銅の需要増加と供給不足 需要が増加する理由は何か?供給不安の要因とリサイクルの課題は?

この記事で分かること

  • 銅の需要増加の要因:脱炭素化に伴う電気自動車(EV)や再生可能エネルギーの普及が主因です。これらは従来の数倍の銅を消費します。さらに、AI用データセンターの増設や送電網の整備、新興国の都市化が需要を強力に押し上げます。
  • 供給不安の度合い:深刻な供給不足が懸念されています。新規鉱山の開発には15年以上の歳月を要し、既存鉱山の品位低下や産地の政情不安、環境規制の強化も供給の足かせです。2040年には年間約1千万トンの不足が生じる恐れもあります。
  • 銅リサイクルの課題:製品の小型・複雑化による分離の難しさと、回収インフラの未整備が大きな課題です。不純物を取り除く高度な精錬コストや、製品寿命の長さによるスクラップ発生のタイムラグも供給不足を補う上での障壁となっています。

銅の需要増加と供給不足

 脱炭素(カーボンニュートラル)への世界的なシフトを背景に、2040年までに世界の銅需要が大幅に増加するという予測がなされています。

 https://jp.reuters.com/markets/commodities/X7A77KJZEJNMRG3ACCF6RGVGQE-2026-01-08/

 需要が50%増える一方で、「供給が追いつかない」という懸念が強まっています。

需要増加の要因は何か

 2040年までに世界の銅需要が50%増加するという予測(S&Pグローバル等の報告による)には、主に「エネルギーの電化」「先端技術の爆発的普及」という2つの大きな流れがあります。


1. 脱炭素・エネルギー転換(最大の推進力)

 世界的なカーボンニュートラルへの動きが、銅需要を根本から押し上げています。

  • 電気自動車(EV)の普及EVはガソリン車に比べ、1台あたり約3〜4倍の銅(モーター、配線、バッテリー等)を使用します。2040年にはEV関連だけで需要が現在の10倍以上に達するとの試算もあります。
  • 再生可能エネルギーの導入太陽光や風力発電は、火力発電と比較して発電単位あたりの銅使用量が格段に多いのが特徴です。また、遠隔地の発電所から都市へ電気を運ぶための巨大な送電網(グリッド)の整備にも大量の銅が投じられます。

2. 新たな需要の波(AI・ロボット・防衛)

 2020年代後半から特に注目されているのが、デジタルインフラと地政学的な要因です。

  • AIとデータセンターAIの進化に伴い、膨大な電力を消費するデータセンターの建設が加速しています。電力供給システムや冷却装置、内部配線において銅は不可欠です。
  • 防衛産業の拡大地政学リスクの高まりを受け、各国が防衛予算を増額しています。近代的な兵器、通信システム、ドローンなどの軍事技術は、電子化・電動化が進んでおり、非常に多くの銅を消費します。
  • ロボット工学の進展産業用ロボットやサービスロボットの普及により、精密なモーターや配線への需要が積み上がっています。

3. 伝統的な需要の継続

  • 新興国の都市化インドや東南アジアなどの新興国におけるインフラ整備、家電製品、建設需要は依然として力強く、ベースとなる需要を支え続けています。

 銅は銀に次いで高い電気伝導率を持ちながら、銀よりも圧倒的に安価で加工しやすいという特性があります。「地球を電化(Electrification)する」ために、銅に代わる現実的な素材が今のところ存在しないことが、この50%という強気な予測の背景にあります。

脱炭素化に伴う電気自動車(EV)や再生可能エネルギーの普及が主因です。これらは従来の数倍の銅を消費します。さらに、AI用データセンターの増設や送電網の整備、新興国の都市化が需要を強力に押し上げます。

需要増加に対し、供給は追いつくのか

 最新の予測(S&Pグローバル等)では、2040年には需要に対して年間約1,000万トンの供給不足に陥る可能性があると警告されています。これは、現在の世界需要の約4分の1が満たされないことを意味します。主な不安要素は以下の3点です。


1. 新規鉱山開発の「時間切れ」

 新しい銅鉱山を発見してから、実際に採掘を開始するまでには15年〜25年という極めて長い歳月がかかります。2040年の需要増に応えるには「今すぐ」大規模な開発をいくつも始める必要がありますが、現在の投資スピードは全く追いついていません。

2. 既存鉱山の「質」の低下

 現在稼働している主要な鉱山(チリやペルーなど)では、掘り進めるにつれて岩石に含まれる銅の割合(品位)が低下しています。同じ量の銅を得るために、より多くのエネルギーとコストが必要になり、生産効率が落ちています。

