この記事で分かること
- サーキュラテクノロジーにおける指標構築・評価基盤システムとは:循環経済への移行の度合いや効果を客観的に測定・評価するための仕組みのことです。
- なぜ重要か:従来の経済システムとは異なる価値観や活動を評価する必要があるため、新たな指標や評価方法が求められています。
- ライフサイクルアセスメントとは:製品やサービスのライフサイクル全体における環境負荷を定量的に評価する手法であり、複雑な製品やサービスの環境影響を客観的に評価するための強力なツールです。
産総研、実装研究センターの新設
産業技術総合研究所(産総研)は、2025年4月に「実装研究センター」を新設し、社会課題の解決に向けた技術の社会実装を加速する取り組みを開始しました。
https://www.aist.go.jp/aist_j/news/au20250401_2.html
産総研の第6期中長期目標では、「エネルギー・環境・資源制約への対応」「人口減少・高齢化社会への対応」「レジリエントな社会の実現」の3つの社会課題の解決が掲げられています。
これらの課題に取り組むため、7つの実装研究センターが設立され、所内の研究成果を結集し、産総研の総合力を最大限に生かした研究開発を推進していくとしています。
前回の記事では、7つの実装研究の一つである「サーキュラーテクノロジー」のリサイクル技術について解説しました。今回は評価・計測技術についての解説となります。
サーキュラーテクノロジーとは何か
サーキュラーテクノロジー(循環技術)とは、サーキュラーエコノミー(循環経済)を実現するために用いられる様々な技術やイノベーションの総称です。
従来の直線型経済(リニアエコノミー)における「採取→製造→消費→廃棄」という流れを断ち切り、資源を可能な限り長く循環させることを目的としています。
サーキュラーテクノロジーは、単一の技術を指すのではなく、製品の設計、製造、使用、回収、リサイクルといったライフサイクル全体に関わる幅広い技術領域を包含します。
主なサーキュラーテクノロジーの例と特徴
- 長寿命化・高耐久化技術:
- 製品の設計段階から、故障しにくく、長期間使用できるような工夫を凝らす技術。
- 高品質な素材の選定、モジュール化による修理・交換の容易化などが含まれます。
- 特徴: 資源の投入量と廃棄物の発生を抑制し、製品の利用効率を高めます。
- 修理・メンテナンス技術:
- 故障した製品を修理したり、定期的なメンテナンスを行ったりすることで、製品の寿命を延ばす技術。
- 部品交換の容易化、診断技術の高度化、修理ネットワークの構築などが重要になります。
- 特徴: 製品の価値を長く維持し、新たな製品の生産を抑制します。
- 再利用(リユース)技術:
- 使用済みの製品をそのまま、あるいは簡単な手直しを加えて再び利用するための技術や仕組み。
- 中古品市場の活性化、シェアリングサービスのプラットフォームなどが該当します。
- 特徴: 廃棄物を減らし、既存の製品の価値を最大限に活用します。
- リサイクル技術:
- 使用済みの製品や製造工程で発生したスクラップなどを資源として再資源化する技術。
- マテリアルリサイクル、ケミカルリサイクルなど、様々な技術が含まれます。
- 特徴: 貴重な資源を回収し、新たな資源の採取を抑制します。
- アップサイクル技術:
- 廃棄物に新たなアイデアやデザインを付加することで、元の製品よりも高い価値を持つ製品へと生まれ変わらせる技術。
- ファッション業界における古着のリメイクなどが良い例です。
- 特徴: 廃棄物に新たな価値を与え、創造的な循環を生み出します。
- バイオテクノロジー:
- 生物由来の資源(バイオマス)を活用して、プラスチックの代替となる素材を開発したり、微生物の働きを利用して廃棄物を分解したりする技術。
- 生分解性プラスチックの開発などが該当します。
- 特徴: 化石資源への依存度を低減し、自然界での循環を促します。
- デジタル技術:
- IoT(Internet of Things)、AI(人工知能)、ブロックチェーンなどの技術を活用して、製品のトレーサビリティを向上させたり、資源の流れを最適化したりする技術。
- 製品のライフサイクル全体を可視化し、効率的な回収・リサイクルシステムを構築するのに役立ちます。
- 特徴: 資源の効率的な管理と循環を促進するための基盤となります。
- 評価・計測技術:
- サーキュラーエコノミーの取り組みの効果を定量的に評価するための指標開発や計測技術。
- LCA(ライフサイクルアセスメント)などが含まれます。
- 特徴: 取り組みの進捗状況を把握し、改善につなげるための重要なツールとなります。

