カネカの変成シリコーンポリマー生産能力増強 変成シリコーンポリマーとは何か?何に利用されるのか?

この記事で分かること

  • 変成シリコーンポリマーとは:シリコーン骨格に有機官能基を導入した高分子です。空気中の水分と反応してゴム状の弾性体に硬化し、優れた接着性、耐久性、耐候性を持ちます。
  • 変成シリコーンポリマーの用途:溶剤をほとんど含まないため、環境や人体への負荷が少ないため、建築用シーリング材や接着剤として広く利用されています。
  • 弾性を持つ理由:柔軟なシリコーン骨格が湿気で三次元的に架橋し、ゴム状の網目構造を形成します。これにより、分子が元の無秩序な状態に戻ろうとするエントロピー弾性を発揮し、弾力性を持ちます。

カネカの変成シリコーンポリマー生産能力増強

 カネカは、主力の事業の一つである変成シリコーンポリマー(製品名:カネカMSポリマー®)の生産能力再増強を積極的に検討・実行しています。

 https://chemicaldaily.com/archives/662435

 カネカの変成シリコーンポリマーは、同社が世界で初めて企業化した製品であり、シーリング材や弾性接着剤の基材として広く使用されています。

変成シリコーンポリマーとは何か

 「変成シリコーンポリマー」とは、シリコーン骨格(ケイ素と酸素の結合が主鎖を形成する)を持ちながら、その末端や側鎖に特定の有機官能基(有機物の特徴的な構造)を導入することで、通常のシリコーンにはない様々な特性を付与した高分子材料のことです。

 特に、空気中の水分と反応して硬化し、ゴムのような弾性体になるという特徴を持つものが代表的で、カネカの「カネカMSポリマー®」などがその例です。

主な特徴

  • 湿気硬化性: 大気中の水分(湿気)と反応して硬化します。これにより、硬化剤を混ぜる手間が省け、一液型として使いやすいのが大きな利点です。
  • 弾性体: 硬化後はゴムのような弾力性を持つため、接着部分の動きや振動、温度変化による伸縮に追従できます。
  • 接着性の高さ: 様々な材料(金属、プラスチック、木材、コンクリートなど)に対して優れた接着性を示します。
  • 耐久性: 耐候性(紫外線や雨などに対する耐久性)、耐熱性、耐寒性に優れ、長期間安定した性能を維持します。
  • 無溶剤・低VOC: 溶剤をほとんど含まないため、環境や人体への負荷が少なく、臭いも少ない製品が多いです。
  • 塗装性: シリコーンシーリング材とは異なり、硬化後に上から塗装できる製品が多いです(「ノンブリードタイプ」など)。これにより、仕上がりの美観を損なわないというメリットがあります。

主な用途

その優れた特性から、変成シリコーンポリマーは多岐にわたる分野で活用されています。

  • 建築用シーリング材:
    • 建物の外壁や窓枠、目地(パネル間の隙間)の充填。
    • 防水性、気密性の確保。
    • ひび割れ補修。
  • 弾性接着剤:
    • 建築内装材(巾木、廻り縁、床材、断熱材など)の接着。
    • 自動車や鉄道車両、船舶などの構造部材の接着。
    • 衝撃や振動を受ける部分の接着。
  • 工業用:
    • 電気・電子部品の封止や接着。
    • 機械部品の接合。

なぜ「変成」なのか?

 「変成」という言葉は、基本的なシリコーンポリマーの骨格に、ポリエーテルやアクリルなどの異なる有機ポリマーの特性を付与したり、反応性の高いシリル基(ケイ素を含む特定の官能基)を導入したりすることで、元のシリコーンだけでは実現できない機能を持たせたことを意味します。これにより、柔軟性、接着性、塗装性など、幅広い性能を調整することが可能になります。

 カネカの「カネカMSポリマー®」は、この変成シリコーンポリマーの代表的な製品であり、特に建築・土木分野でのシーリング材や接着剤として、国内外で高いシェアを誇っています。

 変成シリコーンポリマーは、無溶剤で環境負荷が低いという特長から、欧米を中心にVOC(揮発性有機化合物)規制の強化に伴い、従来の溶剤系製品からの代替が進んでることともあり、増産を検討しています。

変成シリコーンポリマーは、シリコーン骨格に有機官能基を導入した高分子です。空気中の水分と反応してゴム状の弾性体に硬化し、優れた接着性、耐久性、耐候性を持ちます。建築用シーリング材や接着剤として広く利用され、塗装も可能です。

なぜ弾性を持つのか

 変成シリコーンポリマーが弾性を持つのは、主に以下のメカニズムによります。

柔軟な主鎖構造

  • 変成シリコーンポリマーの基本的な骨格は、シリコーンと同様にケイ素原子(Si)と酸素原子(O)が交互に連なったSi-O-Si結合(シロキサン結合)が主鎖を形成しています。
  • このシロキサン結合は非常に柔軟で、他のポリマー骨格(例えば炭素-炭素結合が主体の有機ポリマー)に比べて結合角が大きく自由度が高く、分子が容易に回転・屈曲できるという特性があります。
  • この「ヘリックス構造(コイル状)」や「くねくねと動ける」性質が、ポリマー鎖全体の柔軟性を生み出し、伸び縮みする能力の基礎となります。

