この記事で分かること
- 製造する製品:主に自動車やスマートフォン、家電向けの汎用的な半導体です。具体的には、実績のある28nmや40nmプロセスを用いたロジック半導体と予測されます。
- 政府が国産化を進める理由:戦略物資である半導体の輸入依存から脱却し、サプライチェーンの混乱リスクを回避することや輸入を減らし、将来的な輸出で財政構造を強化することが目的です。
- 他国の状況:ベトナムなどのアジア新興国が、低コストやサプライチェーン分散を背景に、チップの組み立て・テスト(後工程)を中心に製造能力の構築を進めています。
インドの国産半導体製造
インドで、一部の後工程(チップ形成、検品、包装など)を中心とした工場などが年内に立ち上がるなど国産半導体の製造が進んでいます。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM259ZQ0V20C25A9000000/
インド政府は半導体の自給体制構築に非常に積極的で、複数のプロジェクトを承認しており、全体として国産半導体産業の立ち上げに向けた動きが加速しています。まずはチップ形成、検品、包装などの後工程を中心とした工場の建設が進むとみられています。
どんな半導体を製造するのか
インドが国産化を目指している半導体の種類としては、主に以下のものが挙げられます。
- 汎用的なロジック半導体
- 初期のプロジェクトでは、28ナノメートル(nm)や40nmといった、比較的枯れた技術ノード(プロセス)の製品から着手される見込みです。
- これらの半導体は、主に情報通信技術(ICT)機器、自動車、スマートフォン、家電製品などに幅広く使用されることを想定しています。特にインド国内の巨大な電子機器市場への供給が目的です。
- パッケージング・テスト(後工程)
- 前工程(チップの製造)と並行して、チップの形成、検品、包装を行う後工程(OSAT: Outsourced Semiconductor Assembly and Test)の工場建設も進んでいます。
- これには、ルネサスエレクトロニクスとCGパワーの合弁プロジェクトなどが含まれ、消費者向け、産業用、自動車用のチップパッケージングを行う計画です。
- タタ・グループの計画
- タタ・エレクトロニクスは、グジャラート州ドレラに半導体製造工場(ファブ)を建設中で、初期には300ミリウェーハを使用し、2026年中の生産開始を目指しています。
- タタはまた、アッサム州ジャギロードに組み立ておよびテスト(OSAT)工場も建設する予定です。
つまり、最先端のCPUやGPUのような微細な半導体ではなく、まずは国内の電子機器、自動車産業などのサプライチェーンを支えるための実績のあるプロセス技術を用いた半導体から、製造能力の確立を目指している段階だと言えます。

インドで製造されるのは、主に自動車やスマートフォン、家電向けの汎用的な半導体です。具体的には、実績のある28nmや40nmプロセスを用いたロジック半導体や、パッケージング(後工程)のチップが中心となります。最先端製品より、国内産業の需要を支えるチップの生産から着手されます。
政府が投資をする理由は何か
インド政府が半導体産業に巨額の投資を行い、国産化を強く推進する主な理由は、以下の3点に集約されます。
1. 経済安全保障の確保
半導体は、スマートフォン、自動車、防衛機器など、あらゆる産業の「脳」となる戦略物資です。
- サプライチェーンの強靭化: COVID-19後の世界的な半導体不足により、海外依存のリスクが顕在化しました。国内に生産拠点を確保することで、地政学的リスクや国際的なサプライチェーンの混乱から国内経済や安全保障を守る狙いがあります。
- 輸入依存からの脱却: 世界有数の電子機器消費国であるインドは、半導体や電子製品の多くを輸入に頼っており、この構造からの脱却を目指しています。
2. 貿易赤字の改善
インドは恒常的な貿易赤字に悩まされており、ルピー安の一因にもなっています。
- 輸入抑制: 半導体を国産化することで、高額な電子部品の輸入を減らし、貿易赤字の悪化を食い止めることを目指します。
- 輸出拡大: 将来的には、国内で製造した半導体を世界市場へ輸出し、グローバルサプライチェーンの一翼を担うことで、財政構造を改善し、経済成長を加速させることを目標としています。
3. 産業育成と雇用創出
「メイク・イン・インディア(Make in India)」や「デジタル・インディア(Digital India)」といった政策と連携し、製造業全体の底上げを図っています。
- ハイテク産業の基盤構築: 半導体産業を核として、関連する素材、装置、設計といったエコシステム全体を国内に確立し、製造業の高度化と高付加価値化を目指します。
- 人材の活用: インドは世界的に見ても半導体設計分野で高い競争力を持つIT高度人材を多数抱えています。製造拠点を作ることで、これらの優秀な人材を国内に還流させ、雇用の創出と技術力の更なる強化を狙っています。

