この記事で分かること
- 半導体製造工程用テープとは:シリコンウェハやチップの保護・固定・搬送に不可欠な特殊粘着テープです。バックグラインディング時の表面保護や、チップを切り出すダイシング時の固定などに使われます。
- アクリル樹脂がUVではがれる理由:アクリル樹脂はUV照射により、粘着剤中の光開始剤が反応し、分子が網目状に架橋結合します。これにより、粘着剤が硬化して粘着性を失い、被着体との接触面積が減少し、容易に剥がれるようになります。
古河電工、半導体製造工程用テープ増産
古河電気工業(古河電工)は、半導体製造工程用テープの生産能力を増強しています。
https://chemicaldaily.com/archives/656867
これは、近年の半導体需要の急速な拡大に対応し、高性能・高品質な製品を安定供給するためものとなっています。
半導体製造工程用テープとは何か
半導体製造における「テープ」とは、シリコンウェハや半導体チップの製造・加工工程で、一時的な保護や固定、搬送などを目的として使用される特殊な粘着テープのことです。
非常に高い精度と清浄度が求められる半導体製造工程において、その性能は製品の品質に直結するため、非常に重要な役割を担っています。
主な用途と種類
半導体製造用テープには、その用途によって様々な種類があります。代表的なものは以下の通りです。
- バックグラインディング用テープ(ウェハ表面保護テープ)
- 用途: シリコンウェハの裏面を削って薄くする「バックグラインディング(裏面研削)」工程において、ウェハ表面に形成された繊細な回路パターンを保護するために使用されます。削る際の衝撃や異物、汚染などから回路面を守る役割があります。
- 特徴: 研削後にはきれいに剥がせるように、粘着力と剥離性のバランスが重要です。特に、UV(紫外線)を照射することで粘着力が低下し、ウェハにストレスを与えることなく剥がせる「UV硬化タイプ」が主流です。
- ダイシング用テープ
- 用途: 薄くなったウェハ上に多数形成された半導体チップ(ダイ)を、個々のチップに切り分ける「ダイシング」工程において、ウェハやチップをフレームにしっかりと固定するために使用されます。
- 特徴: 高速で回転するダイヤモンドブレードでウェハを切断する際に、チップが動いたり、欠けたりするのを防ぐ高い固定力が必要です。ダイシング後には、チップをピックアップ(取り出し)しやすくするために、UV照射などで粘着力を低下させることが可能なものが多く使われます。
- ダイシングダイアタッチフィルム(DDF)
- 用途: ダイシング用テープと、切り分けられた半導体チップを基板などに接着するための「ダイアタッチフィルム」を一体化させた製品です。
- 特徴: 一体化されているため、工程の簡略化や効率化に貢献します。接着性と熱伝導性に優れ、半導体チップの性能向上にも寄与します。
- 表面保護・固定用テープ(その他)
- 高温環境下でのマスキング(一部を覆うこと)や、半導体素子・リードフレームの実装時の固定など、様々な工程で高耐熱性や糊残りの少なさが求められるテープが使われます。
テープの構造
一般的に、これらの半導体製造用テープは、以下の層で構成されています。
- 離型フィルム: 使用するまで粘着剤の表面を保護するフィルムで、使用時に剥がします。
- 粘着剤: 目的の固定力を持ち、剥離時には糊残りが少ないアクリル系粘着剤などが使われます。UV硬化タイプでは、UV照射によって化学変化を起こし、粘着力が低下する特性を持っています。
- 基材: テープの「骨格」となる部分で、ポリオレフィンなどのフィルムが使用されます。
なぜ重要なのか?
