この記事で分かること
- 粉体急結剤とは:セメント系材料に混合することで、急速に硬化・固化させる添加剤のことです。
- どんな物質が使われるのか:アルミン酸カルシウム、硫酸カルシウムのような無機塩や化合物が利用されています。
- 硬化できる理由:反応初期pHの上昇、カルシウムやアルミン酸成分の供給、構造をロックするなどが起き、硬化が速くなります。
花王、太平洋マテリアルの粉体急結剤
花王と太平洋マテリアルが共同で、山岳トンネル工事向けの環境配慮型粉体急結剤「ビスコショット」を開発しました。
https://www.asset-alive.com/news/index.php?mode=show&seq=53887
粉体急結剤(Solid-type quick setting agent)は、主にセメント系材料(例:モルタル、ショットクリートなど)に混合することで、急速に硬化・固化させる添加剤であり、効率の良い粉体急結剤によってコンクリート使用量の大幅な低減と工期短縮、さらには廃棄物削減による環境負荷低減を実現したとしています。
セメントの硬化について
セメントは水と反応して固体になる(=水和反応)という性質を持っています。この反応によって、ゲルや結晶のような物質が生成され、空間が充填されて固まるのです。
セメントの硬化は、非常に重要な現象で、建築・土木材料としてのセメントの性能を決定づけます。
■ 硬化のプロセス:水和反応
セメントの主成分(クリンカー鉱物)は以下のような反応を起こして硬化します:
成分(略号) | 化学式 | 反応と生成物 |
---|---|---|
C₃S(三酸化トリカルシウムシリケート) | 3CaO・SiO₂ | 早期強度発現:C-S-Hゲル + Ca(OH)₂ |
C₂S(二酸化ジカルシウムシリケート) | 2CaO・SiO₂ | 長期強度に貢献:C-S-Hゲル(ゆっくり) |
C₃A(三酸化トリカルシウムアルミネート) | 3CaO・Al₂O₃ | 石膏と反応:エトリンガイト(針状結晶)を生成 |
C₄AF(四酸化カルシウムアルミノフェライト) | 4CaO・Al₂O₃・Fe₂O₃ | 類似反応、鉄分を含む水和物生成 |
■ 生成物の役割
- C-S-Hゲル(カルシウム-シリケート-ハイドレート)
→ 強度の主因。微細な空間を埋めて「糊」のように固める。 - Ca(OH)₂(ポルトランド石灰)
→ 強度には貢献しないが、pH保持に重要。 - エトリンガイト(AFt)
→ 初期の膨張と強度発現に寄与。過剰生成はクラック原因にも。
■ 硬化にかかる時間
時間経過 | 状態 | 主な反応 |
---|---|---|
0~1時間 | 可塑性(練り混ぜ) | 水和反応が始まる前 |
1~4時間 | 初期硬化(初期凝結) | C₃Aの反応開始 |
4~24時間 | 終了硬化(終結) | C₃Sの反応が本格化、強度上昇 |
1~28日 | 長期硬化 | C₂Sが反応、緻密化・強度増加 |

セメントの硬化は化学反応による「ゲルや結晶」の生成によって、進行し、反応は温度・水量・添加剤によって変化します。
粉体急結剤にはどんな物質が使われるのか
粉体急結剤に使われる物質は、セメントの水和反応を加速・制御するための無機塩や化合物が中心です。
■ 主な構成成分と役割
成分 | 主な化学式 | 役割 |
---|---|---|
アルミン酸カルシウム | CaAl₂O₄、Ca₁₂Al₁₄O₃₃ など | 水和時に急速に反応し、ゲルを生成して初期硬化を促進。 |
硫酸カルシウム(焼石膏など) | CaSO₄・½H₂O など | 水和反応の促進、結晶構造形成の補助。 |
塩化カルシウム | CaCl₂ | 非常に強い促進作用。低温でも硬化が早く進む(ただし鉄筋腐食の懸念あり)。 |
硝酸カルシウム | Ca(NO₃)₂ | 塩化物の代替として使用される。比較的安全で腐食リスクが低い。 |
炭酸リチウム | Li₂CO₃ | 初期硬化を大幅に早めるが、コストが高め。 |
アルカリ金属水酸化物 | NaOH、KOH など | pHを急上昇させ、水和反応を加速。過剰添加は逆効果のことも。 |
■ 添加される補助成分(バランス調整や粉体安定性のため)
- セルロース系増粘剤:粉体の流動性・付着性を向上
- 無機フィラー(シリカ、炭酸カルシウム):かさ増しや分散性調整
- 界面活性剤や分散剤:粉体の凝集防止・混合性向上(花王の得意分野)

粉体急結剤には、アルミン酸カルシウム、硫酸カルシウムのような無機塩や化合物が利用されています。
硬化を加速できる理由
粉体急結剤が「硬化できる理由」は、主にセメントの水和反応を加速・誘導する化学的作用によるものです。
■ 急結剤による硬化促進の仕組み
1. 反応初期のpH上昇(アルカリ性)
アルカリ(NaOHやKOHなど)により、セメント粒子表面の溶解を促進。これにより、水和反応が急激に進みます。
2. カルシウムやアルミン酸成分の供給
アルミン酸カルシウムなどが水と反応し、エトリンガイトやアルミネート系ゲルを速やかに形成。これが「瞬間的な硬化」の原因です。
3. 析出による物理的固化
初期の水和生成物(ゲルや針状結晶)が空間に析出して、構造を物理的にロックすることで固まります。
■ 注意点
急結剤を使いすぎると「脆くなる」「膨張ひび割れを起こす」などのリスクもあるため、配合設計が極めて重要です。

粉体急結剤によって、反応初期pHの上昇、カルシウムやアルミン酸成分の供給、構造をロックするなどが起き、硬化が速くなります。
使いすぎると脆くなる理由は
粉体急結剤を使いすぎると脆くなる理由は、主に以下の3つの科学的・物理的要因によります。
1. 水和反応が不均一・過剰に進行する
急結剤が多すぎると、セメントの一部だけが急速に反応してしまい、以下の問題が生じます。
- ゲルや結晶が粗く・不均一に形成される
- 反応が急すぎて内部に空隙(マイクロクラック)が残る
→ これが「脆く」「もろい」硬化体を生み出します。
2. 未反応セメントの減少=長期強度が出にくい
急結剤は初期反応を加速しますが、その代償として、
- 水和反応が初期に偏りすぎる
- セメント全体が持つ長期強度発現の“余地”が削がれる
→ 結果、最終的な圧縮強度が低下する可能性があります。
3. 膨張生成物の過剰生成 → ひび割れ
特にエトリンガイト(針状結晶)などは水和時に体積が増えます。
- 急結剤でこれを一気に大量生成すると
- 内圧が高まり、内部膨張や微細なクラックが生じていしまいます
→ これが構造劣化や剥離の原因になることもあります。

過剰反応による不均一硬化、水和反応が初期に偏りすぎることでの長期強度低下、結晶生成が急激すぐることでの膨張・クラックなどが要因でもろくなってしまいます。
コメント