この記事で分かること
- アルミニウムイオン二次電池とは:アルミニウムイオン二次電池(AIB)は、アルミニウムイオン(Al3+)を電荷キャリアとする充電可能な電池です。資源が豊富で安価、高い理論容量と安全性が長所です。
- 水溶媒を用いる理由:高い安全性と低コスト化のためです。水は不燃性で発火リスクがなく、また、製造時に有機溶媒のような特殊な乾燥環境が不要となるため、大幅なコスト削減が可能です。
GSアライアンスのアルミニウムイオン二次電池
GSアライアンス株式会社が開発した、負極にアルミニウム、電解質に水系電解液を用いたアルミニウムイオン二次電池は、その安全性、コストの低さ、および資源の豊富さから注目されています。
https://eetimes.itmedia.co.jp/ee/articles/2511/18/news037.html
脱炭素社会の実現や持続可能な社会構築に向けたニーズが高まる中、この水系アルミニウムイオン電池は、安価で安全な蓄電システムとして、電動車や定置型蓄電システムへの応用が期待されています。
アルミニウムイオン二次電池とは何か
アルミニウムイオン二次電池(Aluminium-ion battery: AIB)は、充放電が可能な二次電池の一種で、電解質中のアルミニウムイオン(Al3+)を利用してエネルギーを蓄える仕組みを持っています。
現在主流のリチウムイオン電池(Li+)に代わる次世代二次電池の有力候補として、世界中で研究開発が進められています。
動作原理
AIBの基本的な動作は、リチウムイオン電池と同様に、イオンの吸蔵・脱離(インターカレーション)と、それに伴う電子の移動を利用した酸化還元反応に基づいています。
- 放電時(電気を取り出すとき)
- 負極からアルミニウムのイオンが電解液中に移動し、電子が外部回路を流れて正極へ向かいます。
- 正極では、電解液中のアルミニウム関連のイオン(AlCl4-などのアニオンの場合が多い)が正極活物質に吸蔵(インターカレート)され、電子を受け取ります。
- 充電時(電気を蓄えるとき)
- 外部から電力を供給することで、上記の逆の反応が起こります。
構成材料(一般的な例)
| 部位 | 主な材料 | 特徴 |
| 負極 | アルミニウム金属(Al) | 資源が豊富で安価 |
| 正極 | グラファイト(炭素材料)など | – |
| 電解液 | イオン液体や水系電解液 | – |
アルミニウムイオン二次電池の長所
AIBが次世代電池として注目される主な理由は、その優れた特性にあります。
- 資源の豊富さ(低コスト):
- アルミニウムは、地殻中に鉄の次に多く存在する金属であり、資源が極めて豊富で安価です。原材料コストを大幅に抑えることができます。
- 高い理論容量:
- アルミニウムイオンは3価(Al3+})であるため、1つの原子が3つの電子をやり取りできます。これは1価のリチウムイオン(Li+)よりも理論的に高いエネルギー密度につながります(特に体積容量において有利)。
- 安全性:
- アルミニウム負極は、リチウム金属負極で問題となるデンドライト(樹枝状結晶)の成長による短絡や発火の危険性が低いとされています。
- 特に、水系電解液を用いるタイプ(前述のGSアライアンスの技術など)では、不燃性が高く、安全性が飛躍的に向上します。
- 高速充電:
- 一部のAIBは、比較的大きなイオンサイズにもかかわらず、高い出力密度を持ち、高速な充放電(急速充電)が可能とされています。
課題と今後の展望
AIBは有望な一方で、実用化にはまだいくつかの課題があります。
- 動作電圧の低さ:
- 現状の一般的なAIBの動作電圧は、リチウムイオン電池(約3.7V)と比較して低い(約2V以下)ものが多く、エネルギー密度の向上を妨げる要因となっています。
- 正極材料の開発:
- アルミニウムイオンを効率的に吸蔵・脱離できる高性能な正極活物質の開発が鍵となります。
- サイクル寿命:
- 特に水系電解液を用いる場合、電極材料の劣化抑制や、充放電サイクル寿命のさらなる向上が必要です。
これらの課題を克服することで、AIBは、定置型蓄電池や、電気自動車(EV)など、幅広い分野での活用が期待されています。

