プラスチック汚染に関する国際条約の合意先送り 先送りの理由は?プラスチックによる汚染の実例は?

この記事で分かること

  • プラスチック汚染対策の国際条約とは:2022年の国連環境総会で、2024年末までの策定を目指して交渉が始まりました。しかし、生産規制を求める国々と反対する国々との対立が激しく、合意は先送りされています。プラスチックのライフサイクル全体を対象とした、法的拘束力のある条約の実現が急務です。
  • 島しょ国での被害:海流で流れ着くプラスチックごみが観光資源であるビーチを汚染し、経済に打撃を与えています。漁業でも魚の誤食が増え、海洋生態系が破壊される深刻な被害が出ています。

プラスチック汚染に関する国際条約の合意先送り

 プラスチック汚染を終わらせるための国際条約の策定は、現在も交渉が難航し、合意が先送りされています。この問題は、2022年3月の国連環境総会で、2024年末までに法的拘束力のある国際文書を策定することが合意されて以来、政府間交渉委員会(INC)が複数回にわたって開催されてきました。

 https://www.greenpeace.org/japan/press-release/inc5-2_closing_without_treaty/

 しかし、特に大きな対立点となっている「プラスチックの生産規制」の問題もあり、交渉が難航してています。

プラスチックによる海洋汚染の状況は

 プラスチックによる海洋汚染は、地球規模で深刻な状況にあります。主な状況は以下の通りです。

1. 膨大な量のプラスチックごみの流入

 年間500万から1,300万トンものプラスチックごみが海に流れ込んでいると推計されています。このまま対策が進まなければ、2050年には海洋中のプラスチックごみの量が魚の量を上回るという予測も発表されています。

2. 生態系への深刻な影響

  • 誤食: 海鳥やウミガメ、魚などが、ビニール袋やペットボトルのキャップ、プラスチックの破片をエサと間違えて食べてしまい、消化器官を傷つけたり、栄養失調になったりして命を落とすケースが多発しています。
  • 絡まり: 漁網やプラスチック製のひもなどに絡まり、身動きが取れなくなって死んでしまう海洋生物も多くいます。
  • 有害物質の蓄積: プラスチックは、海中の有害物質を吸着しやすい性質があります。これを食べた生物の体内に有害物質が蓄積され、その生物を食べる人間にも影響が及ぶ可能性が懸念されています。

3. 目に見えない汚染:マイクロプラスチック

 プラスチックごみは、紫外線や波によって細かく砕け、5mm以下のマイクロプラスチックとなります。これらは目には見えにくいですが、海水中に浮遊したり、海底に沈殿したりしており、生物が摂取するリスクを高めています。 

 マイクロプラスチックの存在は、北極海や南極海を含むあらゆる海域で確認されており、汚染が広範囲に及んでいることを示しています。

4. 経済への影響

 観光業では景観の悪化、漁業では漁網の損傷や水産物の品質低下など、海の産業にも大きな経済的損失をもたらしています。

 こうした状況を受け、プラスチック汚染を食い止めるための国際的な取り組みが急務となっています。

毎年800万トンものプラスチックが海に流入し、生物が誤食や絡まりで命を落とす深刻な状況です。細かく砕けたマイクロプラスチックは広範囲に広がり、生態系や人体への影響が懸念されています。

プラスチックの生産規制とは何か

 プラスチックの生産規制とは、プラスチック製品の生産量そのものを制限することです。これは、単に使い捨てプラスチック製品の使用を禁止したり、リサイクルを義務付けたりするだけでなく、プラスチック汚染の根本原因である生産段階に焦点を当てた規制を指します。

規制を求める理由

 プラスチックの生産規制を求める主な理由は以下の3つです。

  • 海洋・陸上汚染の加速: 生産量が増え続けることで、廃棄物管理が追いつかず、海洋や陸上へのプラスチック流出が加速しています。現在のペースでは、2050年までに海洋中のプラスチックごみの量が魚の重量を上回るという予測もあります。
  • 気候変動への影響: プラスチックの原料は主に石油です。製造過程では大量の温室効果ガスが排出され、また廃棄されたプラスチックの多くが焼却されるため、さらに二酸化炭素(CO2)が排出されます。生産を減らすことは、気候変動対策にも繋がります。
  • 健康被害のリスク: プラスチックに含まれる化学物質や、分解されてできるマイクロプラスチックが、人や生物の健康に悪影響を及ぼす可能性が指摘されています。

主な対立点

 プラスチック汚染対策の国際条約交渉において、この「生産規制」は最も大きな対立点となっています。

  • 賛成する国・勢力: EUや島しょ国、環境団体など。これらの国や組織は、プラスチック汚染を根本から解決するには、生産量そのものを減らすことが不可欠だと主張しています。
  • 反対する国・勢力: サウジアラビアなどの石油産出国や、一部の化学産業界など。これらの勢力は、生産規制が経済に悪影響を及ぼし、雇用を奪い、物価上昇を招く可能性があると主張しています。

