遺伝子組み換え微生物によるバイオプラスチック生産効率向上 バイオプラスチックとは何か?遺伝子組み換えでどんなことができるのか?

この記事で分かること

  • バイオプラスチックとは:トウモロコシやサトウキビなど、再生可能な植物を原料として作られるプラスチックです。石油由来のプラスチックとは異なり、燃焼時に発生する二酸化炭素は、原料となる植物が成長過程で吸収した分と相殺されるため、地球温暖化対策に貢献すると期待されています。
  • 微生物の役割:バイオプラスチックの原料(乳酸など)を植物から発酵させて作ったり、自らの体内にプラスチック(PHA)を直接生産・蓄積したりするために利用されています。
  • 遺伝子組み換えでできること:プラスチックを合成する酵素の増加や分化する酵素を抑制するように遺伝子を組み換えることで、生産能力を大幅に高め、安価な原料を利用できるようになり、バイオプラスチックの製造コストを削減できます。また、新しい遺伝子を導入することで、耐熱性や強度などの性質を改良したプラスチックの製造も可能になります。

遺伝子組み換え微生物によるバイオプラスチック生産効率向上

 植物由来のバイオプラスチックなどの生産効率を上げるために遺伝子を組み換えた微生物(GMM)の利用をより容易にする規制緩和が検討されています。

 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA2151J0R20C25A8000000/

 現在、GMMの利用は厳格な規制下にあります。これは、環境への予期せぬ影響や生態系へのリスクを懸念してのことです。

 しかし、遺伝子組み換え技術の進歩により、安全性への懸念が軽減されつつあります。

  規制緩和の目的は、こうした技術の進歩を反映させ、GMMの産業利用を促進することです。特に、バイオプラスチックのような持続可能な製品の生産効率を高め、コストを削減することが期待されています。

植物由来のバイオプラスチックとは何か

 植物由来のバイオプラスチックとは、トウモロコシやサトウキビなど、再生可能な生物資源(バイオマス)を原料として作られたプラスチックのことです。これは「バイオマスプラスチック」とも呼ばれ、石油を原料とする従来のプラスチックとは区別されます。


メリット

  • 脱炭素社会への貢献: 植物は成長過程で光合成によって大気中の二酸化炭素を吸収します。バイオプラスチックを燃焼する際に二酸化炭素が発生しますが、原料となる植物が吸収した分と相殺されるため、大気中の二酸化炭素量を実質的に増加させません(カーボンニュートラル)。🌱
  • 資源の持続可能性: 石油のような限りある化石燃料に依存せず、再生可能な植物資源から作られるため、資源枯渇のリスクを軽減できます。

種類

 バイオプラスチックは、大きく分けて二つの性質を持っています。

  1. 原料が植物由来であること(バイオマスプラスチック)。
  2. 微生物の働きで水や二酸化炭素に分解されること(生分解性プラスチック)。

 植物由来のバイオプラスチックは、この両方の性質を兼ね備えているものもあれば、従来のプラスチックと同様に自然分解されないものもあります。

 例えば、ポリ乳酸(PLA)はトウモロコシなどを原料とし、微生物によって分解される性質を持つ代表的な例です。一方、サトウキビを原料とするバイオポリエチレン(バイオPE)は、従来のポリエチレンとほぼ同じ性質を持ち、自然分解はしません。


課題

  • 製造コスト: 石油由来のプラスチックに比べて、製造コストが高い傾向にあります。
  • 食糧との競合: 一部のバイオプラスチックの原料には食用穀物も含まれるため、食糧供給への影響が懸念される場合があります。
  • リサイクルの難しさ: 従来のプラスチックと混ぜてリサイクルすることが難しく、分別回収の仕組みを整備する必要があります。

植物由来のバイオプラスチックとは、トウモロコシやサトウキビなど、再生可能な植物を原料として作られるプラスチックです。石油由来のプラスチックとは異なり、燃焼時に発生する二酸化炭素は、原料となる植物が成長過程で吸収した分と相殺されるため、地球温暖化対策に貢献すると期待されています。生分解性を持つものとそうでないものがあります。

バイオプラスチックでの微細物の利用方法は

 微生物は、バイオプラスチックの原料を生産するため、あるいはバイオプラスチックそのものを直接生産するために利用されています。


原料の生産

 トウモロコシやサトウキビといった植物由来の原料は、そのまますぐにプラスチックになるわけではありません。微生物による発酵プロセスを経て、プラスチックの原料となる中間物質(例:エタノールや乳酸)に変換されます。


