この記事で分かること
- 次亜塩素酸による不活性化の方法:強力な酸化作用により、ウイルスの表面にあるタンパク質(スパイク等)や脂質の膜を破壊します。さらに、電気的に中性なため内部へ浸透しやすく、核酸(RNA/DNA)を直接損傷させて感染力や増殖能力を奪うことで不活性化します。
- 次亜塩素酸による不活性化の利点:アルコールが効きにくいノンエンベロープウイルス(ノロ等)にも有効な幅広い対応力が最大の利点です。人がいる空間で「浮遊」と「付着」両方のウイルスを同時に持続抑制できる点も利点です。
- 電気分解による次亜塩素酸の製造方法:水道水に塩を加え電気分解することで、次亜塩素酸水溶液を生成します。陽極で発生した塩素が水と反応して主成分となり、これをフィルターに浸透させ、風を当てることで除菌成分を空間へ放出しています。
次亜塩素酸によるウイルスの不活性化
パナソニックが食塩水を電気分解してつくる酸化剤「次亜塩素酸」を用いて、人間のせきを想定した飛沫に含まれるインフルエンザウイルスを不活性化できたと発表しました。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF155S30V10C26A1000000/
次亜塩素酸はどのようにウイルスを不活性化するのか
次亜塩素酸がウイルスを不活性化する仕組みは、主にその強力な酸化作用にあります。ウイルスが感染力を失うプロセスは、大きく分けて以下の3つのステップで進みます。
1. ウイルス表面(外殻)の破壊
インフルエンザウイルスのような「エンベロープ」を持つウイルスの場合、次亜塩素酸はその脂質の膜を攻撃します。
- タンパク質の変性: ウイルスの表面には、細胞に付着するための「スパイクタンパク」などが存在します。次亜塩素酸はこれらのタンパク質を酸化させ、形をゆがめる(変性させる)ことで、ウイルスがヒトの細胞に結合できないようにします。
2. ウイルス内部への浸透
次亜塩素酸は電気的に中性という非常に重要な特徴を持っています。
- 多くのウイルスや菌の表面はマイナスの電荷を帯びていますが、中性の次亜塩素酸は反発を受けることなく、スッと内部に浸透できます。
- これに対し、漂白剤などに含まれる次亜塩素酸イオン(OCl-)はマイナスの電荷を持つため、ウイルス表面と反発してしまい、内部への浸透効率が落ちます。これが「次亜塩素酸」が高い除菌力を持つ理由の一つです。
3. 遺伝子(核酸)と内部タンパク質の損傷
内部に侵入した次亜塩素酸は、ウイルスの核心部分を攻撃します。
- DNA/RNAの破壊: ウイルスの設計図である核酸を酸化・切断します。
- 酵素の失活: ウイルスが複製するために必要な内部の酵素やタンパク質も酸化によって機能を失わせます。
結果として、ウイルスは「細胞にくっつけない」「中身がボロボロで増殖できない」という状態になり、もはや病気を引き起こす力がない「ただの粒」になります。これを「不活性化」と呼びます。

