人手不足倒産の増加 人手不足倒産とは何か?なぜ増加しているのか?

この記事で分かること

  • 人手不足倒産とは:従業員の離職や採用難、後継者不在などで必要な人材を確保できず、事業継続が困難になり倒産することです。人件費高騰による経営圧迫も含まれ、少子高齢化で増加傾向にあります。
  • 人手不足倒産の増加理由:少子高齢化による労働人口減少が根本原因です。加えて、人材獲得競争の激化、人件費高騰、そして特定の業界における労働規制強化(例:2024年問題)が重なり、特に中小企業で人材確保が困難になっているためです。

人手不足倒産の増加

  2025年上半期(1月~6月)における「人手不足倒産」の件数が、過去最多を更新したことがニュースになっています。

 2025年上半期の人手不足倒産は202件発生し、上半期としては2年連続で過去最多を更新しました。これは前年同期から20件の増加です。

人手不足倒産とはなにか

 「人手不足倒産」とは、企業が事業を継続するために必要な人材を確保できず、その結果として経営が行き詰まり、最終的に倒産に至ってしまう現象のことです。

これは、単に赤字経営で資金繰りが悪化して倒産するケースとは異なり、たとえ事業自体は黒字であっても、人手が足りないために業務が回らなくなり、事業を畳まざるを得なくなるという特徴があります。

人手不足倒産の主な種類と具体例

帝国データバンクなどの調査によると、人手不足倒産は主に以下の4つの類型に分けられます。

  1. 後継者難型
    • 定義: 経営者や主要な幹部が高齢化や病気などで引退せざるを得なくなったにもかかわらず、事業を引き継ぐ後継者が見つからないために事業継続が困難になるケースです。
    • 具体例: 長年個人で事業を営んできた店主が引退する際、子供が継がず、従業員にも適任者がいないため廃業する。熟練の技術を持つ職人が引退し、その技術を受け継ぐ人材がいないために事業を継続できなくなる。
  2. 求人難型
    • 定義: 人手不足を解消するために求人を出しても、応募者がいなかったり、募集しても採用に至らなかったりするなど、必要な人材を確保できないために事業継続を断念するケースです。
    • 具体例: 建設業や物流業で、長時間労働や重労働が敬遠され、ドライバーや作業員などの募集をかけても全く応募がない。飲食店でアルバイトの募集をしても人が集まらず、店舗運営に必要な最低限の人員を確保できないため、営業時間短縮や店舗閉鎖に追い込まれる。
  3. 従業員退職型
    • 定義: 従業員の離職によって人手が不足し、業務が滞ることで事業継続が困難になるケースです。特に、業務の中核を担うベテラン社員や幹部層の退職が大きな打撃となることがあります。
    • 具体例: 会社のベテラン社員が定年退職した後、その業務を引き継げる若手社員が育っておらず、業務が滞ってしまう。劣悪な労働環境や低い賃金が原因で従業員の退職が相次ぎ、業務が回らなくなって廃業する。
  4. 人件費高騰型
    • 定義: 人手不足を解消するために高水準の賃金を提示したり、最低賃金の上昇などによって人件費が大幅に高騰したりした結果、収益を圧迫し、経営が成り立たなくなるケースです。
    • 具体例: 人材確保のため、他社より高い賃金を提示したものの、その人件費が経営を圧迫し、資金繰りが悪化して倒産に至る。利益率の低い業界で、最低賃金が引き上げられたことで人件費負担が急増し、事業を継続できなくなる。

 これらの要因は単独で発生するだけでなく、複合的に絡み合って倒産に至ることも少なくありません。少子高齢化が進む日本では、今後も人手不足倒産は深刻な問題として続いていくと見られています。

人手不足倒産とは、従業員の離職や採用難、後継者不在などで必要な人材を確保できず、事業継続が困難になり倒産することです。人件費高騰による経営圧迫も含まれ、少子高齢化で増加傾向にあります。

人手不足倒産が増えている理由は

 人手不足倒産が増えている理由は、複数の要因が複雑に絡み合っています。主な理由は以下の通りです。

少子高齢化による構造的な労働人口の減少

  • 日本全体の生産年齢人口(15歳~64歳)が減少の一途をたどっており、企業が採用できる人材そのものが少なくなっています。
  • 特に、2060年には働く人と支える人の割合が逆転すると予測されるなど、この傾向は今後さらに加速すると見られています。
  • これにより、少ない労働者を多くの企業が奪い合う「人材獲得競争」が激化し、特に知名度や待遇面で不利になりがちな中小企業は、より人材確保が困難になっています。

