この記事で分かること
- 三元触媒とは:三元触媒とは、ガソリン車の排気ガスに含まれる一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)、窒素酸化物(NOx)の3つの有害物質を、酸化・還元反応によって同時に無害化する装置です。プラチナ、パラジウム、ロジウムなどの貴金属が用いられます。
- プラチナ触媒の作用:表面に酸素分子(O2)が触れると、酸素同士の結合が弱まり、反応しやすい酸素原子の状態に分解(解離吸着)されます。
- パラジウム触媒の作用:酸素分子を表面で分解し、反応しやすい原子状態にする力が強いため、有害物質の酸化を劇的に早めます。また、比較的低温から活性化し、自身も錆びにくい安定性を持つため、効率的な浄化が可能です。
排気ガス浄化触媒、三元触媒
触媒とは、それ自身は変化せずに、化学反応を促進させる物質のことです。反応に必要なエネルギーの壁(活性化エネルギー)を下げることで、通常よりも低い温度や短い時間で効率よく反応を進める役割を担っています。
現代の化学工業のプロセスの約90%に何らかの触媒が関わっていると言われているなど、私たちの生活のあらゆる場面で活躍しています。
今回は自動車の排気ガス浄化触媒に関する記事となります。
自動車の排気ガス浄化とは何か
自動車の排気ガス浄化触媒(通称:キャタライザー)とは、エンジンから出る有害な排気ガスを化学反応によって無害な成分に作り変える装置のことです。
マフラーの途中に設置されており、中にはプラチナなどの貴金属が使われた「蜂の巣状(ハニカム構造)」のパーツが入っています。ここをガスが通過することで、一瞬にして浄化が行われます。
1. 浄化の仕組みと化学反応
最も一般的な「三元触媒」は、以下の3つの有害物質を同時に処理します。
| 有害物質 | 化学反応の種類 | 浄化後の成分(無害) |
| CO(一酸化炭素) | 酸化(酸素をつける) | CO2(二酸化炭素) |
| HC(炭化水素) | 酸化(酸素をつける) | H2O(水) と CO2 |
| NOx(窒素酸化物) | 還元(酸素を奪う) | N2(窒素) |
2. 使われている魔法の材料「貴金属」
触媒の表面には、非常に高価な貴金属がコーティングされています。それぞれ得意分野が異なります。
- プラチナ (Pt)・パラジウム (Pd): 主に酸化を担当(COやHCを燃やすのを助ける)。
- ロジウム (Rh): 主に還元を担当(NOxから酸素を引き剥がす)。
これらの金属自体は反応の前後で変化しませんが、有害物質の分子が表面に触れることで、低い温度でも素早く反応が進むよう「仲介役」として働きます。
3. 触媒が100%の力を出すための条件
触媒はただ付いていれば良いわけではなく、以下の条件が揃った時に最も効率よく働きます。
- 温度: 約 400°C以上 にならないと反応が始まりません。そのため、エンジン始動直後は浄化性能が低くなります。
- 空燃比: 燃料と空気のバランスが「理論空燃比 ($14.7 : 1$)」の時に、3つの有害物質を最もバランスよく除去できます。このため、現代の車はコンピューターが常に燃料の量を1秒間に何十回も微調整しています。
4. 種類による違い
- ガソリン車用(三元触媒): 上記の3つを同時に処理する主流のタイプ。
- ディーゼル車用: NOx(窒素酸化物)とPM(スス)が多いため、DPF(ススを捕集するフィルター)や、尿素を使ってNOxを分解する尿素SCRなどが組み合わされます。

自動車の排気ガス浄化触媒とは、エンジンから出る有害物質を化学反応で無害化する装置です。プラチナ等の貴金属を用い、一酸化炭素や炭化水素を酸化させて水や二酸化炭素に、窒素酸化物を還元して窒素に変換します。
プラチナが酸化触媒として作用するのはなぜか
プラチナ(白金、Pt)が優れた酸化触媒として作用するのは、主に「酸素分子を吸着・解離させる力が絶妙であること」と「熱や化学変化に対する安定性が極めて高いこと」の2点に集約されます。
1. 酸素の「解離吸着」を助ける性質
酸化反応には酸素原子(O)が必要ですが、空気中の酸素は分子(O2)の状態では安定しすぎており、そのままではなかなか反応しません。
プラチナの表面にO2が触れると、プラチナの電子と反応して結合が弱まり、2つの酸素原子(O)に分かれて表面に並びます。
これを「解離吸着」と呼びます。このバラバラになった酸素原子は非常に反応しやすく、隣に来た一酸化炭素(CO)などとすぐに結びついて酸化させることができます。
2. 「dバンドセンター」による絶妙な吸着力
金属が触媒として働くには、「反応物を引き寄せる力」と「生成物を離す力」のバランスが重要です。
- 引き寄せる力が弱すぎる: 反応が起きない。
- 引き寄せる力が強すぎる: 反応後も物質が表面にくっついたまま(被毒)になり、次の反応を邪魔する。
プラチナは、電子構造(d軌道)の状態が、酸素を「反応させるのに十分な強さで捕まえ、反応が終わったらすぐに CO2 や H2O として放り出す」という、酸化反応において理想的なバランス(dバンドセンターの最適位置)を持っています。
3. 過酷な環境に耐える「貴金属」としての安定性
自動車の排気ガスは数百度という高温であり、水分や腐食性ガスも含まれます。
- 耐熱性: 融点が高く(約 1768℃)、高温でも触媒の形が崩れにくい。
- 耐酸化性: 他の金属は自分自身が酸化して錆びてしまいますが、プラチナは自身が酸化されにくいため、表面の活性(反応させる力)を長時間維持できます。
他の金属ではダメな理由
鉄などの安価な金属は、酸素と結びつく力が強すぎて自分自身が錆びて(酸化して)しまい、触媒としての機能をすぐに失います。一方、プラチナは自身が酸化されにくい「貴金属」であるため、過酷な環境でも安定して働き続けることができます。

