ファーウェイの新型PCの半導体の世代 どれくらい古い世代なのか?どのような技術の欠如が原因なのか?

この記事で分かること

  • 使用される半導体の世代:現在の最先端である3nmや5nmプロセスと比較すると、約2世代前の技術にあたります。これは、米国の制裁によりファーウェイが最新技術にアクセスできない現状を示しています。
  • どのような技術の欠如が原因か:主に米国制裁によるEUV露光装置と最先端の半導体製造プロセスへのアクセス制限が要因です。
  • SMIC(中芯国際集成電路製造)とは:中国最大の半導体ファウンドリ企業です。最新技術こそ使用できませんが、7nmプロセスまでの量産を行っています。

ファーウェイの新型PCの半導体の世代

 ファーウェイの新型PC「メイトブック・フォールド」には、カナダの調査会社テックインサイツの報告によると、SMIC製の旧世代半導体が搭載されているとのことです。この情報はニューズウィーク ジャパンで報じられています。

 https://www.newsweekjapan.jp/headlines/business/2025/06/557577.php

 アメリカ政府による制裁によって、最先端の半導体製造技術および関連機器へのアクセスが制限されていることが大きな理由とされています。

どれくらい前の半導体なのか

 ファーウェイの新型PC「MateBook Fold」に搭載されている半導体は、カナダの調査会社TechInsightsの分析によると、SMICの7nm (N+2) プロセスで製造された「Kirin X90」チップであるとされています。

 この「7nm (N+2) プロセス」は、最先端のEUV(極端紫外線)露光装置を使用せず、DUV(深紫外線)多重露光技術を用いて7nm級の製造を実現したものです。

 現状、TSMCやサムスン電子といった最先端のファウンドリは、すでに3nmや5nmといったさらに微細なプロセスでの量産を進めています。そのため、SMICの7nm (N+2) プロセスは、これらの最新プロセスと比較すると、約2世代ほど前の技術と見なされます。

具体的にどれくらい前かというと

  • 最先端(TSMCなど): 3nm, 5nm (現在量産中)
  • SMICのKirin X90: 7nm (N+2)

 したがって、今回の指摘は、ファーウェイが最新世代のPCに、現在の業界標準から見て2世代ほど前の製造技術で作られた半導体を使用していることを意味します。これは、米国の制裁によってファーウェイが最先端の半導体製造技術や装置にアクセスできない状況を反映していると考えられます。

SMIC製の「Kirin X90」チップは、7nm (N+2) プロセスで製造されており、現在の最先端である3nmや5nmプロセスと比較すると、約2世代前の技術にあたります。これは、米国の制裁によりファーウェイが最新技術にアクセスできない現状を示しています。

どのような技術へのアクセス禁止の影響が大きいのか

 ファーウェイが新型PCで旧世代の半導体を使わざるを得ない主な要因は、アメリカ政府による制裁によって、最先端の半導体製造技術および関連機器へのアクセスが制限されているためです。

具体的には、以下の点が挙げられます。

EUV(極端紫外線)露光装置の不足

 現在、3nmや5nmといった最先端の半導体を製造するには、オランダのASML社が独占的に製造しているEUV露光装置が不可欠です。

 アメリカの制裁により、ASML社は中国企業にEUV露光装置を輸出することが事実上禁止されており、ファーウェイやSMIC(ファーウェイのチップ製造を請け負う中国の半導体メーカー)はこれを入手できません。SMICが7nmチップを製造するのに使用しているのは、旧世代のDUV(深紫外線)露光装置を多重露光することで、EUVなしで7nm級の性能を実現する苦肉の策です。

ASMLの記事はこちら

最先端の半導体製造プロセス技術へのアクセス制限

 世界最先端の半導体受託製造企業であるTSMC(台湾積体電路製造)やSamsung Foundry(韓国)は、アメリカの技術が一部でも使われている限り、アメリカ政府の許可なしにファーウェイ向けのチップを製造することができません。これにより、ファーウェイは、これらの企業が提供する3nmや5nmといった最先端の製造プロセスを利用できなくなっています。