 この両者の意見の溝が深いため、国際条約の合意が繰り返し先送りされているのが現状です。

プラスチックの生産規制とは、海洋汚染や気候変動の根本原因であるプラスチックの生産量そのものを国際的に制限するものです。これにより、リサイクルだけでは追いつかない廃棄物問題や、製造過程での温室効果ガス排出を抑制することを目的とします。

島しょ国での被害の実例にはどのようなものがあるのか

 島しょ国、特に太平洋の小島嶼開発途上国(SIDS)は、自国から排出されるごみが少ないにもかかわらず、海流に乗って運ばれてくるプラスチックごみによって深刻な被害を受けています。以下に具体的な実例を挙げます。

1. 観光業と経済への打撃

  • ビーチの汚染: 多くの島しょ国は美しいビーチを観光資源としていますが、海岸に流れ着く大量のプラスチックごみによって景観が損なわれ、観光客が減少する問題が起きています。これは、これらの国の重要な収入源である観光業に直接的な打撃を与えています。
  • インフラへの影響: 観光用の船舶がプラスチックごみを吸い込んで故障し、事業が停止する事例も発生しています。

2. 生態系と漁業への影響

  • 無人島のヘンダーソン島: 南太平洋の無人島であるヘンダーソン島では、人が住んでいないにもかかわらず、海岸に18トンものプラスチックごみが打ち上げられ、生態系に深刻な影響を与えていることが確認されています。
  • 漁業資源の減少: 漁網やプラスチック製の浮き(フロート)などが、サンゴ礁やマングローブ林に絡みつき、海洋生物の生息環境を破壊しています。また、魚やウミガメがプラスチックごみを誤食し、死に至るケースも多発しており、漁獲量の減少にも繋がっています。
  • マイクロプラスチック汚染: 太平洋の島々では、遠方から流れ着いたプラスチックが砕けてできたマイクロプラスチックが、魚や貝に取り込まれていることが確認されています。これは、島民の主要なタンパク源である水産物の安全性に懸念をもたらし、人体への健康被害も懸念されています。

3. ごみ処理能力の限界

 多くの島しょ国は、国土が狭く、ごみ処理施設やリサイクルインフラが未整備な場所が多いです。そのため、自国で発生するごみだけでも処理に苦慮しており、そこに海を越えて流れ着く膨大な量のプラスチックごみを処理することは、財政的にも物理的にも大きな負担となっています。

 これらの国々は、自分たちが汚染の主な原因ではないにもかかわらず、その被害を最も大きく受けている立場にあり、プラスチックの生産規制を求める国際交渉の最前線に立っています。

ハワイなど多くの島しょ国では、海流で流れ着くプラスチックごみが観光資源であるビーチを汚染し、経済に打撃を与えています。漁業でも魚の誤食が増え、海洋生態系が破壊される深刻な被害が出ています。

有害な化学物質の規制とは何か

 有害な化学物質の規制とは、人や環境に悪影響を及ぼす可能性のある化学物質について、その製造、輸入、使用、廃棄などを法的に制限することです。

プラスチックに関連してこの規制が重要視されるのは、以下の理由からです。

  • プラスチックに含まれる有害物質: プラスチック製品の中には、製造過程で添加される可塑剤(フタル酸エステルなど)、難燃剤、顔料などに、発がん性や内分泌かく乱作用など、健康に悪影響を及ぼすおそれのある化学物質が含まれている場合があります。
  • リサイクルを阻害する要因: 異なる種類のプラスチックや、様々な有害物質が混ざったプラスチックごみをリサイクルすることは非常に困難です。また、リサイクルされた製品に有害物質が残留する可能性も懸念されます。

こうした問題を解決するため、国際的なプラスチック条約の交渉では、以下の点が議論されています。

  1. 有害物質のリスト化: どの化学物質を規制対象とするかを明確にするための、国際的な共通リストを作成すること。
  2. 有害物質を含むプラスチックの流通規制: 有害物質が含まれるプラスチック製品の製造や輸出入を制限すること。
  3. 情報開示の義務化: プラスチック製品に含まれる化学物質の情報を、製造者やサプライチェーン全体で開示することを義務付けること。

 このような規制が導入されれば、プラスチックの安全性向上だけでなく、リサイクルの効率化や、有害物質の海洋・土壌への流出防止にもつながると期待されています。

プラスチックに含まれる、人や環境に有害な化学物質(可塑剤など)の製造・使用・流通を法的に制限すること。これにより、製品の安全性を高め、リサイクルを促進し、環境汚染を防ぐことを目的とします。

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