ハードロック工業の高強度樹脂製ねじ ハードロックナットとは何か?どうやって樹脂ねじの強度を上げているのか?

この記事で分かること

  • ハードロックナットとは:日本古来の「くさびの原理」を応用した「絶対にゆるまない」ゆるみ止めナットです。凸と凹の二つのナットがボルトに強力に食い込み一体化することで、振動や衝撃による緩みを完全に防ぎます。
  • 樹脂ねじの強度を上げる方法:、ガラスや炭素繊維で強化した複合材(FRP)の使用が効果的です。また、PEEKやPPSなどの高機能エンプラ材を選定し、繊維の配向性や成形条件を最適化することで、強度と耐久性を向上させています。

ハードロック工業の高強度樹脂製ねじ

 ハードロック工業は、「絶対にゆるまないねじ」として世界的に知られる「ハードロックナット」の開発・製造を行っている企業ですが、近年、高強度の樹脂製ねじの開発に注力していることが注目されています。

https://www.nikkan.co.jp/articles/view/00753533

ハードロックナットとはなにか

 ハードロックナットは、ハードロック工業株式会社が開発した「絶対にゆるまない」ことを特徴とする革新的なゆるみ止めナットです。日本古来の建築技術である「くさびの原理」を応用することで、ボルトとナットを完全に一体化させ、どのような振動や衝撃にも耐える強力なロック効果を発揮します。

仕組みと特徴

ハードロックナットは、通常のナットとは異なり、以下の2種類のナットを組み合わせて使用します。

  1. 凸ナット(第一ナット):
    • 中心から少しずらした「偏芯加工」が施されており、この部分が「くさび」の役割を果たします。
    • ボルトに最初に締め付けられます。
  2. 凹ナット(第二ナット):
    • 中心がずれていない「真円加工」が施されています。
    • 凸ナットの上から締め付けることで、凸ナットの偏芯部分がボルトのねじ山に強力に食い込み、「ハンマーでくさびを打ち込む」ように機能します。

 この2つのナットを締め付けることで、凸ナットの偏芯部分がボルトのねじ山に強力な摩擦抵抗を生み出し、ボルトとナットを完全に一体化させます。これにより、一般的なナットが緩む原因となる「戻り回転」を物理的に防止し、いかなる振動や衝撃にもゆるまない究極のゆるみ止め効果を発揮します。

主な特徴

  • 絶対的なゆるみ止め効果: 日本古来のくさびの原理を応用することで、ボルトとナットを強固に一体化させ、振動や衝撃による緩みを完全に防ぎます。
  • 高い安全性: 緩まないため、構造物の安全性を飛躍的に高めることができます。
  • 高い信頼性: 一度締め付ければ、メンテナンスが不要または大幅に削減できます。
  • 再利用可能: オールメタル製であるため、摩耗箇所が少なく、高いゆるみ止め効果を維持したまま繰り返し使用が可能です。
  • 簡単な取り付け: 特殊な工具は不要で、市販の工具で簡単に締め付けが可能です。
  • トルク・軸力管理が可能: 適切なトルクで締め付けることで、設計通りの軸力を長期的に維持できます。
  • 多様な環境への対応: 鉄、ステンレス、チタン、真鍮、樹脂など、様々な材質で製造が可能であり、幅広い環境に対応できます。

用途

 その「絶対にゆるまない」という特性から、ハードロックナットは以下のような、特に高い安全性が求められる分野や過酷な環境下で広く使用されています。

  • 鉄道: 新幹線や鉄道車両、レール、架線など
  • 橋梁: 道路橋、鉄道橋など
  • 建築: 高層ビル、鉄塔、耐震構造など
  • 産業機械: 重機、振動機械、製造装置など
  • 発電所: 風力発電、火力発電、原子力発電など
  • 航空宇宙: 航空機部品、宇宙関連機器など(一部)
  • その他: 船舶、自動車、人命に関わる重要箇所、メンテナンスが困難な場所など

 ハードロックナットは、その独自の技術と確かな性能で、世界の様々な産業の安全と信頼を支えています。

ハードロックナットは、日本古来の「くさびの原理」を応用した「絶対にゆるまない」ゆるみ止めナットです。凸と凹の二つのナットがボルトに強力に食い込み一体化することで、振動や衝撃による緩みを完全に防ぎます。鉄道、橋梁、建築など高い安全性が求められる分野で広く採用されています。

