この記事で分かること
- 水中光無線通信機とは:水中で青や緑のレーザー光を使い、高速・大容量のデータ通信を行う装置です。従来の音響通信より圧倒的に速く、高精細な映像やセンサー情報をリアルタイムで送れます。
- 青や緑のレーザー光を使用する理由;青色や緑色の可視光は、水分子に最も吸収されにくい波長帯(約450〜500nm)であるためです。他の色の光はすぐに水に吸収されて減衰しますが、これらはエネルギーが残り、より遠くまで到達します。
- レアアース採掘での必要性:深海採掘ロボットやセンサーからの高精細な映像や大量のデータを、遅延なくリアルタイムで船上へ送信するためです。これにより、採掘作業の効率と安全性の向上が可能となります。
京セラの水中光無線通信機
京セラは、水中光無線通信機を2027年までに実用化することを目指して研究開発を進めています。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF037U90T01C25A2000000/
この技術は、高速・大容量のデータ通信を水中環境で実現し、次世代の海洋ICT(情報通信技術)基盤の構築に大きく貢献すると期待されています。
水中光無線通信機とは何か
水中光無線通信機とは、水中で光(主に可視光である青や緑のレーザー光)を信号として利用し、無線で高速かつ大容量のデータ通信を実現する装置です。
これは、陸上のWi-Fiやスマートフォンの無線通信が、電波ではなく光を介して水中で行われるイメージに近いです。
従来の水中通信との比較
水中では、陸上で一般的に使われる電波(Wi-Fiや携帯電話など)は水に吸収されてしまい、数メートルも進めば通信が困難になります。そのため、これまで水中通信の主流は音波(音響通信)でした。
| 通信方式 | 伝送媒体 | 通信速度 | 通信距離 | メリット/デメリット |
| 水中光無線通信 | 光(可視光) | 高速・大容量 (数十Mbps〜Gbps級) | 中距離 (数十m〜数百m) | 高精細動画のリアルタイム伝送が可能。光が届く範囲での利用が前提。 |
| 音響通信 | 音波 | 低速 (数kbps〜数百kbps) | 長距離 (数km) | 長距離通信が可能だが、速度が遅く、遅延が大きい。動画伝送には不向き。 |
水中光無線通信機は、音響通信の最大の課題であった「通信速度の遅さ」を克服し、水中のデータ通信を劇的に改善する技術として期待されています。
仕組みと特徴
- 光の利用 (青色/緑色のレーザー光):
- 水は光を吸収しますが、特に青色や緑色の可視光は、他の色や電波に比べて水中での減衰率が低く、比較的遠くまで届きます。
- この波長帯の高輝度なレーザー光(LD)やLEDにデジタル信号を乗せ(非常に高速で点滅させて)、データ送信を行います。
- 高速・大容量:
- 光は音波よりも圧倒的に速いため、データレートが高く、ハイビジョン動画や大容量のセンサーデータなどをリアルタイムで伝送できます。
- 装置の構成:
- 光を送信するための発光器(レーザーなど)と、光を電気信号に戻すための受光器(フォトダイオードなど)で構成されます。装置は防水・耐水圧性能が求められます。
主な応用分野
水中光無線通信は、特に高速・大容量のデータが必要な分野で活用されます。
- 無人探査機 (AUV/ROV) の運用: 遠隔操作や、海底ステーション・母船への高精細な映像・データのリアルタイム送信。
- 水中インフラの点検: 洋上風力発電施設や海底パイプラインなどの構造物点検時に、水中ロボットからの高画質映像をリアルタイムで確認・解析。
- 海洋観測・IoT: 海底センサーや観測機器が収集した大量のデータ(水質、温度、地震情報など)を高速で回収・送信。
京セラが開発を進めているのも、この高速・大容量のメリットを活かし、海洋インフラの点検や海洋調査の効率化を実現するためです。
この技術が実用化されることで、「海中IoT」と呼ばれる、水中でも陸上と同じようにデータを活用できる社会の実現に近づきます。

