この記事で分かること
- 下落の理由:中国の需要減少や冬が温暖であったことなどから価格の下落が起きています。
- インドネシアの最低価格規制とは:鉱山の保護や財政の確保、ナショナリズムの一環などの理由から最低価格規制を行っています。
- 最低価格規制のリスク:輸出競争力が落ち、短期的に輸出額・量が減るリスクがありますが、長期的な戦略から最低価格規制を実施する予定です。
石炭価格の下落
2025年4月現在、石炭価格が約4年ぶりの安値を記録しています。これは主に中国市場の需給バランスの変化が影響しているとされています。
中国の石炭スポット価格は、2021年3月以来の低水準である1トンあたり676元(約92.70ドル)に下落しました。
価格下落の背景は何か
石炭価格の下落は中国の影響が大きく以下のような背景があります。
- 需要の減少と在庫の増加:中国国内の電力需要が低迷し、港湾や発電所の在庫が高水準に達しています。これにより、輸入石炭への依存度が低下し、価格下落の一因となっています。
- インドネシアからの輸入減少:中国最大の石炭供給国であるインドネシアは、2025年3月から政府が設定した基準価格を最低取引価格として導入しました。これにより、中国の輸入業者は価格の高騰を嫌い、輸入量が9%減少しました
- ロシアからの輸入増加:一方で、中国のロシアからの石炭輸入は6%増加しました。これは、インドネシアからの輸入減少を補う動きと見られます。
世界的な動向
アジア市場の指標であるオーストラリア・ニューキャッスル炭の価格も、2021年5月以来の水準である1トンあたり約100ドルまで下落しています。これは、温暖な冬と供給過剰が原因とされています。

中国の需要減少や冬が温暖であったことなどから価格の下落が起きています。
今後価格が上がる可能性はあるのか
今の「4年ぶりの安値」という状況は確かに続いていますが、実はすでに以下のようにいくつか価格反転の兆しも出始めています。
価格上昇の可能性がある要因
世界経済の回復シナリオ
→ もし2025年後半にかけて世界経済が回復すれば、産業用エネルギー需要が戻ってきて、石炭も再評価されるかもしれません。
季節要因(夏の電力需要)
→ 夏場に向けてエアコン需要が増えると、火力発電用の石炭需要も増え、価格を押し上げる可能性があります。(特に中国では、例年6月~8月にかけて石炭需要がピークを迎えます)
インドネシアの供給制約
→ インドネシア政府が「最低価格規制」を設けたので、中国企業が安く買えなくなっています。これが続くと供給がタイトになり、価格に上昇圧力がかかります。
ロシア・豪州からの輸入リスク
→ 地政学リスク(特にロシア)や、オーストラリアの天候要因(例えば洪水)で供給が不安定になると、代替調達コストが上がり、価格を押し上げる要素になります。

短期(今すぐ~夏前)にはやや反発する可能性は充分にあります。一方で、中長期では「需給バランス次第」ですが、脱炭素の流れがあるため、以前のような高騰は起きにくいとする見方もあります。
インドネシアはなぜ、最低価格規制をしたのか
インドネシアが石炭に最低価格規制(フロアプライス)を導入した理由は、主に以下の3つが挙げられます:
1. 国内鉱山会社の保護
- 最近、石炭価格が世界的に下落したことで、小規模な鉱山会社の収益が急激に悪化していました。
- 特にインドネシアの中小規模の採掘業者はコスト競争力が弱く、国際価格に振り回されやすかったんです。
- そこで政府は、「最低この価格以上で売らないとダメ」というルールを設けて、鉱山会社を守る政策に出ました。
2. 国家財政(税収)の安定確保
- インドネシア政府にとって、石炭は重要な外貨収入源です(輸出税・ロイヤリティなど)。
- 価格が下がると、国家財政も一緒に打撃を受けるため、ある程度価格の下限を設けることで税収を安定させたい狙いがありました。
3. 産業政策・資源ナショナリズムの一環
- インドネシアはここ数年、資源に対する国家管理色を強める政策を取っています(ニッケルやボーキサイトの輸出制限などが有名)。
- 石炭も同じく、「自国資源を安売りするな」「戦略的資源として価値を守れ」という流れで、最低価格制を導入したと考えられます。

鉱山の保護や財政の確保、ナショナリズムの一環などの理由から最低価格規制を行っています。
最低価格規制で他国へ切り替えられるリスクはあるのか
インドネシアの最低価格規制には「他国からの輸出にシェアを奪われるリスク」が実際にあります。
他国に輸出が流れる仕組み
最低価格規制を導入した結果、インドネシア炭は以下のような影響を受けます。
- 他国(たとえばロシアや南アフリカ、豪州)より「割高」になる
- 買い手(特に価格に敏感な国や企業)は、より安い国に発注をシフトする
- 結果的にインドネシアの「輸出シェアが低下」するリスクが生まれる
実際に起きている事例
2025年3月以降、中国では以下のような動きがあります。
- インドネシア産炭の輸入量が前年同月比で約9%減少
- 代わりに、ロシア炭の輸入が約6%増加
なぜそれでもインドネシアはやるのか?
インドネシア政府にとってはも以下のような戦略があり最低価格規制を実施する予定です。
- 中長期的に自国の石炭資源を「安売りしない」方向に進みたい
- 短期的な輸出減より、採掘企業の利益や税収を優先
- 価格を下げるレースに巻き込まれたくない
という戦略的判断があるようです。

最低価格設定には、輸出競争力が落ち、短期的に輸出額・量が減るリスクがありますが、長期的な戦略から最低価格規制を実施しています。
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