この記事で分かること
- 高速炉とは:核分裂で生じた速い中性子を減速させずに利用する原子炉です。水ではなく液体ナトリウム等を冷却材に用い、中性子のスピードを保つのが最大の特徴です。次世代の核燃料サイクルの中核を担う技術として期待されています。
- なぜウラン238を利用できるのか:高速中性子がウラン238に吸収されると、核分裂しやすいプルトニウム239に変化するためです。本来燃えにくいウラン238を燃料に転換して活用できるため、天然ウラン資源の利用効率を数十倍に高められます。
- 高速炉の課題:冷却材の液体ナトリウムが空気や水と激しく反応するため、高度な漏洩対策や複雑な設備が必要で建設費が高騰しがちです。また、不透明な液体金属ゆえに炉内点検が難しく、保守・運用コストの低減も大きな課題です。
高速炉
日立製作所と米GEベルノバは、2026年3月14日、次世代型原子炉である小型モジュール炉(SMR)の東南アジア展開に向けて協力する覚書(MOU)を締結しました。今後、両社が共同開発した「BWRX-300」の導入機会を、東南アジア諸国で調査・検討します。
https://jp.reuters.com/markets/global-markets/3DKYLEHMVBNHTJJS32RJXMAR5I-2026-03-14/
特に東南アジアではベトナム、インドネシア、フィリピンなどが原子力導入に前向きな姿勢を見せており、今回のMOUが具体的な受注につながるかどうかが今後の焦点となります。
前回は軽水炉に関する記事でしたが、今回は高速炉に関する記事となります。
高速炉とは何か
高速炉(FR: Fast Reactor)とは、核分裂で発生した「速い中性子」をそのまま次の核分裂に利用する原子炉です。従来の軽水炉が水を減速材として中性子を遅くするのに対し、高速炉は減速材を使用しない点が最大の特徴です。
高速炉型の主な特徴
- 核燃料の有効利用: 軽水炉では燃やしにくいウラン238を、プルトニウムに変えて燃料として利用できます。これにより、資源利用効率が飛躍的に向上します。
- 冷却材に液体金属を使用: 中性子を減速させないよう、水ではなくナトリウムや鉛などの液体金属を冷却材として用いるのが一般的です。これらは熱伝導率が非常に高いという利点があります。
- 核廃棄物の減容・短寿命化: 長寿命の放射性物質(マイナーアクチノイド)を燃料と一緒に燃やすことで、高レベル放射性廃棄物の有害度を低減できる可能性があります。
高速炉型の現状とSMRへの応用
高速炉は「夢の原子炉」と呼ばれ、かつては大型炉が主流でしたが、現在は小型モジュール炉(SMR)としての開発も活発です。
- テラパワー(米): ビル・ゲイツ氏が出資する企業。ナトリウム冷却高速炉「Natrium」を開発中で、三菱重工も技術協力しています。
- ARC Clean Energy(加): ナトリウム冷却高速炉のSMRを開発しており、カナダでの導入を目指しています。

高速中性子を利用し、ウラン資源を極めて効率的に消費する原子炉です。水ではなく液体ナトリウム等を冷却材に用い、核廃棄物の減量も期待されます。米テラパワーなどがSMRとしての商用化に向け開発を加速中です。
なぜウラン238を利用できるのか
高速炉でウラン238が利用できる理由は、高速中性子をぶつけることでウラン238が核分裂しやすいプルトニウム239に変化(変換)するからです。
ウラン238が燃料に変わる仕組み
- 中性子の吸収: 高速炉内を飛び交う「速い中性子」が、燃料に含まれるウラン238に吸収されます。
- プルトニウムへの変化: 中性子を吸ったウラン238は、ベータ崩壊という過程を経てプルトニウム239に変わります。
- 新たな燃料として燃える: このプルトニウム239は、軽水炉の燃料であるウラン235と同じように核分裂を起こしやすいため、そのまま原子炉のエネルギー源となります。
資源としての重要性
天然ウランの約99.3%は核分裂しにくいウラン238です。従来の軽水炉ではわずか0.7%のウラン235を主に使うため資源に限りがありますが、高速炉でウラン238を有効活用できれば、ウラン資源の利用効率を数十倍に高めることが可能になります。

