この記事で分かること
- 酸発生剤とは:光や熱の刺激で酸を発生させる化合物です。発生した酸は、光硬化性樹脂の硬化開始剤や半導体製造のフォトレジスト材料に利用され、微細加工や製品製造に不可欠な材料です。
- ガリウムが使用される理由:PFAS(環境規制物質)を含まずに、従来の高性能光酸発生剤と同等以上の性能を実現できるためです。特に、硬化後の樹脂の透明性や耐熱性向上に貢献します。
三洋化成グループのガリウム系光酸発生剤
三洋化成グループのサンアプロが、PFAS(ペルフルオロアルキルおよびポリフルオロアルキル化合物)を含まないガリウム系光酸発生剤(PAG)の本格展開を開始し、拡販を進めています。
https://monoist.itmedia.co.jp/mn/articles/2506/30/news014.html
三洋化成グループは、このガリウム系酸発生剤を通じて、持続可能な産業の発展に貢献していく方針です。
酸発生剤とは何か
酸発生剤とは、特定の刺激(主に光や熱)を受けることで酸を発生する化合物のことです。発生した酸は、様々な化学反応の触媒として利用されます。
特に「光酸発生剤(Photo Acid Generator: PAG)」という言葉がよく使われます。これは、光(特に紫外線)を照射することで酸を発生するタイプの酸発生剤を指します。
酸発生剤の主な機能と用途
発生した酸は、主に以下の用途で用いられます。
- 光硬化性樹脂のカチオン重合開始剤:
- 光硬化性樹脂は、光を照射することで重合反応が進行し、硬化する材料です。
- 酸発生剤は、光を受けて発生した酸が重合反応の「きっかけ(開始剤)」となり、樹脂を硬化させます。
- 塗料、コーティング剤、接着剤、3Dプリンティング用材料、飲料缶の塗料など、幅広い分野で使用されています。
- 特にエポキシ樹脂などのカチオン重合系の樹脂硬化に利用されます。
- フォトリソグラフィー用レジスト材料:
- 半導体製造などで使われるフォトリソグラフィーの「化学増幅型レジスト」に不可欠な材料です。
- レジスト材料に光を照射すると、酸発生剤から酸が発生します。この酸がレジスト中のポリマーの化学構造を変化させ、現像によって露光部と未露光部に溶解度の差を生み出し、微細なパターンを形成します。
酸発生剤の仕組み
一般的な光酸発生剤は、以下の2つの部分から構成されています。
- 光を吸収する部分(カチオン部など): 光のエネルギーを受け取る部分です。
- 酸の発生源となる部分(アニオン部など): 光のエネルギーを受けた結果、酸として放出される部分です。
光が当たると、光吸収部分が励起され、分子内で分解反応が起こります。この分解によって、酸の発生源となる部分から酸が遊離し、周囲に拡散して触媒作用を発揮します。発生する酸が強いほど、触媒としての活性も高くなります。
酸発生剤の種類
酸発生剤には、光によって酸を発生する「光酸発生剤」の他に、熱によって酸を発生する「熱酸発生剤(Thermal Acid Generator: TAG)」もあります。
光酸発生剤の代表的な化学構造としては、以下のようなものがあります。
- オニウム塩型:
- スルホニウム塩
- ヨードニウム塩
- 非イオン型:
- イミドスルホネート
- オキシムスルホネート
三洋化成が拡販を進めている「ガリウム系酸発生剤」は、これらの分類に属しながらも、PFASを含まない新たな設計であることが特徴です。

