炭素繊維複合材料の市場拡大 炭素繊維複合材料とは何か?なぜ高い強度を持つのか?

この記事で分かること

  • 炭素繊維複合材料とは:炭素繊維と樹脂を組み合わせた複合材料で、CFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)とも呼ばれます。鉄より軽く強度・剛性が高いという特徴があります。
  • 高い強度を持つ理由:炭素原子が強力に結合し、繊維方向に整列した結晶構造を持つため、極めて高い強度を発揮します。軽さと強度の両立が、鉄をはるかに超える「比強度」を実現する理由です。

炭素繊維複合材料の市場拡大

 富士経済社によると、炭素繊維複合材料の世界市場は、今後大きく成長し、2050年には2024年比で2.6倍の8兆6,864億円に達すると予測されています。

 https://monoist.itmedia.co.jp/mn/articles/2507/25/news028.html

 炭素繊維複合材料は、その優れた特性と環境負荷低減への貢献から、今後も様々な分野で応用が拡大し、持続可能な社会の実現に重要な役割を果たすと考えられます。

炭素繊維複合材料とは何か

 炭素繊維複合材料(たんそせんいふくごうざいりょう)は、英語では Carbon Fiber Reinforced Plastics (CFRP) または Carbon Fiber Reinforced Polymers (CFRP) と呼ばれる、非常に軽量で高強度な先進的な複合材料です。

炭素繊維複合材料の構成

この材料は主に以下の2つの要素から構成されています。

  1. 炭素繊維(Carbon Fiber):
    • 炭素原子が規則的に並んだ結晶構造を持つ非常に細い繊維です。
    • 髪の毛の約10分の1ほどの細さですが、引っ張り強度が非常に高く、鉄の約10倍、アルミニウムの約2倍の強度を持つと言われています。
    • 比重は鉄の約1/4と非常に軽量です。
    • 主にポリアクリロニトリル(PAN)系やピッチ系といった原料から製造されます。
  2. マトリックス樹脂(Matrix Resin):
    • 炭素繊維を結合し、力を伝達する役割を果たす接着剤のようなものです。
    • 一般的には熱硬化性樹脂(エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂など)や熱可塑性樹脂(PEEK、PA6など)が用いられます。
    • 樹脂の種類によって、耐熱性、耐衝撃性、成形性、リサイクル性などの特性が変わります。

炭素繊維複合材料の主な特徴

  • 軽量性: 鉄やアルミニウムといった金属材料に比べて圧倒的に軽いです。比重は鉄の約1/5、アルミニウムの約2/3程度です。
  • 高強度・高剛性: 重量あたりの強度・剛性が非常に高く、少ない材料で大きな強度を発揮できます。鉄と比較して数倍の強度・剛性を持ちます。
  • 耐腐食性: 金属のように錆びることがなく、化学薬品や塩水にも強いです。
  • X線透過性: X線を透過しやすい特性を持つため、医療機器などでも利用されます。
  • 低熱膨張性: 温度変化による寸法変化が少ないです。
  • 導電性: 電気を伝える性質があります。
  • 設計自由度: 炭素繊維の方向や積層方法を調整することで、特定の方向に高い強度や剛性を持たせることができます(異方性)。これにより、最適な材料設計が可能になります。

炭素繊維複合材料の種類(マトリックス樹脂による分類)

  • CFRP (Carbon Fiber Reinforced Plastics / Polymers):
    • 熱硬化性CFRP: 炭素繊維をエポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂で固めたものです。一度硬化すると再加熱しても溶けないため、形状安定性に優れます。航空機や宇宙機器、一部の自動車部品、スポーツ用品などに広く使われています。
    • 熱可塑性CFRTP (Carbon Fiber Reinforced Thermoplastics): 炭素繊維を熱可塑性樹脂(ポリアミド、ポリプロピレン、PEEKなど)で固めたものです。加熱することで再成形が可能であり、リサイクル性に優れ、プレス成形などで短時間での製造が可能です。自動車部品(特にEVのバッテリーケースなど)、一般産業機械部品などでの採用が拡大しています。

炭素繊維複合材料の用途

その優れた特性から、様々な分野で活用されています。

  • 航空・宇宙分野: 航空機の主翼、胴体、尾翼、人工衛星、ロケットの構造材など
  • 自動車分野: F1などのレーシングカー、高級車のボディ、プロペラシャフト、EVのバッテリーケース、シャシーなど
  • スポーツ・レジャー分野: ゴルフシャフト、釣り竿、テニスラケット、自転車フレーム、スキー板、ボート、ヘルメットなど
  • 産業分野: 風力発電ブレード、ロボットアーム、精密機械部品、圧力容器など
  • 建設・土木分野: コンクリート構造物の補強材、免震部材など
  • 医療分野: 医療機器(X線透過性を利用)、義肢装具など

 炭素繊維複合材料は、軽量化による省エネルギーや環境負荷低減に貢献するだけでなく、製品の高性能化、長寿命化を実現する重要な素材として、今後も多岐にわたる分野での応用が期待されています。

炭素繊維と樹脂を組み合わせた複合材料で、CFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)とも呼ばれます。鉄より軽く強度・剛性が高いため、航空機、自動車、スポーツ用品などに使われ、軽量化や高性能化に貢献しています。

なぜ鉄より高強度となるのか

 炭素繊維が鉄よりも強度を持つ主な理由は、その原子レベルでの構造と、それが繊維状に配列していることにあります。

炭素原子間の強力な結合

  • 炭素繊維は、炭素原子が六角形の網目状に規則正しく並んだ「黒鉛(グラファイト)構造」を基本としています。
  • この六角網平面内の炭素原子同士は、非常に強い共有結合(sp2混成軌道)で結びついています。この結合は、鉄を構成する原子間の結合よりもはるかに強固です。

