この記事で分かること
- チタン中間原料とは:チタンスポンジとも呼ばれ、チタン鉱石を精錬する際の最初の製品で、多孔質な塊状の高純度金属チタンです。これを溶解・加工して航空機部品などのチタン製品の原料となります。
- チタンの特性:と用途;軽量・高強度・耐熱性を活かし、ジェットエンジンのファンブレードや圧縮機部品、機体の降着装置(ランディングギア)や高荷重フレームなどに不可欠な構造材として広く使われています。
- 輸出増加の理由:航空機産業の世界的な需要回復とロシア産チタンの代替調達の動きが、高品質な日本産スポンジチタンへの需要を急激に高めたためです。
日本からのチタン中間原料の輸出過去最高ペース
日本からのチタン中間原料の輸出は、近年過去最高水準を更新するペースで推移しています。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB271P60X20C25A8000000/
これは主に航空機産業向けの需要拡大によるものです。
チタン中間原料、スポンジチタンとは何か
スポンジチタン(Titanium Sponge)とは、チタン金属の精錬過程で最初に得られる多孔質で塊状の中間原料のことです。
このスポンジチタンが溶かされてインゴット(塊)となり、さらに加工されて板、棒、管などの最終的なチタン製品(展伸材)になります。
特徴
- 物理的形態: 多数の細かい気孔を持つ、文字通りスポンジ状の多孔質な形態をしています。色は薄い灰色で、脆い性質を持ちます。
- 純度: 金属チタンとして非常に純度が高く、最終製品の品質を左右する重要な原料です。
- 位置づけ: チタン産業における基礎原料であり、チタン製品製造の出発点となります。
製法
現在、工業的に広く採用されているのは、日本などで確立・発展したマグネシウム還元法(クロール法)です。
- 四塩化チタン(TiCl4)の製造:
- 原料であるチタン鉱石(酸化チタン、TiO2)に塩素と炭素を加え、高温で反応させて中間材料の四塩化チタン(液体)を生成します。
- スポンジチタンの生成(還元):
- 精製された四塩化チタンを、溶融したマグネシウム(Mg)と反応させます。この反応により、金属チタン(多孔質のスポンジチタン)と塩化マグネシウム(MgCl2)が生成されます。
- TiCl4+2Mg→Ti (スポンジチタン)+2MgCl2
- 精製(真空分離):
- 反応後にできたスポンジチタン塊に残っているマグネシウムや塩化マグネシウムを、真空中で高温加熱して蒸発除去し、純度の高いスポンジチタンを得ます。
2. 主な用途
スポンジチタンは、そのままでは使用されず、溶解・加工を経て、チタンの優れた特性を活かしたさまざまな分野の製品になります。
特性 | 主な最終製品・用途 |
軽量・高強度 | 航空機(機体構造材、エンジン部品)✈️、宇宙ロケット、防衛装備品、自動車、自転車、ゴルフクラブ |
高耐食性 | 化学工業プラントの耐食材料、発電所や海水淡水化プラントの設備、海洋構造物 |
生体適合性 | 医療用(人工骨、インプラント) |
その他 | メガネフレーム、時計、スパッタリングターゲット(半導体製造用) |
特に、厳しい品質が要求される航空・宇宙分野向けのスポンジチタンは、一般にプレミアムグレードと呼ばれ、日本の輸出の大部分を占める高い需要の源となっています。

スポンジチタンは、チタン鉱石を精錬する際の最初の製品で、多孔質な塊状の高純度金属チタンです。主にクロール法で製造され、これを溶解・加工して航空機部品などのチタン製品の原料となります。
チタンはどんな航空部品に使われるのか
チタン(主にチタン合金)は、軽量でありながら高強度、耐熱性、高耐食性に優れるため、現代の航空機の機体やエンジンにおける重要な構造材料として広く使用されています。
1. ジェットエンジンでの用途(最も重要)
ジェットエンジンは、チタンが最も多く、かつ重要な役割を果たす場所です。エンジン前方の比較的温度が低い部分に集中的に使われます。
部品名 | 主な役割・求められる特性 |
ファンブレード | エンジン最前部の巨大な羽根。軽量・高強度で、鳥などの衝突(バードストライク)に耐える高靭性が求められます。 |
コンプレッサー(圧縮機)ブレード | 空気を圧縮する高回転部品。特に高圧側では高温強度と疲労特性が要求されます。 |
コンプレッサーディスク | ブレードを支える回転体。高温強度に加え、低サイクル疲労特性やクリープ特性(高温での変形しにくさ)が必要です。 |
ケース(ファンケース・圧縮機ケース) | エンジン外郭を構成し、部品を保持する構造体。軽量化と剛性が求められます。 |
チタンアルミ合金(TiAl) | タービン(エンジン後方)の低圧タービンブレードなど、比較的高温になる部分でニッケル合金の代替として研究・実用化が進んでおり、さらなる軽量化に貢献します。 |
2. 機体構造での用途
機体の軽量化と高負荷に耐える構造材として使用されます。
部品名 | 主な役割・求められる特性 |
ランディングギア(着陸装置)部品 | 離着陸時の大きな衝撃と高荷重に耐える高強度、高靭性が求められ、特に強度が高いβ合金(例:Ti-10V-2Fe-3Al)が使用されます。 |
エンジンパイロン | エンジンを主翼や胴体に固定する構造体。エンジンの重さと推力に耐える高い信頼性が必要です。 |
高荷重フレーム/結合部品 | 主翼と胴体の接合部やドア周辺など、特に大きな力がかかる主要構造材。 |
ファスナー類(ボルトなど) | 機体全体に使用される締結部品。特にCFRP(炭素繊維強化プラスチック)など、異種材料が使われる箇所で、CFRPとの相性が良い(電食を防ぐ)チタンが多用されます。 |
排気ダクト/配管 | 純チタンや比較的強度の低い合金が、耐食性や加工性を活かして使用されます。 |
チタン合金が選ばれる理由
航空機では、「比強度が高い」(重さあたりの強度が鉄やアルミより格段に高い)ため、部品の大幅な軽量化(約20~30%の軽量化が実現可能)と、それによる燃費向上に不可欠な素材となっています。

