この記事で分かること
- フィルムコンデンサとは:誘電体にプラスチックフィルムを使用したコンデンサです。耐電圧が高く、温度や周波数による容量の変化が少ないという特徴があります。
- 温度による影響が小さい理由:プラスチックフィルムが温度変化に対し分子構造が非常に安定しているため、誘電率がほとんど変動しません。これにより、コンデンサの静電容量が一定に保たれ、温度による影響が非常に少なくなります。
- 高電圧に耐える理由:使用されるプラスチックフィルムの絶縁破壊電圧が非常に高いため、高い電圧に耐えられます。
フィルムコンデンサ
日本の電子部品メーカーは、半導体製造分野では後れを取っているものの、コンデンサやセンサーなどの部品分野では、長年にわたり世界市場で強い競争力を保ち続けており、台湾企業による買収も報じられています。
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日本の電子部品メーカーは、長年にわたって培ってきた高い技術力、品質へのこだわり、そして特定のニッチ分野での圧倒的な強みにより、世界市場でその地位を確固たるものにしています。
今回は受動部品であるコンデンサのひとつであるフィルムコンデンサについての記事となります。
フィルムコンデンサとは何か
フィルムコンデンサは、誘電体としてプラスチックフィルムを使用したコンデンサです。耐電圧が高く、温度や周波数による容量変化が少ないといった優れた特性を持つため、特に信頼性が求められる用途でよく使われます。
構造と特徴
フィルムコンデンサは、誘電体であるプラスチックフィルムと電極を交互に重ねて巻き付けた「巻回型」のものが一般的です。
- 無極性: セラミックコンデンサと同様に極性がないため、回路に接続する際に向きを気にする必要がありません。
- 高い安定性: 温度や周波数の影響による容量の変化が少なく、非常に安定した性能を発揮します。
- 高耐圧・高寿命: 高い電圧に耐えることができ、適切な条件下で使用すれば寿命が非常に長いです。
- 自己修復機能: 電極に金属を蒸着させたタイプ(メタライズドフィルムコンデンサ)は、絶縁破壊が起きても、周囲の金属が瞬時に酸化して絶縁状態を回復する自己修復機能を持っています。
主な用途
これらの優れた特性から、フィルムコンデンサは以下のような用途に用いられます。
- 電気自動車・ハイブリッド車: 高電圧・大電流を扱うインバータやバッテリー回路で、高い信頼性と安全性を確保するために不可欠な部品です。
- オーディオ機器: 歪みが少なく、クリアな音質が求められるオーディオアンプやスピーカーの回路で広く使われます。
- 電源回路: 高い電圧を扱う電源フィルタや、モーター制御回路などで、安定した動作と長寿命が求められる用途に使用されます。

フィルムコンデンサは、誘電体にプラスチックフィルムを使用したコンデンサです。耐電圧が高く、温度や周波数による容量の変化が少ないため、高い安定性が求められる電源回路や、クリアな音質が重要なオーディオ機器などで広く利用されます。
なぜ、温度による影響が少ないのか
フィルムコンデンサが温度による影響をほとんど受けないのは、使用されているプラスチックフィルムが誘電率の温度変化に非常に強いからです。
プラスチックフィルムの特性
フィルムコンデンサに用いられるポリプロピレン(PP)やポリエステル(PET)などのプラスチックフィルムは、セラミックスや電解液に比べて、温度による分子構造の変化が非常に少ないという特性を持っています。誘電率は誘電体の分子の動きに影響されるため、この安定性が容量変化を抑制します。
一方、セラミックコンデンサの場合、誘電体であるセラミックスの誘電率が温度によって大きく変動するものがあり、容量変化も大きくなりがちです。
この誘電率の安定性により、フィルムコンデンサは広い温度範囲でほぼ一定の静電容量を保つことができ、高い精度と信頼性が求められる用途で強みを発揮します。
プラスチックフィルムの安定性
フィルムコンデンサに使われるポリプロピレン(PP)やポリエステル(PET)のようなプラスチックフィルムは、高分子で構成されています。これらの高分子は、温度が変化してもその結晶構造や分子の並びがほとんど変わりません。そのため、誘電率(電荷を蓄える能力)が安定し、結果としてコンデンサの容量が一定に保たれます。
セラミックスと電解液の不安定性
- セラミックス: セラミックコンデンサに使われるチタン酸バリウム(BaTiO₃)のような強誘電性セラミックスは、温度変化によって結晶構造が相転移(構造が変わる現象)を起こします。この相転移により、誘電率が急激に変化するため、コンデンサの容量も大きく変動します。
- 電解液: アルミニウム電解コンデンサに使われる電解液は、温度によって粘度や電気伝導度(電気の流れやすさ)が大きく変化します。温度が下がると粘度が増し、電気伝導度が低下するため、コンデンサの静電容量が減少します。

フィルムコンデンサは、プラスチックフィルムが温度変化に対し分子構造が非常に安定しているため、誘電率がほとんど変動しません。これにより、コンデンサの静電容量が一定に保たれ、温度による影響が非常に少なくなります。
どのようなフィルムが使用されるのか
フィルムコンデンサには、誘電体の材料として、主に以下のプラスチックフィルムが使用されます。
- ポリプロピレン (PP): 優れた電気特性と低い誘電損失を持つため、特にオーディオ機器や高周波回路、高耐圧を必要とする電力用途で多く使われます。温度による容量変化が少ないのが特徴です。
- ポリエチレンテレフタレート (PET): 一般的に「ポリエステルコンデンサ」や「マイラーコンデンサ」とも呼ばれます。PPに比べて誘電率が高いため、小型でも容量を稼ぎやすいのが利点です。ただし、温度特性はPPより劣ります。汎用性が高く、幅広い用途に使われます。
- ポリフェニレンサルファイド (PPS): 高温に強く、容量の温度変化が非常に少ないのが特徴です。特に、高い動作温度が求められる車載や産業機器向けに用いられます。
これらのフィルムは、それぞれ異なる特性を持つため、設計者は用途や求められる性能に応じて最適な材料を選定します。
高い電圧に耐えることができる理由は
高い電圧に耐えることができる理由は、誘電体の絶縁破壊電圧が高いことと、自己修復機能があるためです。
絶縁破壊電圧
フィルムコンデンサに使用されるポリプロピレンやポリエステルなどのプラスチックフィルムは、セラミックスや電解液に比べて、非常に高い絶縁破壊電圧を持っています。絶縁破壊電圧とは、その物質が絶縁体として機能できる限界の電圧です。この値が高いほど、より高い電圧に耐えることができます。
自己修復機能
金属を蒸着したタイプのフィルムコンデンサ(メタライズドフィルムコンデンサ)には、自己修復機能があります。誘電体であるフィルムにピンホールなどの欠陥があり、そこに強い電圧がかかって絶縁破壊が起きても、瞬時に欠陥部分の金属蒸着膜が蒸発して絶縁状態を回復させます。この機能により、コンデンサ全体がショートして破壊されるのを防ぎます。
これらの特性から、フィルムコンデンサは高い電圧が印加される電源回路や、自動車の電装部品などで、高い信頼性を保ちながら使用することができます。

フィルムコンデンサは、使用されるプラスチックフィルムの絶縁破壊電圧が非常に高いため、高い電圧に耐えられます。また、欠陥部分の金属が自己修復する機能を持つタイプもあり、これにより高い信頼性を維持できます。
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