IRカットフィルム どのような効果があるのか?素材にはどのようなものが使用されるのか?

この記事で分かること

  • IRカットフィルムの効果:赤外線は熱エネルギーを持つため、赤外線をカットすることで、社内や室内の室温上昇を防いだり、エアコン効率の向上などが可能となります。
  • 素材の種類:金属酸化物微粒子、有機系赤外線吸収剤や多層膜などが使用されます。
  • 金属酸化物粒子が赤外線を吸収する理由:金属酸化物微粒子は特に電子遷移と格子振動を利用して、太陽光に含まれる近赤外線を効率的に吸収し、熱エネルギーの透過を抑制しています。

IRカットフィルム

 富士キメラ総研によると、機能性フィルム市場は堅調な成長を見せる予想とされています。

 https://www.nikkan.co.jp/articles/view/00746076

 2023年の市場規模は約282億4,000万米ドルで、2030年には476億4,000万米ドルに達すると見込まれており、年平均成長率(CAGR)は7.75%とする予想もあります。

 今回は「IRカット機能」を持つフィルムについての記事となります。

IRカットフィルムとは何か

 IRカットフィルムは、赤外線(IR)をカットする機能を持つフィルムです。主に自動車や建物の窓ガラスに貼って使用されます。

IRカットフィルムの主な効果

  • 暑さ対策: 太陽光に含まれる赤外線は熱エネルギーを持つため、IRカットフィルムを貼ることで車内や室内の温度上昇を抑え、涼しく快適な環境を保ちます。特に、肌がジリジリと焼けるような不快感を軽減する効果があります。
  • エアコン効率の向上: 室温の上昇を抑えることで、エアコンの負荷が減り、より少ないエネルギーで効率的に室内を冷やすことができます。これにより、燃費の向上や電気代の節約にも繋がります。
  • 紫外線(UV)カット: 多くのIRカットフィルムは、同時に紫外線もカットする機能を持っています。これにより、日焼けやシミ、内装の色褪せなどを防ぐ効果が期待できます。
  • プライバシー保護: スモークタイプのIRカットフィルムは、外部からの視線を遮り、車内や室内のプライバシーを守ります。
  • ガラス飛散防止: 万が一の事故や災害でガラスが割れた際に、破片の飛散を抑え、二次的な被害を軽減する効果があります。

IRカットフィルムは、赤外線(IR)をカットする機能を持つフィルムで、暑さ対策やエアコン効率の向上などを目的に自動車や建物の窓ガラスに貼って使用されます。

IRにはどのような物質があるのか

 IRカットフィルムには、赤外線を吸収または反射するために、以下のような物質や技術が利用されています。

1. 金属酸化物微粒子

  • 酸化インジウムスズ (ITO): 透明性が高く、可視光線の透過率を維持しながら、近赤外線を吸収する性質があります。スパッタリング法などでフィルム表面に薄膜としてコーティングされます。
  • 酸化タングステン: 近赤外線を吸収する効果があり、ITOと組み合わせて使用されることもあります。
  • 酸化セリウム: 紫外線吸収効果と合わせて、赤外線吸収効果も持つものがあります。

2. 有機系赤外線吸収剤

  • シアニン系色素: 特定の波長の近赤外線を吸収する性質を持つ有機化合物です。フィルムの樹脂に練り込んだり、コーティング層に添加したりして使用されます。
  • フタロシアニン系色素: 耐熱性や耐光性に優れ、近赤外線を吸収する特性があります。
  • その他有機系色素: ナフタロシアニン系、スクアリリウム系など、様々な種類の有機色素が用途に応じて利用されています。

3. 多層膜技術 (スパッタリングフィルム)

  • 複数の異なる金属や酸化物の薄膜を真空中で積層させる技術です。各層の厚みや材質を精密に制御することで、特定の波長の赤外線を効率的に反射させることができます。貴金属系の材料などが用いられることもあります。

4. 樹脂材料

  • フィルムの基材となるポリエステルフィルムなどに、赤外線吸収効果のある材料を練り込むことで、フィルム全体で赤外線をカットする機能を持たせることができます。

5. コーティング剤

  • フィルム表面に、赤外線吸収または反射効果のある特殊なコーティング剤を塗布することで、IRカット機能を持たせます。

IRカットフィルムには、赤外線を吸収または反射するために、金属酸化物微粒子、有機系赤外線吸収剤多層膜などが使用されます。

金属酸化物微粒子が赤外線を吸収する仕組み

 金属酸化物微粒子が赤外線を吸収する理由は、主に以下のメカニズムによるものです。

1. 格子振動 (フォノン吸収)

  • 金属酸化物の結晶格子を構成する原子は、熱エネルギーによって振動しています。
  • 赤外線は、これらの格子振動と相互作用し、特定の振動数(波長)の赤外線エネルギーが原子の振動エネルギーに変換され、吸収されます。
  • 金属の種類や酸化物の構造によって、吸収される赤外線の波長帯が異なります。

