この記事で分かること
- 要請の理由:自社の脱炭素目標達成のため、主要サプライヤーであるキオクシアに対し、サプライチェーン全体の排出量(Scope3)を削減するべく、2029年までに100%再エネの使用を要求しました。
- キオクシアの対応:中部電力グループの水力発電を長期契約で調達するほか、工場屋根などに自家消費型太陽光発電システムを導入することで、再生可能エネルギー比率を大規模に引き上げます。
キオクシアへのGoogleからの再生可能エネルギー比率引き上げ要請
キオクシア(KIOXIA)は、主要顧客であるGoogleからの要請に応える形で、工場の再生可能エネルギー(再エネ)比率の引き上げに向けた具体的な取り組みを発表しました。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC042XX0U5A201C2000000/
近年、世界的に企業のサプライチェーン全体での脱炭素化が求められており、特にIT大手企業は、自社の使用電力だけでなく、部品供給元であるサプライヤーにも高い再エネ比率を要求する傾向が強まっています。
どのように再エネ率を引き上げるのか
キオクシアが再生可能エネルギー(再エネ)比率を引き上げる主な方法は、長期にわたるクリーン電力の調達と、工場敷地内での発電設備の導入の2つです。
1. クリーン電力の長期調達(PPAモデルに近いスキーム)
最も大規模な再エネ調達が、中部電力グループと連携した長期的なクリーン電力の購入・利用です。
- 水力発電の活用:
- 中部地方にある既存の水力発電所の改修を行い、発電効率と発電量を向上させます。
- キオクシアは、その水力発電所で発電されたクリーン電力を長期契約に基づき購入し、自社の工場で使用します。
- 調達規模:
- このスキームにより、年間160ギガワット時(GWh)程度(一般家庭約4万軒分)の再エネ電力を確保する見込みです。
- これは、電力会社から再エネの証書を購入するだけでなく、発電設備と利用者が結びつくことで、実質的な再エネ導入を促進する仕組みです。
2. 自家消費型太陽光発電システムの導入
工場の敷地内や屋根などに太陽光発電設備を設置し、発電した電力をそのまま工場で消費する仕組みです。
- PPA(Power Purchase Agreement)モデルの活用:
- 工場敷地内の新・第2製造棟など、複数の拠点で自家消費型太陽光発電システムを導入しています。
- これは、PPAモデル(第三者所有モデル)を利用するケースが多く、発電事業者がキオクシアの敷地内に設備を設置・所有し、発電した電力をキオクシアが購入する形を取ります。
- メリット:
- 発電した電力をその場で消費するため、送電ロスが少なく、自社の再エネ比率向上に直接貢献します。
- 国内の半導体工場では最大規模の発電能力を持つ設備を導入するなど、積極的に進められています。
3. 再エネ証書の市場調達
上記の物理的な再エネ電力の利用に加え、再エネ証書の市場調達も行っています。
- FIT非化石証書など:
- 日本国内の代表的な再エネ証書であるFIT(固定価格買取制度)非化石証書などを市場で購入することで、使用電力に由来するCO2排出量を削減(オフセット)します。
キオクシアは、これらの複数の手法を組み合わせることで、2040年度までに再エネ使用比率を100%にするという目標達成を目指しています。

