この記事で分かること
- 放熱性が高い理由:高い熱伝導率を持つフィラーを最適に配合し、さらに材料を薄くすることで、熱抵抗を極限まで低減し、発熱体から効率的に熱を奪う能力に優れているため、放熱性に優れると言えます。
- 放熱性が高いと機器を小型化できる理由:熱伝導性が優れる材料は、熱を効率的に管理することで、放熱のための部品のサイズを減らし、部品配置の自由度を高め、チップ内蔵パッケージ構造を可能にするため、電子機器の小型化が可能です。
- フィラーの高充填で起こるデメリットと対策:機フィラーを樹脂に高充填すると、絶縁特性の低下が懸念されますが、絶縁特性に優れる無機フィラーや樹脂の使用や構造の最適化などでの対策が取られています。
住友ベークライトの基板材料
住友ベークライトは半導体パッケージ向け基板材料「LαZ®」のサンプル出荷を開始したことを発表しています。
https://www.sumibe.co.jp/topics/2025/it-materials/0513_01/index.html
新製品は、高性能化・小型化が進む半導体パッケージのニーズに対応するために開発された基板材料です。特に、スマートフォンやタブレット端末などのモバイル機器向けアプリケーションプロセッサー(AP)用パッケージ基板材料として、その高い信頼性と優れた特性が評価されています。
今回は新製品の特性である高い放熱性がもたらされる要因、高い放熱性の意味を知ることができます。
新製品はどのような特徴を持っているのか
「LαZ®」は、近年、高性能化・小型化が進む半導体パッケージのニーズに対応するために開発された革新的な材料シリーズです。特に、スマートフォンやタブレット端末などのモバイル機器向けアプリケーションプロセッサー(AP)用パッケージ基板材料として、その高い信頼性と優れた特性が評価されています。
LαZ®の主な特徴とメリットは以下の通りです。
1. 高い放熱性(最新の開発動向)
- 近年、住友ベークライトはLαZ®の新製品として、半導体チップから生じる熱を効果的に放熱する高熱伝導基板材料を開発し、サンプル出荷を開始しています。
- 熱伝導率: プリプレグタイプで1.5W/(m・K)、レジンフィルムタイプで2.1W/(m・K)という高い熱伝導率を実現しています。これは、従来の半導体パッケージ基板材料と比較して非常に優れています。
- チップ埋込への対応: レジンフィルムタイプでは、チップ埋込用のキャビティを樹脂で埋め込むための高流動性も付与されており、基板内部の放熱性向上に大きく貢献します。
2. パッケージの小型化
- LαZ®は、その高い熱伝導率により、チップを基板に内蔵する「チップ内蔵パッケージ」の実現を可能にします。これにより、パッケージ全体のさらなる小型化が期待できます。
- スマートフォンなどの小型電子機器において、部品実装面積の削減は非常に重要であり、LαZ®はこれに大きく貢献します。
3. 放熱性の向上
- チップで発生した熱を効率よく拡散することで、チップの発熱そのものを低減し、デバイスの安定稼働と長寿命化に寄与します。特に、チップや部品を内蔵した基板では、LαZ®の放熱効果がより顕著に現れます。
4. 設計の自由度向上
- 高熱伝導性基板材料であるLαZ®を使用することで、熱を逃がすために設置される「サーマルビア」の数を減らすことが可能になります。これにより、回路設計の自由度が向上し、より複雑で高性能な回路を実装できるようになります。
5. 高信頼性・高剛性・低熱膨張・低寸法変化
- LαZ®シリーズは、半導体パッケージに求められる厳しい信頼性基準を満たしています。
- 高剛性: 高い剛性を持つため、薄型化が進むパッケージの反りを抑制し、安定した実装を可能にします。
- 低熱膨張率(低CTE): 半導体チップと基板との熱膨張係数の差を小さくすることで、温度変化による応力発生を抑制し、接続信頼性を高めます。
- 低寸法変化: プロセス中の寸法変化が小さいため、高精度な回路形成が可能です。
6. 環境対応と高耐熱性
- 環境保護のため、ハロゲン・リンフリーの難燃性を有しています。
- 鉛フリーはんだ実装時の高温リフローにも十分な高耐熱性を有しており、最新の半導体製造プロセスに対応しています。
