この記事で分かること
- 親水性向上ポリマーとは:本来は水をはじくポリマーに、親水基を導入し、水との親和性を高めた高分子材料であり、素材に吸水性や防曇性などの機能を持たせることができます。
- 親水性が必要な理由:冬用タイヤは、路面の水膜や氷上の水膜を素早く除去する必要があります。水との親和性を高めることで、タイヤが水を吸い上げやすくなり、路面との直接的な摩擦を増やしてグリップ性能を向上させることが可能となります。
- 親水性を上げる方法:水と結合しやすい親水基をポリマーに化学的に導入します。これにより、タイヤ表面が水分子を強く引きつけ、路面の水膜を効率的に吸い上げて除去し、グリップ性能を向上させます。
日本ゼオンの冬用タイヤ向け、親水性向上ポリマー
日本ゼオンは、冬用タイヤの性能向上を目指し、親水性向上ポリマー「Nipol BR1300」を開発しました。
https://www.zeon.co.jp/news/assets/pdf/250715.pdf
このポリマーは、ポリブタジエンゴムを基本骨格としており、タイヤ用ゴム材料として水との親和性をこれまでにないレベルまで高めることが可能となります。
親水性向上ポリマーとは何か
親水性向上ポリマーとは、通常は水との親和性が低いポリマー(高分子)の表面や内部に、水を強く引きつける性質を持たせた特殊なポリマーのことです。
ポリマーは、多数の分子が結合してできた大きな分子のことで、プラスチックやゴムなど、様々な素材の主成分となっています。多くのポリマーは水と混ざりにくい「疎水性(水を嫌う性質)」を持っていますが、親水性向上ポリマーは、化学的に水と結合しやすい「親水基」(-OH、-COOHなど)を分子構造に導入することで、水との親和性を高めています。この性質を利用して、様々な分野で親水性向上ポリマーが使われています。
- 冬用タイヤ: 日本ゼオンが開発したポリマーのように、路面の水膜を効率的に除去し、グリップ性能を向上させます。
- 医療分野: 体内に埋め込む医療機器の表面にコーティングし、生体への適合性を高めたり、薬物の放出を制御するハイドロゲルとして利用されたりします。
- 塗料・コーティング材: 防曇効果やセルフクリーニング効果を持たせるために、窓ガラスや建材などに使用されます。
- 農業分野: 保水性を高めるために、土壌改良材として使われることがあります。
このように、親水性向上ポリマーは、素材に新しい機能を持たせることで、幅広い分野で活躍しています。

親水性向上ポリマーとは、本来は水をはじくポリマーに、水と結合しやすい親水基を導入し、水との親和性を高めた高分子材料です。これにより、素材に吸水性や防曇性などの機能を持たせることができます。
なぜ、水との親和性を増加させることが重要なのか
水との親和性を高めることが重要である理由は、主に以下の3点です。
1. 水膜の除去
冬の路面、特に雪が溶けかかった状態や、凍結路面の上に薄い水膜がある状態では、タイヤと路面の間に水が入り込み、「ハイドロプレーニング現象」に近い状態が発生します。この水膜がクッションとなり、タイヤと路面の直接的な接触が妨げられるため、グリップ力が大幅に低下します。
親水性の高いポリマーを配合したタイヤは、この水膜を素早く吸い上げ、タイヤと路面との間に直接的な摩擦を生み出し、グリップ性能を向上させます。
2. 氷上グリップの向上
氷の上では、摩擦熱などでわずかに溶けた水の膜が存在し、これが滑りの原因となります。親水性の高いタイヤは、この水膜を効率的に除去し、氷の表面にタイヤが密着するため、グリップ力が向上します。
3. スラッシュグリップの向上
シャーベット状の雪(スラッシュ)の上では、タイヤの溝が雪と水で詰まりやすく、グリップ力が低下します。親水性の高いポリマーは、水や雪を素早くタイヤ表面から排除し、溝が詰まるのを防ぐことで、安定したグリップ力を維持します。
冬用タイヤにとって、水との親和性の向上は、路面の水分を効率的に除去し、タイヤと路面との直接的な摩擦を確保するために不可欠であり、これが雪上・氷上・スラッシュ上でのグリップ性能向上に直結します。

