この記事で分かること
- エア・ウォーターの成長事業とは:海外産業ガス、エレクトロニクス、脱炭素、アグリの4つを成長事業と位置付けています。
- どんなガスを供給しているのか:空気分離ガス(酸素、窒素、アルゴン等)、半導体製造に不可欠な特殊ガス、そして炭酸ガスや水素など、多岐にわたる産業ガスを製造・供給しています。
エア・ウォーターの成長事業への投資増
エア・ウォーターは、22028年3月期を最終年度とする中期経営計画を発表しています。25年3月期に752億円だった連結営業利益を1000億円にする目標を掲げた。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF1064R0Q5A610C2000000/
成長投資は2500億円とし、成長事業へ効率的な経営資源の投入、収益性の追求を行うとしています。
エア・ウォーターの成長事業とは
エア・ウォーターが成長事業と位置付けているのは、主に以下の4つの分野です。これらの事業に経営資源を集中し、今後の成長を牽引していく方針です。
海外産業ガス(グローバル&エンジニアリング)
- ターゲット市場: インド、北米を最重要エリアとしています。
- 戦略: 日本で培ったガスプラント技術やVSU(現地ガス製造装置)モデルを活用し、産業ガス事業のグローバル展開を推進。特にインドでは鉄鋼オンサイトガス供給の新規獲得やガス製造拠点の拡充を進め、業界での地位をさらに強化する考えです。将来的には、海外でも医療、環境、食品などの関連型多角化も視野に入れています。
- 強み: 高効率なガス精製・分離技術、輸送・供給インフラ、地域での社会関係資本構築力、大手総合商社との連携。
エレクトロニクス(デジタル&インダストリー)
- 戦略: 半導体生産基盤の強化が進む中で、半導体関連のガスやケミカル、ガス精製装置、半導体製造装置向け機器、化成品といった領域を融合し、トータルソリューションを提供。大規模な半導体工場新設・増強に合わせた設備投資も積極的に行っています。
脱炭素(地球環境)
- 重点領域: バイオガス、メタン、水素、CO₂回収・利活用など。
- 戦略: 地産地消のクリーンエネルギー供給モデルを構築し、気候変動問題解決に貢献することを目指します。自社の温室効果ガス(GHG)排出量削減と、自社製品・事業を通じた社会全体のGHG排出削減の両面から取り組みを進めます。
アグリ(ウェルネス)
- 重点領域: 青果流通加工。
- 戦略: 農業の成長産業化を通じて、食料自給率向上やフードロス低減に貢献することを目指します。北海道での事業基盤(原料調達力、ブランド力)や、業界大手2社との資本業務提携、物流力とガス技術を活かした鮮度保持技術などが強みです。液化窒素を活用した冷凍食品製造販売から始まり、青果卸・加工、飲料製造、スイーツ製造販売など、食のバリューチェーン全体での事業拡大を図っています。
これらの成長事業への投資を通じて、エア・ウォーターは「地球環境」と「ウェルネス」という2つの成長軸を掲げ、社会課題の解決に貢献しながら持続的な成長を実現していくことを目指しています。

