この記事で分かること
- コロイダルシリカとは:二酸化ケイ素の非常に微細な粒子が、水などの液体中に均一に分散した状態の物質で、その微細な粒子サイズと表面特性から、様々な分野で幅広く利用されています。
- 研磨剤として優れる理由:均一なナノ粒子径と球状の粒子形状により、研磨対象へのスクラッチ(傷)を最小限に抑えつつ、精密な平坦化を可能にします。
扶桑化学工業、超高純度コロイダルシリカの増産
扶桑化学工業は、半導体製造工程で不可欠な研磨剤の原料である超高純度コロイダルシリカの販売倍増を目指しています。
https://chemicaldaily.com/archives/655098
目標達成のため、同社は大規模な設備投資を行っています。京都事業所の増設設備は既に完成しており、鹿島事業所でも2025年7月に増設設備が稼働開始予定です。これらの投資により、2022年度比で約1.5倍の生産能力となる見込みです。
コロイダルシリカとはなにか
「コロイダルシリカ」とは、シリカ(二酸化ケイ素、SiO2)の非常に微細な粒子が、水などの液体中に均一に分散した状態のものです。別名「シリカゾル」とも呼ばれます。
主な特徴
- ナノメートルサイズの粒子: 粒子の大きさは通常10nmから300nm程度と非常に小さく、肉眼では見えません。このナノサイズであることが、様々なユニークな性質と幅広い用途をもたらします。
- コロイド状態: 粒子が液体中に沈殿することなく、安定して分散している状態を指します。
- 透明~半透明の液体: 粒子が非常に小さいため、透明または半透明の液状を呈します。
- 高純度: 特に半導体分野などで使われる超高純度コロイダルシリカは、不純物を極限まで排除して製造されます。
コロイダルシリカの主な機能と用途
その微細な粒子サイズと表面特性から、様々な分野で幅広く利用されています。
- 研磨剤:
- 半導体製造: 半導体ウェーハやガラス、サファイアなどの精密研磨(CMP: 化学的機械的平坦化)に不可欠な研磨剤として使用されます。微細な凹凸を均一に研磨し、高精度な平坦面を作り出します。
- その他、レンズ、磁気ディスク、金属などの研磨にも用いられます。
- バインダー(結合剤):
- 精密鋳造: 金属製品を製造する際の鋳型用結合剤として使用され、精度の高い鋳物を実現します。
- 耐火物: 高温用途の耐火物の製造において、結合剤として強度を高めます。
- 塗料: 顔料の分散性を向上させたり、塗膜の硬度や耐久性を高めるために添加されます。
- 製紙: 紙の強度向上や滑り止めとして利用されます。
- 表面改質剤:
- 増摩性: 固体表面に付着することで摩擦係数を増大させ、滑り止め効果を発揮します。
- 皮膜形成: 固体表面に強固に付着し、充填皮膜を形成します。
- 親水性の付与: 表面の濡れ性を向上させたり、帯電防止効果を持たせたりします。
- 硬度付与: 有機材料に添加することで、硬さを向上させます。
- その他:
- ゲル化・増粘: 均一なゲル形成や増粘効果に利用されます。
- 含浸充填: 多孔質物質への含浸充填や耐火性付与に用いられます。
- 有機樹脂の改質補強: 有機樹脂に均一に分散混合することで、機械的、工学的、電気的な特性を改善します。
- 断熱材: 中空シリカパウダーとして、建材や車載バッテリー用の断熱材にも応用されています。
- 低誘電材: 比誘電率が小さい特性を活かし、高周波用基板向けの低誘電材フィラーとしても開発が進められています。
製造方法
コロイダルシリカの製造方法にはいくつかありますが、主なものとしては以下の方法があります。
- ゾルゲル法: 有機ケイ素化合物(アルコキシシランなど)を加水分解・重縮合させることで、高純度で粒径や形状を制御しやすいコロイダルシリカを合成します。扶桑化学工業の超高純度コロイダルシリカは、このゾルゲル法で合成されています。
- ケイ酸ソーダ(水ガラス)を原料とする方法: ケイ酸ソーダに硫酸などを添加して中和することでシリカ粒子を生成させる方法です。安価ですが、不純物を含みやすい傾向があります。
このように、コロイダルシリカはナノテクノロジーの進展とともに、その多様な機能性が注目され、今後も様々な産業分野での応用が期待されています。

