この記事で分かること
- 木製の大きさの測定方法:木星はガス惑星で境界が曖昧なため、主に探査機「ジュノー」による重力観測で測定します。内部の密度分布から形を割り出し、地球の海面気圧に相当する「1バール」の地点を表面と定義して、その半径を算出しています。
- なぜドップラー効果で大きさを測れるのか:ドップラー効果は移動する物体が放つ波の周波数が変化する現象です。探査機が木星の重力に引かれて加減速する際の電波の周波数変化から、内部の密度分布を特定し、遠心力による膨らみ(形や大きさ)を精密に算出できます。
- 木星が想定より「細く平たい」事実の意義:従来想定されていた以上に内部のガスが深部まで激しく対流し、核が溶けて混ざっている可能性を示唆します。これは太陽系の誕生史を塗り替え、宇宙にある無数の巨大惑星を評価する新たな基準となります。
木星の大きさの更新
最新の観測技術によって、木星が私たちが考えていたよりも「細身で、かつ少し平べったい」ことが明らかになりつつあります。

これまでは1970年代のパイオニア計画やボイジャー計画のデータに基づき、木星の半径は約71,492km(赤道付近)とされてきました。しかし、最新の探査機「ジュノー」による重力測定と、電波観測のデータを組み合わせた結果、従来の計算にズレがあることが判明しました。
木星の大きさをどのように測定しているのか
木星は地球のように「ここからが地面」という明確な境界がないため、その大きさを測るのは一筋縄ではいきません。
50年ぶりに数値が更新された背景には、単に望遠鏡で見た「見た目」ではなく、重力や電波を使った多角的な測定技術の進化があります。主に以下の3つのステップで測定されています。
1. 電波遮蔽(ラジオ・オカルテーション)
探査機が木星の裏側に隠れる瞬間、探査機から地球に送られる「電波」が木星の大気をかすめます。
- 仕組み: 大気を通過する際、電波はガスの密度に応じてわずかに屈折したり遅延したりします。
- 測定内容: この変化を解析することで、大気の密度や圧力を逆算し、「1バール(地球の海面気圧とほぼ同じ)」になる地点を特定します。天文学では一般的に、この1バールの圧力がかかる場所を「表面」と定義して半径を測ります。
2. 重力場による内部探査
最新の探査機「ジュノー」が用いている最も強力な手法です。
- 仕組み: 探査機が木星に接近して通過する際、木星の内部に重いもの(核や密度の高い層)があると、探査機はわずかに強く引っ張られ、速度が変化します。
- 測定内容: この速度の変化を「ドップラー効果」を利用してミリ単位で計測します。これにより、「どこに、どれだけの質量があるか」という密度の分布がわかります。
- 今回の更新: この重力データから、木星の内部が深いところまで「差動回転(場所ごとに違う速さで回ること)」していることが判明し、それに基づいて計算した結果、従来のモデルよりも半径がわずかに小さく修正されました。
3. 光学観測と扁平率の計算
木星はガスでできている上に自転が非常に速いため、赤道付近が大きく膨らんでいます。
- 測定内容: 望遠鏡や探査機のカメラで「赤道半径」と「極半径」の差を視覚的に測定します。
- 精度の向上: 昔は写真による目視に近い測定でしたが、現在は高解像度のデジタルデータと、前述の重力データによる「遠心力の影響計算」を組み合わせることで、木星の正確な「形」をシミュレーションできるようになりました。
これまでは主に「光(見た目)」で測っていたものに、ジュノーによる精密な「重力(中身の詰まり具合)」のデータが加わったことで、「実はもう平たい形をしていた」という新事実が見えてきたのです。

