この記事で分かること
- なぜEUVが重要なのか:EUVは従来の光より波長が圧倒的に短く、原子レベルの超微細な回路を焼き付けられる唯一の技術だからです。工程を簡略化して生産効率を高めつつ、AIやスマホに不可欠な高性能・省電力チップを実現するために必須となります。
- なぜ日本にはEUV露光装置がなかったのか:日本が最先端ロジック半導体の微細化競争から一時撤退し、EUVを必要とする製品(7nm以下)の製造基盤が国内になかったことが主因です。また、装置1台数百億円という巨額投資のリスクを民間単独で負いきれなかった背景もあります。
- なぜ今、日本での導入が進んでいるのか:最先端半導体の自給自足が国策となったためです。政府の巨額補助金を背景に、AI普及で急増する先端チップ需要を取り込むべく、ラピダスやマイクロン等が次世代製造基盤の構築を急いでいます。
日本へのEUV露光装置の導入
日本国内において、最先端半導体の製造に不可欠なEUV(極端紫外線)露光装置の導入が急速に進んでいます。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC0840B0Y6A200C2000000/
これまで日本は量産レベルでのEUV活用で後塵を拝してきましたが、2024年末から2025年にかけて、主要メーカーによる設備投資が具体的な形となって現れています。
なぜEUVが重要なのか
EUV(極端紫外線)が半導体業界で「ゲームチェンジャー」と呼ばれ、国家レベルで導入が急がれる理由は、単に「新しいから」ではありません。
物理的な限界を突破し、より高性能で省電力なチップを、効率よく作るための唯一の手段であるため非常に重要視されています。
1. 「極限の細さ」を描ける(波長の短さ)
半導体は、光を使って回路を焼き付けます。このとき、「使う光の波長より細い線はきれいに引けない」という物理的な制約があります。
- 従来のDUV(深紫外線): 波長が 193nm。
- 最新のEUV(極端紫外線): 波長が 13.5nm。
この圧倒的な波長の短さにより、数ナノメートル(1ナノは10億分の1メートル)という、原子の並びに迫るような超微細な回路を描くことが可能になりました。
2. 工程の劇的なシンプル化(コストと歩留まり)
従来のDUVで無理やり微細な回路を作ろうとすると、何度も重ねて露光する「マルチパターニング」という手法が必要でした。
- DUVの場合: 1つの層を作るのに4回、5回と露光を繰り返す(時間がかかり、ズレるリスクも高い)。
- EUVの場合: 1回の露光で済む(シングルパターニング)。
これにより、製造工程が短縮され、不良品が出るリスク(歩留まりの低下)を抑えることができま す。装置自体は1台数百億円と高額ですが、量産工程全体で見れば「EUVを使ったほうが安くて高品質」という逆転現象が起きるのです。
3. 「AI時代」の性能要求に応えるため
AIの計算やスマートフォンの高速処理には、膨大な数のトランジスタを小さなチップに詰め込む必要があります。
- 高集積化: 同じ面積により多くの回路を詰め込めるため、処理能力が跳ね上がります。
- 省電力化: 回路が短く、細くなることで、電気信号が走る際のロスが減り、バッテリー消費を抑えられます。
現在主流の生成AI用GPU(NVIDIA製など)やiPhoneの最新プロセッサは、EUV技術なしには設計通りの性能を出すことができません。
日本が今、巨額の補助金を投じてEUVを導入しているのは、「EUVを持っていない=最先端の半導体ビジネスから完全に脱落する」ことを意味するからです。

EUVは従来の光より波長が圧倒的に短く、原子レベルの超微細な回路を焼き付けられる唯一の技術だからです。工程を簡略化して生産効率を高めつつ、AIやスマホに不可欠な高性能・省電力チップを実現するために必須となります。
これまでなぜ日本での導入がなかったのか
日本にこれまでEUVが導入されなかった理由は、主に「作るもの(製品)」と「投資のタイミング」のミスマッチにあります。
1. 「最先端ロジック半導体」からの撤退
EUVが必要になるのは、回路の幅が7nm(ナノメートル)以下の超微細なCPUやGPUです。
しかし、日本の半導体メーカー(富士通、パナソニック、ルネサスなど)は、2010年代の激しい微細化競争の中で、巨額の投資負担に耐えられず、最先端ロジック半導体の自社生産から事実上撤退してしまいました。
- 結果: 日本国内に「EUVを使わなければ作れない製品」を製造する工場がなくなってしまったのです。
2. 巨額すぎる投資リスク
EUV装置は1台あたり200億〜400億円もします。これを1台入れるだけでなく、前後工程の装置も揃えると数千億円規模の投資が必要です。
- 当時の日本企業は、リーマンショック後の業績不振や円高の影響もあり、これほどリスクの高い「博打」に近い投資判断を下せる体力が残っていませんでした。
3. 露光装置メーカーの敗北
かつて露光装置で世界シェア1位・2位を独占していたのはニコンとキヤノンでした。しかし、EUVの開発レースにおいて、オランダのASMLがインテルやTSMC、サムスンといった巨大顧客から多額の出資を受けて開発を加速させたのに対し、日本勢は開発の主導権を握り続けることができませんでした。
- 結果: 装置を作る側(ニコン等)もEUVの商用化で後れを取り、使う側(国内メーカー)もいなくなったことで、日本からEUVが遠ざかってしまいました。
国内でのEUV運用が始まると、装置のメンテナンスや部品供給など、日本が得意とする「周辺産業」にも大きな経済効果が期待されています。