キオクシアは、中部電力グループの水力発電を長期契約で調達するほか、工場屋根などに自家消費型太陽光発電システムを導入することで、再生可能エネルギー比率を大規模に引き上げます。
Googleがキオクシアに要求した理由は何か
Googleがキオクシアに再生可能エネルギー(再エネ)比率の引き上げを要求した主な理由は、Google自身の脱炭素目標を達成するため、特にサプライチェーン全体での排出量(Scope3)を削減するためです。
キオクシアは、Googleのサーバーなどに使われるNAND型フラッシュメモリを供給する主要なサプライヤーであり、その製造過程で消費する電力は、Googleの排出量として算定されます。
1. Scope3排出量の削減
Googleの温室効果ガス(GHG)排出量は、自社の活動(Scope1、2)だけでなく、サプライチェーン(Scope3)が大きな割合を占めています。
- Scope3の重要性: サプライチェーン排出量(Scope3)は、企業全体の排出量の7割から9割を占めるとされ、自社内部の削減努力だけではカーボンニュートラルは達成できません。
- 排出量増加への対応: AI関連の成長やデータセンターのエネルギー消費増加に伴い、Googleの総GHG排出量は増加傾向にあります。そのため、原材料調達や部品製造を担うキオクシアのようなサプライヤーの排出量を削減することが、Googleにとって必須の戦略となっています。
2. サプライヤーへの100%再エネ要求
Googleは、自社のデータセンターやオフィスで消費する電力を2017年から100%再エネで賄っていると公表しています。この取り組みをさらに拡大し、サプライチェーンにも広げています。
- 目標設定: Googleは、2029年までに、キオクシアを含む主要なサプライヤーに対して、事業活動で使用するエネルギーを100%再生可能エネルギーで賄うことを求める新プログラムを発表しました。
- 競争力維持: 世界的な脱炭素化の流れの中で、サプライヤーにクリーンな電力使用を求めることは、製品の環境負荷を下げ、Googleの企業価値と競争力を維持するためにも重要です。
Googleがキオクシアに要求を出したのは、自社が設定した厳しい環境目標を達成するために、主要部品の製造過程から排出されるCO2を実質的にゼロにする必要があるためです。

Googleは自社の脱炭素目標達成のため、主要サプライヤーであるキオクシアに対し、サプライチェーン全体の排出量(Scope3)を削減するべく、2029年までに100%再エネの使用を要求しました。
Googleはキオクシアのどんな製品を購入しているのか
Googleがキオクシアから主に購入している製品は、Googleのデータセンターで利用されるNAND型フラッシュメモリを搭載したSSD(Solid State Drive)です。
これは、Googleが提供するクラウドサービスや検索、YouTubeなどの大量のデータを処理・保存するために不可欠な部品です。
主な購入製品とその用途
Googleがキオクシアに再エネ利用を要求するのは、キオクシアが製造するこれらの製品が、Googleの事業の根幹を支えているためです。
1. データセンター向けSSD(Solid State Drive)
Googleが最も大量に調達している主要製品です。
- 製品カテゴリー: エンタープライズ/クラウドデータセンター向けSSD
- 用途:
- データストレージ: Google Cloud Platform (GCP) やGoogle検索、Gmail、Google Drive、YouTubeなどのサービスで発生する膨大なユーザーデータやシステムデータを高速かつ大容量に保存するために使われます。
- AI/機械学習(ML): 特に近年は、生成AIの学習・推論に必要な大容量かつ高速なデータ処理を支えるために、高性能なSSD(例:KIOXIA CD/CM/LCシリーズなど)の需要が急増しています。
- サーバーの高速化: 従来のHDD(ハードディスクドライブ)に比べて読み書き速度が非常に速く、低遅延(レイテンシ)で動作するため、データセンター全体の効率と応答速度を劇的に向上させます。
2. NAND型フラッシュメモリ
SSDのコア部品であり、キオクシア(旧東芝メモリ)が世界で初めて開発した主要技術です。
- 製品カテゴリー: 3次元(3D)NANDフラッシュメモリ(BiCS FLASH™)
- 用途:
- SSDの内部に搭載される大容量の記憶素子です。
- Googleのスマートフォンやタブレットなどのコンシューマー向け製品の内部ストレージとしても利用されている可能性がありますが、取引の規模と重要性から見て、データセンター向けSSDが中心です。
キオクシアは、NANDフラッシュメモリの技術革新(積層技術や低消費電力化)をリードしており、その高性能なストレージソリューションは、Googleのようなハイパースケールなクラウドサービス事業者の要求を満たすために不可欠です。

Googleは、データセンターのクラウドサービスやAI処理に必要な高速・大容量のSSD(Solid State Drive)をキオクシアから主に購入しています。SSDにはキオクシアのNAND型フラッシュメモリが使われています。

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