主な理由は、経済安全保障の確保と貿易赤字の改善です。戦略物資である半導体の輸入依存から脱却し、サプライチェーンの混乱リスクを回避します。また、国内生産で輸入を減らし、将来的な輸出で財政構造を強化するのが目的です。
どんな企業が製造するのか
インドの国産半導体製造プロジェクトは、主にインドの巨大財閥と、技術を持つ外国企業との連携によって進められています。特に中心となっている主要な企業は以下の通りです。
1. タタ・グループ (Tata Group)
インド最大の財閥で、半導体製造の国産化の旗振り役です。
- タタ・エレクトロニクス (Tata Electronics):
- インド初の本格的な半導体製造工場(ファブ)をグジャラート州ドレラに建設中。(28nm〜55nmの成熟プロセスを予定)
- 組み立て・テストを行うOSAT(後工程)工場をアッサム州にも設立予定。
- 日本の東京エレクトロン(TEL)や米国のシノプシスなどと提携し、技術や装置面での協力を得ています。
2. CGパワー (CG Power) と ルネサス エレクトロニクス
半導体の組み立て・テスト(OSAT)分野で、日本の企業が深く関わるプロジェクトです。
- CGパワー&インダストリアル・ソリューションズ (CG Power):インドの複合企業ムルガッパ・グループ傘下の企業です。
- ルネサス エレクトロニクス(日本):
- スターズ・マイクロエレクトロニクス(タイ):
この3社は合弁で、グジャラート州サナンドに半導体の組立・テスト(OSAT)工場を設立し、自動車、産業用、消費者向けのチップを生産する予定です。
3. マイクロン・テクノロジー (Micron Technology)
- 米国のメモリ大手であるマイクロンも、グジャラート州に半導体の組み立て・テスト(OSAT)施設を建設中で、インドの半導体エコシステム構築に貢献しています。
インド政府は、こうした外国企業の技術とノウハウを活用しつつ、国産化を加速させるための大規模な補助金を提供しています。
インド以外で半導体の国産化を進める国はあるのか
半導体のサプライチェーンが世界的に再編される中で、インド以外にも、新たに国内での製造能力の確立や強化に力を入れ始めた国や地域が多数あります。
特に「初めて」本格的な製造に取り組むという意味で注目されているのは、インドと同じくアジアの新興国です。
1. ベトナム
インドと同様に、半導体設計分野で一定の基盤を持ちながら、近年、製造分野にも価値を見出し始めています。
- 背景: 人件費の低さや「チャイナ・プラス・ワン」戦略(中国以外の生産拠点)によるグローバル企業の投資先分散の動きを受けています。
- 現状: 現時点では、チップの組み立て・テスト(後工程、OSAT)への投資拡大が中心と見られています。
2. その他のアジア諸国
伝統的な製造拠点(台湾、韓国、日本など)の他に、既存の半導体産業をさらに拡大・高度化させようとしています。
- マレーシア、フィリピン、タイなど: これらの国々は以前からチップの組み立て・テスト(後工程)の一大拠点ですが、近年、政府の支援策や地政学的要因を受けて、更なる投資と先端技術の導入が進んでいます。特にマレーシアは後工程(OSAT)で大きな存在感を示しています。
3. 先進国・地域(国内回帰・自給強化)
「初めて」国内製造を始めるわけではありませんが、過去に衰退した製造能力を国策として強力に「再構築」しようとしています。
- アメリカ(米国): CHIPS法を制定し、インテルやTSMC、サムスンといった企業に対し巨額の補助金を投入し、国内での最先端半導体工場の建設ラッシュを促進しています。
- ヨーロッパ(EU): 欧州半導体法(European Chips Act)を制定し、域内での生産シェアを拡大することを目指し、ドイツ(TSMC、インテル)、フランス、イタリアなどで大型投資を誘致しています。
多くの国が、地政学的なリスクやサプライチェーンの安定性確保を理由に、半導体の「国内製造」を国家戦略として推進しています。

インド以外では、ベトナムなどのアジア新興国が、低コストやサプライチェーン分散を背景に、チップの組み立て・テスト(後工程)を中心に製造能力の構築を進めています。また、米国や欧州も、国策として自国内の生産能力を大幅に再強化しています。
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