この記事で分かること
- サンバノバの特徴:AI処理に特化した独自のデータフロー型AIチップ(RDU)と、それを用いたフルスタックのシステムを提供するスタートアップです。
- インテルが買収を検討する理由:NVIDIAに対抗するため、SambaNova独自の高効率なAIチップ(RDU)技術とフルスタックのソリューションを獲得し、急成長するエンタープライズAI市場、特に推論分野での競争力強化と製品ラインアップの拡充を図るためです。
インテルのサンバノバ買収検討
インテルがAI半導体スタートアップのSambaNova Systems(サンバノバ・システムズ)を買収する方向で協議を進めている、という報道がされています。

インテルはこの買収を通じて、競争の激しいAIアクセラレーションチップ市場での地位向上を図ろうとしています。
サンバノバはどんな企業か
SambaNova Systems(サンバノバ・システムズ)は、AI処理に特化した独自のAIプロセッサ(チップ)と、それを活用するためのフルスタックのソフトウェアおよびハードウェアシステムを提供するアメリカのスタートアップ企業です。
最大の目標は、AIチップ市場で圧倒的なシェアを持つNVIDIAのGPUに対抗し、特に大規模言語モデル(LLM)の分野で卓越したパフォーマンスと効率を提供することです。
1. 独自のAIチップ「RDU」(Reconfigurable Dataflow Unit)
- データフロー型アーキテクチャ: SambaNovaの中核となる技術です。GPUのような固定されたアーキテクチャとは異なり、AIモデルの構造や処理の流れに合わせてチップ内の演算回路やメモリ接続を動的に再構成(Reconfigurable)します。
- 高い効率性: このデータフロー最適化により、従来のチップで発生しがちなデータの待ち時間(ボトルネック)を排除し、高い演算性能とエネルギー効率を実現します。
- 推論に特化: 特に、生成AIの分野で重要となる高速な推論(Inference)を強みとしており、GPUと比較して高い電力効率で大規模モデルを処理できるとされています。
2. フルスタックなソリューション
SambaNovaは、単なるチップではなく、以下の要素からなる統合プラットフォームとして製品を提供しています。
- ハードウェア: DataScale
- 複数のRDUチップを搭載したラックベースのハードウェアプラットフォームです。
- 大規模なAIモデル(例えば数千億パラメータのLLM)を単一のシステムで高速に実行できるように設計されています。
- ソフトウェア: SambaFlow/SambaNova Suite
- RDU上でAIモデルを効率的に動作させるための、コンパイラやランタイムを含むソフトウェアスイートです。
- GUIを通じてLLMモデルの利用やファインチューニング(Fine Tuning)を簡単に行うことができます。
3. 「エージェンティックAI」への対応
- SambaNovaの最新世代チップ「SN40L」は、複数のAIモデルを同時に実行し、タスクに応じて瞬時にモデルを切り替える「エージェンティックAI」の実行に最適な設計とされています。これは、複数の専門家モデルを組み合わせて複雑なタスクを実行するAIエージェントのニーズに対応します。
企業概要
- 設立: 2017年
- 本社: 米国カリフォルニア州パロアルト
- 創設者: スタンフォード大学の教授陣らによって設立されました。
- 資金調達: 2021年の資金調達ラウンドでは、ソフトバンクグループなどが主導し、50億ドル(約7,800億円)の評価額が付けられたユニコーン企業でした。
SambaNovaは、AIの中でも特に大規模な生成AIモデルの高速・高効率な推論に焦点を当て、NVIDIAのGPUとは異なる独自の技術で勝負を挑んでいる企業だと言えます。
インテルが買収に動いているのは、このSambaNovaの持つ独自のRDU技術とフルスタックのAIソリューションを自社のAIチップ戦略に組み込み、NVIDIAとの競争力を高める狙いがあるためです。