酸発生剤は、光や熱の刺激で酸を発生させる化合物です。発生した酸は、光硬化性樹脂の硬化開始剤や半導体製造のフォトレジスト材料に利用され、微細加工や製品製造に不可欠な材料です。PFASフリーなど環境配慮型への開発が進んでいます。
なぜガリウムが使われるのか
三洋化成グループのサンアプロがPFASフリーのガリウム系光酸発生剤(PAG)を本格展開している背景には、ガリウム化合物が持つ特定の利点があります。
現時点での公開情報からは、ガリウムが直接的に酸発生剤の核心となるメカニズムの詳細が語られているわけではありませんが、以下の点がその選択理由として推測されます。
PFASフリーの実現と高性能の両立
- 従来の高性能な光酸発生剤には、PFAS(ペルフルオロアルキルおよびポリフルオロアルキル化合物)がアニオン部分に利用されることがありました。しかし、PFASは環境残留性が高く、世界的に規制が強化されています。
- ガリウム系酸発生剤は、PFASを使用せずに、従来のPFAS含有PAGと同等、あるいはそれ以上の性能を実現している点が最大の利点です。これは、環境規制への対応と、高性能材料へのニーズの両方を満たす画期的な技術と言えます。
硬化後の樹脂特性の向上
- ガリウム系PAGで硬化した樹脂は、高い透明性を保ち、高温下でも黄変しにくい特性を持つとされています。
- この特性は、ディスプレイや電子機器など、外観品質や光学特性が重視される製品への適用において非常に有利です。
特定の酸発生メカニズムにおける優位性 (推測)
- ガリウムは、周期表の13族元素であり、アルミニウムやインジウムと同族です。これらの元素は、有機金属化学において様々な反応性を示すことが知られています。
- 具体的な化合物構造は開示されていませんが、ガリウムを含むアニオン部が、光照射によって安定的に強力な酸を発生させる、あるいは、特定の光波長に高感度であるなどの特性を持つ可能性があります。
- また、ガリウムが関与することで、他の金属系酸発生剤では得られにくい貯蔵安定性や、特定の溶剤への溶解性などの物理化学的特性が向上している可能性も考えられます。
三洋化成がガリウム系酸発生剤を選んだのは、PFAS規制という社会的な要請に応えつつ、同 時に市場が求める高性能、特に光学特性や熱安定性といった付加価値を従来の材料以上に提供できるためであると考えられます。

ガリウムを使う主な理由は、PFAS(環境規制物質)を含まずに、従来の高性能光酸発生剤と同等以上の性能を実現できるためです。特に、硬化後の樹脂の透明性や耐熱性向上に貢献します。
ガリウム系酸発生剤はどのように光で酸を発生させるのか
ガリウム系光酸発生剤が光で酸を発生させる具体的なメカニズムは、一般の光酸発生剤(PAG)の基本的な仕組みに則っていると考えられます。三洋化成グループのサンアプロの資料などでも、光酸発生剤の一般的な酸発生機構が説明されています。
PAGは、主に以下の2つの部分で構成されています。
- 光を吸収する部分(カチオン部): 光のエネルギーを受け取り、励起状態になる部分です。
- 酸の発生源となる部分(アニオン部): 光吸収によって生じたエネルギーを受け、分解して酸(プロトン、H⁺)を放出する部分です。
ガリウム系PAGにおける酸発生の推測メカニズム
ガリウム系PAGにおいても、基本的なメカニズムは同様と考えられますが、アニオン部分にガリウム原子を含む特定の構造を持つことで、PFASフリーでありながら高性能を実現していると考えられます。
一般的なPAGのメカニズムとガリウムの特性から推測すると以下のようになります。
- 光吸収と励起:
- ガリウム系PAGの分子(特にカチオン部や、ガリウムを含む特定のアニオン構造の一部)が、特定の波長(例えば紫外線)の光を吸収します。
- 光エネルギーを吸収した分子は、高エネルギーの励起状態になります。
- 分子内での電子移動・分解:
- 励起状態になった分子は不安定になり、分子内で電子移動や結合の開裂(分解)が起こります。
- この分解過程で、ガリウムを含むアニオン構造から、**プロトン(H⁺)**が遊離(発生)します。
- 酸の遊離と触媒作用:
- 遊離したプロトンは「酸」として機能し、周囲の樹脂や他の成分と反応を開始します。
- 例えば、光硬化性樹脂の場合は、この酸がカチオン重合の開始剤となり、樹脂の硬化を促進します。
ガリウムの役割の推測
ガリウムがこのプロセスにおいてどのような役割を果たしているのかは、以下の点が考えられます。
- アニオンの安定性・反応性制御: ガリウム原子を含むアニオン構造が、光を受けた際に効率的かつ選択的に酸を発生するように設計されている可能性があります。PFASの代わりに、ガリウムがアニオンの構造安定性や、酸発生の効率性を担保していると考えられます。
- 発生する酸の強度制御: 発生する酸の強度や、反応性(ルイス酸としての特性など)が、ガリウムの特性によって適切に制御されている可能性があります。
- 光感度の調整: ガリウムを含む分子構造が、特定の光波長(例えば、高感度なUV-LED光など)に対して高い吸収効率と酸発生効率を持つように設計されている可能性もあります。
このように、ガリウム系光酸発生剤は、従来のPAGの原理を踏まえつつも、ガリウムを導入することで、PFASフリーという環境要請を満たしながら、高性能(高透明性、耐熱性など)を実現する独自の分子設計がなされていると考えられます。

ガリウム系光酸発生剤は、光を吸収すると分子内で分解反応が起こり、そこからプロトン(酸)が遊離します。この発生した酸が触媒として機能し、樹脂の硬化などを促進します。ガリウムがPFASフリーで高透明性・耐熱性を両立する独自の酸発生メカニズムを可能にしています。
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