この記事で分かること
- 供給過剰の理由:中国政府の補助金政策による戦略的かつ過剰な生産能力拡大と、欧米等でのEV販売の伸び悩み(需要鈍化)が重なり、供給が実需を大幅に上回ったためです。
- EV市場の今後の見通し:短期的には成長鈍化と価格競争激化が起きますが、中長期では技術革新とインフラ整備で不可逆的に拡大し、2030年代には販売台数に占めるEV比率が大幅に上昇する見通しです。
- EV電池のシェア:中国のCATLが約38%で圧倒的な首位、次いでEV完成車も手がけるBYDが約17%と続き、この中国2社で過半数を占めます。韓国のLGESが3位で、上位10社のうち6社が中国勢であり、市場は中国メーカーにより主導されています。
EV電池市場の供給過剰
世界のEV(電気自動車)電池市場では、生産能力が実需の3倍以上となる深刻な供給過剰の状態に陥っているとの調査結果があります。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN1601N0W5A111C2000000/
EV電池市場は「今は余りすぎ、将来は不足する可能性」という二つの波乱を抱えながら、大きな転換期を迎えています。
生産過剰となっている理由は何か
過剰生産の主な理由は、以下の2つの大きな要因に集約されます。
1. 中国の積極的な生産能力の急拡大(構造的過剰)
世界のEV電池市場の過剰生産能力の最大の原因は、中国による戦略的かつ大規模な設備投資と増産です。
- 政府の強力な支援: 中国政府はEVとバッテリー産業を国家の戦略的産業として位置づけ、長期にわたり巨額の補助金、税制優遇、低金利融資などを提供し続けてきました。
- 地方政府の投資競争: 中央政府の方針を受け、地方政府も地域経済活性化のためにEV・電池メーカーの誘致や出資を積極的に行い、結果として国内全体で過剰な数のギガファクトリー(大規模工場)建設を誘発しました。
- コスト競争力の確立: 中国メーカー(CATL、BYDなど)は、この支援を背景に圧倒的な生産規模と垂直統合戦略(原材料から完成品まで一貫生産)で低コスト競争力を確立し、世界の電池生産能力の多くを占めるに至りました。調査によっては、中国単独の電池生産能力が国内需要の5倍以上に達しているとも指摘されています。
2. 世界的なEV市場の成長鈍化(需要の伸び悩み)
生産サイドが上記の通り拡大する一方で、肝心の需要サイドが当初の楽観的な予測を下回りました。
- EV販売の減速: 米国や欧州など主要市場で、高金利、EV価格の高さ、充電インフラの整備遅れ、航続距離やバッテリー寿命への不安などから、消費者のEV購入意欲が鈍化しました。
- 計画と現実のギャップ: 電池メーカーは、パンデミック後のEV需要爆発を見越して大規模な投資計画を立てましたが、実際の市場の伸びはそれらの計画に追いつきませんでした。
- 各国での国産化推進の裏目: 米国のIRA(インフレ抑制法)のように、各国が中国への依存を減らすために補助金を出して国内での電池生産(国産化)を急いでいることも、結果として全体の供給能力をさらに押し上げることにつながりましたが、需要が伸びなかったため、投資が裏目に出る形になっています。
これらの要因が組み合わさり、生産能力(供給)が実需(需要)を大きく上回る、世界的な供給過剰状態を生み出しています。