7. 用途
- 主にスマートフォンやタブレット端末などのモバイル機器向けアプリケーションプロセッサー(AP)用パッケージ基板材料として使用されています。
- 今後、車載分野や5G関連機器など、より高い放熱性が求められる先端半導体パッケージへの適用拡大が期待されています。

新製品である「LαZ®」は、近年、高性能化・小型化が進む半導体パッケージのニーズに対応するために開発された革新的な材料シリーズで、高い放熱性や信頼性といった特徴をもっています。
放熱性に優れる理由は何か
新製品が高い放熱性を持つのは以下のような理由となります。
1. 高い熱伝導率の実現
最も直接的な理由は、材料自体の熱伝導率(Thermal Conductivity)が非常に高いことです。熱伝導率とは、材料が熱をどれだけ効率的に伝えるかを示す指標で、単位はW/(m・K)(ワットパーメートル・ケルビン)で表されます。この数値が高いほど、熱を素早く移動させることができます。
住友ベークライトのLαZ®やその他の高放熱性材料は、この熱伝導率を高めるために、主に以下の技術を採用しています。
- 高熱伝導性フィラーの配合: 樹脂単体では熱伝導率が低い(約0.2~0.3 W/(m・K))ため、熱伝導性の高い無機フィラー(充填材)を樹脂中に高密度で分散させます。
- 窒化アルミニウム (AlN): 非常に高い熱伝導率を持つセラミックスで、絶縁性も高いです。
- 窒化ホウ素 (BN): 高い熱伝導性と電気絶縁性を持ち、特に薄いシート状に加工しやすい特性もあります。
- アルミナ (Al2O3): 比較的安価で、熱伝導性も良好です。
- 炭化ケイ素 (SiC): 高い熱伝導性と硬度を持ちます。 これらのフィラーは、熱の「橋渡し」となり、樹脂中の熱の流れを大幅に改善します。特に、シートの厚み方向(z軸方向)への熱伝導性を高めるように、フィラーの形状や配向を最適化する技術が重要になります。
- 樹脂との界面制御: フィラーと樹脂の間に熱抵抗が発生しないよう、両者の密着性を高める技術(表面処理など)も重要です。これにより、熱がスムーズにフィラーから樹脂へ、そしてまた次のフィラーへと伝わるようになります。
2. 薄膜化・低熱抵抗化
熱伝導率が高いことに加え、材料自体の厚みを薄くすることも放熱性を高める上で非常に重要です。熱の伝わりにくさを示す「熱抵抗」(Thermal Resistance)は、材料の厚みに比例し、熱伝導率に反比例します。
熱抵抗(R)=熱伝導率(k)×面積(A)厚み(L)
この式からわかるように、熱伝導率 (k) が高くても、厚み (L) が厚いと熱抵抗は高くなります。逆に、熱伝導率が高く、かつ厚みが薄い (L が小さい) ほど、熱抵抗は大幅に低減され、熱がより効率的に材料を通過できるようになります。
住友ベークライトの高放熱性材料、特にレジンフィルムタイプが薄型化に対応できるのは、以下の理由からです。
- 強化繊維の排除: プリプレグのようにガラス繊維などの補強材を含まないため、非常に薄く均一なフィルムを形成しやすくなります。
- 高流動性: チップと基板の間の微細な隙間やキャビティに樹脂が流れ込み、空隙なく充填されることで、熱抵抗の高い空気層が排除され、より効果的な熱伝達が可能になります。
3. デバイスへの効果的な熱伝達
高放熱性材料の最終的な目的は、半導体チップなどの発熱源から発生した熱を、効率的にヒートシンクや放熱経路へと移動させることです。
- ホットスポットの温度低減: 半導体デバイスは、局所的に高い熱を発生する「ホットスポット」を持ちます。高放熱性材料をこれらのホットスポットの近くに配置することで、熱が拡散され、デバイスの温度上昇を抑制します。
- デバイスの性能向上と信頼性確保: 半導体デバイスは、温度が上昇すると性能が低下し、故障率が上昇する傾向があります。高放熱性材料によって温度を適切に管理することで、デバイスの本来の性能を最大限に引き出し、長期的な信頼性を確保することができます。
