この記事で分かること
・陸上養殖とは:陸地の施設内に設置された水槽やタンクで魚や貝、海藻などを育てる養殖方法です。
・RASとは:閉鎖循環式陸上養殖システムもことで、、使用した水をろ過・浄化して再利用する養殖方式であり、水の使用量が少ないという大きなメリットがあります。
陸上養殖サバの初出荷
「かもめミライ水産株式会社」が福島県浪江町の完全閉鎖循環式陸上養殖施設「陸上養殖イノベーションセンター」で生産したサバ(ブランド名「福の鯖」)を初めて出荷したことがニュースになっています。

かもめミライ水産株式会社は、完全閉鎖循環式の陸上養殖技術を活用し、生食用のサバを生産しています。 この技術により、自然環境に依存せず、高品質なサバを安定的に供給することが可能となっています。
陸上養殖とは何か
陸上養殖とは、海や川ではなく、陸地の施設内に設置された水槽やタンクで魚や貝、海藻などを育てる養殖方法です。従来の海面養殖と比べて、以下のような特徴やメリットがあります:
【主な特徴】
- 完全管理された環境
水温、塩分、酸素濃度、水質などを人工的に管理できるため、魚にとって最適な環境を整えやすいです。 - 病気や寄生虫のリスクが低い
外海と隔離されているため、病原体や寄生虫の持ち込みが少なく、抗生物質の使用も抑えられます。 - 環境への影響が少ない
廃棄物や排水を処理して再利用する「閉鎖循環システム」が多く使われ、自然環境への負荷が小さいです。 - 場所を選ばず展開可能
内陸や都市部でも養殖が可能で、輸送コストの削減や地産地消にもつながります。
【課題・デメリット】
- 初期投資やランニングコストが高い
設備・電力・水質管理などにコストがかかります。 - 大量生産には技術が必要
魚種によっては陸上養殖が難しく、技術開発が必要です。
【活用例】
- サバ、ブリ、ヒラメ、クエなどの高級魚が陸上養殖されています。
- 福島の「かもめミライ水産」では、完全閉鎖型循環式システムでサバを育てており、生食用としての品質も確保しています。

陸上養殖とは、陸地の施設内に設置された水槽やタンクで魚や貝、海藻などを育てる養殖方法です。
閉鎖循環式陸上養殖システム(RAS)とは何か
RAS(Recirculating Aquaculture System/閉鎖循環式陸上養殖システム)は、陸上養殖の中でも特に高機能で持続可能性が高いシステムです。以下で詳しく説明しますね。
【RASの基本構造】
RASは、使用した水をろ過・浄化して再利用する養殖方式です。主に以下のような処理プロセスを繰り返します
- 魚のいる水槽(養殖タンク)
- 機械的ろ過(固形物の除去)
- 生物ろ過(アンモニアなどの分解)
- 脱ガス(CO₂や硫化水素の除去)
- 酸素供給
- 温度・pHなどの調整
- 再び水槽へ戻す
【メリット】
- 水の使用量が少ない(約90〜99%再利用)
- 排水が少なく環境負荷が小さい
- 病気や外敵のリスクを低減
- 都市部や内陸でも養殖可能
- 年間を通じて安定生産可能(天候・季節の影響を受けにくい)
【デメリット・課題】
- 初期設備投資が高額
- 管理・運用に高度な技術が必要
- 電力消費が多い
- 一部の魚種には適さないことがある

