関税政策による株価下落 なぜ、株価が下落したのか?関税強化の成功例と失敗例

この記事で分かること

・株価の下落理由:関税協会による企業の利益、消費者の購買力、貿易の自由度、経済の成長性に悪影響を及ぼすと考えられたため、下落したと考えられます。

・関税強化の意図:国内への製造業回帰と中国への圧力強化、有権者への政治的なアピールなどの意義があります。

・関税強化の懸念:報復関税による混乱、インフレの加速、消費の落ち込み、米国企業の競争力低下、景気後退などの懸念もあります。

関税政策による株価下落

 ​ニューヨーク・ダウ平均株価(NYダウ)は、2025年4月初旬に大幅な下落を記録しました。​4月2日、トランプ大統領が「解放の日」と称して、ほぼ全ての輸入品に対する大規模な関税を発表しました。​

 これを受けて、4月3日にはNYダウが1,679ポイント(約4%)下落し、S&P 500指数も4.88%の下落となりました。 ​さらに、4月4日にはダウ平均が2,200ポイント以上(5.5%)下落し、ナスダック総合指数は弱気相場入りとなる20%以上の下落を記録しました。

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 投資家の間で世界的な景気後退への懸念が高まり、市場の不安定さが増しました。​

関税でなぜ株価の低下が起こるのか

 関税が導入されると株価が下落するのは、主に以下のような経済的影響があるためです。

1. 企業のコストが上昇する

 関税によって、企業が輸入している部品や原材料の価格が上がります。
→ 製造コストが増加し、利益が圧迫される
→ 利益が減ると、投資家は株を売る傾向が強くなり、株価が下がる


2. 消費者価格が上昇し、需要が減る

 企業は上がったコストを消費者に転嫁することが多いため、商品やサービスの価格が上昇します。
→ 消費者の購買意欲が下がる
→ 売上が減少し、企業の成長期待が低下


3. 国際貿易が減少し、経済全体が縮小

 報復関税(たとえば、米中のようにお互いが関税をかけ合う)に発展すると、
→ 貿易量が減少
→ 輸出企業にとっては売上減・利益減
→ 世界的な景気後退(リセッション)の懸念が高まる


4. 不確実性・リスクの増加

 貿易政策の急な変更は将来の見通しを不透明にします。
→ 投資家はリスクを避けようと株を売却
→ 特に株式市場は「将来の期待」を織り込むため、不透明感が強いとすぐ反応する

関税は企業の利益、消費者の購買力、貿易の自由度、経済の成長性すべてに悪影響を与える可能性があり、その結果として株価が下落しやすくなります。

関税の強化で、国内の製造業が好調になった例

 関税の強化が国内製造業にプラスに働いた例はいくつかあります。


1. アメリカの鉄鋼業(2018年 トランプ政権)

背景:

 トランプ政権は2018年に「国家安全保障」を理由に、鉄鋼に25%、アルミニウムに10%の関税を導入。

結果
  • 米国内の鉄鋼メーカー(U.S. Steel、Nucorなど)は生産量を増加
  • 一部の企業は設備投資や工場の再稼働を実施(例:U.S. Steelがイリノイ州の工場再開)
  • 雇用も一時的に増加

ただし、鉄鋼業以外の産業(自動車メーカーや建設業など)は、材料コスト増に直面し、業績に悪影響を受けました。


2. ブラジルの自動車産業(2010年代前半)

背景

 ブラジルは輸入自動車に高い関税や税制優遇措置を設定し、現地生産を促進する政策「Inovar-Auto」を導入。

結果
  • フォルクスワーゲンやフィアットなどが現地工場を増設
  • 部品調達も国内化が進み、関連製造業が活性化
  • この政策は世界貿易機関(WTO)から「貿易歪曲的」と指摘され、後に撤廃されました。

3. 中国の太陽光パネル市場(2000年代〜)

背景

 中国政府は、外国製パネルに対して非関税障壁(検査基準など)や支援策を用い、国内産業を保護。

結果
  • グローバル競争力が高まり、結果として世界最大の生産国へ成長
  • 中国の太陽光パネルメーカー(例:LONGi、Trina Solarなど)が世界市場を席巻

