ジーエルテクノ、ベトナムに新工場 石英がどのように利用されているのか?脱中国を検討する企業は多いのか?

この記事で分かること

  • 石英の利用:石英製品は半導体製造の主要な工程のほぼ全てで、光の透過性や純度などその優れた特性を活かして、高品質な半導体デバイスの製造に使用されています。
  • 光を透過しやすい理由:バンドギャップが大きく、可視光が入射しても電子が励起されないため、吸収がない、不純物が少ない、非晶質であるなどの理由から光を透過しやすくなっています。
  • 脱中国の動向:米中対立などの地政学リスクや人件費の高騰などを背景に、中国以外の国に製造拠点を移す国も増えています。ただし、中国市場は依然として大きく、中国にも製造拠点を残すチャイナ+1を採用する企業も多くいます。

ジーエルテクノ、ベトナムに新工場

 ジーエルテクノホールディングスは、ベトナム北部ハナム省に半導体製造装置用石英製品などの製造・仕入・販売を担う新工場を建設することを発表しました。

ジーエルテクノ、ベトナムに新工場 中国リスク回避
ジーエルテクノホールディングス(HD)はベトナムで半導体の製造装置に使う石英ガラス製品の工場を建設し、中国から米国の顧客向けに生産を移管する。総投資額は約50億円で、2027年1月からの製造開始を目指...

 半導体製造装置向け石英製品の生産能力増強と価格競争力の強化し、米中摩擦や人件費高騰、地政学リスクなどを考慮し、サプライチェーンの分散と国内生産強化を進める一環として、ベトナムでの生産体制を確立するものとしています。

石英製品はどんな半導体装置で使われるのか

 石英製品は、その優れた特性(高い純度、耐熱性、耐食性、光透過性、電気絶縁性など)から、半導体製造装置の様々な工程で不可欠な部品として使用されています。

熱処理装置(拡散炉、CVD炉など)

  • ウェーハボート/キャリア: シリコンウェーハを高温環境で処理する際に、ウェーハを載せて運搬するための容器や治具として使われます。高温下での安定性と不純物の発生の少なさが求められます。
  • 炉芯管: 拡散炉などの炉の内部で使用される管で、高温の環境を維持しつつ、不純物の混入を防ぐ役割があります。
  • るつぼ: シリコンインゴット(半導体ウェーハの元となる高純度なシリコンの塊)を製造する際に、溶融したシリコンを入れる容器として使用されます。不純物の混入を極力抑えるために高純度な石英が使われます。

成膜装置(CVD、PVD、スパッタリングなど)

  • プロセスチューブ/チャンバー部品: 薄膜を形成するプロセスにおいて、ウェーハを置く場所や、反応ガスが通過する部分など、プロセスチャンバー内の様々な部品に石英が使用されます。高温や反応ガスに耐える必要があります。
  • サセプター: ウェーハを保持し、加熱する台として使用されます。
  • エッチング装置
  • プロセスチャンバー部品: 半導体回路を形成するために不要な部分を除去するエッチングプロセスにおいて、高腐食性のガスやプラズマに晒される部品として使用されます。高い耐食性が求められます。
  • 石英リング、プレートなど: プラズマを生成・制御するための部品や、ウェーハを固定するための部品など。

露光装置

  • レンズ、フォトマスクブランクス: 半導体回路パターンをウェーハに転写する露光プロセスにおいて、高精細な回路を形成するために、非常に純度が高く、光透過性に優れた石英ガラスがレンズやフォトマスクの原版(ブランクス)として使用されます。特にEUV露光技術では、合成石英ガラスが不可欠です。
  • ステージ部品: 露光装置のステージなど、温度変化による寸法変化を極力抑える必要がある部分にも低熱膨張の石英が使われます。

ウェーハ洗浄装置

  • 容器、治具: 化学薬品を用いた洗浄工程において、高純度で耐薬品性に優れた石英製の容器や治具が使用されます。

石英製品は半導体製造の主要な工程のほぼ全てで、その優れた特性を活かして、高品質な半導体デバイスの製造に使用されています。

なぜ光の透過性が高いのか

 石英(SiO2)製品が光の透過性が非常に高いのは、主に以下の3つの理由によります。

1. 純度が高い


 石英ガラスは、二酸化ケイ素(SiO2) を主成分としており、他のガラスと比較して不純物の含有量が極めて少ないのが特徴です。

 特に、半導体製造装置などで使われる「合成石英」は、化学的に合成されるため、金属不純物や水酸基などの不純物がほとんど含まれていません。不純物は光を吸収したり散乱させたりする原因となるため、純度が高いほど光は妨げられることなく透過します。

2. ワイドなバンドギャップ


 物質が光を吸収するかどうかは、その物質の電子が持つエネルギー状態(バンドギャップ)と、入射する光のエネルギー(波長)の関係によって決まります。

  • バンドギャップとは: 物質中の電子が存在できないエネルギー領域のことで、価電子帯の最高エネルギー準位から伝導帯の最低エネルギー準位までのエネルギー差を指します。
  • 光の吸収: 物質が特定の波長の光を吸収するのは、その光のエネルギーがバンドギャップのエネルギーと一致するか、それ以上である場合に、電子が価電子帯から伝導帯へ励起されるためです。