エア・ウォーターは、海外産業ガス、エレクトロニクス、脱炭素、アグリの4つを成長事業と位置付けています。これらを通して、地球環境問題とウェルネス(健康・生活の質)の向上という社会課題解決に貢献し、持続的な成長を目指します。
どんなガスを製造しているのか
エア・ウォーターは、多岐にわたる産業ガスを製造・供給しています。その主な種類は以下の通りです。
1. 空気分離ガス(エアセパレートガス)
空気を原料として、冷却・液化し、沸点の差を利用して分離・精製して製造されるガスです。
- 酸素(O₂): 鉄鋼、化学、医療、溶接などに広く使われます。
- 窒素(N₂): 半導体、食品、化学、金属加工、医療など、幅広い分野で不活性ガスとして利用されます。
- アルゴン(Ar): 溶接、金属精錬、半導体製造などに使用される不活性ガスです。
- レアガス(希ガス):
- ネオン(Ne)
- クリプトン(Kr)
- キセノン(Xe) これらは空気中にごく微量にしか存在せず、主に照明、レーザー、半導体製造などに使われます。エア・ウォーターではクリプトンとキセノンを国内生産しています。
2. 副生ガス・その他
石油化学プラントや製鉄所などから発生するガスを精製したり、水蒸気改質などの方法で製造されるガスです。
- 炭酸ガス(CO₂): ドライアイス、飲料、溶接、消火設備、植物育成などに使用されます。
- 水素(H₂): 半導体、化学、金属加工、燃料電池、脱炭素関連など、幅広い分野で利用されます。
- ヘリウム(He): MRI、半導体製造、光ファイバー、気球、溶接などに使用される不活性ガスです。
3. 特殊ガス
主に半導体や液晶ディスプレイなどのエレクトロニクス製品の製造に使われる高純度ガスや、特定の用途に特化したガスです。多くは自然界には存在せず、専門のメーカーが製造します。
- フッ素系ガス: 六フッ化硫黄(SF₆)、八フッ化シクロブタン(C₄F₈)、四フッ化炭素(CF₄)など。エッチングやクリーニングに使用されます。
- シラン系ガス: モノシラン、ゲルマンなど。膜形成などに使用されます。
- その他: 三塩化ホウ素、三フッ化窒素、二フッ化キセノン、高純度亜酸化窒素(N₂O)など。
エア・ウォーターは、これらの多種多様なガスを、シリンダー(ガスボンベ)、ガスカードル、液化ガスローリー、さらにはお客様の工場敷地内にガス製造装置を設置してパイプラインで供給するオンサイト供給など、様々な方法で提供しています。

エア・ウォーターは、空気分離ガス(酸素、窒素、アルゴン等)、半導体製造に不可欠な特殊ガス、そして炭酸ガスや水素など、多岐にわたる産業ガスを製造・供給しています。これらのガスは、鉄鋼、医療、食品、エレクトロニクス、脱炭素など幅広い産業を支えています。
希ガスのどのように製造されるのか
エア・ウォーターを含む多くの産業ガスメーカーが希ガスを製造する主な方法は、空気分離装置(ASU:Air Separation Unit)を用いた深冷分離です。
空気中にはごく微量ながら、様々な希ガス(アルゴン、ネオン、クリプトン、キセノンなど)が含まれています。これらの希ガスは、酸素や窒素を製造するプロセスで副産物として回収されます。
- 空気の清浄化: まず、空気中の塵埃、水分、二酸化炭素などを除去し、きれいな空気にします。
- 空気の冷却・液化: 清浄化された空気を圧縮し、熱交換器で極低温(マイナス200℃近く)まで冷却します。これにより、空気が液体になります。
- 分留(蒸留): 液化した空気を蒸留塔に送り込み、各成分の沸点の違いを利用して分離します。
- 窒素(沸点 -196℃) は最も沸点が低いため、最初に気化して取り出されます。
- アルゴン(沸点 -186℃) は窒素と酸素の中間の沸点を持つため、別途分離・精製されます。空気中の希ガスの中では最も多く含まれるため、酸素・窒素製造の際に効率的に併産されます。
- 酸素(沸点 -183℃) は沸点が比較的高いため、液体の状態で残ります。
- 希ガスの回収と精製:
- クリプトン(沸点 -153℃)とキセノン(沸点 -108℃): これらの希ガスは酸素よりも沸点が高いため、液化酸素の中に凝縮されて濃縮されます。この粗(クリプトン+キセノン)混合ガスをさらに別の精留塔で分離し、触媒反応や吸着操作などを通じて不純物を除去し、高純度のクリプトンとキセノンを製造します。エア・ウォーターでは、特にこのクリプトンとキセノンの国内生産に力を入れています。
- ネオン(沸点 -246℃): ネオンは窒素よりもさらに沸点が低いため、空気分離の初期段階で分離されることがあります。
ヘリウムの製造について
ヘリウムは空気中にはごく微量しか存在しないため、基本的には空気分離からはほとんど得られません。地球上のヘリウムの主要な供給源は、天然ガス鉱床(特に北米など)に含まれるヘリウムを分離・精製することによって得られます。
エア・ウォーターグループもヘリウムの供給を行っていますが、これは主に輸入に頼っています。近年では、半導体製造工程で排出されるヘリウムを回収・精製する技術も開発されています。

希ガス(アルゴン、ネオン、クリプトン、キセノン)は、空気分離装置で空気を深冷液化・蒸留する際に、酸素や窒素の副産物として回収されます。空気中の微量な成分を高度な精製技術で分離し、高純度化しています。
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