コロイダルシリカは、二酸化ケイ素の非常に微細な粒子が、水などの液体中に均一に分散した状態の物質で、その微細な粒子サイズと表面特性から、様々な分野で幅広く利用されています。
なぜ研磨剤として優れているのか
コロイダルシリカが研磨剤として、特に半導体製造のような精密な研磨において優れている理由は多岐にわたります。
1. ナノレベルでの精密な研磨が可能
- 均一な粒径と形状: コロイダルシリカは、製造プロセス(特にゾルゲル法)によって、非常に均一な粒径と、球状に近い形状を持つ粒子を形成できます。これにより、研磨対象表面を均一に研磨し、不均一な研磨や局所的なダメージを防ぎます。
- 低スクラッチ性: 球状の粒子は、研磨対象表面に点で接触しにくく、面で接触する傾向があるため、引っかき傷(スクラッチ)の発生を大幅に低減できます。これは、半導体ウェーハの表面にわずかなスクラッチも許されないという要求に応える上で極めて重要です。フュームドシリカなどの不規則な形状の粒子と比較して、この点が大きな利点となります。
- 微細な凹凸の除去: ナノメートルサイズの粒子が、表面のナノレベルの凹凸や段差を効率的に除去し、極めて平坦な表面を作り出します。
2. 化学的機械的平坦化 (CMP) における高い適合性
- 化学研磨と機械研磨のバランス: コロイダルシリカは、単なる機械的な研磨だけでなく、スラリー中の化学液と連携して化学的な溶解作用を促進する働きも持ちます。この化学的・機械的な作用の絶妙なバランスが、効率的かつダメージの少ない研磨を可能にします。コロイダルシリカ自体が、研磨対象表面との化学反応を助ける役割を果たすこともあります。
- 表面化学特性の調整: コロイダルシリカ粒子の表面は、水酸基(シラノール基)が豊富に存在しており、pHや添加剤によって表面電荷(ゼータ電位)を調整できます。これにより、スラリー中の粒子の分散安定性を高めたり、研磨対象との相互作用を最適化したりすることが可能です。
- 高純度: 半導体製造においては、金属不純物などが極めて厳しく管理されるため、超高純度のコロイダルシリカが不可欠です。コロイダルシリカの製造技術は、この高純度要求に応えるレベルに達しています。
3. 多様な材料への適用性
- 幅広い材料への対応: シリコンウェーハの鏡面研磨はもちろん、半導体製造における銅配線、バリアメタル(タンタル、窒化タンタルなど)、層間絶縁膜(SiO2など)など、多様な材料のCMPに適用できます。
- スラリー設計の柔軟性: コロイダルシリカをベースとして、様々な添加剤(酸化剤、錯化剤、pH調整剤など)を組み合わせることで、研磨対象の材料特性や要求される研磨レート、選択比(特定の材料だけを研磨する能力)に応じて、最適なスラリーを設計することが可能です。
4. 安定性と再現性
- 優れた分散安定性: 水中に安定して分散しているコロイド状態であるため、時間が経っても沈降しにくく、スラリーとして均一な状態で使用できます。これにより、安定した研磨性能と高い再現性が得られます。
これらの理由から、コロイダルシリカは、特に半導体や光学部品、ハードディスクなどの精密な研磨が求められる分野において、他の研磨剤(アルミナ、ダイヤモンドなど)と比較して、非常に優れた選択肢として広く利用されています。半導体の微細化が進むにつれて、その重要性はますます高まっています。

コロイダルシリカは、均一なナノ粒子径と球状の粒子形状により、研磨対象へのスクラッチ(傷)を最小限に抑えつつ、精密な平坦化を可能にします。また、高純度であるため半導体製造のような極めてクリーンな環境で利用可能です。これらの特性が、高い研磨性能と品質を両立させる理由です。
コロイダルシリカはどのように作られるのか
コロイダルシリカの製造方法にはいくつかの種類がありますが、特に高純度なものが求められる半導体用途では、ゾルゲル法(Sol-Gel Process)が主流です。その他、ケイ酸ソーダ(水ガラス)を原料とする方法もあります。
1. ゾルゲル法 (Sol-Gel Process)
扶桑化学工業の超高純度コロイダルシリカもこの方法で製造されています。
原理
