JX金属新工場への政府補助金交付 補助の理由は?スパッタリングターゲットとは何か?

この記事で分かること

  • 補助の理由:半導体は現代社会に不可欠な戦略物資であり、地政学的リスクによる供給途絶や国際競争激化に対応するため、国内製造への支援は経済安全保障上極めて重要とされています。
  • スパッタリングターゲット材とは:導体やディスプレイ製造などで、高エネルギーイオンを衝突させて材料を弾き飛ばし、薄膜を形成する際の元となる高純度な固体材料です。

JX金属新工場への政府補助金交付

 JX金属が茨城県ひたちなか市に建設を進めている半導体材料の新工場に対し、経済産業省から最大約22億円の政府補助金が交付されることになりました。

https://www.meti.go.jp/policy/economy/economic_security/semicon/nintei_anpohandoutai_keikaku_25.pdf

 これは、経済安全保障推進法に基づく半導体等の安定供給確保に向けた支援措置の一環として、JX金属が進める半導体用スパッタリングターゲットの生産能力増強計画が認定されたことによるものです。

スパッタターゲット材に関する詳細記事はこちら

スパッタリングターゲットとは何か

 スパッタリングターゲットとは、半導体やディスプレイ、太陽電池などの製造において、薄膜を形成する際に材料となる固体のことです。

 「スパッタリング」という技術は、真空中で、スパッタリングターゲットに高エネルギーのイオンを衝突させることで、ターゲットを構成する原子や分子を弾き飛ばし、それを基板(シリコンウェハーやガラスなど)の上に堆積させて薄い膜を作るプロセスです。この時、イオンがぶつかる「的(ターゲット)」となるのが、スパッタリングターゲットです。

主な特徴と用途

  • 材料: 純粋な金属(アルミニウム、銅、チタンなど)、合金(ルテニウム合金、銀合金など)、酸化物(酸化ケイ素、酸化チタンなど)、セラミックスなど、多種多様な材料が使われます。薄膜に求められる特性(導電性、絶縁性、耐熱性、光学特性、磁性など)に応じて適切な材料が選ばれます。
  • 高純度: 半導体などの高性能なデバイスでは、薄膜の品質が製品の性能に直結するため、スパッタリングターゲットには極めて高い純度が求められます。不純物が少ないほど、薄膜中に欠陥が生じにくくなります。
  • 用途:
    • 半導体製造: 集積回路の配線や電極、絶縁膜など、様々な薄膜の形成に不可欠です。
    • フラットパネルディスプレイ(FPD): 液晶ディスプレイや有機ELディスプレイの電極、透明導電膜などに使用されます。
    • 太陽電池: 発電層や電極の形成に用いられます。
    • ハードディスクドライブ(HDD): 磁気記録層の形成に使われます。
    • 光学部品: レンズやミラーの反射防止膜や保護膜などに応用されます。
    • その他: 抗菌・消臭コーティング、耐摩耗性コーティングなど、様々な分野で活用されています。

 JX金属が茨城の新工場で生産を強化する半導体用スパッタリングターゲットは、まさにこうした先端半導体の製造に不可欠な素材であり、その安定供給は日本の産業競争力にとって極めて重要です。

スパッタリングターゲットは、半導体やディスプレイ製造などで、高エネルギーイオンを衝突させて材料を弾き飛ばし、薄膜を形成する際の元となる高純度な固体材料です。製品の機能に応じ、金属、合金、酸化物など多様な材料が用いられます。

経済安全保障推進法とは何か、なぜ半導体製造への支援を行うのか

 「経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律」、通称「経済安全保障推進法」は、国際情勢の複雑化や社会経済構造の変化に伴い、安全保障を確保するために、経済活動を通じて行われる国家や国民の安全を害する行為を未然に防止することを目的とした法律です。2022年5月に成立しました。

 具体的には、以下の4つの柱で構成されています。

重要物資の安定的な供給の確保に関する制度:

 経済活動や国民生活に不可欠な特定重要物資について、その供給網(サプライチェーン)を強化し、安定的な供給を確保するための支援を行います。

基幹インフラ役務の安定的な提供の確保に関する制度

  電力、通信、金融などの基幹インフラが、外部からの妨害行為によって停止するのを防ぐため、重要設備の導入・維持管理等について事前審査を行います。

先端的な重要技術の開発支援に関する制度

 経済安全保障上、重要となる先端技術の研究開発を国が支援し、国際競争力の強化と技術基盤の確保を目指します。

特許出願の非公開に関する制度

 軍事転用可能な技術など、安全保障上重要な技術に関する特許出願について、その公開を制限する制度です。

なぜ、半導体製造への支援を行うのか?