働き方の多様化と採用条件の変化

  • 終身雇用制度が変化し、転職が一般化しているため、従業員がより良い待遇や働き方を求めて離職しやすくなっています。
  • ワークライフバランスを重視する傾向が強まり、長時間労働や休暇の取りにくい職場は敬遠されがちです。
  • フリーランスなど、企業に雇用されない働き方を選ぶ人も増えており、求人に応募する人材の絶対数が減少しています。

特定の業界における「2024年問題」などの影響

  • 特に建設業や物流業では、2024年4月からの時間外労働の上限規制(いわゆる「2024年問題」)が適用されたことで、ドライバーや作業員の労働時間が制限され、一人あたりの輸送量や業務量が減少しています。これにより、人手がさらに必要となるにもかかわらず、労働環境の厳しさから採用が困難になっています。

人件費の高騰

  • 最低賃金の上昇や物価高騰の影響で、企業は人材確保のために賃金を上げざるを得ない状況にあります。
  • 特に利益率の低い中小企業やサービス業では、高騰する人件費が経営を圧迫し、資金繰りが悪化して倒産に至るケースが増えています。
  • 一方で、人件費を抑えようとすると、他社との採用競争に負けて人材が集まらないというジレンマに陥ります。

中小企業が抱える固有の課題

  • 知名度の低さ: 大企業に比べて知名度が低く、求職者に自社の魅力を伝えにくい傾向があります。
  • 採用ノウハウの不足: 採用専門の担当者がいない、または少ないため、効果的な採用活動が行えないことがあります。
  • 労働環境・待遇の相対的な劣位: 大企業と比較して、福利厚生や教育体制が不十分であったり、賃金水準が低かったりすることで、人材が流出しやすい状況にあります。
  • 後継者不足: 経営者の高齢化が進む中で、事業を承継する後継者がいないために廃業・倒産に至るケースも多く見られます。

 これらの要因が複合的に作用し、人手不足倒産は増加傾向にあります。企業は、採用活動の強化だけでなく、既存従業員の定着促進、生産性向上のためのIT・DX化、働き方改革、外国人材の活用など、多角的な対策が求められています。

少子高齢化による労働人口減少が根本原因です。加えて、人材獲得競争の激化人件費高騰、そして特定の業界における労働規制強化(例:2024年問題)が重なり、特に中小企業で人材確保が困難になっているためです。

政府はどのような対策を行っているのか

 日本政府は人手不足倒産、ひいては広範な人手不足問題に対して、さまざまな対策を講じています。その取り組みは多岐にわたりますが、主に以下のような方向性で進められています。

1. 生産性向上とDX(デジタルトランスフォーメーション)推進の支援

  • IT導入補助金など: 中小企業がITツールやソフトウェアを導入し、業務効率化や生産性向上を図ることを支援する補助金制度があります。これにより、少ない人数でも業務を回せる体制を構築することを促しています。
  • ロボット・IoT導入支援: 生産現場におけるロボットやIoT(モノのインターネット)の導入を支援し、自動化・省人化を推進しています。
  • デジタル人材育成: デジタル化に対応できる人材の育成を目的としたプラットフォーム「マナビDX」の提供や、情報処理技術者試験などを通じたスキルアップ支援を行っています。

2. 多様な人材の活用促進

  • 高齢者の就労促進:
    • 高年齢者雇用安定法の改正: 企業に対し、70歳までの定年引き上げや継続雇用制度の導入などを努力義務として課しています。
    • 65歳超雇用推進助成金: 高齢者の雇用環境を整備する企業を支援する助成金です。
  • 女性の活躍推進:
    • 出産・育児による離職防止: 保育サービスの充実や両立支援等助成金を通じて、仕事と育児の両立を支援しています。
    • リスキリング・キャリアアップ支援: 働いている女性が新たなスキルを習得し、キャリアアップできるよう支援を強化しています。
    • フェムテック技術活用: 女性特有の健康問題への支援も行われています。
  • 外国人材の受入れ拡大:
    • 特定技能制度などを通じて、人手不足が深刻な分野での外国人材の受け入れを進めています。
    • 在留資格の拡充や、生活・就労支援の強化も図られています。
  • 障害者雇用の促進: 企業への支援や制度整備を通じて、障害者の雇用を促進しています。