プラチナの表面に酸素分子(O2)が触れると、酸素同士の結合が弱まり、反応しやすい酸素原子の状態に分解(解離吸着)されます。また、有害物質を「反応に必要な分だけ強く引きつけ、反応後はすぐに離す」という絶妙な吸着力を持つため、高温の排気ガス中でも連続して効率よく酸化反応を促進できるのです。
パラジウムが酸化触媒として作用する理由は
パラジウム(Pd)が酸化触媒として作用する理由は、プラチナと同様に「有害物質と酸素を表面に引き寄せ、反応しやすい状態にする能力」が非常に高いためです。
特にガソリン車の排気ガス浄化において、パラジウムは以下の3つの理由から重宝されています。
1. 酸素の「仲介役」としての能力
パラジウムの表面には、一酸化炭素(CO)や炭化水素(HC)といった有害物質と、空気中の酸素がくっつきやすい性質があります。
- 酸素をバラバラにする: 酸素分子(O2)を表面に吸着させ、反応しやすい「酸素原子(O)」の状態に分解します。
- 出会いの場を作る: 分解された酸素原子と有害物質を同じ表面上に保持することで、両者が結びつく(酸化する)確率を劇的に高めます。
2. 低温時からの優れた活性(ガソリン車との相性)
パラジウムは、プラチナと比較して比較的低い温度から酸化反応をスタートさせるのが得意です。
エンジンの始動直後は排気ガスの温度が低いですが、パラジウムはこの「冷えた状態」からでも素早く浄化を始める能力が高いため、ストップ&ゴーの多い街中を走るガソリン車に最適です。
3. 「貴金属」としての化学的安定性
他の多くの金属は、高温の排気ガスにさらされると自分自身が錆びて(酸化して)しまい、触媒としての力を失います。
しかし、パラジウムは自分自身が酸化されにくいという「貴金属」ならではの性質を持っており、過酷な環境下でも長期間にわたって酸化反応を助け続けることができます。

パラジウムは酸素分子を表面で分解し、反応しやすい原子状態にする力が強いため、有害物質の酸化を劇的に早めます。また、比較的低温から活性化し、自身も錆びにくい安定性を持つため、効率的な浄化が可能です。
プラチナとパラジウムの使い分けは
プラチナとパラジウムはどちらも酸化触媒として優秀ですが、エンジンの特性(排気ガスの温度や成分)に合わせて使い分けられています。
基本的には、「ガソリン車にはパラジウム」、「ディーゼル車にはプラチナ」というのが長年の定石です。
1. ガソリン車:パラジウムが主流
ガソリンエンジンは排気ガスの温度が非常に高くなる(約 700~900℃以上)のが特徴です。
- 耐熱性が高い: パラジウムは高温環境下でも触媒としての構造が壊れにくく、安定して働き続けます。
- 浄化効率: 高温状態での一酸化炭素(CO)や炭化水素(HC)の浄化能力が極めて高いです。
2. ディーゼル車:プラチナが主流
ディーゼルエンジンはガソリン車に比べて排気ガスの温度が低く(約 200~400℃)、酸素が多いのが特徴です。
- 低温での活性: プラチナは温度が低い状態からでも酸化反応を始める力が、パラジウムより優れています。
- 硫黄への強さ: 軽油に含まれる硫黄成分による「毒(性能低下)」に対して、プラチナの方が高い耐久性を持っています。
3. 使い分けの比較表
| 項目 | パラジウム (Pd) | プラチナ (Pt) |
| 得意な車種 | ガソリン車 | ディーゼル車 |
| 主な役割 | 高温での酸化(CO, HC) | 低温での酸化、NOxの調整 |
| 強み | 熱に強く、へたりにくい | 低温から働き、硫黄に強い |
4. 最近の傾向:価格による「代用」
プラチナとパラジウムは性能的に似ている部分も多いため、市場価格によって使い分けが変わることもあります。
- かつてはパラジウムの方が安かったため、ガソリン車にはパラジウムが大量に使われました。
- しかし近年、パラジウムの価格が高騰したため、「ガソリン車にも比較的安価なプラチナを使う」という技術開発(代替技術)が進み、一部で導入されています。

排気ガスの特性に合わせて使い分けられます。高温になるガソリン車には、熱に強く酸化能力が高いパラジウムが適しています。一方、排気温度が低く硫黄成分を含むディーゼル車には、低温活性と耐硫黄性に優れたプラチナが主に採用されます。

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