中国政府の補助金政策による戦略的かつ過剰な生産能力拡大と、欧米等でのEV販売の伸び悩み(需要鈍化)が重なり、供給が実需を大幅に上回ったためです。
EV市場の今後の見通しはどうか
世界のEV市場は、短期的な「成長の踊り場」にありつつも、中長期では不可逆的に拡大していくという見通しが大勢を占めています。
現在の「電池の供給過剰」は、このEV市場の成長スピードが、電池メーカーの楽観的な生産計画に追いついていないことから生じています。
短期的な見通し(〜2026年頃)
短期的に最も注目されるのは、「伸び率の鈍化」と「価格競争の激化」です。
- 成長は続くが伸び率は鈍化:
- 販売台数は引き続き過去最高を更新すると予測されています(例:2025年に世界で2,000万台超)。
- しかし、成長率は以前のような急激なペースではなく、堅調な増加に落ち着く見込みです。
- 価格競争の激化とEVの低価格化:
- 電池の供給過剰と価格暴落により、EVの車両価格も下落する傾向が強まります。
- これにより、EV購入の際の主要な障壁だった「価格の高さ」が解消に向かい、普及を後押しする要因となる可能性があります。
- 地域間の格差:
- 中国が引き続き市場を牽引し、新興国での普及も期待されます。
- 米国では政策の動向(次期政権など)や市場の成熟度合いにより、伸びが変動しやすい状況です。
- 日本は依然として普及率が低いものの、政府の補助金やメーカーの新型車投入により拡大が見込まれます。
中長期的な見通し(〜2030年代)
中長期では、EVへの移行は不可逆的な流れとして拡大すると見られています。
- 普及率の大幅な上昇:
- 2030年頃には、世界の自動車販売に占めるEVの割合が40%に達するとの予測もあります。
- 主要市場(中国、欧州)が牽引役となり、EVシフトが本格化します。
- 技術革新とインフラ整備の進展:
- 全固体電池などの次世代バッテリー技術の商用化や、車両への統合技術が進むことで、航続距離や充電速度の懸念が解消に向かいます。
- 各国政府目標に基づき、公共充電インフラの整備が加速し、利便性が大幅に向上します。
- 電池の「資源不足」リスクの再燃:
- 現在の価格下落により、採算が悪化した資源開発への投資が縮小すると、2030年以降には再びリチウムなどの原料が不足するというリスクが指摘されています。
まとめ
| 期間 | 市場の主要な特徴 | 影響(良い面/懸念) |
| 短期 | 伸び率の鈍化、価格競争の激化 | ✅ EV価格低下で消費者には有利 ❌ 企業の淘汰、投資の延期・見直し |
| 中長期 | 不可逆的な成長、技術革新 | ✅ 世界的な普及とインフラ整備 ❌ 2030年以降の資源不足リスク |
この状況は、自動車メーカーや電池メーカーにとって淘汰の時代を意味しますが、消費者にとってはEVがより手頃になるチャンスでもあります。

短期は成長鈍化と価格競争激化、中長期では技術革新とインフラ整備で不可逆的に拡大し、2030年代には販売台数に占めるEV比率が大幅に上昇する見通しです。
EV電池の世界シェアはどのようになっているのか
世界のEV(電気自動車)電池市場は、中国企業が圧倒的なシェアを占め、特に上位数社への集中が進んでいます。
韓国の調査会社SNEリサーチなどによる2024年通年の車載電池搭載量ベースの市場シェアに基づくと、以下のようなランキングとなっています。
世界のEV電池メーカー 市場シェアランキング(2024年)
| 順位 | 会社名 | 国 | シェア(推定) | 主要な特徴 |
| 1位 | CATL(寧徳時代新能源科技) | 中国 | 約37.9% | 圧倒的な世界最大手。中国国内だけでなく、海外市場でもシェアを拡大中。 |
| 2位 | BYD(比亜迪) | 中国 | 約17.2% | EV完成車メーカーでもあり、電池の内製化率が高い。「ブレードバッテリー」が特徴。 |
| 3位 | LGエネルギーソリューション(LGES) | 韓国 | 約10.8% | 韓国最大手。テスラ、GM、VWなどグローバルOEMとの取引が多い。 |
| 4位 | CALB(中創新航科技集団) | 中国 | 約4.4% | 中国大手で急速に成長中。 |
| 5位 | SKイノベーション(SK On) | 韓国 | 約4.4% | 米国への大規模投資を進め、フォードなどと提携。 |
| 6位 | Panasonic(パナソニック) | 日本 | 約3.9% | 日本最大手。主にテスラ向けに円筒形電池を供給。 |
| 7位 | Samsung SDI(サムスンSDI) | 韓国 | 約3.3% | 欧州のプレミアムEVメーカーなどと提携し、角形電池(プリズマティックセル)に強み。 |
| 8位 | Gotion High-tech(国軒高科) | 中国 | 約3.2% | フォルクスワーゲン(VW)が出資。 |
(出典:SNEリサーチなどの調査結果に基づき、2024年通年の数値を抜粋・集計)
中国勢の圧倒的優位
ランキングの上位10社のうち、6社が中国メーカーで占められています。
- CATLとBYDの2社だけで、世界市場の約55%以上のシェアを占めており、市場の寡占化が進んでいることが分かります。
- 中国勢の合計シェアは約67%に達し、韓国系(LGES、SK On、Samsung SDI)が約18%、日本(パナソニックなど)が約4%と続いています。
日韓メーカーの状況
- 韓国3社(LGES、SK On、Samsung SDI)は、米国や欧州でのEV販売の伸びの鈍化や、中国勢の台頭により、合計のシェアをわずかに落とす傾向にあります。
- パナソニックは長年のパートナーであるテスラ向けに注力しており、特に高性能な円筒形電池の技術で強みを持っていますが、中国勢の猛追により順位は後退しています。
この市場シェアの構造は、世界のEV電池が中国主導で供給されている現状を明確に示しています。

世界シェアは、中国のCATLが約38%で圧倒的な首位、次いでEV完成車も手がけるBYDが約17%と続き、この中国2社で過半数を占めます。韓国のLGESが3位で、上位10社のうち6社が中国勢であり、市場は中国メーカーにより主導されています。

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