SambaNova Systemsは、AI処理に特化した独自のデータフロー型AIチップ(RDU)と、それを用いたフルスタックのシステムを提供するスタートアップです。
RDUが効率性に優れる理由は
SambaNova SystemsのRDU(Reconfigurable Dataflow Unit)が既存のGPUと比較して高い効率性を実現できる主な理由は、その根本的に異なるデータフロー型アーキテクチャにあります。
従来のチップ(CPUやGPU)が採用する命令セット・アーキテクチャ(ISA: Instruction Set Architecture)に対し、RDUはAI処理に特化して最適化されています。
1. データ移動の最小化 (Data Locality)
従来のチップ(フォン・ノイマン型)では、処理のたびにデータがメモリとプロセッサ間を行き来する必要があり、これが「フォン・ノイマン・ボトルネック」と呼ばれ、消費電力と処理遅延の主な原因となります。
- RDUの優位性(データフロー):
- AIモデルの処理グラフ全体に合わせて、チップ内の演算ユニット(PCU)とメモリユニット(PMU)の接続を動的に再構成(Reconfigurable)します。
- データが必要な場所へ直接流れるようなカスタムの処理パイプラインを作成することで、外部メモリとの通信頻度が極端に減り、データ移動によるオーバーヘッドを最小限に抑えます。
- 結果として、ハードウェアの利用率が最大化され、エネルギー効率が向上します。
2. 処理フローの動的な最適化
GPUは汎用的な並列処理のために設計されていますが、AIモデル(特にLLM)の複雑な計算グラフに対しては必ずしも最適ではありません。
- RDUの優位性(適応性):
- SambaFlowというソフトウェアが、実行するAIモデルに応じて、RDUの物理リソースのレイアウト(演算と通信)を動的に最適化します。
- この「空間プログラミング」により、モデルの種類やサイズが変わっても、常にその時の処理に最も適した状態でハードウェアが動作するため、高い演算性能とエネルギー効率が実現します。
- これにより、特に推論(Inference)タスクにおいて、GPUよりも少ない消費電力で、より多くの処理(トークン/秒)を実行できるとされています。
3. 大容量の階層型メモリ構造
特に大規模言語モデル(LLM)はパラメータが兆単位に達し、GPUの搭載メモリ容量(HBM)だけでは収まらないことが多く、モデルを分割したり、ディスクに一時退避させる必要が生じます。
- RDUの優位性(メモリ容量):
- RDUは、オンチップメモリ、HBM(広帯域メモリ)、そして外部DDRメモリプールという階層的な大容量メモリ構造を持っています。
- これにより、巨大なLLMモデル全体を分割することなく、メモリ上に展開し、効率的に推論を行うことが可能になります。モデル分割に伴う複雑なシステムエンジニアリングが不要になり、パフォーマンスの低下も防げます。
これらの特徴により、特に大規模な生成AIの推論において、RDUは従来のGPUシステムに対する優位性を持つとされています。

RDUは、AIモデルに合わせてチップ内の演算回路を動的に再構成し、データが直接流れるカスタムの処理パイプラインを構築します。これにより、データ移動を最小化し、極めて高い電力効率を実現します。
インテルが買収する理由は
インテルがAI半導体新興のSambaNova Systems(サンバノバ・システムズ)を買収する主な理由は、NVIDIAに対抗するための技術・人材の獲得と、AIアクセラレータ市場における製品ポートフォリオの強化にあります。
1. 独自技術の獲得とAI戦略の加速
- 「RDU」アーキテクチャの取り込み: SambaNovaが持つRDU(Reconfigurable Dataflow Unit)は、AIモデル、特に大規模言語モデル(LLM)の推論を高効率で実行できる独自の技術です。
- インテルは、NVIDIAのGPUに対抗するAIチップの開発で苦戦しており、この独自アーキテクチャを組み込むことで、「CPUでもGPUでもない第三の選択肢」として市場での競争優位性を確立したい考えです。
- 「Build or Buy」戦略: 自社で開発するよりも、市場に出ている成熟した独自の技術スタックとトップクラスのエンジニアリングチームを買収(Buy)することで、AIロードマップを数年単位で加速できます。
2. エンタープライズAI市場への参入
- フルスタック・ソリューションの獲得: SambaNovaは、RDUチップだけでなく、それを用いたラックレベルのAIシステム(DataScale)とソフトウェア(SambaFlow)をセットにしたフルスタックのソリューションを提供しています。
- インテルは、NVIDIAのDGXラックのような、すぐに使えるAIアプライアンス(専用システム)を提供できていませんでした。SambaNovaの買収により、金融、医療、政府機関など、すでに顧客基盤を持つエンタープライズAI市場へ即座に参入することが可能になります。
- 推論市場の強化: AIチップ市場は、モデルの「学習(Training)」と「推論(Inference)」に大別されます。SambaNovaの技術は特に推論に優れており、インテルは、既存のGaudiチップをトレーニング向け、SambaNovaのRDUを推論向けと位置づけ、AIポートフォリオを強化できます。
3. CEOとの関係性
- インテルの現CEOであるリップ・ブー・タン(Lip-Bu Tan)氏がSambaNovaの会長も務めていたなど、両社間の深い関係性があり、買収交渉のリスクを低減させる要因となった可能性があります。
インテルにとってこの買収は、NVIDIA追撃とAI市場での復権に向けた、時間短縮と技術的な差別化を狙った戦略的な一手と言えます。

インテルは、NVIDIAに対抗するため、SambaNova独自の高効率なAIチップ(RDU)技術とフルスタックのソリューションを獲得し、急成長するエンタープライズAI市場、特に推論分野での競争力強化と製品ラインアップの拡充を図るためです。

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