この記事で分かること
- 好調の要因:市場が好調な主な要因は、生成AIやデータセンター向けの需要急増です。これにより、最先端のロジック半導体やHBM(高帯域メモリー)の生産に向けた設備投資が活発化し、前工程装置への需要が大幅に伸びました。
- 好調だった装置:AI向け先端ロジックやHBM(高帯域メモリー)関連のDRAM製造に使う「前工程」装置が好調でした。特に、回路を精密に形成する露光装置や成膜装置、エッチング装置といった高性能な機器への需要が市場を牽引しました。
- 台湾の伸びが大きい理由:台湾の増加率が高いのは、TSMCがAI向け半導体生産の需要急増に応えるため、2nmプロセスなどの最先端工場へ大規模投資を行っているためです。これにより、製造装置の購入が飛躍的に増加し、市場を牽引しました。
世界半導体製造装置市場の成長
2025年第2四半期の世界半導体製造装置市場は、前年同期比で24%増の330億7,000万ドルに達し、力強い成長を遂げました。
https://eetimes.itmedia.co.jp/ee/articles/2509/08/news036.html
この市場の活況は今後も続くと見られています。国際半導体製造装置材料協会(SEMI)は、2025年の世界半導体製造装置市場全体の売上高が、前年比7.4%増の1,255億ドルに達し、過去最高を更新すると予測しています。
特に、AI関連の半導体需要の継続的な増加、および地政学的なリスクを分散するための地域間での投資が、今後も市場成長の主要なドライバーとなるでしょう。
どのような装置が好調だったのか
2025年第2四半期において、特に好調だった半導体製造装置は、「前工程」 および 「先端ロジック」、そして 「HBM関連のDRAM」 に関連する装置です。
具体的には、AIやデータセンター向けの高性能半導体の需要が急増しており、これらのチップを製造するための高度な技術を要する装置が活況を呈しました。
- 前工程装置: 半導体チップの回路をシリコンウェーハ上に形成する工程で使われる装置です。
- 露光装置(リソグラフィ): 半導体の微細化に不可欠な装置で、特に最先端のEUV(極端紫外線)露光装置は需要が非常に高いです。
- 成膜装置: 複数の膜を正確にウェーハ上に形成する装置で、多層構造の半導体には欠かせません。
- エッチング装置: 形成した膜を精密に削る装置です。
- HBM関連のDRAM製造装置: HBM(高帯域メモリー)は、AIサーバーの性能を左右する重要な部品であり、その製造には積層技術など、特殊な装置が必要となります。
これらの装置は、AI半導体やハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)向けのチップ製造に不可欠であり、世界の半導体メーカーが生産能力増強のために積極的に投資を行った結果、市場全体を牽引しました。
一方、後工程装置(テスト・組立装置)も堅調ではありますが、前工程装置の成長率が特に顕著であったことが、今回の市場拡大の大きな特徴と言えます。