3. 労働環境の改善と人材定着の促進

  • 働き方改革推進支援助成金: 中小企業が長時間労働の是正や有給休暇の取得促進など、働き方改革に取り組む際の費用を助成します。
  • 業務改善助成金: 最低賃金を引き上げ、生産性向上に資する設備投資などを行う企業を支援します。
  • キャリアアップ助成金: 非正規雇用労働者の正社員転換や処遇改善に取り組む企業を支援し、人材の定着を促します。
  • 雇用管理改善支援: 企業が従業員の定着を図るための雇用管理改善に取り組む際の支援を行っています。

4. 採用支援とマッチングの強化

  • ハローワークの機能強化: 人材確保ニーズが高い地域のハローワークに「人材確保対策コーナー」を設置し、医療・福祉、建設、運輸などの分野で専門的な支援を提供しています。
  • 求人情報の透明化と具体化: ミスマッチを防ぐため、求人情報の詳細化やキャリアパスの提示などを推奨しています。

5. 補助金・助成金の活用促進

  • 事業再構築補助金、ものづくり補助金、IT導入補助金、小規模事業者持続化補助金、事業承継・引継ぎ補助金など、様々な補助金において、人手不足対策に資する取り組みに対して加点措置を設けるなど、活用を促しています。

 これらの対策は、個々の企業が人手不足を克服し、持続的な経営を行うための支援を目的としています。政府としては、労働力人口の構造的な減少という課題に対し、供給サイドと需要サイドの両面からアプローチしていると言えるでしょう。

政府は、IT導入補助金やDX推進支援で生産性向上を促し、多様な人材(高齢者、女性、外国人など)の活用を促進。また、働き方改革助成金などで労働環境改善を支援し、人材定着を図ることで人手不足倒産対策を進めています。

他国でも人手不足倒産は増えているのか

 日本に限らず、多くの国で人手不足が深刻化しており、それが企業の倒産につながるケースが増加しています。

グローバルな人手不足の背景

  • 少子高齢化: 日本ほど顕著ではないにしても、欧米や多くのアジア諸国でも出生率の低下と平均寿命の伸長により、労働力人口の高齢化・減少が進んでいます。
  • 働き方の変化: グローバルで、より良い労働条件やワークライフバランスを求める傾向が強まっています。特定の ngành (業界) や職種(例:ヘルスケア、運輸、建設、宿泊・飲食業)では、特に人手不足が顕著です。
  • スキルミスマッチ: デジタル化の進展により、求められるスキルが変化しているにもかかわらず、既存の労働力がそれに追いついていない「スキルミスマッチ」も問題となっています。
  • パンデミック後の影響: COVID-19パンデミックとその後の経済活動再開により、一部の業界では急激な需要回復に対して人材供給が追い付かない状況が発生しました。また、パンデミック中に労働市場を離れた人々が戻らない「Great Resignation」のような現象も欧米で報告されています。
  • インフレと人件費高騰: 世界的なインフレ傾向により、賃上げ圧力が高まっています。人材確保のためには賃上げが不可欠ですが、それが企業の収益を圧迫し、倒産の一因となることがあります。

具体的な状況(例):

  • 欧米:
    • PwCの「Global insolvency year in review 2024」レポートによると、2024年には世界的に倒産件数が増加し、建設業などが特に影響を受けています。これは、資材費の高騰と並んで労働力不足も要因として挙げられています。
    • Cofaceのレポートでは、2024年に中東欧諸国の倒産件数が増加し、製造業や運輸業人手不足が要因の一つとされています。
    • ドイツでも企業倒産が増加しており、不利な人口動態が投資減少と成長鈍化を引き起こし、倒産増加につながっていると指摘されています。
    • アリアンツのレポートでは、2024年には世界の倒産件数が9%増加し、特に建設、小売、サービスといった労働集約型産業で人手不足がリスク要因となっています。
  • アジア:
    • 日本と同様に、韓国やオーストラリアなど一部のアジア諸国でも人手不足による倒産が増加していると指摘されています。

 各国政府も、日本と同様に、デジタル化推進、多様な人材の活用、労働環境改善などの対策を講じています。

このように、人手不足は日本固有の問題ではなく、世界的に多くの国が直面している課題であり、それが企業の経営破綻の一因となるケースは増える傾向にあります。

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