この記事で分かること
- 次世代パワー半導体とは:シリコンに代わりにSiC(炭化ケイ素)やGaN(窒化ガリウム)等の新材料を用いた素子です。高電圧・高温に強く電力ロスが極めて少ないため、EVの航続距離向上や省エネに大きく貢献します。
- 三重大学の次世代パワー半導体研究での実績:窒化ガリウム(GaN)や酸化ガリウム(Ga2O3)の高品質な結晶成長技術で世界をリードしています。特にサファイア基板上への結晶生成や、放射光を用いた欠陥解析に強みがあります。
- 産学連携の内容:三重大学と地元企業の連携では、酸化ガリウム等の次世代材料を用いた高品質な結晶成長技術の確立や、放射光X線とAIを駆使した結晶欠陥の精密解析を行います。これらを通じ、電気自動車や産業機器に不可欠な、高耐圧で壊れにくい省エネパワー素子の早期実用化と量産化を目指します。
三重大学の次世代パワー半導体での産学官連携
三重大学は、次世代パワー半導体の研究開発と社会実装を加速させるため、新たな拠点を中心とした産学官連携を強力に推進しています。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC23DHT0T20C25A3000000/
特に、三重県や四日市市、地元企業と一体となった「みえ半導体ネットワーク」や、学内に設置された「半導体・デジタル未来創造センター」がその中核を担っています。
次世代パワー半導体とは何か
次世代パワー半導体とは、現在主流のシリコン(Si)に代わる新素材を用いた半導体のことです。
電気を制御・変換する「パワー半導体」において、従来のシリコンは物理的な性能の限界に近づいています。
そこで、より過酷な環境(高温・高電圧)に耐え、電力ロスを劇的に減らせる新材料として、シリコンカーバイド(SiC)や窒化ガリウム(GaN)、さらには三重大学でも研究されている酸化ガリウム(Ga2O3)などが注目されています。
なぜ「次世代」が必要なのか
従来のシリコン製と比べて、次世代材料には主に3つの圧倒的な強みがあります。
- 省エネルギー(低損失)電気を流す際の抵抗が非常に小さいため、熱として逃げてしまうエネルギーを大幅に削減できます。
- 小型・軽量化高速でスイッチング(オン・オフの切り替え)ができるため、周辺部品(コイルやコンデンサ)を小さくでき、機器全体をコンパクトにできます。
- 高耐圧・耐熱性シリコンが壊れてしまうような高電圧や200℃を超えるような高温下でも安定して動作します。
主な新材料と用途
現在、用途に合わせて以下のような使い分けが進んでいます。
| 材料 | 特徴 | 主な用途 |
| シリコンカーバイド (SiC) | 高電圧に極めて強い | 電気自動車(EV)、鉄道(新幹線)、送電網 |
| 窒化ガリウム (GaN) | 高速動作が得意、小型化に最適 | 急速充電器、5G基地局、データセンター |
| 酸化ガリウム (Ga2O3) | SiCを超える耐圧と低コスト化の期待 | 電力系統、産業用大型機器 |
社会へのインパクト
次世代パワー半導体は、単なる部品の進化に留まりません。
- EVの航続距離アップ: 電費が向上し、1回の充電でより遠くまで走れるようになります。
- 脱炭素(カーボンニュートラル): データセンターや家電の消費電力を抑え、CO2排出量を削減します。
- インフラの進化: 太陽光や風力などの再生可能エネルギーを、効率よく家庭や工場へ送り届けます。
三重大学が研究している「酸化ガリウム」は、これらの中でも特に安く、高性能に作れる可能性を秘めた「次世代の、その次」の本命候補の一つと言えます。

次世代パワー半導体とは、シリコンに代わりにSiC(炭化ケイ素)やGaN(窒化ガリウム)等の新材料を用いた素子です。高電圧・高温に強く電力ロスが極めて少ないため、EVの航続距離向上や省エネに大きく貢献します。
三重大学のパワー半導体での研究実績は
三重大学は、次世代パワー半導体材料として期待される窒化ガリウム(GaN)や酸化ガリウム(Ga2O3)の結晶成長およびデバイス化において、世界レベルの研究実績を持っています。
特に「高品質な結晶をいかに作るか」という、デバイス性能の根幹を支える技術に強みがあります。
1. 窒化物半導体(GaN/ AlN)の先駆的研究
三重大学の三宅秀人教授らのグループは、青色LEDの材料でもある窒化物半導体において、長年トップクラスの研究を続けています。
- 高品質AlN(窒化アルミニウム)基板の製造: サファイア基板上に高品質なAlN結晶を成長させる独自の技術を開発。これは、より高い電圧に耐えるパワーデバイスや、深紫外LED(殺菌用など)の基板として不可欠な技術です。
- 日本-欧州の共同プロジェクト: JST(科学技術振興機構)のプロジェクトなどで、欧州の研究機関と協力し、車載充電器や産業用モーターに向けた「高信頼性ガリウムナイトライド(GaN)デバイス」の開発を主導してきました。
2. 酸化ガリウム(Ga2O3)の評価・解析技術
次世代のさらに先を行く材料として注目される酸化ガリウムについても、高度な実績があります。
- 格子欠陥の可視化: 放射光(強力なX線)を用いたトポグラフィー技術により、酸化ガリウム結晶の中にある目に見えない「欠陥」をウエハ全面で観察する手法を確立。
- デバイスの信頼性向上: 結晶の欠陥が、実際に半導体として動かした際にどう悪影響を及ぼすかを解明し、より壊れにくい高性能なチップを作るための基礎データを提供しています。
3. 三重大学独自の強み:一貫した開発体制
2023年に新設された「半導体・デジタル未来創造センター」により、これまでの材料研究に加えて、設計・評価、さらには地元企業との「社会実装(実用化)」までを一つの流れで行う体制が整いました。
- 地元企業との連携: 富士電機などのパワー半導体大手と協力し、大学の研究成果を実際の製品(EV用部品など)へつなげる共同研究が活発化しています。
三重大学は、単に「理論」を研究するだけでなく、「実際に使える高品質な結晶を作り、その欠陥を取り除き、地元産業へ還元する」という実学に強い実績を持っています。

