルム素材の製造に参入し、技術を活かせるのには明確な理由があります。
1. 金属と樹脂を「くっつける」高度なラミネート技術
アルミラミネートフィルムは、アルミ箔と数種類の樹脂フィルムを強力に接着させる必要があります。
東洋製罐は、飲料缶(ラミネート缶)の製造において、金属板に樹脂フィルムを熱で圧着させる「ラミネート技術」を長年培ってきました。この「異種材料を剥がれないように接合する」ノウハウが、電池外装材の耐久性と品質に直結します。
2. 極限まで薄く、かつ破れない「加工技術」
電池外装材は、金型でプレスして電池本体を入れる「ポケット」を作ります。この際、アルミ箔が薄すぎたり加工が未熟だったりすると、角から亀裂が入ってバリア性が失われます。
製缶メーカーは、硬い金属板を破らずに深く引き伸ばす「深絞り加工」のプロフェッショナルであり、そのシミュレーションや金型設計の技術がそのままフィルムの成形性向上に活かされます。
3. 過酷な環境に耐える「表面処理・防食技術」
電池の内部には腐食性の強い電解液が入っています。製缶メーカーは、酸性の強い飲料や食塩を含む食品から金属容器を守るための「表面処理(コーティング)」技術に長けています。アルミ箔が電解液で腐食されないよう保護する技術は、食品包装での経験がベースとなっています。
この「金属を加工する力」が、従来のプラスチックフィルム専業メーカーに対する製缶メーカーの強みとなっています。

製缶業で培った「金属と樹脂の接着(ラミネート)」、「金属を破らずに伸ばす(深絞り)」、「腐食を防ぐ表面処理」の3技術が不可欠だからです。これらは電池の液漏れを防ぎ、成形精度を高める基盤となります。
EV失速の要因は何か
EV(電気自動車)の販売成長が世界的に鈍化した、いわゆる「EV踊り場」の要因は、単一の問題ではなく、経済・政策・心理の複数のハードルが同時に現れたことにあります。
1. 「キャズム(溝)」への直面
市場が「新しいもの好き」の初期層(イノベーター)から、実利を重視する「一般層(マジョリティ)」へ移る段階で大きな壁にぶつかりました。
一般層は、環境性能よりも「価格、航続距離、充電のしやすさ」という現実的な利便性を厳しく評価するため、普及のスピードが落ちました。
2. 各国政府による補助金の削減・打ち切り
ドイツや中国など主要市場で、EV購入時の補助金が相次いで削減または終了しました。これにより、もともとガソリン車より高価だったEVの実質的な購入価格が上がり、消費者の購買意欲を冷え込ませました。
3. ハイブリッド車(HEV)の再評価
「完全なEVはまだ不便」と考える層に対し、充電の不安がなく燃費も良いハイブリッド車が、現実的な選択肢として改めて支持されました。
特に北米や日本、欧州の一部で、トヨタなどのHEV販売が過去最高水準を記録する逆転現象が起きています。
4. 充電インフラとリセールバリューの不安
- インフラ不足: 集合住宅住まいなどで自宅充電ができない層にとって、公共充電器の不足や待ち時間は大きな障壁です。
- 資産価値: 電池の劣化やモデルチェンジの速さから、中古車価格(リセールバリュー)がガソリン車に比べて低く推移していることも、購入を躊躇させる要因となっています。

補助金終了による割高感、充電インフラの不足、高金利、そして「キャズム」と呼ばれる一般層への普及の壁が重なりました。結果、利便性の高いハイブリッド車が再評価され、EV一本足打法からの戦略修正が続いています。

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