鴻海精密工業の2025年第3四半期連結売上高が過去最高 売り上げ好調の理由は何か?ASICサーバーとは何か?

この記事で分かること

  • 好調の理由:主にAIサーバーなどのクラウドネットワーク製品への旺盛な需要と、iPhoneを中心とするスマートデバイスの需要期入りによる生産増加が牽引したためです。
  • AIサーバー向けに製造している製品:NVIDIAの最新GPU(GB200など)を搭載したハイエンドAIサーバーや、その重要部品であるチップ基板やASICサーバーを製造しています。また、AIサーバーに不可欠な液浸冷却システムも手掛けています。
  • ASICサーバーとは:特定のタスク(AIの推論など)を超高速・低消費電力で実行するため、ASIC(特定用途向けに最適化されたカスタム半導体)を搭載した専用サーバーです。

鴻海精密工業の2025年第3四半期連結売上高が過去最高

 台湾のEMS(電子機器の受託製造サービス)世界最大手である鴻海精密工業(ホンハイ)は、2025年第3四半期(7月〜9月)の連結売上高が過去最高を記録したと発表しました。

https://jp.reuters.com/opinion/forex-forum/NSRSTQSLMBMGTL4JGOL4IRRPZU-2025-10-05/

 この期間の売り上げは2兆600億台湾ドル(約660億米ドル)に達し、9月の売上高も8,370億台湾ドルに達し、単月の過去最高を更新しています。

過去最高となった理由は何か

 鴻海の2025年7月〜9月期(第3四半期)の売上高が過去最高となった主な理由は、以下の2点です。

  1. AI製品への旺盛な需要(AIサーバーの好調)
    • 人工知能(AI)関連製品、特にAIサーバーの販売が非常に好調に推移し、業績を大きく牽引しました。
    • これは、同社の主要な成長分野である「クラウドネットワーク製品」カテゴリーの好調に繋がっています。
  2. 主力のスマートデバイスの需要期入り
    • 同社の最大の収益源であるコンシューマー・スマート製品(主にAppleのiPhoneなど)が、例年通り第3四半期から始まるホリデーシーズンに向けた需要期に入り、生産が増加したことも寄与しました。

 これらの要因により、売上高が前年同期比および前四半期比で増加し、四半期ベースで過去最高を記録しました。

2025年第3四半期の過去最高売上高は、主にAIサーバーなどのクラウドネットワーク製品への旺盛な需要と、iPhoneを中心とするスマートデバイスの需要期入りによる生産増加が牽引したためです。

AIサーバーのどんな製品を製造しているのか

  鴻海が製造・関与しているAIサーバー関連製品は、主に以下の点が挙げられます。

  1. NVIDIA(エヌビディア)の最新サーバー
    • GB200搭載AIサーバー: NVIDIAの最新スーパーチップ「GB200」を搭載したAIサーバーの製造に深く関わっており、同社は量産・出荷する世界初の企業の一つになると述べています。メキシコ工場などで、このGB200サーバーの世界最大規模の生産拠点を建設する計画も進んでいます。
    • HGXチップ基板: NVIDIAのAIサーバー「HGX」向けのチップ基板を受注しており、その出荷シェアは50%以上に上ると報じられています。
  2. ASICサーバー
    • ASIC(特定用途向け集積回路)を用いたAIサーバーも製造しており、売上高の一定割合(2024年時点で約20%)を占めています。クラウドサービスプロバイダー(CSP)との協力を通じて、この分野での成長も見込んでいます。
  3. 液冷システム
    • 高性能なAIサーバーの運用に不可欠な、液浸冷却システムなどの先進的な冷却・放熱技術も、サーバーの一部として垂直統合で製造・供給しています。

 鴻海は、AIサーバーの需要の増大に対応するため、テキサス州やウィスコンシン州などでAIサーバーや関連システムの生産能力を拡大する方針を示しており、AIインフラの主要な製造パートナーとしての地位を確立しています。

鴻海は主に、NVIDIAの最新GPU(GB200など)を搭載したハイエンドAIサーバーや、その重要部品であるチップ基板ASICサーバーを製造しています。また、AIサーバーに不可欠な液浸冷却システムも手掛けています。

ASICサーバーとは何か

 ASICサーバーとは、特定の処理(タスク)を極めて効率よく実行するために設計されたASIC (Application-Specific Integrated Circuit / 特定用途向け集積回路) を主要な演算アクセラレータとして搭載したサーバーです。

 ASICは汎用的なCPUやGPUとは異なり、「ある特定のタスクを超速でこなす専門家」のような性質を持ちます。


1. ASIC(特定用途向け集積回路)とは

 ASICとは、特定の用途やアプリケーションのために回路が最適化されて設計・製造される半導体チップの総称です。

特徴内容
専門性汎用性は低いものの、特定のタスク(例:AIの推論、ネットワーク処理、暗号化など)においては、他の汎用プロセッサよりも最高の性能と効率を発揮します。
効率性無駄な回路を削減できるため、消費電力が非常に低い(電力効率が高い)です。
製造一度設計された後は回路構成を変更できません(ハードワイヤリング)。開発コストは高いですが、大量生産されるとチップ単価を大幅に削減できます。