架橋構造の形成(硬化時)

  • 変成シリコーンポリマーは、通常、その末端や側鎖に反応性の高いシリル基(-Si(OR)xなど、ORはアルコキシ基など)を持っています。
  • 空気中の水分(湿気)と触媒の作用により、これらのシリル基が加水分解し、その後、縮合反応を起こしてSi-O-Si結合を形成しながら、ポリマー鎖同士が三次元的に結びつきます。このプロセスを「架橋」と呼びます。
  • 硬化前はバラバラだったポリマー鎖が、架橋によって網目状の構造(三次元ネットワーク構造)を形成します。

エントロピー弾性

  • 架橋されたゴム状の物質(エラストマー)は、引っ張られたり変形したりすると、ポリマー鎖が引き伸ばされ、分子が整列しようとします。
  • しかし、分子は常に熱運動をしており、無秩序な状態(エントロピーが高い状態)を好む性質があります。
  • したがって、外部から加えられた力が除かれると、ポリマー鎖は熱運動によって元の無秩序な状態(ランダムコイルの状態)に戻ろうとします。この「無秩序に戻ろうとする力」がエントロピー弾性と呼ばれるもので、ゴムの弾性の主な原因です。
  • 変成シリコーンポリマーは、柔軟な主鎖が架橋によって固定されているため、このエントロピー弾性を発現し、外力によって変形しても元の形に戻る性質(弾性)を示します。

 変成シリコーンポリマーは、元々柔軟性の高いSi-O-Si結合を持つ主鎖が、湿気によって三次元的な網目構造(架橋)を形成することで、分子がランダムな状態に戻ろうとするエントロピー弾性を発揮し、ゴムのような弾性を持つようになります。

 これにより、衝撃や振動を吸収したり、温度変化による材料の膨張・収縮に追従したりすることが可能になり、シーリング材や接着剤として非常に優れた性能を発揮します。

変成シリコーンポリマーは、柔軟なシリコーン骨格が湿気で三次元的に架橋し、ゴム状の網目構造を形成します。これにより、分子が元の無秩序な状態に戻ろうとするエントロピー弾性を発揮し、弾力性を持ちます。

接着力に優れるのはなぜか

 変成シリコーンポリマーの接着力が高い理由は、主に以下の要因が複合的に作用するためです。

多様な素材への濡れ性

  • 変成シリコーンポリマーは、無機材料(金属、ガラス、コンクリートなど)と有機材料(プラスチック、木材など)の両方に対して、比較的良好な濡れ性(表面に広がりやすい性質)を示します。これは、分子内にシリコーン由来の無機的な部分と、有機官能基由来の有機的な部分を併せ持っているためと考えられます。接着剤が被着材の表面にしっかりと密着するためには、濡れ性が非常に重要です。

化学的な結合(シランカップリング剤の効果)

  • 変成シリコーンポリマーの多くには、接着性を高めるためにシランカップリング剤が配合されています。
  • シランカップリング剤は、その分子内に異なる2つの反応性の官能基を持っています。
  • 一方の官能基は、ポリマー(変成シリコーン)の末端のシリル基と反応して、ポリマー鎖と強固に結合します。
  • もう一方の官能基は、被着材(特に無機材料)の表面にある水酸基(-OH)などと反応し、化学的な結合(共有結合)を形成します。
  • このように、シランカップリング剤がポリマーと被着材との間で「橋渡し」のような役割を果たすことで、非常に強固な接着力が発現します。

物理的な相互作用(アンカー効果など)

  • 接着剤が硬化する際、被着材表面の微細な凹凸に入り込み、硬化後にそれが「アンカー(碇)」のように機能して、物理的に係留する効果(アンカー効果、投錨効果)も接着力に寄与します。
  • また、分子間力(ファンデルワールス力など)による接着ももちろん存在します。

柔軟性と応力緩和能力

  • 前述の通り、変成シリコーンポリマーは硬化後も高い弾性を持つゴム状の材料になります。
  • この弾性が、接着された異なる材料間(例:金属とプラスチック)で発生する熱膨張・収縮による応力や、外部からの衝撃・振動による応力を効果的に緩和・吸収します。
  • 応力が集中して剥がれが生じるのを防ぎ、長期にわたって接着状態を維持できるため、結果的に「接着力が高い」と評価されます。硬くてもろい接着剤は、小さな応力で剥がれてしまう可能性があります。
  • これらの要素が複合的に作用することで、変成シリコーンポリマーは幅広い種類の材料に対して優れた接着性能を発揮するのです。

変成シリコーンポリマーは、被着材への良好な濡れ性に加え、シランカップリング剤がポリマーと被着材を化学的に結合させるため接着力が高まります。また、硬化後の弾性が応力を吸収し、剥がれを防ぎます。

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