プラスチックそのものの生産

 一部の微生物(バクテリアなど)は、細胞内にエネルギー貯蔵物質としてポリヒドロキシアルカン酸(PHA)という生分解性のプラスチックを自ら蓄積する能力を持っています。

 微生物に植物由来の糖分などを与えることで、微生物がこれを食べ、体内でPHAを合成・蓄積させます。その後、微生物の細胞からPHAを抽出・精製することで、バイオプラスチックとして利用することができます。

 この方法は、微生物が直接プラスチックを生産するため、環境負荷が低い製造方法として注目されています。

微生物は、バイオプラスチックの原料(乳酸など)を植物から発酵させて作ったり、自らの体内にプラスチック(PHA)を直接生産・蓄積したりするために利用されています。これにより、環境負荷の少ない方法でバイオプラスチックが製造されます。

どうやってポリヒドロキシアルカン酸を合成しているのか

 微生物は、主にエネルギーや炭素源が豊富な環境で、かつ窒素などの栄養分が不足している状態になると、ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)を合成し、体内に蓄積します。これは、微生物が飢餓状態に備えてエネルギーを貯蔵するためのメカニズムです。


合成のメカニズム

 PHAの合成には、主に3つの酵素が関与する代謝経路が働きます。

  1. 原料の供給: まず、微生物は与えられた糖や植物油などを分解し、PHAのモノマー(単量体)であるヒドロキシアルカン酸CoAを生成します。
  2. モノマーの重合: 次に、PHA重合酵素(PHAシンターゼ)という特別な酵素が働きます。この酵素は、生成されたモノマーを次々とつなぎ合わせ、高分子のポリマーであるPHAを合成します。この重合過程で、モノマーの数珠つなぎのような形でPHA分子が徐々に大きくなっていきます。
  3. 顆粒としての蓄積: 合成されたPHAは、水に溶けないため、細胞内で顆粒(グラニュール)と呼ばれる小さな粒子の形で蓄えられます。この顆粒は、微生物にとってのエネルギー貯蔵庫の役割を果たします。

 このプロセスは、微生物が自らの生存のために自然に行うものであり、環境に優しいバイオプラスチック製造の基盤となっています。研究者はこの能力を活かし、特定の微生物に効率よくPHAを生産させるための条件を確立したり、遺伝子組み換えによって生産能力を向上させたりしています。

微生物は、栄養不足で炭素源が豊富な環境になると、エネルギー貯蔵のためPHAシンターゼという酵素を使って、糖などを原料にポリヒドロキシアルカン酸(PHA)を合成し、細胞内に顆粒として蓄積します。

遺伝子組み換えでどんなことが可能になるのか

 微生物の遺伝子を組み換えることで、バイオプラスチック製造の生産効率を大幅に高め、コストを削減することが可能になります。また、新しい性質を持つプラスチックの開発もできるようになります。


生産効率の向上とコスト削減

 遺伝子組み換えによって、微生物がバイオプラスチックをより多く、より速く生産できるようにします。具体的には、以下のようなことが可能になります。

  • 生産能力の増強: プラスチックを合成する酵素(PHAシンターゼなど)の遺伝子を増やすことで、微生物が合成できるプラスチックの量を増やせます。
  • 不要な経路の遮断: プラスチックを分解してしまう酵素の遺伝子を不活性化することで、生産したプラスチックが微生物によって消費されてしまうのを防ぎ、蓄積量を最大化できます。
  • 原料利用効率の改善: 微生物が、より多様な、あるいは安価な原料(例:農産廃棄物、CO2)から効率よくプラスチックを生産できるように遺伝子を改変できます。

新しい性質を持つプラスチックの開発

遺伝子組み換えは、プラスチックの性質自体を改良するのにも役立ちます。

  • 共重合体の合成: 複数の異なるモノマー(単量体)を組み合わせて新しい種類のプラスチックを合成させることで、従来のバイオプラスチックにはない耐熱性や強度、柔軟性などを付与できます。例えば、微生物に異なる種類のPHAを合成させる遺伝子を導入することで、強度と生分解性を両立したプラスチックが開発されています。
  • 用途の拡大: 生分解性を保ちつつ、より幅広い用途(例:フィルム、繊維、医療材料)に適した物性を持つプラスチックの生産が可能になります。

微生物の遺伝子を組み換えることで、生産能力を大幅に高め、安価な原料を利用できるようになり、バイオプラスチックの製造コストを削減できます。また、新しい遺伝子を導入することで、耐熱性や強度などの性質を改良したプラスチックの製造も可能になります。

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