次亜塩素酸は強力な酸化作用により、ウイルスの表面にあるタンパク質(スパイク等)や脂質の膜を破壊します。さらに、電気的に中性なため内部へ浸透しやすく、核酸(RNA/DNA)を直接損傷させて感染力や増殖能力を奪うことで不活性化します。
他の不活性化の方法と比べた際の利点は何か
他の不活性化方法(アルコールや紫外線、次亜塩素酸ナトリウムなど)と比較した際、パナソニックの技術に代表される「電気分解による次亜塩素酸」の主な利点は以下の3点です。
1. 「空間」と「付着」の両方を同時に除菌できる
アルコールや拭き掃除との決定的な違いは、人がいる空間で稼働させ続けられる点です。
- アルコール: 手指や物には有効ですが、空間に噴霧すると引火の危険や人体への刺激(粘膜の痛みなど)があるため、空間除菌には向きません。
- 次亜塩素酸(パナソニック方式): 低濃度の次亜塩素酸を空気中に揮発させるため、浮遊しているウイルスだけでなく、ドアノブや家具に付着したウイルスにも持続的にアプローチできます。
2. アルコールが効きにくいウイルスにも有効
ウイルスには、アルコールで壊れやすいタイプ(インフルエンザなど)と、アルコールに強いタイプ(ノロウイルスなど)があります。
- アルコール: 脂質の膜を持たない「ノンエンベロープウイルス」には効果が薄い場合があります。
- 次亜塩素酸: 強力な酸化力を持つため、インフルエンザだけでなく、ノロウイルスなどの耐性の強いウイルスに対しても高い不活性化効果を発揮します。
3. 安全性と利便性のバランス(電気分解の強み)
市販の塩素系漂白剤(次亜塩素酸ナトリウム)と比較した場合、パナソニックの「塩水を電気分解する」方式には以下のメリットがあります。
- 低刺激: 強アルカリ性の漂白剤とは異なり、肌に近いpH(中性付近)で生成されるため、人体やペットがいる環境でも使いやすくなっています。
- 新鮮な成分: 次亜塩素酸は光や時間で分解されやすい不安定な物質ですが、その場で電気分解して生成するため、常に高い効果を持つ「作りたて」を供給できます。
まとめ
| 比較項目 | 次亜塩素酸(電気分解式) | アルコール | 紫外線 (UV-C) |
| 主な対象 | 空間・付着・幅広いウイルス | 手指・物体表面 | 空間・物体表面(光が当たる所) |
| 持続性 | 稼働中はずっと持続 | 揮発したら終わり | 照射中のみ |
| ノロ等への効果 | 有効 | 効果が薄い | 有効 |
| 安全性 | 高い(低濃度噴霧時) | 引火性あり・手荒れ | 直視や肌への照射は危険 |
紫外線(UV)は強力ですが「影」になる部分には届きません。次亜塩素酸は「気体(揮発成分)」として広がるため、部屋の隅々まで行き渡りやすいという物理的な利点もあります。

アルコールが効きにくいノンエンベロープウイルス(ノロ等)にも有効な幅広い対応力が最大の利点です。また、低濃度で揮発させるため、人がいる空間で「浮遊」と「付着」両方のウイルスを同時に持続抑制できる点も、拭き取り清掃や紫外線にはない強みです。
食塩水からの次亜塩素酸の製造方法は
パナソニックの方式(ジアイーノ等)における次亜塩素酸の製造プロセスは、主に「塩水の電気分解」という化学反応を利用しています。
1. 製造のステップ
本体内部で以下の工程が自動的に行われます。
- 混合: 水道水に専用の塩タブレット(食塩:NaCl)を投入し、約0.1%以下の低濃度な食塩水を作ります。
- 電気分解: 電極に電流を流すと、水(H2O)と塩化ナトリウム(NaCl)が反応します。
- 陽極(プラス極)側: 塩素ガスが発生し、それが水に溶け込むことで次亜塩素酸(HOCl)が生成されます。
- 陰極(マイナス極)側: 水素ガスと水酸化ナトリウムが生成されます。
- pH調整: パナソニックの技術では、除菌力と安全性のバランスが良い「弱アルカリ性(pH約8.5)」に調整された次亜塩素酸水溶液を生成するのが特徴です。
2. 化学反応式
大まかな反応は以下の通りです。
NaCl + H2O → HOCl + NaOH + H2
(※実際には複数のステップを経て次亜塩素酸が生成されます)
3. 市販品との違い
この「その場でつくる」方式には大きなメリットがあります。
- 新鮮さ: 次亜塩素酸は紫外線や時間経過で分解されやすいため、使う直前に作るのが最も効率的です。
- 安全性: 劇物である高濃度の塩素ガスをそのまま使うのではなく、水溶液として安全な濃度で管理・放出しています。

水道水に塩を加え電気分解することで、内部で次亜塩素酸水溶液を生成します。陽極で発生した塩素が水と反応して主成分となり、これをフィルターに浸透させ、風を当てることで除菌成分を空間へ放出する仕組みです。

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