冬用タイヤは、路面の水膜や氷上の水膜を素早く除去する必要があります。水との親和性を高めることで、タイヤが水を吸い上げやすくなり、路面との直接的な摩擦を増やしてグリップ性能を向上させるためです。
ハイドロプレーニング現象とは何か
ハイドロプレーニング現象とは、雨などで濡れた路面を高速で走行した際、タイヤが路面と水の間に発生した水膜の上を滑走する現象のことです。この現象が起こると、タイヤと路面との間に直接的な摩擦が失われ、ハンドル操作やブレーキが効かなくなり、車両が制御不能になる危険があります。この現象は、以下の要因が複合的に作用して発生しやすくなります。
- 速度の出しすぎ: 速度が速いほど、タイヤの溝が水を排除する能力を超えてしまい、水膜ができやすくなります。
- タイヤの摩耗: 溝が浅くなったタイヤは、排水性能が低下し、水膜を排除する力が弱くなります。
- 空気圧の不足: 空気圧が低いとタイヤがたわみ、接地面積が大きくなることで、排水が不十分になります。
- 路面の水深: 轍(わだち)や水たまりなど、路面に水が多く溜まっている場所では、ハイドロプレーニング現象が起こりやすくなります。
ハイドロプレーニング現象を防ぐためには、雨天時や濡れた路面では速度を控えめにし、定期的にタイヤの溝の深さや空気圧を点検することが重要です。もし現象が発生した場合は、急ハンドルや急ブレーキを避け、アクセルから足を離して自然に減速し、タイヤのグリップが回復するのを待ちます。

ハイドロプレーニング現象とは、濡れた路面を高速で走行する際、タイヤと路面の間に水の膜ができ、タイヤが浮き上がることで、操縦やブレーキが効かなくなる現象です。
どうやって親水性を高めるのか
親水性を高めるための具体的な方法はいくつかありますが、日本ゼオンが開発した「Nipol BR1300」のようなポリマーの場合、以下のような化学的な手法を用いて親水性を付与しています。
親水基の導入
ポリマーの分子構造に、水と結びつきやすい「親水基」(ヒドロキシ基 -OH、カルボキシル基 -COOHなど)を化学的に結合させる方法です。これにより、ポリマー表面が水分子を引きつけやすくなり、親水性が向上します。日本ゼオンの「Nipol BR1300」は、ポリブタジエンゴムという疎水性の高い素材を基本骨格としながらも、この手法で親水性を付与していると考えられます。
発泡ゴム
タイヤのゴムの中に微細な気泡を発生させる方法です。この気泡がスポンジのように路面の水膜を吸収し、排水性能を高めます。さらに、気泡の表面に親水性のコーティングを施すことで、より効率的に水を吸収する技術もあります。
表面処理
プラズマ処理やコロナ処理など、物理的な手法で材料の表面を改質し、親水性を高める方法です。これらの処理によって表面に親水基が形成されたり、微細な凹凸ができたりすることで、水の濡れ性が向上します。
日本ゼオンの「Nipol BR1300」は、タイヤのゴム材料そのものの親水性を高めることで、タイヤの性能を根本から向上させることを目指した技術です。
この技術は、ポリブタジエンゴムを基本骨格に持ちながら、これまでにないレベルで水との親和性を高めることが可能になったとされています。これにより、従来のタイヤが苦手としていた冬の濡れた路面や凍結路面で、より高いグリップ性能を発揮することが期待されています。

ポリマーの分子構造に、水と結合しやすい親水基(ヒドロキシ基など)を化学的に導入します。これにより、タイヤ表面が水分子を強く引きつけ、路面の水膜を効率的に吸い上げて除去し、グリップ性能を向上させます。
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