- 小型化・高密度化の実現: 効率的な放熱が可能になることで、より小さなスペースに高機能なデバイスを実装できるようになります。これにより、スマートフォンやウェアラブルデバイスなどの小型化、あるいはパワー半導体や5G基地局といった高出力デバイスの小型化・高密度化に貢献します。

高放熱性材料は、高い熱伝導率を持つフィラーを最適に配合し、さらに材料を薄くすることで、熱抵抗を極限まで低減し、発熱体から効率的に熱を奪う能力に優れているため、放熱性に優れると言えます。
熱伝導性の向上が小型化につながる理由
熱伝導性が高い材料が半導体デバイスや電子機器の小型化に繋がるのは、主に熱マネジメントの効率が向上するためです。
熱を効率よく処理できることで、設計上の制約が緩和され、より小さく、より密度の高い製品を実現できるようになります。
1. 放熱部品の小型化・省略
最も直接的な理由として、ヒートシンクや冷却ファンといった放熱部品のサイズを縮小したり、場合によっては完全に省略したりできるようになります。
- デバイスの発熱量: 半導体デバイスは、動作する際に必ず熱を発生します。この熱を適切に逃がさないと、デバイスの性能低下や故障に繋がります。
- 従来の熱対策: 従来の熱対策では、発熱源から発生した熱を空気中に拡散するために、大きな表面積を持つヒートシンクや、強制的に空気を流すファンが必要でした。これらは多くの体積を占め、機器の小型化を妨げる要因でした。
- 高熱伝導材料の役割: 高熱伝導性材料を基板やパッケージに組み込むことで、デバイスから発生した熱がより速く、より効率的に、外部(あるいは小型の放熱部品)へと伝わります。これにより、限られたスペースでも十分な放熱性能を確保できるようになり、ヒートシンクの小型化や、ファンの削減(ファンレス設計)が可能になります。結果として、製品全体のサイズを大幅に縮小できます。
2. 部品配置の自由度向上
熱のボトルネックが解消されることで、基板上や筐体内の部品配置の制約が緩和されます。
- 熱設計の課題: 熱伝導率の低い材料を使用する場合、発熱量の大きい部品同士を離して配置したり、熱がこもりやすい場所を避けたりするなど、熱設計上の厳しい制約がありました。これにより、部品の実装密度が制限され、基板や製品が大型化する傾向がありました。
- 高熱伝導材料による改善: 高熱伝導性材料を使うと、熱が効率的に分散・伝導されるため、発熱部品をより密接に配置できるようになります。これは、例えば、スマートフォンなどの限られた基板スペースにおいて、より多くの機能やチップを搭載する上で極めて有利です。結果として、同じ機能を持つ製品をより小さく設計することが可能になります。
3. チップ内蔵パッケージの実現
住友ベークライトのLαZ®のように、熱伝導性の高い基板材料は、チップを基板内部に埋め込む「チップ内蔵パッケージ」の実現を可能にします。
- 従来の積層構造: 多くの半導体パッケージは、チップが基板の表面に載せられ、その上から封止樹脂で覆われる構造です。これだと、チップと基板の間、あるいはチップの上部から熱を逃がす経路が限られていました。
- チップ内蔵のメリット:
- 高さ方向の削減: チップを基板内に埋め込むことで、パッケージの高さが低くなり、製品全体の薄型化に貢献します。
- 効率的な熱伝達: チップの周囲を直接高熱伝導性の基板材料が囲む形になるため、チップから基板全体へ、より効率的に熱が拡散されます。これにより、パッケージ全体での熱抵抗が低減され、放熱性能が向上します。
- 配線距離の短縮: チップ間の配線距離が短縮され、電気的特性(信号品質)も向上する可能性があります。
- 小型化への貢献: 結果として、より薄く、小さなパッケージで、高性能な半導体を実現できるようになり、これが最終製品の小型化に直結します。

熱伝導性が優れる材料は、熱を効率的に管理することで、放熱のための部品のサイズを減らし、部品配置の自由度を高め、チップ内蔵パッケージ構造を可能にするため、電子機器の小型化が可能です。
無機フィラーの導入による問題点と解決方法は
無機フィラーを樹脂に高充填すると、懸念されるのが絶縁特性の低下です。しかし、高放熱性基板材料の開発では、この絶縁特性を維持するための様々な工夫がされています。
なぜ絶縁特性が低下する懸念があるのか?