 石英ガラスのバンドギャップは約8 eVと非常に大きく、これは可視光線(約1.65~3.3 eV)のエネルギーをはるかに超えています。そのため、可視光線が石英ガラスに入射しても、電子が励起されるのに十分なエネルギーがないため、吸収されることなくほとんどが透過します。

こ の大きなバンドギャップのおかげで、石英ガラスは可視光だけでなく、紫外線(特に深紫外線)や赤外線の一部まで高い透過性を示すことができます。

3. 非晶質構造(アモルファス構造)


 石英ガラスは、結晶のような規則正しい原子配列を持たず、非晶質(アモルファス)構造をしています。

 原子が不規則に配置されているため、光が結晶の粒界で散乱されることがありません。一般的なガラス(ソーダ石灰ガラスなど)も非晶質ですが、石英ガラスはその中でもSiO2の結合が強固で均一性が高いため、より光の散乱が少ないのです。

これらの特性が組み合わさることで、石英製品は半導体製造における露光装置のレンズや、光ファイバーなど、極めて高い透明性と光透過性が要求される分野で不可欠な材料となっています。

バンドギャップが大きく、可視光が入射しても電子が励起されないため、吸収がない、不純物が少ない、非晶質であるなどの理由から光を透過しやすくなっています。

脱中国を進めている企業はあるのか

 ジーエルテクノホールディングスのように、中国への生産依存度を下げ、サプライチェーンを多様化する「脱中国」の動きは、様々な業種で多くの日本企業が取り組んでいます。

脱中国の要因

  • 米中貿易摩擦・地政学リスク: 米国による対中貿易規制や、台湾問題など、地政学的な緊張の高まりが、サプライチェーンの分断リスクを意識させています。
  • 人件費高騰: 中国の人件費が上昇し、かつての「世界の工場」としてのコスト優位性が薄れています。
  • 「ゼロコロナ政策」の影響: 過去の中国の厳格なゼロコロナ政策による都市封鎖や工場停止が、生産活動に大きな影響を与え、サプライチェーンの脆弱性が露呈しました。
  • 国内回帰支援策: 日本政府が国内での生産設備投資を支援する補助金制度を設けるなど、国内回帰やサプライチェーン強靱化への支援策も後押ししています。
  • BCP(事業継続計画)対策: 特定の国・地域に生産拠点が集中することによるリスクを分散し、事業継続性を高める目的もあります。

具体的な企業の動きと移転先

多 くの企業が、中国以外のASEAN諸国(特にベトナム、タイ、インドネシア、マレーシア、フィリピンなど)や、一部は日本国内への生産移管を進めています。

  • 半導体関連企業:
    • TSMC(台湾): 熊本に大規模な工場を建設し、日本国内での半導体生産を強化しています。これは、日本政府の強力な支援も背景にあります。
    • ラピダス: 日本政府主導で設立された先端ロジック半導体の国産化を目指す新会社で、北海道に生産拠点を建設中です。
    • キオクシア、ルネサスエレクトロニクス、JSMCなど: 日本国内での半導体関連投資が活発化しています。
    • ジーエルテクノホールディングスのように、半導体製造装置向けの部品供給企業も、サプライチェーンの多様化を進めています。
  • 電子部品・精密機器メーカー:
    • 村田製作所、京セラ、TDKなど: 中国での生産比率を下げ、ベトナムやタイなどに生産を移管する動きが見られます。特に高機能・高付加価値製品の生産を分散する傾向があります。
    • Appleのサプライヤー(Foxconn、Luxshareなど): Appleからの要請もあり、iPhoneやiPadなど一部製品の生産をベトナムやインドに移管する動きを加速させています。
  • 自動車関連メーカー:
    • トヨタ自動車、ホンダ、日産自動車など: 中国市場の重要性は依然として高いものの、生産拠点の分散や、ASEAN諸国での現地生産・開発体制の強化を進めています。特に電気自動車(EV)関連部品のサプライチェーン再編も進んでいます。
  • アパレル・繊維製品:
    • 中国の「ゼロコロナ政策」の影響を特に受けやすかった分野の一つで、ベトナムやバングラデシュなどへの生産移管が加速しました。一部では国内生産への回帰も検討されています。
  • その他製造業全般:
    • 部品メーカーから完成品メーカーまで、多くの製造業で中国以外の生産拠点の検討・設立が進んでいます。ベトナムは地理的な近さや労働力の豊富さから、特に有力な移管先として注目されています。

米中対立などの地政学リスクや人件費の高騰などを背景に、中国以外の国に製造拠点を移す国も増えています。ただし、中国市場は依然として大きく、中国にも製造拠点を残すチャイナ+1を採用する企業も多くいます。

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