半導体設計ソフトウェア(EDAツール)の制限

 最先端の半導体を設計するためには、米国のケイデンス(Cadence)やシノプシス(Synopsys)といった企業が提供するEDA(Electronic Design Automation)ツールが不可欠です。これらのツールの最新版や、特定の技術を含むものへのアクセスも、制裁の対象となっている可能性があります。

 EDAについての記事はこちら

 これらの技術的制約により、ファーウェイは、自社で設計した高性能なチップであっても、それを最先端のプロセスで製造することが困難になり、結果として旧世代の半導体を採用せざるを得ない状況にあります。

最新技術の欠如は、主に米国制裁によるEUV露光装置最先端の半導体製造プロセスへのアクセス制限が要因です。これにより、ファーウェイは3nmや5nmといった最先端チップを製造できず、旧世代の7nmプロセスに留まらざるを得ません。

SMICとはどんな会社か

 SMICは「Semiconductor Manufacturing International Corporation(中芯国際集成電路製造)」の略で、中国の上海に本社を置く半導体製造を専門とする企業です。

主な特徴は以下の通りです。

  • ファウンドリ企業: 他社(ファブレス企業など)から設計図を受け取り、半導体チップの製造を請け負う専門企業です。
  • 中国最大手: 中国本土で最大の半導体ファウンドリであり、中国の半導体国産化政策の中核を担っています。
  • 国策企業としての側面: 公開企業でありながら、中国政府系ファンドなどが主要株主となっており、国策的な役割も果たしています。
  • 技術力: 350nmから現在では7nmまでのプロセス技術で、集積回路の製造サービスを提供しています。特に、最先端のEUV露光装置なしで7nmプロセスを達成したことで注目を集めました。
  • 米国の制裁対象: アメリカ政府の輸出規制(エンティティリストなど)の対象となっており、最先端の製造装置や技術の入手が制限されています。これにより、最新世代の半導体製造で世界のトップ企業とは差があります。

 世界的に見ても有数の半導体ファウンドリの一つですが、特に中国国内の半導体需要を支える重要な存在です。

SMIC(中芯国際集成電路製造)は、中国最大の半導体ファウンドリ企業です。他社の設計に基づき半導体を製造し、中国の半導体国産化を推進しています。現在は7nmプロセスまで手がけますが、米国の制裁により最先端技術へのアクセスが制限されています。

なぜ、EUV無しで7nmプロセスを達成できたのか

 SMICがEUV(極端紫外線)露光装置なしで7nmプロセスを達成できたのは、主にDUV(深紫外線)多重露光(multi-patterning)技術を駆使したためです。

 通常、半導体の微細化には、より短い波長の光を使用する露光装置が必要です。EUVは13.5nmという非常に短い波長で、一度の露光で微細なパターンを形成できます。

 一方、SMICが使用しているDUV露光装置は193nmといった比較的長い波長でしか露光できません。そのため、7nmのような極めて微細なパターンを形成するには、以下の技術を組み合わせています。

  • 多重露光(Multi-patterning): これは、同じ領域に設計パターンを複数回(2回、3回、4回など)に分けて露光・エッチングを繰り返すことで、一度の露光では形成できない微細なパターンを作り出す技術です。例えば、ダブルパターニング(Double Patterning)、セルフアラインド・ダブルパターニング(SADP)、セルフアラインド・クアッドパターニング(SAQP)などがあります。
  • DUV液浸リソグラフィ: 光源とシリコンウェーハの間に液体(通常は純水)を満たすことで、光の屈折率を利用し、解像度を向上させる技術です。

 これらの技術を組み合わせることで、EUVなしでも7nm級のパターン形成が可能になります。しかし、この方法は非常に複雑で、製造工程が増えるため、コストが高くなり、生産に時間がかかり、そして最も重要な点として、歩留まり(良品率)が低下するという課題があります。

 TSMCなども7nmプロセスの初期段階ではDUV多重露光を使用していましたが、量産性とコスト効率を高めるためにEUVへ移行しました。

SMICは、EUVなしで7nmを達成するため、波長の長いDUV(深紫外線)露光装置を用いて、多重露光(マルチパターニング)技術を駆使しました。これにより、複数回露光・エッチングを繰り返すことで、本来EUVが必要な微細パターン形成を実現しました。

コメント

タイトルとURLをコピーしました