樹脂ねじの問題点はなにか

 樹脂ねじには、金属ねじにはない多くのメリット(軽量性、非導電性、耐食性など)がある一方で、いくつかの問題点やデメリットも存在します。主な問題点は以下の通りです。

  1. 強度と耐久性の低さ:
    • 機械的強度の不足: 金属に比べて引張強度や曲げ強度、衝撃強度などが劣るため、高負荷がかかる環境には不向きです。強く締めすぎるとねじ頭が飛んだり、ねじ山が潰れたりする可能性があります。
    • クリープ現象: 樹脂は金属と異なり、応力がかかった状態が続くと時間とともに徐々に変形する「クリープ現象」を起こしやすい性質があります。これにより、締め付けたはずのねじが徐々に緩んでしまう可能性があります。
    • 摩耗: 繰り返しの着脱や摩擦によってねじ山が摩耗しやすく、耐久性に劣ることがあります。
  2. 温度などの環境要因への弱さ:
    • 耐熱性の低さ: 多くの樹脂は金属に比べて耐熱温度が低く、高温環境では軟化して締結力が低下したり、変形したりする可能性があります。
    • 紫外線による劣化: 紫外線に長時間さらされると、樹脂が劣化して脆くなることがあります。屋外での使用には、紫外線安定剤が添加された素材を選ぶ必要があります。
    • 化学薬品への耐性: 樹脂の種類によっては、特定の化学薬品に対して耐性が低い場合があります。使用環境の化学薬品の種類を考慮する必要があります。
  3. コスト:
    • 特定の高性能樹脂や特注品の場合、金属ねじよりも高価になることがあります。特に少量生産の場合や、複雑な形状のものはコストが高くなる傾向があります。
  4. 締結時の注意点:
    • 締め付けトルクの管理: 樹脂は過大なトルクで締め付けると破損しやすいため、適切な締め付けトルクの管理が非常に重要です。金属ねじと同じ感覚で締め付けると、ねじや被締結材を破損させる可能性があります。
    • 樹脂のへたり: 締め付けによって樹脂がへたり(圧縮されて厚みが減る現象)、軸力が低下して緩むことがあります。これを防ぐために、金属製のカラーなどを併用する場合があります。

これらの問題点を克服するために、ガラス繊維や炭素繊維を添加して強度を向上させたり、高機能なエンジニアリングプラスチック(PEEK、PPSなど)を使用したりするなどの対策がとられています。ハードロック工業が「鉄に匹敵する強度」を目指しているのも、これらの樹脂ねじの弱点を克服しようとする試みと言えます。

樹脂ねじは、金属に比べ強度や耐久性が低く、特に高温や高負荷下でのクリープ現象による緩みが課題です。また、過度な締め付けで破損しやすく、温度や紫外線による劣化も考慮が必要です。

どうやって樹脂ねじを高強度にしているのか

 樹脂ねじの強度を高めるには、主に以下の方法が取られます。ハードロック工業もこれらの技術を組み合わせながら、「鉄に匹敵する強度」を目指しています。

繊維強化プラスチック(FRP)の採用

  • ガラス繊維強化プラスチック(GFRP): 最も一般的で、ガラス繊維を樹脂に混ぜ込むことで、引張強度や曲げ強度を大幅に向上させます。ガラス繊維の配合率が高いほど強度が増しますが、同時に脆くなる傾向もあります。
  • 炭素繊維強化プラスチック(CFRP): ガラス繊維よりもさらに高強度・高弾性であり、軽量性も優れています。航空宇宙分野などで使用される高性能な樹脂ねじに用いられます。ただし、コストが高いのが課題です。
  • アラミド繊維強化プラスチック: 耐衝撃性や耐摩耗性に優れています。
  • 繊維の配向性: 樹脂の中に繊維をどのように配置するか(配向性)も強度に大きく影響します。ねじの軸方向に繊維が揃うようにすることで、より高い引張強度が得られます。ハードロック工業が「繊維の強化能力を最大限に発揮させる工法」と述べているのは、この繊維の配向性や分散技術を最適化することを示唆していると考えられます。

高機能エンジニアリングプラスチック(エンプラ)の採用

  • 一般的なプラスチック(汎用プラスチック)に比べて、耐熱性、機械的強度、耐薬品性などが大幅に向上した樹脂を使用します。
  • PEEK(ポリエーテルエーテルケトン): 耐熱性、耐薬品性、機械的強度に優れ、非常に高性能な樹脂です。医療分野などにも使われます。
  • PPS(ポリフェニレンサルファイド): 耐熱性、耐薬品性に優れ、比較的安価で加工しやすいです。
  • RENY(レニー): ポリアミドMXD6をベースにガラス繊維を50%以上配合した樹脂で、プラスチックねじの中で最も高い強度と弾性率を持つとされています。引張強度は約285MPaと、鉄(SS400で約450MPa)には及ばないものの、一般的な樹脂ねじの中では突出しています。

製造プロセスの最適化

  • 射出成形: 一般的な樹脂ねじの製造方法ですが、金型設計や成形条件(温度、圧力など)を最適化することで、樹脂の分子配向や結晶化度を制御し、強度を高めることができます。
  • 切削加工: 特殊な形状や少量生産の場合に用いられます。適切な工具選定と加工条件(切削速度、送り速度、冷却など)により、樹脂の特性を損なわずに高精度なねじを製造できます。
  • インサート成形: 樹脂部品に金属製のインサート(ねじ受け)を埋め込むことで、ねじ部の強度を向上させる方法です。これは樹脂ねじそのものの強度向上とは異なりますが、樹脂製品におけるねじ締結部の強度を高める有効な手段です。

材料設計と配合技術

  • 異なる種類の樹脂をブレンドしたり、特定の添加剤(例えば、衝撃吸収材、耐摩耗剤など)を配合したりすることで、特定の特性(強度、靭性、耐クリープ性など)を向上させることができます。

 ハードロック工業が目指す「鉄に匹敵する強度」の樹脂ねじは、これらの技術を高度に組み合わせ、さらに独自の「くさびの原理」を樹脂ねじにも応用することで、単なる素材強度だけでなく、締結としての総合的な性能向上を図っていると考えられます。特に、樹脂特有のクリープ現象や温度変化による影響を克服するための技術が重要になるでしょう。

樹脂ねじの高強度化には、ガラスや炭素繊維で強化した複合材(FRP)の使用が効果的です。また、PEEKやPPSなどの高機能エンプラ材を選定し、繊維の配向性や成形条件を最適化することで、強度と耐久性を向上させます。

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