三重大学は、窒化ガリウム(GaN)や酸化ガリウム(Ga2O3)の高品質な結晶成長技術で世界をリードしています。特にサファイア基板上への結晶生成や、放射光を用いた欠陥解析に強みがあり、地元企業と連携してEV等の省エネ化を推進しています。
どのような企業と連携するのか
三重大学が連携する企業は、地元三重県に拠点を置く世界的な半導体メーカーから、材料・装置メーカーまで多岐にわたります。
主な連携の枠組みとして「みえ半導体ネットワーク」や、大学内の「半導体・デジタル未来創造センター」を通じて、以下のような企業群と協力しています。
1. 主要なデバイスメーカー(製品を作る企業)
三重県内には世界最大級の工場が集まっており、これらと直接・間接的に連携しています。
- キオクシア (Kioxia): 四日市市にある世界最大級のフラッシュメモリ工場。
- ユナイテッド・セミコンダクター・ジャパン (USJC): 桑名市にある受託製造(ファウンドリ)大手。
- 富士電機 (Fuji Electric): 四日市・鈴鹿に拠点があり、パワー半導体で世界的なシェアを持ちます。
2. 素材・装置・周辺技術メーカー
半導体を作るための「材料」や「機械」を持つ地元企業とも深く連携しています。
- ジャパンマテリアル: 半導体製造用ガスの供給やインフラ管理。
- 伊勢村田製作所: 電子部品(コンデンサ等)の製造。
- シンフォニアテクノロジー: 半導体搬送装置などの精密機器。
- JSR / KHネオケム: 半導体用化学材料(レジストや溶剤など)。
3. 次世代研究のパートナー
三重大学の強みである「窒化ガリウム(GaN)」や「酸化ガリウム(Ga2O3)」の研究では、これらを活用して製品化を目指す企業(EVメーカーや電機メーカー)との共同研究が行われています。

三重大学が連携するのは、主に三重県内に拠点を置く以下の企業群です。
- デバイス製造: 富士電機(パワー半導体大手)、USJC(受託製造)、キオクシア(メモリ)
- 材料・装置: JSR(化学材料)、シンフォニアテクノロジー(搬送装置)
- 応用分野: デンソーなどの自動車関連企業
なぜ産学連携を行うのか
産学連携を行う最大の理由は、大学が持つ「世界最先端の理論・技術」と、企業が持つ「製品化・量産化のノウハウ」を掛け合わせることで、一社では成し得ないスピードで社会を変えるイノベーションを起こすためです。
特に半導体のような莫大な設備投資と高度な専門知識が必要な分野では、以下の3つのポイントが重要になります。
1. 開発スピードの向上とリスク分散
次世代パワー半導体の開発には、数年単位の基礎研究と高価な実験設備が必要です。大学が基礎研究(種まき)を担い、企業がその成果を製品開発(収穫)に活かすことで、企業は研究コストや失敗のリスクを抑えつつ、最先端の技術をスピーディーに市場へ投入できます。
2. 「理論」を「実用」に変える
大学の結晶成長技術がいかに優れていても、それが工場のラインで大量生産できなければ社会には普及しません。連携を通じて、企業の現場が求める「コスト」「耐久性」「サイズ」といった現実的な課題を大学の研究に取り込むことで、真に役立つ技術が生み出されます。
3. 地域経済の活性化と人材の還流
三重大学が拠点となることで、地元企業に最新技術が提供され、その企業の競争力が上がります。また、最先端の研究に触れた学生がそのまま地元の有力企業(富士電機やキオクシアなど)に就職するという好循環が生まれ、地域全体の産業基盤が強固になります。

大学の最先端な理論と企業の量産ノウハウを融合させ、研究開発のスピードと成功率を高めるためです。巨額の設備投資を分担しつつ、現場の課題を研究に反映させることで、次世代技術の早期実用化と地域産業の競争力強化、高度な人材育成を同時に実現します。

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