チタン合金は、軽量・高強度・耐熱性を活かし、ジェットエンジンのファンブレードや圧縮機部品、機体の降着装置(ランディングギア)や高荷重フレームなどに不可欠な構造材として広く使われています。
輸出が増えている理由は何か
日本のチタン中間原料(スポンジチタン)の輸出が過去最高ペースとなっている主な理由は、世界的な航空機需要の回復・拡大と、ロシアのウクライナ侵攻に起因するサプライチェーンの構造変化の2点です。
1. 航空機産業の旺盛な需要
- 民間航空機市場の回復: コロナ禍で落ち込んだ世界の航空需要が回復し、各航空機メーカーが機体の生産を急ピッチで進めています。チタンは機体の軽量化とエンジン部品に不可欠な素材であるため、スポンジチタンの需要が大幅に増加しています。
- 燃費効率の追求: 航空機は燃費効率の向上が厳しく求められており、高強度で軽量なチタン合金の採用が増加傾向にあります。
- 長期的な成長期待: 民間航空機市場は中長期的に年率5%程度の成長が見込まれており、チタンの需要も今後さらに底堅く推移すると予測されています。
2. 地政学リスクによる代替需要
- ロシアからの供給懸念: ロシアはチタン展伸材(加工品)の主要供給国の一つでした。しかし、ウクライナ侵攻後、欧米の航空機メーカーがロシアとの取引を一時中断・見直した結果、ロシア産チタンの代替調達の動きが加速しました。
- 日本の存在感増大: 高品質なスポンジチタンを安定的に供給できる日本(東邦チタニウム、大阪チタニウムテクノロジーズなど)のメーカーに、欧米の展伸材メーカーから緊急かつ大規模な追加発注や長期契約の要請が集中しました。
これらの要因が組み合わさり、日本からのチタン中間原料の輸出は、2022年、2023年と連続して過去最高を更新する高水準で推移しています。

輸出増加の理由は主に二つです。まず航空機産業の世界的な需要回復。次に、ロシア産チタンの代替調達の動きが、高品質な日本産スポンジチタンへの需要を急激に高めたためです。
チタンの比強度が高い理由は
チタンの比強度が高い(重量あたりの強度が大きい)理由は、その「軽さ(低密度)」と「強さ(高引張強度)」という両極端な特性の組み合わせにあります。
比強度とは「引張強さ」を「比重(または密度)」で割った値(比強度=引張強さ/密度)で、チタンはこの値が金属材料の中で最大クラスです。
1. 驚異的な「軽さ」(低密度)
チタンの密度(比重約4.5)は、一般的な構造用金属と比べて非常に小さいです。
- 鉄(鋼)の約60%
- 銅の約半分
強度を保ちつつ、質量を大きく減らせるため、特に航空機や自動車といった軽量化が求められる分野で有利になります。
2. 優れた「強さ」(高引張強度)
チタンは、密度が低いにもかかわらず、高い強度を保持します。この強さは、主にその結晶構造と合金化によってもたらされます。
合金化による強化: 特に航空機に多用されるチタン合金(例: Ti-6Al-4V)は、アルミニウム(Al)やバナジウム(V)などの添加元素によって強化されます。これにより、純チタンよりもさらに強度と耐熱性が向上し、鋼に匹敵するか、それを上回る強度を持ちます。
結晶構造: 純チタンは、原子が密に詰まった六方最密充填構造(HCP)という安定した結晶構造を持っています。この構造が、強度を高める一因となっています。

チタンは、「鉄の半分以下の軽さ」を持ちながら結晶構造と合金化によって「鉄に匹敵する強さ」を持つため、比強度が際立って高くなります。
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