木星はガス惑星で境界が曖昧なため、主に探査機「ジュノー」による重力観測で測定します。内部の密度分布から形を割り出し、地球の海面気圧に相当する「1バール」の地点を表面と定義して、その半径を算出しています。
なぜ電波は屈折、遅延するのか
電波が木星のような惑星の大気を通過する際に屈折や遅延が起きるのは、光がコップの水に入ると曲がって見えるのと同じ原理で、「屈折率の変化」が原因です。
1. ガスの密度による影響(中性大気)
電波が真空からガス(大気)の中に入ると、ガス分子に邪魔されて進むスピードがわずかに遅くなります。
- 屈折: 大気は上空ほど薄く、深くなるほど濃くなります。電波はこの「密度の差」によって、密度の高い方へと曲げられます。
- 遅延: 真空中(光速)に比べて、分子に干渉される分だけ目的地に届く時間が遅れます。
2. 電離層による影響(プラズマ)
木星の上空には、太陽光などで大気がイオン化した「電離層」があります。
- 干渉: 電波は電気的な性質を持つ波なので、電離層内の自由電子(プラズマ)と相互作用します。
- 変化: これにより電波の位相が変化し、見かけ上の速度が変わるため、屈折や遅延が発生します。
測定への応用
探査機が木星の影に隠れる直前、この「曲がり具合」や「遅れ具合」を地球で精密に測定します。すると、「どの高さにどれくらいの濃度のガスがあるか」が逆算でき、そこから木星の正確な「半径」を割り出すことができるのです。

電波が真空から木星の大気に入ると、ガス分子や電離層の電子に干渉され、進む速度がわずかに遅くなります。この密度の違いによる屈折率の変化が、光が水中で曲がるのと同様に電波を屈折・遅延させる原因です。
ドップラー効果とは何か、なぜ大きさを計算できるのか
救急車のサイレンが通り過ぎる時に音が変わる、あの現象がドップラー効果です。宇宙探査では、これを利用して「目に見えない重力」を測っています。
ドップラー効果とは
波(音や電波)の発生源が動いていると、届く波の回数(周波数)が変わる現象です。
- 近づくとき: 波が押しつぶされて、周波数が高くなる。
- 遠ざかるとき: 波が引き伸ばされて、周波数が低くなる。
なぜ木星の大きさが計算できるのか
探査機「ジュノー」が木星のそばを通るとき、地球に向けて電波を出し続けます。この電波の周波数のわずかな変化から探査機の「正確なスピード」がわかります。
- 重力のムラを検知: 木星の内部に密度の高い塊や大きな核があると、探査機はその重力に引っ張られて一瞬加速します。
- スピードの変化を測定: 加速すればドップラー効果で電波が高くなり、減速すれば低くなります。
- 内部構造の特定: この「加速・減速」のパターンを分析すると、木星のどこにどれだけの質量が詰まっているか(密度の分布)が丸裸になります。
- 形の算出: 内部の密度分布がわかれば、自転による遠心力で「どのくらい膨らむか」を物理数式で正確に導き出せます。
つまり、「スピードの変化から中身を当て、中身から形(大きさ)を計算する」という流れです。

ドップラー効果は、移動する物体が放つ波の周波数が変化する現象です。探査機が木星の重力に引かれて加減速する際の電波の周波数変化から、内部の密度分布を特定し、遠心力による膨らみ(形や大きさ)を精密に算出できます。
今回の更新が意味することは何か
今回の50年ぶりの更新は、単なる「数字の書き換え」以上の大きなインパクトを天文学に与えています。主な意味は以下の3点です。
1. 木星の「中身」の正体が判明した
木星が想定より細く平たいということは、内部のガスが私たちが考えていたよりも激しく、深く対流していることを意味します。
- 核(コア)の状態: 以前は岩石の固い核があると思われていましたが、最新データは「核が溶けて周囲の水素と混ざり合っている(希釈された核)」可能性が高いことを示しています。
2. 太陽系誕生のシナリオが変わる
木星は太陽系で最初にできた惑星です。その正確なサイズと構造がわかることで、「当時の太陽系にどれだけの材料(塵やガス)があったのか」という歴史のパズルが正しく組み合わさります。
3. 他の系外惑星を測る「物差し」が精緻になる
宇宙には木星に似た巨大ガス惑星(ホット・ジュピターなど)が無数にあります。
- 基準の更新: 私たちは遠くの惑星を「木星の何倍」という基準で測るため、その基準(木星)自体が正確になることで、全宇宙の惑星理解の精度が底上げされます。

木星が想定より「細く平たい」事実は、内部のガスが深部まで激しく対流し、核が溶けて混ざっている可能性を示唆します。これは太陽系の誕生史を塗り替え、宇宙にある無数の巨大惑星を評価する新たな基準となります。

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