半導体は非常に微細な加工が施されており、わずかな傷や異物、あるいは工程中のズレが製品の不良に繋がります。
さそのため、半導体製造用テープには、以下のような高い性能が求められます。
- 高い清浄度: ゴミや異物が付着しないよう、クリーンルーム内で製造されます。
- 精密な粘着力制御: 必要な時にしっかり固定し、不要になった時にはきれいに剥がれることが不可欠です。特にUV照射で粘着力をコントロールできる技術は重要です。
- 材料特性: 耐熱性、耐薬品性、帯電防止性など、各工程の過酷な環境に耐える特性が必要です。
- 薄膜化・均一性: 半導体の高密度化・薄型化に伴い、テープ自体も薄く、均一な品質が求められます。
このように、半導体製造におけるテープは、単なる「テープ」ではなく、高度な技術と品質が凝縮された、半導体の性能と歩留まりを左右する重要な材料の一つと言えます。

半導体製造テープは、シリコンウェハやチップの保護・固定・搬送に不可欠な特殊粘着テープです。バックグラインディング時の表面保護や、チップを切り出すダイシング時の固定などに使われます。特にUV照射で粘着力が変化するタイプがあり、デリケートな半導体を傷つけずに確実に扱う重要な材料です。
アクリル系粘着剤の固定と剥離のバランスに優れている理由は、
半導体製造で使われるテープにおいて、アクリル系粘着剤が固定と剥離のバランスに優れている理由は、その分子構造の設計自由度の高さと、特にUV(紫外線)硬化タイプの特性にあります。
アクリル系粘着剤の基本的な特性とバランス
アクリル系粘着剤は、アクリル酸エステルを主成分として合成されます。このアクリル酸エステルの種類や、重合する際の分子量、さらに「架橋」と呼ばれる分子間の結合の度合いを調整することで、粘着剤の特性を幅広くコントロールできます。
粘着剤の「くっつく」力と「剥がれる」力は、以下の3つの要素のバランスで成り立っています。
- 粘着力: 相手にくっつく力。
- 凝集力: 粘着剤自身の内部の結合力(バラバラになろうとしない力)。
- 投錨力: 基材(テープのフィルム部分)と粘着剤がくっつく力。
アクリル系粘着剤は、これらのバランスを調整しやすいという特長があります。
- 幅広い粘着力: 強い粘着力から微粘着(簡単に剥がせる力)まで、目的に応じて設計が可能です。これは、様々なアクリル酸エステルモノマーを選択・共重合できるため、粘着剤のガラス転移温度(Tg)や分子量を細かく調整できるからです。
- 耐熱性・耐候性・透明性: 半導体製造プロセスは高温になることがあり、また製品が長期間使用されることを考えると、これらの特性は重要です。アクリル系粘着剤はこれらの特性に優れています。
- 糊残りの少なさ: 粘着剤が被着体(ウェハなど)に残ると不良の原因となるため、剥離後の糊残りが少ないことも重要です。アクリル系粘着剤は、この点でも優位性があります。
UV硬化型アクリル系粘着剤の優れた特性
半導体製造用テープで特に重要なのが、UV(紫外線)硬化型アクリル系粘着剤です。これは、特定の波長の紫外線を照射することで、粘着力が大きく変化する特性を持ちます。このメカニズムが、固定と剥離の絶妙なバランスを実現する鍵となります。
UV硬化の原理
- UV照射前(固定時): 粘着剤は、適度な粘着力を持ち、ウェハなどをしっかりと固定します。この時点では、粘着剤の分子鎖は絡み合っていますが、比較的自由に動ける状態です。
- UV照射後(剥離時): 紫外線を照射すると、粘着剤中に含まれる「光開始剤」が反応し、ラジカル(不対電子を持つ不安定な分子)が発生します。このラジカルをきっかけに、粘着剤の主成分であるアクリル樹脂の分子間で「重合反応」や「架橋反応」が進行します。
- 重合反応: 分子量の小さなモノマー(単量体)が結合し、分子量の大きなポリマー(重合体)へと変化します。
- 架橋反応: ポリマーの分子鎖同士が、化学結合(架橋)によって網目状に結びつき、より強固な三次元構造を形成します。
粘着力変化のメカニズム
このUV照射による重合・架橋反応によって、粘着剤は以下のように変化します。
- 粘弾性の変化: 分子鎖が互いにがっちり結合し、動きにくくなるため、粘着剤はより「固く」なり、弾性が増します。これにより、粘着剤の表面が非粘着性(ベタつきがない状態)に近づきます。
- 接触面積の減少: 固くなることで、粘着剤が被着体の微細な凹凸に追従しにくくなり、実質的な接触面積が減少します。
- 応力集中による剥離のしやすさ: 剥離の際に、粘着剤が柔軟に変形しにくくなるため、力が一箇所に集中しやすくなり、結果として少ない力で簡単に剥がれるようになります。
このように、UV硬化型アクリル系粘着剤は、UV照射前はしっかり固定し、UV照射後は簡単に剥がせるという、相反する特性を両立できるため、半導体製造工程において非常に重宝されています。特に、ウェハを極限まで薄くする「バックグラインディング」や、チップを切り出す「ダイシング」といった、デリケートな工程でその真価を発揮します。