主な理由は以下の通りです。
- フィラーの導電性: 熱伝導率の高い無機フィラーの中には、炭素系材料(グラファイト、カーボンナノチューブなど)のように電気を導通しやすいものがあります。これらを少量でも配合すると、材料全体が導電性を帯びてしまい、電気絶縁性が失われます。
- フィラーによる絶縁破壊パスの形成: 例え絶縁性のフィラーであっても、高充填することでフィラー同士が物理的に接触し、絶縁性の低い樹脂の層が薄くなったり、ボイド(空隙)が発生したりすることがあります。これにより、電気的な弱いパスが形成され、絶縁破壊電圧(材料が耐えられる最大の電圧)が低下する可能性があります。
- 誘電率の変化: フィラーの誘電率が樹脂と大きく異なる場合、電界が不均一になり、局所的に電界が集中することで絶縁破壊しやすくなることがあります。高周波デバイスにおいては、誘電損失が増加する可能性も考えられます。
絶縁特性を維持するための対策
住友ベークライトのような高放熱性材料メーカーは、これらの懸念を克服するために、以下のような技術を組み合わせています。
- 絶縁性フィラーの選択
- 最も基本的な対策は、熱伝導性が高く、かつ電気絶縁性に優れた無機フィラーを選定することです。代表的な材料としては、窒化アルミニウム(AlN)、窒化ホウ素(BN)、アルミナ(Al2O3)、酸化マグネシウム(MgO)などがあります。これらは元々セラミックスであり、優れた電気絶縁体です。
- 特に、窒化アルミニウムは熱伝導率が非常に高く、絶縁性も優れているため、高熱伝導と高絶縁性の両立を求める材料によく採用されます。
- ボイドレス(空隙なし)設計と精密な分散技術
- フィラーを樹脂中に高充填する際に、空隙(ボイド)が発生しないように精密な配合・混練技術が用いられます。ボイドは電気的に弱点となり、絶縁破壊の原因となるため、徹底的に排除されます。
- フィラーを均一に、かつ凝集せずに分散させることで、樹脂が薄くなる部分を最小限に抑え、絶縁破壊パスの形成を防ぎます。特殊な分散剤や混練方法が開発されています。
- フィラーの表面処理と界面制御:
- フィラーの表面を特殊なカップリング剤などで処理し、樹脂との密着性を高めます。これにより、界面でのボイド発生や、熱伝導だけでなく電気特性にも影響を与える界面の不整合を防ぎます。
- 密着性が向上することで、樹脂とフィラー間の熱伝導効率も高まりますが、同時に電気的な安定性も確保されます。
- 樹脂自体の絶縁特性の最適化
- ベースとなる樹脂(エポキシ樹脂など)自体も、高い絶縁耐力(絶縁破壊電圧)や低誘電損失を持つものが選定されます。
- また、吸湿などによる絶縁特性の低下を防ぐため、樹脂の組成も最適化されます。
- フィラーの形状と配向制御
- 例えば、板状のBNフィラーを用いる場合、意図的に厚み方向(Z軸方向)に配向させることで、熱伝導パスを効率的に形成しつつ、面方向(X-Y軸方向)の絶縁性を維持・強化できることがあります。これにより、少ないフィラー量で高い熱伝導性を実現し、結果的に絶縁特性への影響を抑えることも可能です。
これらの技術的な工夫により、住友ベークライトのLαZ®のような高放熱性基板材料は、高い熱伝導率と同時に、半導体パッケージに必要な高い電気絶縁性を両立させています。これにより、発熱を抑えつつ、デバイスの安定した動作と信頼性を確保できるのです。

無機フィラーを樹脂に高充填すると、絶縁特性の低下が懸念されますが、絶縁特性に優れる無機フィラーや樹脂の使用や構造の最適化などでの対策が取られています。
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