この記事で分かること
- グリーンランドのレアアースの種類:高性能磁石に不可欠なネオジムやジスプロシウムをはじめ、電気自動車や風力発電機などに使われる多様なレアアースが大量に埋蔵されているとされます。
- 日本が選ばれた理由:中国へのレアアース供給依存を減らし、サプライチェーンを多様化するためです。また、日本が持つ鉱物開発や精製に関する高い技術力と経験も重要な要素です。
- 日本への意義:中国へのレアアース依存を減らし、安定した供給源を確保できる点です。また、日本の高い技術力と経験を活用し、EUとの経済安全保障における戦略的関係を強化する機会となります。
グリーンランドのレアアース開発でのEUと日本の協力
EUのウルズラ・フォン・デア・ライエン欧州委員長が、グリーンランドのレアアース開発において日本と協力していく意向を表明しました。この発言は、戦略的パートナーシップの強化と、特定の国への依存を減らすためのサプライチェーン多様化の一環です。
これらの動きは、単なる経済協力にとどまらず、民主主義や法の支配といった共通の価値観を持つ国々が、経済安全保障を強化していくという広範な戦略の一環として捉えられています。
グリーンランドのレアアースにはどんなものがあるのか
グリーンランドは、膨大な量のレアアースを含む鉱物資源が埋蔵されていると見られています。特に、クアネルート(Kvanefjeld)鉱床は世界でも有数のレアアース鉱床として知られています。
具体的なレアアースの種類としては、軽希土類(Light Rare-Earth Elements: LREEs)と重希土類(Heavy Rare-Earth Elements: HREEs)の両方が含まれていると報告されています。
含まれる主なレアアース
- ネオジム(Neodymium):永久磁石の主要な原料であり、電気自動車のモーターや風力発電機に不可欠です。
- プラセオジム(Praseodymium):ネオジムと同様に、高性能な永久磁石に使われます。
- ジスプロシウム(Dysprosium):ネオジム磁石の耐熱性を向上させるために使用され、高温環境下でのモーター性能維持に重要です。
- テルビウム(Terbium):ジスプロシウムと同様に、磁石の特性改善に用いられます。
- ランタン(Lanthanum):主に自動車の排気ガス触媒やハイブリッド車のニッケル水素電池の電極材料として使われます。
- セリウム(Cerium):触媒や研磨剤など、幅広い用途があります。
また、レアアース以外にも、ウラン、亜鉛、リチウムなどの重要鉱物が同じ鉱床に含まれていることが報告されています。特にウランは、これまでグリーンランドの資源開発において政治的な議論の対象となってきましたが、現在は開発に向けた規制緩和が進んでいます。
グリーンランドのレアアースは、鉱石の種類によっては採掘や精製が難しいという課題も指摘されています。しかし、その豊富な埋蔵量は、世界のレアアース市場において中国への依存度を減らす上で非常に大きな可能性を秘めていると期待されています。

グリーンランドには、高性能磁石に不可欠なネオジムやジスプロシウムをはじめ、電気自動車や風力発電機などに使われる多様なレアアースが大量に埋蔵されているとされます。特に南部のクアネルート鉱床は、世界有数の規模を誇ります。レアアース以外にウランや亜鉛も含まれます。
EUが日本に協力を呼びかけた理由は何か
EUがグリーンランドのレアアース開発において日本に協力を呼びかけた主な理由は、以下の3点に集約されます。
1. サプライチェーンの多様化と経済安全保障の強化
- 中国への過度な依存解消: EUも日本も、レアアースをはじめとする重要鉱物の供給を中国に大きく依存しています。この依存は、地政学的なリスクや経済的な脆弱性につながるため、新たな安定供給源の確保が喫緊の課題となっています。グリーンランドのレアアース開発は、この依存を減らすための重要な一手となります。
- 「価値観を共有する同志国」との連携: EUはロシアのエネルギー依存から学んだ経験から、サプライチェーンの強靭化には「価値観を共有する同志国」との協力が不可欠であると考えています。民主主義や法の支配といった共通の価値観を持つ日本は、信頼できるパートナーとして最適な候補です。
2. 日本の技術力と経験
- 鉱山開発と精錬のノウハウ: 日本は、レアアースをはじめとする鉱物資源の開発や精製に関して、長年の経験と高い技術力を持っています。EU単独では難しいグリーンランドでの鉱物開発プロジェクトを、日本の技術力とノウハウを活用して進めることを期待しています。
- 供給源多様化への取り組み: 日本は、2010年の中国によるレアアース禁輸措置を経験して以来、供給源の多様化に積極的に取り組んできました。この経験と実績は、EUにとって貴重な協力材料となります。
3. 戦略的パートナーシップの強化
- 包括的な協力関係の深化: 今回のレアアース開発に関する協力は、単なる経済的な連携に留まらず、EUと日本の間で進められている「経済安全保障」を含む包括的な戦略的パートナーシップの一環です。両者は、半導体やクリーンエネルギー分野など、より広範な分野で連携を強化していくことを目指しています。
これらの理由から、EUはグリーンランドのレアアース開発において、日本を重要なパートナーとして位置づけ、協力を呼びかけました。

EUが日本に協力を呼びかけた主な理由は、中国へのレアアース供給依存を減らし、サプライチェーンを多様化するためです。また、日本が持つ鉱物開発や精製に関する高い技術力と経験も重要な要素です。
日本側の利点は何か
EUからの協力呼びかけは、日本にとって複数の大きな利点をもたらします。最も重要なのは、特定の国への依存を減らし、サプライチェーンを強化できることです。
供給源の多様化
現在、世界のレアアース供給は中国に大きく依存しており、これは地政学的なリスクや価格変動の脆弱性につながっています。
グリーンランドのレアアース開発にEUと共同で取り組むことで、日本はレアアースの安定した新たな供給源を確保できます。これにより、日本のハイテク産業や電気自動車産業のサプライチェーンがより強靭になり、経済安全保障が強化されます。
欧州との戦略的関係深化
この協力は単なる経済的なメリットにとどまりません。日本とEUは、民主主義や法の支配といった共通の価値観を共有するパートナーです。
経済安保をめぐる連携を深めることで、互いに信頼できる関係を築き、国際的な影響力を高めることができます。今回のレアアース開発は、半導体やクリーンエネルギーなど、他の重要分野におけるさらなる協力の足がかりとなるでしょう。
日本の技術力と経験の活用
日本はレアアースの探査・採掘・精錬において、高い技術力とノウハウを持っています。EUとの共同プロジェクトを通じて、これらの技術を活かし、国際的なプレゼンスを拡大できるだけでなく、新たな技術開発の機会も生まれます。
また、過去に中国からのレアアース禁輸措置を経験した日本は、供給源の多様化に関してEUよりも豊富な経験があり、その知見を提供することで、EUとの関係をより強固なものにできます。
国際社会での発言力強化
EUと共同で戦略的鉱物資源の確保に取り組むことは、日本が国際社会において経済安全保障の分野で主導的な役割を果たすことを意味します。
中国への過度な依存から脱却し、自立したサプライチェーンを構築する模範を示すことで、日本は経済安全保障における発言力と影響力を高められます。

日本側の利点は、中国へのレアアース依存を減らし、安定した供給源を確保できる点です。また、日本の高い技術力と経験を活用し、EUとの経済安全保障における戦略的関係を強化する機会となります。
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