有機ケイ素化合物(アルコキシシランなど)を原料とし、これを水中で加水分解・重縮合させることで、シリカ粒子を生成・成長させます。
主な原料
- アルコキシシラン: テトラメチルオルトシリケート(TMOS)、テトラエチルオルトシリケート(TEOS)などが代表的です。これらは蒸留精製することで、極めて高純度な原料として使用できます。
製造工程の概要
- 原料の加水分解: アルコキシシランに水と触媒(酸または塩基)を加えて加水分解反応を起こさせます。Si(OR)4+4H2O→Si(OH)4+4ROH(Rはアルキル基、例:メチル基、エチル基)この段階で、シリカの基本単位であるシラノール基(-Si-OH)が生成されます。
- 重縮合反応と粒子形成: 生成したシラノール基同士が脱水縮合反応を起こし、Si-O-Si結合を形成しながら一次粒子が生成されます。2Si(OH)4→(HO)3Si−O−Si(OH)3+H2Oこの一次粒子がさらに重縮合を繰り返し、球状のシリカ粒子が成長していきます。
- 粒子の成長と安定化: 反応条件(pH、温度、濃度、触媒の種類など)を厳密に制御することで、粒子のサイズ、形状、粒度分布を調整します。粒子表面にはシラノール基が残存し、水中で安定して分散するコロイド粒子となります。必要に応じて、表面処理を施して分散安定性を高めたり、特定の機能を持たせたりします。
ゾルゲル法の利点
- 高純度: 高純度なアルコキシシランを原料とすることで、最終製品も極めて高純度になります(半導体用途で重要な99.9999%などの純度を達成可能)。
- 粒径・形状の制御性: 反応条件を細かく制御することで、粒子の大きさをナノメートルレベルで精密に制御でき、球状で均一な粒子を得やすいです。
- 分散安定性: 水中で安定した分散液(ゾル)を容易に形成できます。
2. ケイ酸ソーダ(水ガラス)を原料とする方法
原理
ケイ酸ソーダ水溶液に酸を加えて中和し、シリカ粒子を析出・成長させます。
主な原料
- ケイ酸ソーダ(水ガラス): 二酸化ケイ素とアルカリ金属酸化物(主にNa2O)の複合化合物です。安価で入手しやすい原料です。
製造工程の概要
- ケイ酸の生成: ケイ酸ソーダ水溶液に酸(硫酸、塩酸など)を徐々に添加し、pHを調整しながらケイ酸モノマーを生成させます。Na2O⋅nSiO2+H2SO4→nSiO2⋅H2O+Na2SO4(nSiO2⋅H2Oは活性シリカまたはケイ酸)
- 粒子の成長と安定化: 生成したケイ酸モノマーが重縮合反応を起こし、シリカ粒子が形成・成長します。この際、pH、温度、塩濃度などを制御することで、粒子の凝集を防ぎ、安定したコロイド溶液を得ます。この方法では、イオン交換樹脂を用いてナトリウムイオンなどの不純物を除去し、純度を高めることも行われます。
ケイ酸ソーダ法の利点
- 低コスト: 原料が安価なため、比較的低コストで製造できます。
ケイ酸ソーダ法の課題
- 不純物: 天然のケイ砂を原料とすることが多く、金属不純物などが混入しやすい傾向があります。半導体用途のように極限の純度が求められる場合は、その精製にコストがかかります。
- 粒径制御の難しさ: ゾルゲル法と比較して、粒径や粒度分布の精密な制御が難しい場合があります。
製造における重要なポイント
いずれの方法においても、コロイダルシリカの製造で最も重要な課題の一つはゲル化の防止です。シリカ粒子が過度に凝集してゲル化してしまうと、流動性を失い、コロイド溶液としての機能が損なわれます。
そのため、反応中のpH、温度、濃度、電解質濃度、分散剤の添加など、様々な要因を厳密に制御して、安定したコロイド状態を維持することが求められます。
半導体用途の超高純度コロイダルシリカは、特にゾルゲル法によって、不純物の徹底的な除去と、ナノメートルレベルでの粒径・形状・表面特性の精密な制御が実現されています。

コロイダルシリカの主な製造法は、高純度なアルコキシシランを原料とするゾルゲル法です。この方法では、原料を加水分解・重縮合させ、粒径や形状を精密に制御した球状シリカ粒子を生成します。これにより、不純物を極限まで抑え、高品質なコロイダルシリカを得ることが可能です。
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