日本が最先端ロジック半導体の微細化競争から一時撤退し、EUVを必要とする製品(7nm以下)の製造基盤が国内になかったことが主因です。また、装置1台数百億円という巨額投資のリスクを民間単独で負いきれなかった背景もあります。
なぜ今導入が進んでいるのか
いま、日本でEUVの導入が急速に進んでいる理由は、単なる技術的な流行ではなく、「国の存亡をかけた経済安全保障」と「世界的なAIブーム」という2つの巨大な波が重なったためです。
1. 経済安全保障:半導体を「他国に依存しない」
かつて半導体は「安いところから買えばいい」という考えでしたが、パンデミックによる供給網の混乱や地政学リスク(台湾有事への懸念など)を経て、考え方が一変しました。
- 政府の本気度: 2022年施行の「経済安全保障推進法」に基づき、政府は数兆円規模の補助金を投入。民間企業だけでは不可能だった1台数百億円のEUV導入を、国がバックアップする体制が整いました。
2. AIブームによる「爆速」の需要
生成AI(ChatGPTなど)の普及により、計算処理能力が桁違いに高い「最先端チップ」の需要が世界中で爆発しています。
- ビジネスチャンス: この波に乗るためには、5nmや2nmといった超微細な加工が必須です。日本も「先端品を作る能力」を国内に持たないと、AI時代の産業競争から完全に取り残されるという強い危機感があります。
3. 「日本回帰」と「日米連携」の加速
先端技術を中国に渡さないための輸出規制が進む中、米国は信頼できるパートナーとして日本での先端製造を後押ししています。
- ラピダスの設立: 米IBMなどの技術供与を受け、日本で一気に2nm世代を確立しようとする「垂直立ち上げ」プロジェクトが始動。その核心装置として、EUVが不可欠となりました。
「自国で先端半導体を作れないリスク」が、「数百億円の装置を買うリスク」を大きく上回ったたと判断されたため、日本への導入が進んでいます。

経済安全保障の観点から、最先端半導体の自給自足が国策となったためです。政府の巨額補助金を背景に、AI普及で急増する先端チップ需要を取り込むべく、ラピダスやマイクロン等が次世代製造基盤の構築を急いでいます。
EUV装置を導入している日本メーカーはどこか
現在、日本国内でEUV露光装置を導入している(または導入を確定させている)主要なメーカーは以下の3社です。
1. EUV導入済みの主要メーカー
| 企業名 | 拠点 | 導入・稼働状況 | 用途 |
| Rapidus (ラピダス) | 北海道・千歳 | 2024年12月に初号機を搬入済み。 | 2nm世代の最先端ロジック半導体の試作・量産。 |
| マイクロン (Micron) | 広島 | 2025年に導入開始。2026年に生産開始予定。 | 次世代DRAM(1γ:1ガンマノード)の量産。 |
| TSMC | 熊本 | 第2工場(2027年稼働)での導入が確定。 | 6nm/7nmに加え、4nmプロセスへの対応も。 |
2. 各社の位置づけ
- Rapidus(ラピダス)日本勢として10年以上の空白を埋め、世界最先端の「2nm」に挑戦するプロジェクトです。2024年末にASML製の最新鋭装置(NXE:3800E)が千歳に到着し、現在は試作ラインの構築を進めています。
- マイクロン・テクノロジー(広島工場)外資系(米)ですが、広島を拠点に「日本初のEUV量産」を目指しています。メモリ(DRAM)分野でのEUV活用は、AI向け高帯域メモリ(HBM)などの競争力に直結します。
- TSMC(熊本工場)第1工場はEUVを使わない世代(12〜28nm)ですが、現在建設が進む第2工場ではEUVが導入される計画です。これにより、日本国内でiPhoneのチップ級の微細加工が可能になります。
3. 「装置」を支える日本メーカー(周辺産業)
装置自体はオランダのASML製ですが、その稼働に欠かせない重要素材や部品では日本企業が世界を独占しています。
- JSR、東京応化工業、富士フイルム: EUV専用の感光材(レジスト)
- レーザーテック: EUVマスクの欠陥検査装置(世界シェア100%)
- AGC、HOYA: 回路の原版となる「マスクブランクス」

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