2. ASICサーバーの主な用途(AI分野)

 「ASICサーバー」という場合、特にAI分野での利用を指すことが多く、サーバーに搭載されるASICは、主に以下の用途で使われます。

  • AIアクセラレータ:
    • 推論処理: 大規模言語モデル(LLM)など、AIモデルの実行(推論)フェーズを高速かつ低消費電力で行うために特化して設計されます。
    • 特定の演算ユニット: AI計算に必要な特定の行列演算などを効率的に処理します。
  • 代表例: Googleが開発したAI演算専用のチップ「TPU (Tensor Processing Unit)」や、Appleなどが開発する「NPU (Neural network Processing Unit)」も、ASICの一種と見なされます。

 ASICサーバーは、特にクラウドサービスプロバイダーや大企業が、大量かつ定型的なAI処理を省電力かつ低コストで実行するために、自社開発またはメーカーと協力して導入するケースが増えています。

ASICサーバーとは、特定のタスク(AIの推論など)を超高速・低消費電力で実行するため、ASIC(特定用途向けに最適化されたカスタム半導体)を搭載した専用サーバーです。

ASICサーバーと他の半導体の構造の違いは何か

 ASICサーバーの核となるASIC(特定用途向け集積回路)と、一般的なサーバーで使われるCPU(中央演算処理装置)やGPU(画像処理半導体)とでは、その内部構造(論理回路の構成)と設計思想に根本的な違いがあります。

 ASICサーバーが最高の効率性を実現できるのは、この構造的な特化によるものです。


構造の違いの比較

 ASIC、CPU、GPUはそれぞれ異なる目的のために設計されています。

特徴ASIC (特定用途向け集積回路)GPU (グラフィックス処理半導体)CPU (中央演算処理装置)
設計思想特定のタスク (例: AI推論、マイニング) のみを最速・最高効率で行うために最適化。並列処理 (特に画像や行列計算) を汎用的に高速に行う。汎用性重視。多様な種類のタスクを順番に処理する。
内部構造必要な機能の専用回路のみで構成される。無駄な回路がない多数の単純なコア(ALU)と大きなメモリで構成され、並列処理に特化。少数の複雑な強力なコアと制御回路で構成され、複雑な命令処理に特化。
柔軟性製造後の変更は不可能(回路がハードワイヤリングされている)。ソフトウェアの更新で機能変更が可能ソフトウェアで最も柔軟に機能変更が可能
電力効率最も高い。不要な回路がないため、電力当たりの性能が極めて高い。ASICに劣るが、CPUよりは高い(AI計算の場合)。汎用処理では優れるが、並列・特化処理では最も低い

1. ASIC: 「専用工場」のような構造

 ASICは、例えるなら「特定の製品だけを作るために設計された専用工場」です。

  • 構造的特徴: 特定のタスク(AI推論に必要な行列演算など)を行うための論理回路だけを、最初からチップの物理構造(ハードウェア)に組み込みます(ハードワイヤリング)。
  • 結果: そのタスクを実行するための最短かつ最も効率的な電気の道筋が確保されるため、処理速度と電力効率が他のチップを圧倒します。しかし、別のタスクをさせようとしても、回路がないため対応できません。

2. GPU: 「並列作業に強い汎用工場」のような構造

 GPUは、例えるなら「多くの作業員が一斉に単純な部品を処理できる工場」です。

  • 構造的特徴: 複雑な命令を処理するコア(制御回路)は少ないものの、大量の単純な演算ユニット(コア)を搭載しています。
  • 結果: AI学習(トレーニング)や画像処理のような膨大な数の同時並行的な計算(行列演算)を高速に処理できますが、ASICのように特定のタスクに特化しているわけではないため、ASICほどの極端な電力効率は得られません。

3. CPU: 「多機能な万能工場」のような構造

 CPUは、例えるなら「複雑な設計図を読み解き、さまざまな種類の製品を一つずつ正確に作る万能工場」です。

  • 構造的特徴: 少数の非常に強力で複雑なコアを持ち、制御ユニットやキャッシュメモリが充実しています。
  • 結果: オペレーティングシステム(OS)の実行や一般的なアプリケーション処理など、複雑な命令や順序だったタスクの処理に優れていますが、AI計算のような大規模な並列演算においては、GPUやASICに速度や電力効率で劣ります。

ASICは、特定タスクのために専用回路を組み込み、最高の効率と速度を実現します。汎用的なCPUやGPUは、多様な命令処理並列演算向けに多くのコアを持ち、柔軟性が高いですが、電力効率はASICに劣ります。

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