 経済安全保障推進法に基づき、半導体製造への支援が積極的に行われる理由は、主に以下の点が挙げられます。

  1. 半導体の戦略的重要性の増大:
    • 「産業のコメ」としての地位: 半導体は、スマートフォン、パソコン、自動車、家電製品、さらにはAIやIoTといった最先端技術の基盤となる、現代社会に不可欠な「産業のコメ」です。
    • 地政学的リスクと供給網の脆弱性: 近年、米中対立の激化、新型コロナウイルス感染症によるサプライチェーンの混乱、ウクライナ情勢など、地政学的なリスクが高まっています。特定の国や地域に半導体生産が集中している現状は、有事の際に供給が途絶し、世界経済や各国の安全保障に甚大な影響を与えるリスクをはらんでいます。
    • 国家安全保障上の位置づけ: 軍事技術や情報通信基盤においても半導体は不可欠であり、国家安全保障の観点からもその安定供給は極めて重要な課題となっています。
  2. 経済安全保障の観点からのサプライチェーン強靭化:
    • 過度な特定国への依存低減: 特定の国や地域への過度な依存は、政治的圧力や有事の際に経済的弱点となりえます。半導体の国内生産能力を強化することで、サプライチェーンの多様化を図り、リスクを分散させることが目的です。
    • チョークポイントの解消: 半導体製造プロセスは非常に複雑であり、特定の製造装置や素材が特定の企業や国に集中している「チョークポイント(ボトルネック)」が存在します。ここが途絶すると全体の生産が滞るため、これらの弱点を解消し、供給能力の維持・強化を図る必要があります。
  3. 国際競争力の維持・強化:
    • 各国政府による支援の活発化: 世界各国が半導体の重要性を認識し、巨額の補助金や税制優遇措置を導入して国内の半導体産業を育成・誘致する動きが活発化しています。日本も、国際的な競争環境の中で、自国の半導体産業の競争力を維持・強化するためには、政府による強力な支援が不可欠です。
    • 日本の強みの活用: 日本は、半導体製造装置や半導体材料の分野において世界的に高いシェアと技術力を持っています。これらの強みを活かし、半導体サプライチェーン全体の強靭化に貢献することが期待されています。

 これらの理由から、経済安全保障推進法は、半導体製造能力の国内回帰や強化を促進し、日本の経済的自立性と安全保障を確保するための重要な政策手段となっています。

経済安全保障推進法は、重要物資の安定供給、基幹インフラ保護、先端技術開発支援等を通じ、国の安全保障を経済面から強化する法律です。半導体は現代社会に不可欠な戦略物資であり、地政学的リスクによる供給途絶や国際競争激化に対応するため、国内製造への支援は経済安全保障上極めて重要とされています。

スパッタリングターゲットの有力企業はどこか

 スパッタリングターゲット市場は多岐にわたる材料と用途があるため、一概に「この企業が圧倒的」とは言えませんが、いくつかの主要な企業が大きなシェアを占めています。特に高純度な半導体向けスパッタリングターゲットにおいては、日本企業が強い存在感を示しています。

主なシェアを持つ企業としては、以下の名前が挙げられます。

  • JX金属(JX Nippon Mining & Metals Corporation / JX Advanced Metals): 半導体用スパッタリングターゲットにおいて、非常に高い世界シェアを持つリーディングカンパニーです。特に、先端半導体の微細配線に不可欠な銅やその他の金属ターゲットで強みを持っています。
  • マテリオン(Materion Corporation): アメリカの企業で、高機能材料メーカーとしてスパッタリングターゲットも提供しており、特にベリリウム銅合金などの特殊材料に強みがあります。
  • 三井金属鉱業: JX金属と同様に、日本を代表する非鉄金属メーカーであり、スパッタリングターゲットの分野でも主要なプレイヤーです。特にセラミック系ターゲットで高いシェアを持つとされています。
  • プランゼーSE(Plansee SE): オーストリアの企業で、モリブデンやタングステンなどの高融点金属をベースとしたスパッタリングターゲットに強みがあります。
  • 東ソー: 日本の化学メーカーで、セラミック系ターゲットや特定の金属ターゲットを提供しています。

これらの企業に加え、リサーチレポートなどでは、以下のような企業も主要なプレイヤーとして挙げられています。

  • リンデ(Linde)/プラクスエア(Praxair Technology, Inc.): 産業ガス大手のリンデ傘下のプラクスエアもスパッタリングターゲットを提供しています。
  • 日立金属(Hitachi Metals): 現在は、Hitachi Metals Ltd.として独立していますが、かつて日立グループの一員でした。
  • ハネウェル(Honeywell International Inc.): 多様な産業向け製品を手がけるグローバル企業で、スパッタリングターゲットも提供しています。
  • 住友化学: 日本の総合化学メーカーで、一部のスパッタリングターゲット材料を扱っています。
  • Konfoong Materials International Co. (KFMI): 中国の企業で、近年存在感を増しています。

 これらの企業は、それぞれ得意とする材料や用途の分野で強みを発揮し、世界のスパッタリングターゲット市場を形成しています。特に、半導体向けの高純度・高性能なターゲットにおいては、日本の技術力が非常に高い評価を受けています。

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