AI向け先端ロジックやHBM(高帯域メモリー)関連のDRAM製造に使う「前工程」装置が好調でした。特に、回路を精密に形成する露光装置や成膜装置、エッチング装置といった高性能な機器への需要が市場を牽引しました。
前工程装置の具体的なメーカーは
半導体製造の前工程装置は、非常に専門性が高く、特定の装置で高い市場シェアを持つ企業がいくつか存在します。好調だった主要な前工程装置ごとの代表的なメーカーは以下の通りです。
露光装置
- ASML(オランダ): 半導体の微細化に不可欠なEUV(極端紫外線)露光装置を世界で唯一製造しており、この分野で圧倒的な市場シェアを誇ります。
- ニコン(日本): DUV(深紫外線)露光装置を中心に、技術力のあるメーカーとして知られています。
- キヤノン(日本): 露光装置の製造を手がけ、特にナノインプリント技術にも注力しています。
成膜装置
- アプライド・マテリアルズ(米国): 成膜装置(CVD、PVDなど)の分野で世界トップクラスのシェアを持ち、多様な装置を提供しています。
- 東京エレクトロン(日本): 成膜装置だけでなく、エッチング装置やコータ/デベロッパなど、幅広い前工程装置を手がける日本の代表的企業です。
- ラムリサーチ(米国): エッチング装置と並んで成膜装置も主力事業の一つであり、高い技術力を持っています。
エッチング装置
- ラムリサーチ(米国): エッチング装置の分野で高い市場シェアを誇り、特に先端プロセスの要求に応える製品で強みを持っています。
- 東京エレクトロン(日本): エッチング装置でも世界有数のメーカーであり、多様なプロセスに対応する装置を提供しています。
- アプライド・マテリアルズ(米国): 成膜装置と同様、エッチング装置の分野でも主要なプレイヤーです。
その他の主要メーカー
- SCREENホールディングス(日本): ウェーハ洗浄装置で世界トップクラスのシェアを誇ります。
- KLA(米国): 半導体の計測・検査・制御装置に特化しており、この分野で圧倒的な存在感を持っています。
- レーザーテック(日本): EUV露光装置のマスク(原版)を検査する装置で世界的に独占的な地位を築いています。
今後の見通しはどうか
半導体製造装置市場は、引き続き力強い成長が予測されています。国際的な業界団体であるSEMI(国際半導体製造装置材料協会)やSEAJ(日本半導体製造装置協会)も、2026年にかけて市場が過去最高を更新すると見ています。
今後の市場を牽引する主な要因
- AI需要の持続的な拡大: AI技術の進化に伴い、AIサーバー向け半導体(GPUやHBMなど)の需要は衰えることなく、今後も市場を牽引し続けます。特に、最先端のロジック半導体やメモリに対する投資が継続すると見られています。
- 技術の進化: 今後も半導体の微細化は進み、次世代のプロセス(例えば2nm)への移行が本格化します。これに伴い、高性能な前工程装置(特にEUV露光装置など)への需要が高まります。
- 地政学的リスクとサプライチェーンの多様化: 各国が半導体生産の自国回帰やサプライチェーンの強化を進めているため、地域間での設備投資が活発化しています。特に米国政府のCHIPS法などが投資を後押ししています。
2026年以降の見通し
- 市場規模の拡大: 各機関の予測では、2026年には半導体製造装置市場の売上高が1381億ドル、またはそれ以上となり、過去最高を更新すると見られています。
- 地域別動向: 中国、台湾、韓国が引き続き装置購入の上位3カ国を維持すると予測されています。特に台湾では、TSMCの2nmプロセスへの投資が市場を支える主要な柱となります。
- 後工程装置の成長: 前工程が好調を維持する一方で、テストやパッケージングといった後工程装置も、複雑化するデバイス構造に対応するため、成長が継続すると見られています。
全体として、AIを筆頭とした先端技術への投資が続く限り、半導体製造装置市場は堅調な成長基調を維持すると予測されます。

半導体製造装置市場は、AI需要や地政学的リスクによるサプライチェーン多様化を背景に、今後も成長が続くと見られます。特に、最先端のロジックやHBM関連への投資が継続し、2026年には過去最高の市場規模を更新する見込みです。
台湾の増加率が高い理由は何か
台湾の半導体製造装置市場の増加率が高い理由は、主に以下の要因が複合的に作用しているためです。
サプライチェーンの多様化と地域投資の拡大
米中対立などの地政学的リスクを背景に、各国が半導体生産の自国回帰を進めていますが、台湾は依然として世界の半導体サプライチェーンの中心地であり続けています。
この地位を確固たるものにするため、台湾は継続的な技術革新と設備投資を行っており、これが市場の急成長につながっています。
TSMCによる先端ロジックへの大規模投資
台湾には、世界最大のファウンドリー(半導体受託生産企業)であるTSMCがあります。AIや高性能コンピューティング(HPC)向け半導体の需要が急増する中、TSMCは、2nmやさらに微細なプロセスの開発・量産を加速させています。
この最先端プロセスの構築には、莫大な設備投資が必要であり、特に露光装置や成膜装置といった高価な前工程装置の購入が市場を大きく押し上げています。
AI半導体需要の急増
ChatGPTをはじめとする生成AIの普及により、GPUやそれに付随するHBM(高帯域メモリー)など、AI向け半導体への需要が爆発的に増加しました。TSMCはこれらの半導体を製造する主要な企業であり、市場の需要に応えるため、設備投資を大幅に増やしています。
HBM製造能力の増強
HBMはAIサーバーに不可欠なメモリであり、その需要増加に対応するため、DRAMメーカーも製造装置への投資を活発化させています。これにより、台湾の半導体製造装置市場は、ロジックとメモリの両面から成長の恩恵を受けています。

台湾の増加率が高いのは、TSMCがAI向け半導体生産の需要急増に応えるため、2nmプロセスなどの最先端工場へ大規模投資を行っているためです。これにより、製造装置の購入が飛躍的に増加し、市場を牽引しました。
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