この記事で分かること
- どのように回収するのか:材料を溶解して液体にし、その液体からリチウム成分を選択的に回収することでリチウムの回収を行っています。
- 選択的な回収法:pHの調整や吸着材の使用、溶媒への抽出によって他の金属と分けて、選択的に回収されています。
- 吸着材がリチウムを選択的に回収できる理由:金属イオンは種類によって「サイズ・電荷・水和性・配位特性」が異なります。これらの違いを利用して、「リチウムだけ」を選んで吸着することが可能です。
JXCSによるリチウムの高効率での回収
JX金属の子会社であるJX金属サーキュラーソリューションズ(JXCS)は、廃車載リチウムイオン電池(LiB)からリチウムを高効率で回収する新たなリサイクルプロセスを開発しました。
https://www.jx-nmm.com/newsrelease/2025/20250416_01.html?utm_source=chatgpt.com
このプロセスは、リチウムの回収率が90%以上と、世界最高水準を実現しています。さらに、従来のプロセスと比較してカーボンフットプリント(CFP)を40%削減することにも成功しています。
どのようにリチウムを回収するのか
今回JX金属サーキュラーソリューションズ(JXCS)が開発した新しいリチウム回収プロセスは、
「回収液をリユースしながら、薬品使用を最小化してリチウムを高効率で取り出す」という方法です。
具体的な手法
- 使用済み車載リチウムイオン電池(LiB)を破砕・粉砕して、金属や電解液などを分離。
- 特にリチウムを含んだ材料を溶解して液体にします。
- その液体からリチウム成分を選択的に回収します。
- 回収に使った液は、再利用(リサイクル)できるように設計されています。
新しい方法の利点
- リチウムの回収率90%以上を達成
- 薬品の新規投入量を減らして環境負荷を低減
- カーボンフットプリント(CO₂排出量)も40%削減
従来法(たとえば、焼成や大量の薬品投入によるリチウム回収)と比べると、かなり環境配慮型になっています。

新しいリチウム回収プロセスは、材料を溶解して液体にし、その液体からリチウム成分を選択的に回収することでリチウムの回収を行っています。
どのような薬液に溶解させるのか
新規の手法の薬液は公開されていませんが、通常、廃LiBからリチウムを回収する際には、以下のような薬液が利用されています。
- 強酸系の溶液(硫酸、塩酸、硝酸など)を使って、リチウムやコバルト、ニッケルなどの金属を溶解します。
- 特に、リチウムは希硫酸(薄い硫酸)に溶かして回収する例が多いです。
- 硫酸ベースの薬液を使っている可能性が高い。(コストと環境負荷のバランスが良いため)
- 一部、錯形成剤(キレート剤)やpH調整剤を添加して、特定の金属だけ選択的に溶かす工夫をしている可能性もある。

希硫酸に錯形成剤(キレート剤)やpH調整剤を添加した薬液が利用されていると思われます。
リチウムの選択的な回収法とは
「リチウムの選択的回収」というのは、電池に含まれるニッケル(Ni)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、銅(Cu)など、他の金属イオンとリチウムイオン(Li⁺)を分けて取り出すという意味です。
代表的な方法には以下のようなものがあります。
① pH調整による沈殿分離
- ニッケル・コバルト・マンガンは、pHを上げると水酸化物として沈殿しやすい。
- リチウムは沈殿せず、液体中に残る性質を持つ。
- これを利用して、まず他の金属を除去 → 残った液からリチウムを取り出す。
例: Ni2 + 2OH− → Ni(OH)2↓
② 特殊な吸着材を使う
- リチウムだけを選択的に吸着するイオン交換樹脂や無機吸着材(例:チタン酸リチウム系材料)を使う。
- これにリチウムだけをくっつけて、あとで逆洗(溶かす*して回収します。
③ 溶媒抽出(Solvent Extraction)
- 有機溶媒と特別な抽出剤を使って、リチウムだけを溶媒層に移す方法。
- ニッケルやコバルトとリチウムで、抽出される条件(pHや配位環境)が違うことを利用。
ただし、リチウムの溶媒抽出は難しく、コストが高いので、最近は②吸着法や①沈殿法のほうが主流になってきています。

リチウムはpHの調整や吸着材の使用、溶媒への抽出によって他の金属と分けて、選択的に回収されています。
イオン交換樹脂や無機吸着材はなぜリチウムだけを吸着できるのか
イオン交換樹脂や無機吸着材がリチウムだけを選択的に吸着できる理由は主に、金属イオンが「サイズ・電荷・水和性・配位特性」が異なるためです。 これらの違いを利用して、「リチウムだけ」を選んで吸着することが可能です。
① イオンサイズの違い(半径選択性)
- リチウムイオン(Li⁺)はアルカリ金属の中で最も小さく、イオン半径は約0.76 Åと非常に小さい。
- これに対して、Ni²⁺、Co²⁺、Mn²⁺などは1.0~1.2 Å程度。
- 一部の吸着材(例:チタン酸リチウムなど)は「限られたサイズのチャネル(孔)」を持っており、小さなLi⁺しか入れない構造になっている。
イメージ:「鍵穴に入るのはLi⁺サイズの鍵だけ」みたいな分子ふるい効果
② 結合エネルギーと親和性の違い
- 吸着材(たとえば、無機イオン交換材やキレート基付き樹脂)の中には、特定のイオンとだけ強く結合する性質を持つものがある。
- ある種の材料(例えばチタン酸塩系やゼオライト修飾材など)はLi⁺とだけ安定な構造(固相交換体)を形成しやすい。
イメージ:「Li⁺だけがしっくりはまって、他のイオンはスルーする磁石」
③ 水和エネルギーの違い(脱水のしやすさ)
- 吸着の際、金属イオンは水和(水の殻)を脱がなければならない。
- Li⁺は小さくて強く水に囲まれている(脱水エネルギーが大きい)ため、逆に「吸着しにくい」とされることもある。
- しかし、ある吸着材ではこの脱水過程も助ける設計になっており、結果としてLi⁺が優先的に取り込まれる。
イメージ:「服を脱がせにくいけど、特別な更衣室(吸着材)でうまく脱げるようになる」
実際に使われている材料例
- チタン酸リチウム
- マンガン酸塩
- ゼオライト改質型無機吸着材
- 有機系イオン交換樹脂にリチウム親和性官能基を導入(例:カルボン酸、エーテル基など)
これらを使って、リチウムを選択的に回収する技術は、海水・塩湖からのLi回収にも応用されています。

金属イオンは種類によって「サイズ・電荷・水和性・配位特性」が異なります。これらの違いを利用して、「リチウムだけ」を選んで吸着することが可能です。
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