関税強化は短期的に国内製造業を活性化させることは可能です。ただし

国際ルールとの摩擦(WTO問題)、他産業へのコスト増の波及、報復関税のリスク
など、副作用も多いのが現実です。

関税の強化が失敗に終わった例

 関税政策の失敗例もいくつかあります。

1. アメリカのスムート・ホーリー関税法(1930年)

背景

 世界大恐慌が始まった直後、アメリカは国内産業を守るため、20,000以上の輸入品に対して大幅な関税を課しました。

結果
  • 各国が報復関税を導入(60カ国以上)
  • 世界貿易が激減(世界貿易量は約2/3に縮小)
  • アメリカの輸出企業は大打撃
  • 世界恐慌がより深刻化
教訓

 保護主義が国際的な報復を招き、かえって経済全体を悪化させた典型例です。


2. インドの電子機器関税(2010年代)

背景

 「Make in India」政策の一環として、スマートフォンや電子部品に高関税をかけ、国内生産を促進。

結果
  • 一部組立はインド国内で行われるようになったが、本質的な製造は海外のまま
  • 高い関税が製品価格に転嫁され、消費者の負担が増加
  • ハイエンド製品の輸入減により、技術革新のスピードが遅れた
教訓

 関税だけで本格的な産業育成は難しく、技術移転やインフラ整備も同時に必要。


3. アルゼンチンの輸入規制(2000年代〜2010年代)

背景

 慢性的な財政・貿易赤字を解消するため、関税に加えて厳しい輸入制限を導入。

結果
  • 現地の製造業は一時的に守られたが、競争力が低下
  • 必要な部品・機械の輸入が困難になり、生産性が伸び悩む
  • インフレが加速し、製品価格が上昇
  • 経済全体が停滞
教訓

 過度な保護政策は逆に産業の競争力を奪い、長期的には経済にマイナス。

長期・極端な保護主義やインフラや教育投資の不足が伴うと関税は失敗に終わってしまうことも少なくありません。また、外交的配慮とセットで行うことも必要です。

今回の関税強化の狙いと懸念

 今回(2025年4月)のアメリカの関税強化には、明確な政治的・経済的な狙いがある一方で、いくつもの懸念点も指摘されています。以下にそれぞれまとめます。


【関税強化の狙い】

1. 国内製造業の保護・回復
  • 安価な中国製品との競争からアメリカの企業・雇用を守る
  • 「海外依存からの脱却」を目指し、米国内の生産拠点を呼び戻す(リショアリング)
2. 中国への圧力強化
  • 技術移転、知的財産侵害、不公正貿易に対する制裁措置
  • 米中間の貿易不均衡(巨額の対中赤字)を是正したい
3. 政治的アピール
  • 「アメリカ第一主義」を前面に出すことで、有権者の支持を得る
  • 特に製造業が多い中西部などでの票集め(選挙戦略)

【懸念される影響】

1. 報復関税と貿易戦争の激化
  • 既に中国は、すべての米国製品に34%の報復関税を発表
  • 相互報復がエスカレートすれば、世界貿易の縮小と景気後退に発展しかねない
2. インフレ加速と消費の冷え込み
  • 輸入品の価格上昇 → 家電や日用品の値段も上昇
  • 特に中低所得層への影響が大きく、消費マインドが悪化するおそれ
3. 米企業のコスト増と競争力低下
  • 部品や原材料を海外に依存している企業はコスト増で利益が圧迫される
  • 世界市場での競争力が落ち、逆にリストラや投資抑制につながる可能性も
4. 金融市場の動揺
  • リセッション(景気後退)懸念が拡大し、世界の株式市場にも波及
  • 実際にNYダウは連日大幅下落し、投資家の不安が高まっている

関税強化には、国内への製造業回帰と中国への圧力強化、有権者への政治的なアピールなどの意義があります。

一方で、報復関税による混乱、インフレの加速、景気後退などの懸念もあります。

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