高速中性子をウラン238に吸収させ、核分裂しやすいプルトニウム239に変換して燃焼させる仕組みです。天然ウランの99%以上を占めるウラン238を燃料化できるため、ウラン資源の利用効率が劇的に向上します。
軽水炉でウラン238を利用できないのはなぜか
軽水炉でウラン238をエネルギー源として直接利用できない理由は、主に「中性子のスピード」にあります。
理由1:中性子が遅すぎる
軽水炉では、核分裂を維持するために水(減速材)を使って中性子のスピードを落とします。
この「遅い中性子」はウラン235にはよく当たりますが、ウラン238に当たっても吸収されるだけで、プルトニウムへの変化や核分裂がほとんど進みません。
理由2:エネルギー不足
ウラン238を核分裂させたり、プルトニウムへ効率よく変換したりするには、非常に高いエネルギーを持つ「速い中性子」が必要です。
しかし、軽水炉は水を冷却材に使う性質上、どうしても中性子が減速してしまうため、ウラン238を有効活用するための条件を満たせません。

軽水炉は水で中性子を減速させるため、ウラン238をプルトニウムに変えたり核分裂させたりするのに必要なエネルギーが不足します。結果、燃料の99%を占めるウラン238は燃え残り、資源の大半が活用されません。
高温ガス炉型の課題は
高速炉(FR)は、ウラン資源を極限まで活用できる「夢の原子炉」とされる一方、実用化には技術的・経済的に高いハードルがあります。主な課題は以下の通りです。
1. 冷却材(ナトリウム)の取り扱い
多くの高速炉では、中性子を減速させないために液体ナトリウムを冷却材に用います。
しかし、ナトリウムは「空気や水と激しく反応して燃焼する」性質があり、万が一の漏洩(ろうえい)対策に極めて高度な技術と多重の安全系(2次冷却系の設置など)が必要となります。
2. 経済性の確保
ナトリウム対策のための複雑な設備や、腐食に強い特殊な材料が必要になるため、建設費が軽水炉よりも高騰しがちです。
燃料サイクル(再処理)のコストも含め、既存の火力発電や軽水炉と競争できるレベルまでコストを下げるのが大きな課題です。
3. 技術的な不透明性と保守性
ナトリウムは不透明な液体であるため、炉内部の目視点検が困難です。また、燃料の燃焼度(エネルギーを取り出す効率)が高いため、材料の劣化が早く、高度な保守・点検技術が求められます。

冷却材の液体ナトリウムが空気や水と激しく反応するため、高度な漏洩対策と複雑な設備が必要となり、建設・運用コストが軽水炉より高騰します。また、不透明な液体金属ゆえの保守・点検の難しさも大きな課題です。
なぜ冷却剤に液体ナトリウムが使用されるのか
高速炉の冷却材に液体ナトリウムが採用される主な理由は、中性子を減速させず、かつ熱を運ぶ能力が極めて高いからです。
液体ナトリウムが選ばれる理由
- 中性子を遅くしない: 軽水炉で使われる「水」は中性子と衝突してスピードを落としますが、ナトリウム(重い原子)は衝突しても中性子のエネルギーを奪いにくいため、高速中性子を維持したまま核燃料の効率的な変換が可能です。
- 優れた熱伝導性: 金属であるため熱を伝える能力が非常に高く、小さな炉心から発生する膨大な熱を効率よく取り出すことができます。
- 高い沸点: ナトリウムの沸点は約880℃と高く、大気圧に近い状態で高温運転が可能です。軽水炉のように水を沸騰させないために高い圧力をかける(加圧する)必要がないため、原子炉容器の破裂リスクを低減できます。

中性子を減速させにくいため、ウラン238をプルトニウムに変える高速中性子を維持できます。また、熱伝導率が高く沸点も880℃超と高いため、大気圧に近い低圧状態で高温の熱を効率よく取り出せるのが利点です。

コメント