水中光無線通信機とは、水中で青や緑のレーザー光を使い、高速・大容量のデータ通信を行う装置です。従来の音響通信より圧倒的に速く、高精細な映像やセンサー情報をリアルタイムで送れます。京セラなどが2027年商用化を目指しています。
青色や緑色の可視光が水中でも遠くまで届く理由は
青色や緑色の可視光線が水中でも遠くまで届くのは、水による光の「吸収」の特性が大きく関係しています。これは、私たちが海を「青い」と感じる、自然現象と同じ原理です。
1. 水による「吸収」の特性
太陽光(可視光)は、赤・橙・黄・緑・青・藍・紫の7色で構成されています。これらの光が水に入ると、水分子自体によって吸収されますが、色(波長)によって吸収されやすさが異なります。
- 波長の長い光(赤、橙、黄):
- 水に吸収されやすいという性質があります。
- そのため、海中に入るとすぐに減衰し、水深が深くなるにつれて見えなくなります(水深約20mを超えると赤色はほとんど吸収されます)。
- 波長の短い光(青、緑):
- 水に吸収されにくいという性質があります。
- そのため、水中で最もエネルギーが残りやすく、より深く、より遠くまで到達することができます。
水の透明度が高い場合、光の吸収が最も小さくなる波長帯は、約450nm〜500nm(青から緑の光)に集中しています。
波長の短い光が吸収されない理由
波長の短い光(青や緑)が水に吸収されにくいのは、そのエネルギーが水分子の振動エネルギー準位と一致しないためです。
水分子は、特定のエネルギー(主に赤外線や赤色光のエネルギー)を持つ光が当たると、原子間の結合が伸縮する分子振動を起こし、その光を効率よく吸収します(共鳴)。これが、水中で赤色光が急速に減衰する理由です。
一方、青色や緑色の可視光は波長が短いため、エネルギーがより高くなります。このエネルギーは水分子の主要な振動準位とは合わないため、効率的な共鳴吸収が起きません。
したがって、青・緑色の光は水分子にエネルギーを奪われにくく、そのまま水中をより遠くまで進むことができます。水中で最も吸収が少ないのは、この青から緑色の波長帯(約450〜500nm)です。
2. 「散乱」の影響
光は水分子や水中の微粒子(プランクトン、泥など)に当たって散乱します。
- 波長の短い青い光は、波長の長い赤い光よりも水中の微粒子によって散乱されやすい性質があります。
- この散乱された青い光が私たちの目に届くため、海全体が青く見えます。
しかし、水中光無線通信においては、光を「まっすぐ」届けることが重要です。幸い、青色・緑色光は吸収されにくいため、散乱による減衰よりも吸収されにくさのメリットが上回り、結果として長距離の通信が可能になります。

青色や緑色の可視光は、水分子に最も吸収されにくい波長帯(約450〜500nm)であるためです。他の色の光はすぐに水に吸収されて減衰しますが、これらはエネルギーが残り、より遠くまで到達します。
レアアースの採掘での利用が検討されている理由は
水中光無線通信機が、レアアース(希土類元素)の採掘、特に海底での採掘(深海採掘)での利用が検討されている主な理由は、深海環境における「データ通信」の課題を解決できるからです。
レアアースは、ハイブリッド車やEV(電気自動車)、高性能磁石など、現代のハイテク製品に不可欠な資源であり、その多くは海底の泥の中に含まれていることが分かっています。
1. リアルタイムでの高速データ通信の必要性
深海での採掘作業は、地上とは異なり極めて過酷で、正確な遠隔監視が不可欠です。
- 高精細な映像監視: 海底探査機や採掘ロボット(ROVやAUV)が取得する海底の状況、採掘機の動作、濁りの拡散状況などの高精細な映像を、船上の管制センターにリアルタイムで送信する必要があります。
- 大量のセンサーデータの収集: 水質、水温、圧力、騒音レベル、採掘位置の精度など、環境や機器の状態を示す大量のセンサーデータを遅延なく送る必要があります。
- 従来の音響通信の限界: これまで深海で使われてきた音響通信(音波)は、速度が非常に遅く、高精細な映像や大量のリアルタイムデータ転送には全く適していません。
2. 水中光無線通信のメリット
京セラなどが開発する水中光無線通信機は、この通信のボトルネックを解消できます。
- 高速・大容量通信: 映像や大量のセンサー情報を瞬時に船上へ送信でき、正確かつタイムラグのない遠隔操作・監視が可能になります。
- 採掘効率の向上: リアルタイムの情報に基づいて、採掘機の位置や動作を迅速に修正・最適化できるため、作業効率と安全性が向上します。
- ハーベスティング(データ自動回収)への応用: 海底に設置された各種観測装置(環境影響を測るセンサーなど)から、巡回する無人探査機(AUV)が自動で高速にデータを回収する(ハーベスティング)ことが可能になります。これは、深海採掘による環境影響評価にも役立ちます。
水中光無線通信機は、深海採掘という極限環境下で、陸上のインターネットに近い高速通信を実現するための、唯一実用的な技術として注目されているのです。

深海採掘ロボットやセンサーからの高精細な映像や大量のデータを、遅延なくリアルタイムで船上へ送信するためです。これにより、採掘作業の効率と安全性の向上が可能となります。

コメント