UV硬化型アクリル系粘着剤は、UV照射前はしっかり固定し、UV照射後は簡単に剥がせるという、相反する特性を両立できるため、半導体製造工程において非常に重宝されています。
UVで剥離できるようになるメカニズムは何か
UV(紫外線)を照射することで粘着力が低下し、剥がせるようになるメカニズムは、主にUV硬化型粘着剤、特にUV硬化型アクリル系粘着剤で採用されています。この技術は、半導体製造プロセスなどでデリケートな材料を傷つけずに剥がすために不可欠です。
そのメカニズムは、UV照射前とUV照射後で粘着剤の分子構造と物理的性質が大きく変化することにあります。
1. UV照射前:粘着剤の「くっつく」状態
UV照射前のアクリル系粘着剤は、以下のような特性を持っています。
- 適度な粘弾性: 室温で液体のような「粘性」と固体のような「弾性」を併せ持つ「粘弾性体」です。これにより、被着体(例:シリコンウェハ)の微細な凹凸に粘着剤がしっかりと馴染み、大きな接触面積を確保できます。
- 分子鎖の自由な動き: 粘着剤のポリマー鎖は、ある程度の自由度を持って動くことができます。これにより、表面張力による濡れ性(広がりやすさ)が向上し、被着体への密着性が高まります。
- タック(初期粘着力)の発生: 接触と同時に高い粘着力を発揮し、ワークをしっかりと固定します。
この状態では、粘着剤はワークを確実に保持する役割を果たします。
2. UV照射後:粘着剤の「剥がれる」状態
UV照射を行うと、粘着剤の内部で以下のような化学変化が起こります。
a. 光開始剤の分解とラジカルの発生
UV硬化型粘着剤には、「光開始剤」と呼ばれる特殊な物質が含まれています。この光開始剤は、特定の波長の紫外線を吸収すると、非常に反応性の高い「ラジカル」(不対電子を持つ不安定な原子や分子)を生成します。
b. 重合反応・架橋反応の開始
発生したラジカルは、粘着剤の主成分であるアクリル系ポリマーの分子鎖と反応します。この反応が引き金となり、以下の二つの重要な化学変化が起こります。
- 重合反応(ポリマー化):
- 粘着剤中には、まだポリマーになっていないアクリル酸エステルなどの「モノマー」(単量体)や、比較的分子量の小さい「オリゴマー」(少量の単量体が結合したもの)が含まれていることがあります。
- ラジカルがこれらのモノマーやオリゴマーと反応することで、次々と結合していき、最終的に分子量の大きなポリマー鎖へと成長します。
- これにより、粘着剤全体の分子量が大きくなり、流動性が低下します。
- 架橋反応(三次元網目構造の形成):
- 最も重要な変化の一つです。既に形成されているアクリル系ポリマーの分子鎖同士が、ラジカルの作用によって化学結合(架橋)を形成し、強固な三次元的な網目構造を作り上げます。
- 例えるなら、一本一本の麺がバラバラだった状態から、麺同士がくっつき合ってスポンジのような立体的な構造になるイメージです。
c. 物理的性質の変化
これらの化学変化の結果、粘着剤は劇的にその物理的性質を変化させます。
- 粘弾性の変化(硬化):
- 分子鎖の動きが束縛され、網目構造が強固になることで、粘着剤は流動性を失い、より硬く、脆い固体に近い状態になります。
- ガラス転移温度(Tg)が上昇し、常温での粘着性がほとんどなくなります。
- 接触面積の減少:
- 粘着剤が硬化することで、被着体の微細な凹凸への追従性が失われます。その結果、粘着剤と被着体の実質的な接触面積が大幅に減少します。
- 内部応力の変化:
- 架橋反応によって粘着剤内部に収縮などの応力が発生し、それが剥離を助ける方向に働くことがあります。
- 凝集力の向上:
- 分子間の結合が強固になるため、粘着剤自身の「ちぎれにくさ」(凝集力)が向上します。これにより、剥がす際に粘着剤がバラバラになって被着体に糊残りするのを防ぎます。
まとめ:なぜ「剥がれる」ようになるのか
UV照射によって粘着剤が硬化し、粘着性と弾性が低下することで、以下のメカニズムで容易に剥がせるようになります。
- 接触面積の減少: 硬化によって被着体との密着性が失われ、物理的な接触面積が減少するため、接着力が弱まります。
- 応力集中: 剥がす際に、粘着剤が柔らかく変形して応力を分散させることができなくなるため、剥離界面にごくわずかな力でも応力が集中しやすくなり、容易に剥離が開始されます。
- 糊残りの防止: 凝集力が向上しているため、粘着剤が被着体に付着して残る(糊残り)現象が大幅に抑制されます。
このように、UV硬化型粘着剤は、UV照射によって粘着剤が「液体のようなベタつく状態」から「固体のような硬い状態」へと変化することで、固定と剥離という相反する要求を両立させる、非常に高度な技術と言えます。

UV照射により、粘着剤中の光開始剤が反応し、分子が網目状に架橋結合します。これにより、粘着剤が硬化して粘着性を失い、被着体との接触面積が減少し、容易に剥がれるようになります。糊残りも抑制され、デリケートな半導体の扱いに適しています。
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