この記事で分かること
- ヨウ素の用途:医療分野でレントゲン造影剤や消毒薬に、工業分野では液晶ディスプレイの偏光フィルムや化学品の触媒に広く使われます。また、家畜の飼料添加物としても利用されています。
- 増産の理由:ハイテク分野(液晶ディスプレイ)や医療分野での需要拡大に加え、好調な国際市況が背景にあります。
- X線の吸収に優れる理由:原子番号が大きく、多くの電子を持っているため、X線が原子に衝突した際に吸収される確率が高くなります。これにより、X線が物質を透過する際に減衰しやすく、高い吸収性を示します。
K&Oヨウ素のヨウ素精製設備増強
K&Oエナジーグループの子会社であるK&Oヨウ素(千葉県白子町)は、需要拡大に対応するため、千葉工場内のヨウ素精製設備を増強し、2025年8月1日から稼働を開始しました。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC015MW0R00C25A8000000/
これにより、現在の年間生産量約1650トンを、2030年代には2000トン以上に引き上げる計画です。
ヨウ素は何に使われるのか
ヨウ素は、その特有の性質(X線吸収能力、殺菌効果、生理活性など)を活かし、非常に幅広い分野で利用されています。主な用途は以下の通りです。
1. 医療・医薬品
- レントゲン造影剤: ヨウ素はX線をよく吸収するため、血管や臓器の診断に欠かせないレントゲン造影剤として最も多く使われています。
- 消毒薬・殺菌剤: 「イソジン」に代表されるうがい薬や消毒薬、手術時の消毒剤などに使われています。
- 医薬品: 甲状腺ホルモンの主原料であるため、甲状腺機能に関連する医薬品や、放射性物質による被ばくを防ぐための安定ヨウ素剤にも使われます。
2. 工業・ハイテク分野
- 液晶ディスプレイ: スマートフォンやパソコン、テレビなどの液晶パネルに不可欠な「偏光フィルム」の原料として使われています。
- 化学品の触媒・安定剤: 化学反応を促進する触媒や、自動車のシートベルトやタイヤなどに使われる樹脂・繊維の安定剤として利用されています。
- X線検出器: 空港の手荷物検査などに使われるX線検出器の素材にもヨウ素化合物が使われています。
- 太陽電池: 近年では、色素増感太陽電池の電解液としての利用も増えています。
3. 農業・畜産
- 飼料添加物: 家畜のヨウ素欠乏予防や伝染病予防、卵や牛乳の増産を目的とした飼料添加物として使われています。
- 農薬: 土壌の殺菌・殺虫剤としても利用されます。
4. 食品
- 添加塩: 土壌中のヨウ素が少ない内陸部などでは、ヨウ素欠乏症を予防するため、食塩にヨウ素化合物を添加して摂取しやすくしています。
このように、ヨウ素は医療からハイテク、農業まで、私たちの生活に深く関わる重要な元素です。日本は世界でも有数のヨウ素生産国であり、その多くを輸出しています。

ヨウ素は医療分野でレントゲン造影剤や消毒薬に、工業分野では液晶ディスプレイの偏光フィルムや化学品の触媒に広く使われます。また、家畜の飼料添加物としても利用されるなど、私たちの生活に不可欠な重要な元素です。
増産する理由はなにか
K&Oエナジーグループがヨウ素の増産に踏み切った主な理由は、需要の拡大と国際的な市場の好調です。
- ハイテク分野での需要増加: スマートフォンやパソコン、テレビなどの液晶パネルに不可欠な「偏光フィルム」の原料として、ヨウ素は需要が拡大しています。
- 医療・医薬品分野での安定的な需要: レントゲン造影剤や消毒薬など、医療分野ではヨウ素が不可欠なため、安定した需要があります。
- 国際市況の好調: 世界的にヨウ素の需要が高まっていることに加え、円安も追い風となり、ヨウ素事業がK&Oエナジーグループの収益を牽引しているためです。
これらの背景から、K&Oエナジーグループはヨウ素事業を成長戦略の柱の一つと位置づけ、増産によってさらに事業を拡大していく方針です。

ハイテク分野(液晶ディスプレイ)や医療分野での需要拡大に加え、好調な国際市況が背景にあります。ヨウ素事業がグループ収益を牽引しており、この成長をさらに加速させるため、生産能力を増強しました。
なぜX線を吸収しやすいのか
ヨウ素がX線を吸収しやすいのは、主に原子番号が大きく、電子の数が多いためです。この性質は、X線と物質の相互作用の原理に基づいています。
X線は電磁波の一種であり、物質を透過する際に、その物質を構成する原子にぶつかります。このとき、X線のエネルギーが原子の電子に吸収されたり、散乱されたりすることで、X線は減衰します。
ヨウ素の原子番号は53と比較的大きく、たくさんの電子(53個)を持っています。特に、内側の軌道にある電子は、原子核の強い引力によってしっかりと束縛されています。
X線がこの電子にぶつかると、X線のエネルギーが電子を原子から弾き飛ばす「光電効果」という現象が起きやすくなります。この光電効果によって、X線のエネルギーが効率よく吸収されるのです。
原子番号が大きい元素は、たくさんの電子が密に詰まっているため、X線の光子がぶつかる確率が高くなり、結果としてX線を強く吸収する性質を持っています。これが、レントゲン造影剤としてヨウ素が利用される大きな理由です。
骨のように密度の高い物質が白く写るのと同じ原理で、ヨウ素はX線写真にコントラストをつける役割を果たします。

ヨウ素は原子番号が大きく、多くの電子を持っているため、X線が原子に衝突した際に吸収される確率が高くなります。これにより、X線が物質を透過する際に減衰しやすく、高い吸収性を示します。
なぜ偏光フィルムに使われるのか
ヨウ素が偏光フィルムに使われるのは、その「二色性」という特別な性質を利用するためです。
偏光フィルムは、特定の方向に振動する光(偏光)だけを通し、それと垂直な方向の光は吸収する機能を持っています。液晶ディスプレイは、この偏光フィルムを2枚使い、間に挟んだ液晶分子の向きを変えることで光のON/OFFを制御し、映像を表示しています。
ヨウ素は、ポリビニルアルコール(PVA)という透明なフィルムに染み込ませ、一方向に引っ張って伸ばすことで、PVA分子とともにヨウ素分子も一方向にきれいに整列します。この整列したヨウ素分子の鎖(ポリヨウ素)が、以下のように「二色性」を発現します。
- ヨウ素分子の並んだ方向と平行に振動する光は、ヨウ素分子によって強く吸収されます。
- ヨウ素分子の並んだ方向と垂直に振動する光は、吸収されずにそのまま透過します。

ヨウ素分子を整列させることで、一方向の光だけを遮断し、もう一方向の光だけを通す「偏光」の機能が生まれます。高い偏光性能と透過率を両立できるため、ヨウ素は液晶ディスプレイに不可欠な素材となっています。
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