2. 電子遷移

  • 金属酸化物は一般的に半導体または絶縁体の性質を持ちます。
  • 赤外線のエネルギーが、価電子帯の電子を伝導帯へ励起させるのに十分なエネルギーを持つ場合、電子遷移が起こり、赤外線が吸収されます。
  • バンドギャップの大きさによって、吸収される赤外線の波長範囲が決まります。バンドギャップが小さいほど、より長波長の赤外線を吸収しやすくなります。

3. 欠陥や不純物

  • 金属酸化物の結晶構造中の酸素欠陥や金属イオンの欠陥、あるいは意図的に添加された不純物などが、新たな電子状態を形成し、赤外線吸収の原因となることがあります。
  • これらの欠陥や不純物に関連する電子遷移や局所的な振動モードが、特定の波長の赤外線を吸収します。

4. 表面効果

  • 特にナノサイズの金属酸化物微粒子の場合、表面積が非常に大きくなるため、表面の原子や電子状態がバルクとは異なる挙動を示し、特有の赤外線吸収特性を示すことがあります。
  • 表面に吸着した分子との相互作用も、赤外線吸収に影響を与える可能性があります。

金属酸化物微粒子は特に電子遷移格子振動を利用して、太陽光に含まれる近赤外線を効率的に吸収し、熱エネルギーの透過を抑制しています。

有機系赤外線吸収剤が赤外線を吸収する仕組み

 有機系赤外線吸収剤が赤外線を吸収する主な理由は、分子の振動電子遷移にあります。

1. 分子の振動 (分子振動)

  • 有機分子は、原子同士が化学結合で結びついており、これらの結合はバネのように振動しています。
  • 赤外線は、特定の振動数(波長)の電磁波であり、分子の特定の振動モードのエネルギーと一致すると、そのエネルギーが分子に吸収され、振動の振幅が大きくなります。
  • 分子の種類や構造、含まれる官能基(O-H、C=O、C-Hなど)によって、特有の振動数を持つため、吸収する赤外線の波長帯が異なります。
  • 赤外分光法は、この原理を利用して物質の同定や構造解析を行います。
赤外線を吸収するための条件
  • 双極子モーメントの変化: 分子が赤外線を吸収するためには、その振動によって分子全体の電気的な偏り(双極子モーメント)が変化する必要があります。双極子モーメントの変化がない振動(例:対称的な分子の伸縮振動など)は、赤外線を吸収しません。

2. 電子遷移

  • 有機分子は、特定の波長の光を吸収すると、分子内の電子がより高いエネルギー準位へ遷移します。
  • 赤外線のエネルギーは、一般的に紫外可視光に比べて小さいため、通常の電子遷移を引き起こすことは稀です。
  • しかし、特定の構造を持つ有機分子(例:共役系の長い分子、金属錯体など)では、赤外領域のエネルギーでも電子遷移が起こり、赤外線を吸収することがあります。
  • 特に、近赤外領域(780nm〜2500nm)を吸収する有機系色素は、この電子遷移の原理を利用しています。これらの色素は、IRカットフィルムや光熱変換材料などに利用されます。

有機系赤外線吸収剤は、分子の振動や特定の電子遷移を利用することで赤外線を吸収します。

多層膜が赤外線を吸収する仕組み

 多層膜自体は、必ずしもそれだけで赤外線を強く吸収するわけではありません。多くの場合、光の干渉効果を利用して反射率を高め、透過を防ぐことで、結果的に吸収材と組み合わせた際のIRカット効率を向上させる役割を果たします。

1. 光の干渉

  • 多層膜は、屈折率の異なる薄膜を複数重ね合わせた構造をしています。
  • 膜の界面で光が反射する際に、それぞれの反射光が干渉し合います。
  • 膜の厚みや屈折率を適切に設計することで、特定の波長の光に対して強め合う干渉(建設的干渉)を起こさせ、透過を抑制(つまり吸収または反射)することができます。
  • 特に、特定の波長の赤外線を強く反射させるように設計された多層膜は、結果的にその波長の赤外線が内部に透過しにくくなるため、吸収材と組み合わせることで効率的なIRカットを実現します。

2. 吸収材の組み合わせ

  •  多層膜の中に、異なる吸収特性を持つ材料を組み込むことで、幅広い波長範囲の赤外線を効率的に吸収することができます。
  •  例えば、特定の波長の近赤外線を強く吸収する有機系色素を含む層と、別の波長の赤外線を吸収する金属酸化物微粒子を含む層を重ね合わせることで、より広範囲のIRカット性能を持たせることができます。

多層膜は光の干渉という物理現象と、様々な吸収材の特性を組み合わせることで、効率的かつ特定の波長域に合わせた赤外線吸収を可能にしています。

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