繊維方向への高い配向性

  • 炭素繊維は、この強力な黒鉛網平面が繊維の長手方向に非常に高く配向(配列)しています。
  • このため、繊維の長手方向(引っ張る方向)に対して、個々の炭素原子間の強固な結合の力が最大限に発揮され、極めて高い引張強度を示します。

欠陥の少なさ

  • 炭素繊維は製造プロセスにおいて、極めて細い繊維として形成されます。この細い繊維は、内部に大きな欠陥(クラックの起点となるようなもの)が入り込みにくく、強度低下の原因となる要因が少ないです。
  • 金属材料の場合、結晶粒界や不純物、転位などの欠陥が強度を低下させる要因となりますが、炭素繊維はそれらが少ない状態で高い強度を発揮します。

複合材料としての特性

  • 炭素繊維単体も非常に強いですが、これを複合材料(CFRP)として使用する際は、マトリックス樹脂が炭素繊維をしっかりと固定し、繊維にかかる応力を均等に分散させる役割を果たします。
  • 鉄は均一な材料(等方性)であるため、どの方向にも同じような強度を示しますが、CFRPは炭素繊維の方向を自由に設計できるため、特定の方向に必要な強度・剛性を持たせることで、効率的に高い強度を発現させることが可能です。

比強度・比剛性という観点

 特に重要なのは「比強度」と「比剛性」です。

  • 比強度: 強度を密度(重さ)で割った値。
  • 比剛性: 剛性(変形しにくさ)を密度で割った値。

 炭素繊維は、鉄の約1/5という非常に軽い密度でありながら、引っ張り強度が鉄の数倍~10倍以上にもなります。そのため、同じ重さで比較した場合、炭素繊維複合材料は鉄よりも圧倒的に優れた強度を発揮します。

 このように、炭素原子間の強力な結合と、それが極めて効率的に繊維方向に配列している構造が、炭素繊維が鉄よりもはるかに高い強度を持つ理由です。

炭素繊維は、炭素原子が強力に結合し、繊維方向に整列した結晶構造を持つため、極めて高い強度を発揮します。この軽さ(低密度)と強度の両立が、鉄をはるかに超える「比強度」を実現する理由です。

どうやって繊維状にするのか

 炭素繊維は、その名の通り「炭素」を主成分とする繊維ですが、原料は炭素そのものではなく、特定の有機繊維を高温で熱処理(焼成)することで作られます。主な製造方法は、原料の違いによって大きく2種類に分けられます。

1. PAN系炭素繊維の製造(主流)

 現在、世界で生産される炭素繊維のほとんど(約90%)がこのPAN系です。

  • 原料: ポリアクリロニトリル(PAN)繊維。これは、アクリル繊維の一種で、衣料品のアクリルセーターなどとは組成が少し異なりますが、類似の有機高分子です。
  • 製造工程:
    1. 製糸工程(プレカーサー製造):
      • まず、アクリロニトリルというモノマー(単量体)を重合させて、ポリアクリロニトリル(PAN)を合成します。
      • このPANを溶剤に溶かし、ノズルから押し出して凝固させることで、細い糸状の**アクリル繊維(PAN繊維)**を紡ぎます。これが炭素繊維の「前駆体(プレカーサー)」となります。
    2. 耐炎化(不融化)工程:
      • 紡ぎ出されたPAN繊維を、200〜300℃程度の空気中で加熱します。
      • この熱処理によって、PAN繊維の分子構造が変化し、燃えにくい状態(耐炎化)になります。同時に、繊維が溶融しないように(不融化)なります。この工程で、アクリル繊維が赤褐色に変色します。
    3. 炭素化工程:
      • 耐炎化された繊維を、さらに高温(1,000〜3,000℃)の窒素などの不活性ガス中で焼成します。
      • この高温によって、PAN繊維中の水素や窒素などの原子が分解・除去され、ほとんど炭素原子だけが残ります。炭素原子は、繊維の長手方向に沿って六角網目状の「黒鉛(グラファイト)構造」を形成し、高強度の炭素繊維が完成します。高温ほど黒鉛結晶が発達し、高弾性率の炭素繊維が得られます。
    4. 表面処理・サイジング処理:
      • 炭素繊維の表面を処理し、後に複合材料にする際にマトリックス樹脂との接着性を高めます。
      • さらに、繊維の取り扱いを容易にするため、サイジング剤(保護剤)を塗布します。

2. ピッチ系炭素繊維の製造

  • 原料: 石油や石炭、コールタールなどの副生成物である「ピッチ」を原料とします。
  • 製造工程:
    1. ピッチの精製・改質: 原料のピッチを熱処理などで精製・改質し、紡糸に適した粘度と組成を持つ「紡糸用ピッチ」を作ります。
    2. 溶融紡糸: 精製されたピッチを高温で溶かし、細いノズルから押し出して冷却することで、ピッチ繊維を紡ぎます。
    3. 不融化・炭素化・黒鉛化: PAN系と同様に、不融化(酸化処理)と高温での炭素化・黒鉛化(焼成)を経て、炭素繊維が作られます。ピッチ系炭素繊維は、特に高弾性率の製品を製造するのに適しています。

 このようにして、炭素繊維は、有機繊維を熱分解し、最終的に炭素原子が高度に配向した繊維状構造へと変換されることで作られています。

炭素繊維は、まずポリアクリロニトリル(PAN)などの有機繊維を紡ぎます。次に、これを空気中で熱処理して「耐炎化」し、さらに酸素のない高温炉で焼成して炭素以外の成分を除去することで、繊維状の炭素が残ります。

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