3. 地政学リスクと環境規制

  • 産地の偏り: 世界の埋蔵量の多くが南米やアフリカ(コンゴ民主共和国など)に集中しており、現地の政情不安やストライキが供給をストップさせるリスクがあります。
  • 環境保護: 採掘には大量の水と電力が必要なため、環境負荷への懸念から新規開発の許可(パーミット)が下りにくくなっています。

解決の鍵は「リサイクル」だが…

 リサイクル銅の供給量も2040年までに倍増(年間約1,000万トンへ)すると予測されていますが、それでも全体の不足分を埋めるには至りません。

 「銅の不足が原因で、世界が掲げる脱炭素(EVシフトなど)の目標が達成できなくなる」というシナリオが現実味を帯びています。

深刻な供給不足が懸念されています。新規鉱山の開発には15年以上の歳月を要し、既存鉱山の品位低下や産地の政情不安、環境規制の強化も供給の足かせです。2040年には年間約1千万トンの不足が生じる恐れもあります。

銅のリサイクルの課題はなにか

 銅のリサイクルは供給不足を補う切り札と期待されていますが、2040年に向けて以下の「3つの高い壁」に直面しています。


1. 製品の複雑化と分離の困難さ

 現代のスマートフォンや電気自動車(EV)などの電子機器は、小型・高性能化のために銅が他の金属や樹脂、接着剤と強固に組み合わされています。

  • 微細化の壁: 回路基板上の銅は極めて薄く、効率よく剥がして回収する技術が追いついていません。
  • 不純物の混入: リサイクル過程で鉄や鉛、ヒ素などの不純物が混ざりやすく、それを取り除いて高品質な銅に戻すには高度な製錬技術と多大なコストがかかります。

2. 回収・収集システムの不備

 銅スクラップを効率的に集める仕組みが世界的に不足しています。

  • 都市鉱山の散逸: 家庭に眠る古い家電(都市鉱山)や、新興国での不適切な廃棄により、多くの銅が回収ルートに乗らずに失われています。
  • 地政学と輸出規制: 資源保護の観点から、多くの国が銅スクラップの輸出を制限し始めており、リサイクル資源が世界規模で円滑に循環しにくい状況が生じています。

3. 経済性とエネルギーのジレンマ

  • コストの逆転: 質の悪いスクラップから純度の高い銅を再生する場合、新規に鉱石を掘るよりもコストやエネルギー消費が高くなってしまうケースがあります。
  • 供給までのタイムラグ: 銅製品(建物やインフラ)の寿命は20〜50年と長いため、今需要が急増しても、過去に投入された銅がリサイクルに回ってくるまでには長い時間がかかります。

製品の小型・複雑化による分離の難しさと、回収インフラの未整備が大きな課題です。不純物を取り除く高度な精錬コストや、製品寿命の長さによるスクラップ発生のタイムラグも供給不足を補う上での障壁となっています。

銅に変わる素材は何かがあるのか

 銅の代替素材はいくつか存在しますが、「性能」「コスト」「用途」のバランスにおいて、完全に銅を置き換えるのは容易ではありません。現在、主要な代替素材として注目されているのは以下の3つです。


1. アルミニウム(最も現実的な代替品)

 すでに送電線や一部の自動車部品で実用化が進んでいます。

  • メリット: 銅の約3分の1の軽さで、価格も大幅に安価です。
  • デメリット: 導電率が銅の約60%しかないため、同じ電気を流すには配線を太くする必要があります。また、腐食しやすく、熱膨張により接合部が緩みやすいという課題があります。
  • 用途: 架空送電線、大型ビル用の配線、エアコンの熱交換器など。

2. カーボンナノチューブ(CNT)などの炭素素材

 次世代の「夢の素材」として研究が進んでいます。

  • メリット: 非常に軽量で、銅を上回る電流容量(流せる電気の量)を持つ可能性があります。
  • デメリット: 大量生産のコストが非常に高く、長尺のワイヤーにする製造技術がまだ確立されていません。
  • 用途: 超軽量が求められる航空宇宙、高性能デバイスの内部配線など。

3. 超電導素材

 特定の冷却条件下で電気抵抗がゼロになる素材です。

  • メリット: 送電ロスが全くないため、究極のエネルギー効率を実現できます。
  • デメリット: 液体窒素などによる冷却設備が必要で、インフラとしてのコストが膨大です。
  • 用途: 特殊な送電ケーブル、医療用MRI、リニアモーターカー。

主力はアルミニウムで、軽量さと安価さを武器に送電線などで普及しています。一方で、導電性や耐久性の面で銅に劣るため、小型化が必要な精密機器やEVモーターでは、依然として銅が不可欠な状況です。

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