IBMとCiscoの量子コンピューティング分野での提携 提携の内容は?Ciscoはどんな企業か?

この記事で分かること

  • 提携の内容:IBMとCiscoは、分散型量子コンピューティング実現に向けた基盤アーキテクチャを共同開発します。複数の耐障害性を持つ量子コンピューターを量子ネットワークで接続し、大規模な量子計算を目指します。
  • Ciscoとは:世界最大のネットワーク機器開発企業です。ルーターやスイッチなど、インターネットや企業ネットワークの基盤を支えるハードウェアやソフトウェア、セキュリティソリューションを提供しています。
  • 量子コンピュータの基盤アーキテクチャの特徴:量子ビットの重ね合わせ・もつれを利用し、量子ゲートで計算します。極低温などの特殊環境が必要で、複数のQPUを量子ネットワークで結合し大規模化を目指す点が特徴です。

IBMとCiscoの量子コンピューティング分野での提携

 IBMとCiscoは、ネットワーク分散型量子コンピューティングの基盤アーキテクチャの共同開発に関する提携を発表しました。

 https://jp.reuters.com/markets/global-markets/3DMP23MRPFIQTN6TTYEOOFOIK4-2025-11-21/

 この提携は、量子コンピューティングの分野を、単一の孤立したマシンから、スケーラブルで相互接続された統合されたインフラストラクチャへと移行させる重要な一歩となる可能性があります。

Ciscoはどんな企業か

 Cisco(シスコ)は、アメリカ合衆国カリフォルニア州サンノゼに本社を置く、世界最大のコンピューターネットワーク機器開発・販売会社です。

インターネットや企業内ネットワークの基盤を支える各種機器やソリューションを提供している、ITおよびネットワークソリューションのリーディングカンパニーです。


主な事業内容

 Ciscoの事業は多岐にわたりますが、主に以下の4つのセグメントに分類されます。

1. インフラストラクチャ・プラットフォーム (Infrastructure Platforms)

 Ciscoの創業以来の主力事業であり、売上の多くを占めます。ネットワーク接続の核となる製品を提供しています。

  • ルーター(Router): 異なるネットワーク間のデータ転送を担う機器。
  • スイッチ(Switch): 企業やデータセンター内のネットワーク接続を担う機器。
  • ワイヤレス機器(Wi-Fiアクセスポイントなど): 無線ネットワーク接続のための機器。
  • データセンター製品: サーバーやストレージを接続・管理するためのソリューション(Cisco UCSなど)。

2. アプリケーション (Applications)

 ネットワーク機器を土台とした、ユーザー体験や業務効率化を支援するソリューションです。

  • コラボレーション(Webexなど): Web会議、音声・映像会議システム、コンタクトセンターソリューション。
  • アプリケーション性能管理(AppDynamicsなど): アプリケーションの動作監視・分析ツール。

3. セキュリティ (Security)

 ネットワークの進化に伴い重要性が高まっているセキュリティ製品・サービスを提供しています。

  • 次世代ファイアウォール侵入防御システム(IPS)
  • マルウェア対策、クラウドセキュリティ、認証サービスなど。

4. サービス (Services)

 上記製品に関するサポート、コンサルティング、マネージドサービス、トレーニングなどを提供しています。


企業の特徴

  • インターネットの基盤: 世界中の企業、政府機関、通信事業者、大学などがCiscoの機器を使用してネットワークを構築しており、インターネットの土台を支えていると言えます。
  • 高い市場シェア: 特にルーターやスイッチといったコアネットワーク機器の分野で、世界的にトップクラスのシェアを誇っています。
  • 量子コンピューティングへの参入: IBMとの提携に見られるように、従来のネットワーク技術に加え、量子ネットワーククラウドネットワーキングといった最先端技術の研究開発にも積極的に取り組んでいます。

Cisco(シスコ)は、世界最大のネットワーク機器開発企業です。ルーターやスイッチなど、インターネットや企業ネットワークの基盤を支えるハードウェアやソフトウェア、セキュリティソリューションを提供しています。

量子コンピューティングの基盤アーキテクチャとは何か

 量子コンピューティングの基盤アーキテクチャとは、量子コンピューター(QPU)と、それらを接続して連携させるためのネットワークシステム(QNUや量子インターコネクト)の全体的な設計・構造を指します。

 これは、従来のコンピューターにおけるCPU、メモリ、バス、そしてネットワークの構成に相当する、量子情報処理のための「設計図」です。

 IBMとCiscoの提携が目指す「分散型量子コンピューティングの基盤アーキテクチャ」では、単一のマシンではなく、複数のマシンを連携させることが焦点となります。


基盤アーキテクチャの主要な構成要素

 分散型量子コンピューティングの基盤アーキテクチャを構成する主な要素は、以下の3つに分けられます。

1. 量子処理ユニット(QPU: Quantum Processing Unit)

 計算そのものを実行する、量子コンピューターの「頭脳」です。

  • 役割: 量子ビット(Qubit)を保持し、量子ゲート操作を実行することで量子アルゴリズムを計算します。
  • 特徴: QPUは極低温などの特殊な環境で動作し、個々のQPUの計算能力には限界があります。