アルミニウムイオン二次電池(AIB)は、アルミニウムイオン(Al3+)を電荷キャリアとする充電可能な電池です。資源が豊富で安価、高い理論容量と安全性が長所です。リチウムイオン電池に代わる次世代電池として研究開発されています。
動作電圧の低い理由は何か
アルミニウムイオン二次電池(AIB)の動作電圧が低い主な理由は、使用される電解質の種類と、電極反応におけるアルミニウムの酸化還元電位に起因します。
GSアライアンスの水系アルミニウムイオン二次電池(水系AIB)の場合、動作電圧が低くなる要因は主に以下の2点です。
水系電解液の採用
1. 水の電気分解による制限
水系電解液を使用する電池は、水の電気分解が起こる電圧範囲(電位窓)に動作電圧が制限されます。
- 水は通常、約1.23 Vを超えると電気分解(水素と酸素の発生)が起こり、電池として機能しなくなります。
- GSアライアンスの水系AIBの動作電圧は0.7 V〜0.8 V程度で、この水の安定な電位窓内に収まるように設計されています。
この制限により、約3.7 Vの高い電圧を持つリチウムイオン電池などと比べると、本質的に動作電圧が低くなります。
負極と正極の電位差
2. 電極活物質の電位差が小さい
電池の動作電圧は、正極の電位と負極の電位の差によって決まります。
E cell= E 正極- E 負極
- 水系AIBでは、高い安全性を維持しつつ、アルミニウムイオンのインターカレーションに適した活物質を選定する必要があります。
- 現状の電極活物質の組み合わせでは、リチウムイオン電池で使われる活物質の組み合わせほど大きな電位差を得られていません。特に、水系電解液中で安定かつ高い電位を持つ正極材料の開発が課題となっています。
補足:電圧が低いことへの対応
動作電圧が低いと、同じエネルギーを取り出すために必要な電流が大きくなるか、または多くのセルを直列に接続する必要があります。GSアライアンスも示唆している通り、この問題は電池セルを直列接続することで、実用的な電圧(例:数 V~数十 V)に引き上げることが可能です。

動作電圧が低い主な理由は、電解液に水系を採用しているため、水の電気分解が起こる電圧範囲(約1.23V以下)に制限されるからです。加えて、電極活物質の電位差がリチウムイオン電池より小さいことも影響しています。
電解質が水にする理由は何か
GSアライアンスのアルミニウムイオン二次電池が電解質に水系電解液(水)を用いる主な理由は、安全性と低コスト化の追求にあります。
これは、従来のリチウムイオン電池(LIB)で使われる有機溶媒が抱える問題を解決するための重要な選択です。
究極の安全性(不燃性)
- 火災・発火リスクの排除: LIBで使われる有機電解液は可燃性であり、電池が破損したり過充電されたりすると、発火や爆発のリスクがあります。
- 水系電解液は不燃性であるため、電解液自体が燃える心配がなく、電池の安全性が飛躍的に向上します。これは、大規模な定置型蓄電池など、高い安全性が求められる用途で特に重要です。
製造コストの大幅な削減
- 製造環境の簡素化: 有機溶媒は水分と反応しやすいため、LIBの製造は乾燥した特殊な環境で行う必要があり、これがコストを押し上げます。
- 水系電解液は文字通り水であるため、特殊な環境を必要とせず、一般的な製造プロセスで電池を組み立てることができ、製造コストが大幅に削減されます。
- また、水自体が安価で環境に優しい材料です。
イオン導電率の向上
- 水は有機溶媒と比較してイオン導電率が高いという特性があります。これにより、電池内部の抵抗が下がり、より効率的な充放電が可能になるという利点もあります。
水系電解液の採用は、前述の通り動作電圧が低くなるというトレードオフ(水の電位窓の制限)がありますが、GSアライアンスはこの安全性とコストメリットを最大限に活かすことを優先しています。

電解質が水である理由は、高い安全性と低コスト化のためです。水は不燃性で発火リスクがなく、また、製造時に有機溶媒のような特殊な乾燥環境が不要となるため、大幅なコスト削減が可能です。
リチウムイオン電池で水溶媒が使用できない理由は何か
リチウムイオン電池(LIB)で水溶媒(水系電解液)が使用できない主な理由は、動作電圧の高さとリチウムの反応性にあります。
これは、LIBが持つ高いエネルギー密度を実現するために、水が持つ基本的な化学的制限を超えて動作する必要があるためです。
理由1: 水の電気分解(電位窓の狭さ)
LIBは、他の一般的な電池(ニッケル水素電池など、約1.2V)の約3倍にあたる高い動作電圧(通常3.7V程度)を実現していることが最大の特徴です。
- 水の電気分解: 水は、約1.23 Vを超える電圧がかかると、電気分解が起こり、水素ガスと酸素ガスを発生させてしまいます。
- 電池の機能停止: 動作電圧が水の電位窓(安定して存在できる電圧範囲)を超えると、電解液(水)が分解されてガスが発生し、電池としての充放電反応が成立せず、性能が失われます。
- したがって、高い電圧を実現するためには、水系電解液ではなく、より広い電位窓を持つ有機溶媒が必須となります。
理由2: リチウムの反応性
LIBの負極(充電時)や、一部の高性能電池で使われるリチウム金属は、水と非常に反応性が高い(イオン化傾向が極めて大きい)ため、水系電解液が使えません。
- 激しい反応: リチウム金属は水と接触すると、激しく反応し、水酸化リチウムと水素ガスを生成します
- 発火の危険: この反応は発熱的であり、発生した水素ガスが空気中で発火・爆発する危険性があるため、電解液として水を使用することは極めて危険です。
水系リチウムイオン電池の研究
上記のような致命的な課題がある一方で、近年では水の電気分解を抑制するために超高濃度のリチウム塩を水に溶かす「水系リチウムイオン電池」の研究も進められていますが、これは特殊な技術であり、一般のLIBとは原理が異なります。

リチウムイオン電池は高電圧で動作するため、約1.23Vで分解する水は使用できません。また、負極のリチウム金属は水と激しく反応し、発火・爆発の危険があるためです。

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