サーキュラーテクノロジーとは従来の「採取→製造→消費→廃棄」という流れを断ち切り、資源を可能な限り長く循環させることを目的とした様々な技術やイノベーションの総称です。
指標構築・評価基盤システムについて
サーキュラーエコノミーにおける「指標構築・評価基盤システム」は、循環経済への移行の度合いや効果を客観的に測定・評価するための仕組みのことです。
従来の経済システム(リニアエコノミー)とは異なる価値観や活動を評価する必要があるため、新たな指標や評価方法が求められています。
指標構築の目的
- 進捗状況の把握: サーキュラーエコノミーへの移行がどの程度進んでいるのか、目標達成に向けてどの程度のギャップがあるのかを把握する。
- 政策決定の支援: 効果的な政策を立案・実施するために、現状分析や政策の効果測定を行う。
- ビジネス戦略の策定: 企業がサーキュラーエコノミーに基づいたビジネスモデルを構築・評価し、競争力を高めるための情報を提供する。
- 投資判断の支援: サーキュラーエコノミー関連の事業や技術への投資判断を行うための客観的な基準を提供する。
- ステークホルダーへの情報開示: 政府、企業、消費者などのステークホルダーに対して、透明性の高い情報を提供し、理解と協力を得る。
- 国際比較: 各国や地域におけるサーキュラーエコノミーの取り組み状況を比較し、成功事例や課題を共有する。
評価基盤システムの要素
指標構築だけでなく、その指標に基づいて評価を行うためのシステム全体を指します。具体的には以下のような要素が含まれます。
- データ収集・管理システム: 評価に必要なデータを効率的に収集・管理するための仕組み。サプライチェーン全体からのデータ収集や、IoT技術の活用などが考えられます。
- 分析・可視化ツール: 収集したデータを分析し、分かりやすく可視化するためのツール。グラフやダッシュボードなどが活用されます。
- 評価フレームワーク: どのような視点から、どのような基準で評価を行うのかを定める枠組み。LCA(ライフサイクルアセスメント)やマテリアルフロー分析などが用いられることがあります。
- 報告・共有メカニズム: 評価結果を関係者に報告し、共有するための仕組み。レポート作成機能や情報公開プラットフォームなどが考えられます。

指標構築・評価基盤システムとは、循環経済への移行の度合いや効果を客観的に測定・評価するための仕組みのことです。
指標の例にはどのようなものがあるのか
サーキュラーエコノミーの多岐にわたる側面を評価するため、様々な種類の指標が開発されています。例としては以下のようなものがあります。
- 資源循環率: 投入された資源のうち、再利用・リサイクルされた資源の割合。
- 廃棄物発生量: 単位生産量あたりの廃棄物発生量、または最終処分量。
- 製品寿命: 製品の平均使用期間。
- 修理可能性: 製品の修理のしやすさ。
- リサイクル率: 特定の製品や素材のリサイクルされた割合。
- 再生材利用率: 製品の製造に用いられる再生材の割合。
- 資源生産性: 経済活動によって生み出される価値あたりの資源投入量。
- 環境負荷削減効果: サーキュラーエコノミーの取り組みによる温室効果ガス排出量削減量など。
- 経済効果: サーキュラーエコノミー関連産業の雇用創出数や市場規模など。
産総研における取り組み
産総研のサーキュラーテクノロジー実装研究センターでも、この「指標構築・評価基盤システム」に関する研究開発が行われています。
具体的には、アルミニウムやプラスチックなどの特定資源を対象とした循環プロセスの効果を評価するための指標開発や、LCA(ライフサイクルアセスメント)を活用した評価手法の開発などが進められています。
今後の展望
サーキュラーエコノミーを社会全体に実装していくためには、客観的で信頼性の高い指標と評価基盤システムの確立が不可欠です。
今後は、より包括的で実用的な指標の開発、データ収集・分析技術の高度化、国際的な標準化などが進んでいくと考えられます。

具体的な指標は様々で、客観的で信頼性の高い指標と評価基盤システムの確立が不可欠です。
ライフサイクルアセスメントとは何か
ライフサイクルアセスメント(Life Cycle Assessment:LCA)とは、製品やサービスのライフサイクル全体(資源採取から製造、流通、使用、廃棄・リサイクルまで)における環境負荷を定量的に評価する手法です。
LCAの目的
- 環境負荷の定量的把握: 製品やサービスのライフサイクル全体を通して、どのような環境負荷が、どの段階で、どれくらい発生しているのかを明らかにします。
- 環境負荷の削減: 評価結果に基づいて、環境負荷を低減するための改善策を検討・実施します。
- 製品設計への反映: 環境負荷の少ない製品設計(エコデザイン)に役立てます。
- 政策決定の支援: 環境政策の効果測定や、政策立案のための基礎データを提供します。
- 企業の環境コミュニケーション: 製品や企業の環境への取り組みを、客観的なデータに基づいてステークホルダーに説明します。
- グリーン購入・調達の促進: 環境負荷の少ない製品やサービスを選択するための判断材料を提供します。
LCAで評価される環境影響の例
- 地球温暖化 (Global Warming)
- オゾン層破壊 (Ozone Layer Depletion)
- 酸性化 (Acidification)
- 富栄養化 (Eutrophication)
- 光化学オキシダント生成 (Photochemical Oxidant Formation)
- 資源枯渇 (Resource Depletion)
- 水質汚濁 (Water Pollution)
- 大気汚染 (Air Pollution)
- 生態毒性 (Ecotoxicity)
- 人の健康影響 (Human Toxicity)
LCAの活用事例
- 製品開発: 新しい製品を開発する際に、環境負荷の少ない素材や製造プロセスを選択する。
- サプライチェーン管理: サプライヤーの環境パフォーマンスを評価し、より持続可能なサプライチェーンを構築する。
- マーケティング: 製品の環境優位性を消費者に伝えるための根拠として活用する。
- 政策立案: 環境規制の効果を評価したり、新たな環境政策を策定したりするための基礎データとする。
産総研におけるLCAの取り組み
産総研のサーキュラーテクノロジー実装研究センターでも、サーキュラーエコノミーを推進するための重要なツールとしてLCAを活用しています。
資源循環プロセスの環境負荷を評価したり、新たなリサイクル技術の環境効果を分析したりする研究が行われています。また、LCAの評価基盤システムの開発にも取り組んでいます。
LCAは、複雑な製品やサービスの環境影響を客観的に評価するための強力なツールであり、持続可能な社会の実現に貢献する重要な役割を担っています。

ライフサイクルアセスメントは、製品やサービスのライフサイクル全体における環境負荷を定量的に評価する手法で複雑な製品やサービスの環境影響を客観的に評価するための強力なツールです。
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