2. 量子ネットワーキングユニット(QNU: Quantum Networking Unit)

 QPUと外部のネットワークを繋ぐ「インターフェース」の役割を果たします。IBMとCiscoが共同開発の重点の一つとしている要素です。

  • 役割: QPUの量子ビットの情報を、長距離伝送に適した光子などの媒体に変換し、ネットワークに送り出す、または受け取ります。
  • 機能: 量子もつれ(エンタングルメント)を生成・共有し、複数のQPU間での量子情報の転送を可能にします。

3. 量子インターコネクト/量子ネットワーク

 複数のQPU(およびQNU)を物理的、論理的に接続し、量子情報を伝送する「通信経路」です。

  • 役割: 異なる場所に設置された量子コンピューター間で量子もつれを確立し、維持することです。
  • 技術的課題: 量子情報は非常にデリケートなため、長距離伝送やノイズからの保護が非常に難しく、新しいトランスデューサー(変換器)やプロトコルの開発が必要です。

分散型アーキテクチャの目標

 この基盤アーキテクチャは、以下の主要な目標を達成するために設計されています。

  • モジュール性(構成単位の自由度): 必要に応じてQPUを追加・交換できる、柔軟で拡張性の高いシステムを実現します。
  • スケーラビリティ(拡張性)の実現: 単一のQPUの物理的限界を超え、複数のQPUの量子ビットを論理的に統合することで、数万から数十万の量子ビットを使った大規模な計算を可能にします。
  • フォールトトレランス(耐障害性)の強化: 複数のシステムを連携させることで、単一のマシンのエラーを補正・修正する量子エラー訂正の機能をネットワークレベルで実装しやすくなります。

量子コンピューティングの基盤アーキテクチャとは、量子コンピューター(QPU)とネットワークシステム(QNU)を組み合わせ、大規模な計算を可能にするための全体設計です。量子ビットのもつれを維持し、伝送する仕組みを含みます。

これまでのコンピュータの基盤アーキテクチャとの違いは何か

 量子コンピューティングの基盤アーキテクチャと、これまでの古典的(従来の)コンピューターのアーキテクチャの主な違いは、情報の基本単位計算の実行方法、そしてデータと処理の関係にあります。


動作原理と情報処理の違い

項目古典的(従来の)コンピューター量子コンピューター
情報の基本単位ビット (Bit): 状態は「0」か「1」のどちらか一つ量子ビット (Qubit): 状態は「0」と「1」を同時に持つ(重ね合わせ)
計算の実行方法逐次処理: 命令を順番に処理し、論理ゲート(AND, OR, NOT)で計算。並列的処理: 重ね合わせともつれを利用し、特定の問題を同時に多数計算可能(量子ゲート)。
メモリとプロセッサ多くのシステムでフォン・ノイマン型を採用。CPU(処理)とメモリ(記憶)が分離し、バスを通じてデータをやり取りする。多くの場合、量子レジスタ(量子ビット群)が演算と記憶を兼ねる。データ転送に量子状態の崩壊リスクが伴うため、一体化していることが多い。
物理的環境室温で動作する半導体トランジスタが主体。超伝導やイオントラップなど、多くの場合極低温厳密な制御環境が必要。

ポイント: 古典コンピューターはデジタル回路を用いて命令を順番に実行しますが、量子コンピューターは量子力学の性質を利用して特定の問題に対し圧倒的な並列性を発揮します。


ネットワークとスケーラビリティの違い

分散型量子コンピューティングが目指すアーキテクチャは、古典的なデータセンターやクラスターネットワークとも根本的に異なります。

1. 接続される「情報」の性質

  • 古典的ネットワーク: 古典ビット(0と1)を電気信号や光パルスとして伝送します。データのコピーやルーティングが容易です。
  • 量子ネットワーク: 量子状態(量子ビット)そのものを伝送します。特に量子もつれ(エンタングルメント)を生成・共有することが目的であり、量子テレポーテーションなど、古典的な通信にはない現象を利用します。

2. 拡張(スケーリング)の難易度

  • 古典的アーキテクチャ: 複数のCPUを高速インターコネクト(イーサネット、InfiniBandなど)で接続し、計算資源を線形に拡張できます。
  • 量子アーキテクチャ: 量子ビットは外部ノイズに極めて弱いため、一つのQPUを大きくする(量子ビット数を増やす)こと、および異なるQPU間で量子もつれを長距離で生成・維持すること(量子インターコネクト)の技術的ハードルが非常に高いです。

3. IBM/Cisco提携の意義

 IBMとCiscoが取り組んでいるのは、この量子的な接続の難しさを克服し、複数の小型〜中型のQPUを量子ネットワークで結合することで、仮想的に一つの巨大なフォールトトレラントな量子コンピューターを構築することを目指す点にあります。

 これは、古典的な分散処理とは全く異なる、「量子情報」を扱うための新しいネットワーク層の開発を意味します。

古典的な基盤はビットで情報を逐次処理しますが、量子は量子ビット重ね合わせもつれを利用し、並列的に処理します。量子では、極低温環境で量子状態を崩壊させずにネットワークで結合する点が異なります。

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