閉鎖循環式陸上養殖システムは、使用した水をろ過・浄化して再利用する養殖方式であり、水の使用量が少ないという大きなメリットがあります。
脱ガスが必要な理由
RAS(閉鎖循環式養殖)において脱ガスが必要な理由は、主に「魚の健康と成長に悪影響を及ぼすガスを取り除くため」です。
■ なぜ脱ガスが必要なのか?
① 二酸化炭素(CO₂)が蓄積する
- 魚の呼吸やバクテリアの代謝によってCO₂が水中に溶け込む。
- CO₂が溜まるとpHが下がり、水が酸性化。
- 酸性の水は魚にとってストレスとなり、食欲減退・免疫低下・成長遅延などの原因になる。
② アンモニアや硫化水素(H₂S)など有害ガスの除去
- 水中の有機物(エサの残り、フンなど)が分解されると、有害ガスが発生。
- 特にH₂Sは微量でも魚にとって致命的。
③ 酸素供給を妨げる
- CO₂などのガスが溶け込みすぎると、溶存酸素(DO)の吸収が妨げられ、酸欠のリスクが高まる。
■ 脱ガスの仕組み
- 水と空気を強制的に接触させることで、ガスを気体として飛ばす。
- 方法:
- スプラッシュタワー(滝のように水を落とす)
- パックドタワー(中に充填材が詰まった塔)
- スプレーノズル(微細な水滴で表面積を拡大)
- ブロワーで強制換気
■ 脱ガスの効果
- 水質の安定化(pH維持、毒性ガスの低下)
- 魚のストレス軽減
- 成長効率アップ
- 死亡率の低下

脱ガスの工程は魚の健康と成長に悪影響を及ぼすガスである、二酸化炭素やアンモニアや硫化水素をを取り除くために必要な工程です。
アンモニアが有害な理由と除去方法
アンモニア(NH₃)が養殖において有害な理由は、魚にとって強い毒性を持つ化学物質だからです。特に閉鎖的な水循環システム(RASなど)では蓄積しやすく、しっかり管理しないと魚の健康に深刻な影響を与えます。
■ なぜアンモニアの発生理由
- 魚の排泄物(尿やフン)
- エサの食べ残しや分解物
これらが分解されて水中にアンモニア(NH₃)として溶け込みます。
■ アンモニアが有害な理由
① 魚のエラからの酸素交換を妨げる
- アンモニアが濃いと、エラの機能が阻害される。
- 酸素を取り込めなくなり、酸欠・呼吸障害につながる。
② 神経毒性がある
- NH₃は中枢神経系にダメージを与え、行動異常や運動機能の低下を引き起こす。
③ 成長の阻害・免疫低下
- 体調不良が続くと、食欲が落ちて成長が止まる。
- 病気にもかかりやすくなり、死亡率が上昇。
■ アンモニアの2つの形
アンモニアは水中で2つの形に存在します。
種類 | 化学式 | 特徴 |
---|---|---|
NH₃ | 遊離アンモニア | 非常に毒性が強い |
NH₄⁺ | イオン型アンモニア | 比較的毒性が弱い |
- 水温が高い・pHが高いとNH₃が増えやすくなる。
- pH 8.5、25℃の環境では、毒性の強いNH₃の割合がグッと高くなります。
■ 除去方法
アンモニアを亜硝酸(NO₂⁻)→硝酸塩(NO₃⁻)に分解してくれるのが、バイオフィルター内の硝化細菌(Nitrosomonas属など)です。
硝化細菌(しょうかさいきん)は、アンモニアを硝酸に変える「硝化作用(nitrification)」というプロセスを担っている微生物たちです。
Nitrosomonas(ニトロソモナス)属などのアンモニア酸化細菌がアンモニアを亜硝酸に、Nitrobacter(ニトロバクター)属などの亜硝酸酸化細菌が亜硝酸を硝酸塩に変化させています。
■ 許容濃度の目安(種類や成長段階による)
- NH₃濃度が0.02~0.05 mg/L以上になると、影響が出始めることが多い。
- 0.1 mg/L超えると要注意レベル。

アンモニアは、魚のエラからの酸素交換を妨げる効果や神経毒をもっているなどの理由から魚の生育に有害です。
バイオフィルター内の硝化細菌によって、アンモニアを硝酸塩に変えることで、有毒性を低下させています。
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