この記事で分かること
- ジャイロスコープとは:高速で回転するコマの性質(ジャイロ効果)や、振動体にかかるコリオリの力を利用し、物体の角度(姿勢)や角速度、あるいは角加速度を検出するための計測器または装置です。
- 振動型の仕組み:内蔵された質量体(プルーフマス)を振動させ、センサーが回転すると、その回転角速度に比例して垂直方向に生じる変位を電気信号として検出します。
- 直接接合が必要な理由:真空に近い状態で気密封止し、空気抵抗を減らして感度と精度を向上させる必要があります。直接接合は、この高気密なパッケージングや、センサーと回路の3D集積に不可欠です。
ジャイロスコープ
チップの微細化による性能向上の限界が見え始めていることから、半導体製造において前工程から後工程へと性能向上開発の主戦場が移り始めています。複数のチップを効率的に組み合わせて性能を引き出す「後工程」の重要性が増しています。
前回は加速度センサー関する記事でしたが、今回はMEMSデバイスのジャイロスコープに関する記事となります。
ジャイロスコープとは何か
ジャイロスコープは、物体の角度(姿勢)や角速度、あるいは角加速度を検出するための計測器または装置です。ジャイロまたはジャイロセンサーとも呼ばれます。
ジャイロスコープの基本的な働きは、慣性系に対する物体の回転速度を測定することです。
1. 原理
- 回転型(機械式):
- 高速で回転するコマ(回転体)の性質(ジャイロ効果)を利用します。
- 回転している物体は、外から力を加えてもその回転状態(軸の方向)を保とうとする性質(角運動量保存の法則)があります。
- この性質を利用し、コマの軸が空間の一定方向を保とうとするのに対し、それを支える装置(船や飛行機など)が回転・傾斜したときの軸の角度の変化を検出して、物体の姿勢や角速度を知ることができます。
- 振動型(MEMSなど):
- 現代の小型電子機器(スマートフォン、カーナビなど)で広く使われている方式です。
- 音叉のような振動体に物体が回転する際に加わるコリオリの力(慣性力の一種)を検出して、角速度を測定します。小型化や大量生産に適しています。
- 光学式(レーザージャイロ、光ファイバージャイロ):
- 機械的な回転体や振動体を用いず、光(レーザー)を利用します。
- サニャック効果(回転によって光の伝播時間に差が生じる現象)を応用し、回転運動を測定します。高い精度と信頼性があり、航空機や慣性航法システム(INS)などに利用されます。
主な用途
ジャイロスコープは、その安定性や回転検出能力から、非常に多岐にわたる分野で活用されています。
- 航法・誘導システム:
- 飛行機、船舶、ロケットの自律航法(ジャイロコンパス、自動操縦システム)。
- 慣性航法システム(INS)で、GPSが使えない場所でも正確な位置情報を提供。
- 家電・モバイル機器:
- スマートフォン、タブレット:画面の自動回転、ゲーム操作、拡張現実(AR)アプリなど。
- デジタルカメラ:手ぶれ補正機構。
- ゲーム機:コントローラーの傾きや動きの検出。
- 自動車:
- カーナビゲーションシステムでの自車位置・向きの検出。
- 横滑り防止機構(ESC)などの車両安定化システム。
- ロボット・ドローン:
- 姿勢制御、安定化。

ジャイロスコープは高速で回転するコマの性質(ジャイロ効果)や、振動体にかかるコリオリの力を利用し、物体の角度(姿勢)や角速度、あるいは角加速度を検出するための計測器または装置です。飛行機やスマートフォン、自動車の姿勢制御などに使われています。
振動型の仕組みは
振動型ジャイロスコープは、コリオリの力(慣性力の一種)を利用して角速度を検出します。小型化・低消費電力化が容易なため、スマートフォンや自動車の姿勢制御など、現在の主流となっている方式です。
基本的な構造と動作は以下の通りです。
1. 駆動と振動
- センサー内部には、プルーフマス(慣性質量)と呼ばれる微小な質量体と、それを支えるバネやアームのような振動子が組み込まれています。
- まず、電気的な力(電圧)を用いて、この振動子を特定の軸(駆動軸)方向に一定の周波数と振幅で振動させます。これが「ドライブモード」です。
2. コリオリ力の発生
- 振動子が駆動軸方向に移動している(速度を持っている)状態で、センサー全体に回転運動(角速度 ω)が加わると、プルーフマスにコリオリの力 Fcが発生します。
- コリオリの力は、物体の速度ベクトルと回転軸(角速度ベクトル ω)の両方に垂直な方向に作用します。Fc = -2m (ω × v)ここで、m は質量、v は速度です。
3. 変位の検出
- このコリオリの力により、プルーフマスは駆動軸とは垂直な方向(検出軸)に振動(変位)させられます。これが「センスモード」です。
- この検出軸方向の振動の振幅は、加えられた角速度 ωに比例します。
- この微小な変位(動き)を、静電容量の変化(電極間の距離変化)やピエゾ抵抗(圧電効果)の変化として捉え、電気信号に変換することで角速度を測定します。
MEMS技術
現在、最も広く使われている振動型ジャイロスコープは、MEMS (Micro Electro Mechanical Systems) 技術を用いて、シリコンなどの基板上に微細な機械構造と電気回路を一体化して作られています。これにより、センサーの超小型化、高感度化、大量生産による低コスト化が実現しました。

コリオリの力を利用します。内蔵された質量体(プルーフマス)を振動させ、センサーが回転すると、その回転角速度に比例して垂直方向に生じる変位を電気信号として検出します。
直接接合が使用される理由は何か
振動型ジャイロスコープ(MEMSジャイロ)において直接接合が使用される主な理由は、センサー構造の保護・気密封止と、高性能化・高集積化の両立を図るためです。特に、直接接合は以下の重要な役割を果たします。
1. センサー機構の気密封止(パッケージング)
振動型ジャイロは、内部の微細な質量体(プルーフマス)を振動させてコリオリ力を検出します。この振動を正確に行うためには、外気や湿気の影響を遮断し、特定の圧力環境(通常は真空に近い状態)を維持する必要があります。
- 真空・減圧封止: 直接接合(特にウエハ接合)により、MEMS構造が形成されたウエハの上にもう一枚のウエハ(キャップウエハ)を接合する際に、キャビティ(空洞)内部を真空または減圧状態に保ったまま封止できます。
- 理由: 構造体の不要な空気抵抗(ダンピング)を減らし、高いQ値(共振の鋭さ)を確保することで、感度と分解能を向上させるためです。
2. 高集積化と高性能化の実現
直接接合は、接着剤などの不純物層を介さずにウエハを接合するため、MEMSセンサー構造と駆動・検出用のLSIチップを一体化できます。
- 3D集積: MEMS構造と、信号処理を行うASIC/LSIウエハを直接積層(3D集積)することで、配線距離を極限まで短縮できます。
- 理由: 配線によるノイズを減らし、信号の応答速度を上げ、チップ全体の小型・軽量化と低消費電力化に貢献します。
- キャビティ(空洞)形成: 構造を保護するためのキャビティを、接合前に一方のウエハにエッチングで形成し、もう一方のウエハを接合することで、高精度なパッケージングを実現します。
これらの理由から、直接接合技術は、高感度で信頼性の高いMEMSジャイロスコープを製造するための基幹技術となっています。

振動型ジャイロは、真空に近い状態で気密封止し、空気抵抗を減らして感度と精度を向上させる必要があります。直接接合は、この高気密なパッケージングや、センサーと回路の3D集積に不可欠です。

コメント